探索と来襲
闇雲に探索しても生き残りを探し出せるとは思えない。
下賜されたアーテルでは、生者を見つけることは出来ないので、クルセウスはひとまず、他のピラミデに登ってみることにした。
ネーマル族の首都カプ・ティワには、合わせて13のピラミデがあると聞いている。
クルセウスは、手首に嵌めた腕輪に触れる。
するとそこから光が現れ、立体的な都市の形が、腕輪の上に浮かび上がった。それをクルセウスは、指で右へ動かしたり、左へずらしたりする。
念のためにネーマルの主要都市の立体地図を、腕輪の記憶領域に保存して置いたのが役に立った。
立体地図によると、この近くにピラミデは3つある。その内の一つが少女王の座するピラミデなで、残るは2つ。
クルセウスは方向を確認すると、地図を消して向かった。
結論を先に述べるならば、クルセウスの探索は全くの無駄骨だった。
3カ所のピラミデには、確かにそこに逃れてきたネーマル人は居たようだ。だが、タソスのようなアーテルを持っているわけではない一般のネーマル人は、シャル人の攻撃を受け、皆、死に絶えたえていた。
ピラミデの頂上宮殿を取り巻くのは、やはり死臭でしかなかった。
クルセウスは徒労感を覚えつつも、明日の朝、再び探索を開始するために、死体のない家屋を見つけて入り込み、上の階まで問題がないことを確認してから床にうずくまる。
寝ていても近づく気配があれば起きるよう訓練してきたので、睡眠で後れを取ることはない。そうならないことを、クルセウスとしては願った訳だったが。
少し微睡んで、どのくらい時間が立ったのだろうか。
ちゃり、と瓦礫を踏む音が耳にとどき、クルセウスは目を開ける。
しばらく動かずに音を探ると、ちゃり、ちゃりと踏む音は複数聞こえてくる。野の獣が街に入り込んだ可能性も無くは無いが、まあ十中八九、シャル人の足音だろう。
クルセウスはすっと立ち上がり、音を立てずに2階に登った。
2階の窓から外を見れば、欠けた月と星の明かりだけで全ては見えないが、それでもシャル人が10人程度が集まっているのが確認できた。
クルセウスはアーテル《ディアライス》を鞘から抜くと、窓枠に手をかけ、すっと飛び越え、2階から道に飛び降りる。
着地すると同時に、そばのシャル人の首を刎ねる。一つ、二つ。
シャル人の中から号令のような声が聞こえる。すると、浮き足立っていたシャル人たちは、一斉にクルセウスに躍り掛かる。
しかしクルセウスは慌てることなく、《ディアライス》を横にして構え、敵を十分に引き寄せてから、くるりと横に1回転する。
それだけで、迫っていたシャル人は全て、銅から上と下が離れ、倒れた。液体の吹き出る音と、血の匂いが満ちていく。
クルセウスは顔まで返り血も浴びていたが、それを拭うこともなく、残った敵を斬っていく。
最後に残ったシャル人は顔に縦二本線の入れ墨をしていて、それまで相手にしてきたシャル人とは違い、鍛え抜かれた身体付きをしている。
そしてクルセウスに一生懸命に言ってくるのだが、残念ながらクルセウスはシャル人の言語を習得しておらず、何を言っているのか全く判らない。
ただ、敵意だけは伝わってくる。
クルセウスは、すっと、剣先を向ける。
すると入れ墨のシャル人は喋るのを止めた。覚悟を付けたようだ。シャル人も剣をクルセウスに向けてくる。
しかしそれにしても、シャル人が向けてきた剣は粗末なものだった。と言っても、今まで斬ってきた相手に比べれば、良い出来の武器のようだが……。
武器や鎧ごと敵を斬るクルセウスにとっては、それも大した問題ではない。
ただ、戦士としての礼儀に則って剣を構える。
だが、その後は、いつもと同じ。一瞬の一刀両断で闘いは終わりを告げる。
クルセウスは入れ墨のシャル人の死体に軽く礼して、その場を後にした。
その後は、どこに行っても同じだった。せっかく死体のない家屋を見つけて潜り込んでも、すぐにシャル人が押し寄せる。
一体、これだけの人数がどこから来るのか。そして、どうやって養っているのか。
兵の数が増えれば、比例して必要な兵糧も増える。それを運んでくるか、現地で略奪するかという差はあるが、街の様子を見る限り、略奪はされ尽くしている。




