そしてみんなの苦難 6
「この車、サスペンションがイカれていないか?」
いくら道路が整備されていないとしても、この縦揺れはひどすぎる。
タリスの問いに、マナタはカラカラと笑って答えた。
「大丈夫だぎゃあ。
この車でチェイスする時は、このボタンを押すと
サスが硬めになるんじゃが。」
「ほっ、本当か! 凄いな!!」
「冗談だと思いますよー。
そんな車、この国で作れるわけがないでしょうー。」
後部座席から主が棒読みで助言する。
マナタがこっちを見て笑うので
「前を見てろ。」
と、ひとことだけ言って、タリスはムッツリと黙り込んだ。
マナタはとめどなく喋り続ける。
しかも、タリスを見たり後ろの主を見たり
危なっかしくてしょうがない。
「いますよねー、運転中にこっちの顔を見て話すヤツー。
すっげえ危なくて、思わず殴りたくなりますよねー。
それにしても、喋ると舌を噛みそうなぐらいの揺れですよねー。
よく話し続けていられるもんですねー。」
「あざーーーーっす!」
「いや、全体的にケナしているんですからー。」
陽気なマナタと、イラ立つタリス、実は車酔いで吐きそうな主を乗せた車は
貧民街へと走って行った。
「ここんちょ一帯が貧民街でっせ。
浮浪者と泥棒の巣窟っちゅうですわ。」
マナタが説明する通り、建物の壁の色からして、すさんでいる。
「すんげえくっせえなー、何だろうー? この臭いー。
こういう場所はどこの国にもあるけど
聞くと見るとじゃ大違い、ってねー。
本やネットから匂いが出てこなくて、ほんと良かったわー。」
「主様、そういう事はあまりおっしゃらない方が良いかと思われます。」
タリスの諌めに、主が訊いた。
「何でー? ここの人たち英語がわかるんですかー?」
「いえ、それはわかりませんが、マナタはこの国の者ですし・・・。」
「マナタさんは富裕層出身だから大丈夫でしょー。」
その言葉にマナタが飛びついた。
「おっ、主様、それがしが高貴な家の生まれだと何故に察知かね?」
「・・・その気品を見ればわかりますですよー。」
半笑いで答える主に、マナタは調子こいた。
「一流は一流を知る、ってやつですかいな、はっはっは。」
マナタの方を見てもいなかった主が、おっ と驚いた。
「すげえ、道端に盗み盛りの若い兄ちゃんが寝てるー!」
「ああ、あれは死んじょるんだなー。
出血してないから凍死だと思われ。
まだ夜はしばれるしなあ。
衛生局が見回るから、そん時に持ってかれるで心配ねえだす。」
「主様、車から降りない方がよろしいかと思います。」
「んだな。 ここいらを車でグルグル回るんで我慢せれ。」
「んーーーーーーーー、じゃあ今日はそうしましょうー。
ただし明日は歩きますんで、その予定でお願いしますねー。」
車は激しい上下運動をしながら、あたり一帯を走り回った。
「こんな車で、いざという時に故障したらどうするんだ?」
珍しくタリスがよく喋る。
「そん時は自爆装置を作動させるしかねえだなあ。」
「それじゃ死んでしまうじゃないか!」
「ははは、おめさも大概、楽しい男じゃのお。」
マナタに爆笑され、タリスはまたカツがれた、と気付いてムッとした。
後部座席では、主がこの振動の中、爆睡していた。




