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シャル兵の仕掛け

つまり、シャル人の兵糧が多く残されているとは、到底思えない……にもかかわらず、兵の数は多い、いや、多過ぎる。


四回目の襲撃を受けたとき、その理由が垣間見えた。

襲撃してきた者たちの中に、殺したはずの入れ墨のシャル人が混ざっていたからだ。最初、クルセウスは、相手を同じ入れ墨をした別人なのかと思った。

だがその男は、クルセウスと目が合うなり、ニヤリと笑って見せたのだ、

まるで、また会ったな、とでも言いたげに。

クルセウスは背筋がゾクリとして、すぐに理解した。

目の前の入れ墨の男は、数時間前に手をかけた男と同一人物だと。

途端に、恐怖とも焦燥ともつかない感情が、身体を駆け巡った。

(何なんだ、こいつは? 死んだ……殺したはずだろう? それがどうして? まさか……不死だとでも言うのか?

……いいや、そんなはずは無い。それはあり得ない)

クルセウスは、自分に言い聞かせる。

神々の末裔たる金の族ですら、不老不死は為しえていない。それを、滅びた王圏の属圏にすぎないシャルの人間が為しえるはずがない。

だから、あり得ない。

あり得ないはずだ。

クルセウスは頭の中で、強迫観念にも似た感覚で否定を続ける。

死んだ人間は生き返らない。

これが自然の理だ。

因果の一部だ。

だから、それに反する事象は起こるはずがない。


入れ墨のシャル人が、なぜが嬉しそうに顔をニヤつかせながら、クルセウスの顔に向けて剣を突き立てた。混乱していたクルセウスは反応が遅れるが、辛うじて避けることが出来、頬が少し切れるだけに留めた。

痛みが走り、頬を暖かい血が滴る。

若いながら実践を重ねて来たクルセウスが我に返るには、それで十分だった。


違う、大事なのはそこじゃない。

相手が不死かどうかは、際どうでもいい。

生きて生還すること。

たとえ、同じ人間を何度も何度も繰り返し殺すことになったとしても。

そしてネーマルの少女王に、生きてこの地から脱出してもらう。

これが自分にとって大事なことだ。

間違えてはならない。

そう、自分を奮い立たせるクルセウスだったがーー。

クルセウスはまた《ディアライス》を振るい、一閃の下に敵を屠った。


その後、夜の間、そして朝になっても、クルセウスはピラミデの探索を続けた。

しかし、少し移動すると、敵が現れ、それを殺し、また少し移動すると、また現れ、またそれを殺す。

こんなことが昨晩から半日以上続いている。

その間、眠ることも、落ち着くこともできず、当然、食事も採れていない。これではさすがに疲労が蓄積してくる。

10カ所目のピラミデの中腹で、もう数えるのも諦めるほど繰り返した戦闘で、またもシャル人を殺した時、空から差し込む強い陽射し手をかざす。

それでようやく、もう昼を過ぎていることに気付いた。それと同時に身体にのしかかる疲労感。肉体的よりも精神的な疲れが、限界に近いと思える。

少女王との約束は、夕方までに探索を終えて戻ること。

まだ3カ所の探索を終えていない……が。

まだ、時間には速いが、いったん少女王のピラミデに戻ろう。

あの白い帯の内側ならば、さすがに一息付けるだろう。

そう考え、クルセウスは、戻ることにした。


少女王が立て籠もっているピラミデの麓に戻ると、そこには昨日の夕暮れ時と同じような光景が広がっていた。それを見たクルセウスは、ぞっとしないではいられない。

つまり、簡易な武装をした多数のシャル人たちが、焚き火の煙を上げて食事の準備をしていたのだ。

この者達が、昨日この場で殺した者たちなのかは判らないが、可能性は否定できない。あれだけあった死体が、全くなくなっているからだ。

彼らを再び無力化しなければ、少女王をピラミデの外に連れ出すことは叶うまい。

ゆえにクルセウスは、それを遂行した。

何度も嗅いだ、むせるような血の匂いの中を歩き、ピラミデを登り、『無』を作り出す白い帯にたどり着く。

すると、また、武装したシャル人が現れる。どうやら、待ち伏せしていたようだ。前方を『無』の白い帯、後ろと左右をシャル人に取り囲まれた状況で、じわじわと包囲が狭くなる。

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