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そしてみんなの苦難  作者: あしゅ
14/14

そしてみんなの苦難 14

「本当にもう帰るだかー。 寂しいだすよー。」

別れを惜しんでいるのは、マナタだけであった。

 

さっきの今だと言うのに、手元にはグリスの書類が揃っている。

大臣の実行力と権力の大きさに、感謝どころか逆に震え上がる。

 

 

「マナタさん、本当にお世話になりましたー。

 お礼と言っちゃ何なんですが、これ、貰ってくださいー。」

主が、駄菓子がまだまだ一杯詰まっているバッグを

えいやっ とマナタに投げ付ける。

 

「おおーーー、嬉しいじゃがよー!!!」

本気で大喜びするマナタに、タリスは聞きたくてしょうがなかった。

 

おまえ、本当はマトモな英語を喋れるんじゃないのか?

 

あの大臣が、身内のこんなヘンな英語を許すとは思えない。

我々を油断させるための芝居なんじゃないのか?

そうタリスを疑心暗鬼にさせるほど、大臣の雰囲気は恐ろしかったのだ。

 

 

だが、訊く勇気などない。

大学の課題のひとつとして、何気なく選んでちょっと学んだこの国だが

遠くで学ぶのと、実際に体験するのでは大違いであった。

もう、この国とは一切関わりたくない!

 

タリスの完璧なビビりを察知せずに、マナタはのんきに言った。

「わすがそっちに行った時には案内して欲しいでんがな。

 タリス、メルアドを教えてけろ。」

 

 

捨てアドをマナタに教えて、やっと機上の人になれたタリス。

あまりの緊張が過ぎ去って、行きとは違って気が抜けたように

窓の外を見つめながら、ボンヤリと回想していた。

 

普通に勤務していたら、絶対に味わえない経験だった。

それも今こうやって無事でいるから思える事である。

 

 

タリスは何気なく主の方に目をやる。

主は相変わらず携帯ゲーム機を凝視していて

その隣では、レニアが眠りこけている。

そして、その隣に黒い子供が緊張した様子で座っている。

 

俺はこの子のために、ここにいるわけだ・・・。

慣れない警護に苦労しつつ、死刑になるかも知れない恐怖に直面し

それもこれも、この子供のために

主様が一瞬で決めたこの子供のために・・・。

 

 

タリスはやりきれない気持ちだった。

無口で沈着かつ冷静である、と自負していた自分が

土壇場ではこんなに取り乱す人間だったとは、想像もしていなかった。

 

情けないし、恥ずかしい。 これで軍人と言えようか。

思わぬ自分を突き付けられ、頭を抱えてしまう。

 

 

結局、館の事も何ひとつ知る事が出来なかった。

わかったのは、主が変わり者らしい事だけ。

 

しかし、主が何故、主でいられるのかはわかった気がする。

奪う事にも奪われる事にも執着のない人物。

このお方はきっとこれからも、あの何を考えているのかわからない無表情で

ひとり直進して行くのだろう。

 

 

ひとり・・・・・?

 

 

じゃあ、この子供はどうなるのだろう?

小さなか細い薄汚れた子供。

 

タリスは、いかにもオドオドして座っている子供の方を見た。

子供はキョロキョロと目玉だけを動かして

オドオドとしつつ、居心地が悪そうだったが

ふと、タリスの視線に気が付いたのか、振り向いた。

 

タリスと子供の目が合う。

子供は怯えた表情のまま、一生懸命に笑みを作った。

 

 

 

「あー、だから主のお供にしたくなかったんだ・・・。」

書類を手に、将軍は溜め息を付いた。

 

 

“転属願い”

 

 “館警備への転属を希望いたします  

                 

                 タリス”

 

 

 

   終わり

 

 

 


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