コント「デスゲーム」
男「ここは……?」
謎の声『ハハハ、気が付いたか?』
男「スピーカーから声!? 誰だ!? そしてここはどこなんだ!?」
謎の声『私はこの“デスゲーム”の主催者……』
男「なにい!?」
主催者『お前はこの私のデスゲームのキャストに選ばれたのだ……!』
男「なんだって!? デスゲーム!?」
主催者『ははは……デスゲーム、知っているか?』
男「いや、それは……」
主催者『――は~い、みんなよくきいてね~? 今から隣り合った人と殺し合ってもらいまーす、とかさ。あのほら、やたら軽いノリで殺し合いさせてさ、人間の狂気だったりドラマだったりゲームの謎だったりを解いたりする……』
男「いや知ってるよ! てかなんでちょっと体育の時間の友達同士で体操組まされるやつみたいなノリなんだよ!! 例えが懐かしいわ!!」
主催者『ははは……ちなみにお前はいつも誰と組んでいた?』
男「……やめろっ!」
主催者『えっ、まさか……いつも……先生と……』
男「やめろお!! さっそく俺の精神を殺しにかかるなあっ!!」
主催者『くくく、これから死ぬかもしれぬというのにおかしな奴だ……だが私も人の子だ。可哀想だからこれ以上いじるのはやめてやろう」
男「ありがとう」
主催者『いやいや、こちらこそすまなかった』
男「いいってことよ」
主催者『ククク……くだらん会話はここまでにして、それでは早速ゲームに移らせてもらおうか?』
男「ゲーム? いや待て! ちょっと待ってくれ!!」
主催者『フハハ、ここに来て命乞いか? お前はこのゲームのキャスト……私の与えた役以外を演じることは許されない……』
男「だが待て!」
主催者『断る!!』
男「そこをなんとか!!」
主催者『大の男の泣きの一回……受け入れざるを得ないな!!』
男「ありがとう」
主催者『いいってことよ』
男「でだ! デスゲームつったよなさっき!?」
主催者『言ったとも』
男「んで! デスゲームつったらさ! 見ず知らずの不特定多数の人々だったり学校のクラスメイトだったり! とにかく最低でも10人以上でやるイベントだ!!」
主催者『イベント呼ばわりは人としてどうかと思うがおおむねその通り』
男「じゃあなんで俺一人しかいねえんだよおおおっ!?」
主催者『フッ、馬鹿なことを訊く』
男「なにい!?」
主催者『お前は昨今の情勢を知らぬのか……一カ所に不特定多数の人々を集める……それは“密”だ』
男「いやおかしいだろ!? デスゲームですよね!? 今さらソーシャルでディスタンスっても意味ねえわ!!」
主催者『ハードラックとダンスっちまったみたいなこといいおって……お前は何も分かっていない』
男「どういうことだ!?」
主催者『ソーシャルディスタンスには感染を広めさせぬことという意義も含まれている……このデスゲームに勝利したとしても、もし感染していれば大切な人々へ感染させてしまうことも……』
男「いやそういうこと訊きたいわけじゃねえわ! いや、いや違う!! 時事ネタにしてもちょい笑えない事訊きたいわけじゃねえ!」
主催者『そうだな。話題を変えよう』
男「俺一人じゃデスゲームできないよね!?」
主催者『えっ』
男「デスゲームって参加した奴らだけで殺し合いするやつだろ!? 俺一人でどうせいっちゅうねん!!」
主催者『……』
男「もはやゲームにならねえよこれ!! ちょっと考えればわかるでしょ!?」
主催者『…………じゃあもう“お前だけを殺すゲーム”に変える』
男「すねんな!! それもはやゲームじゃねえよ! 単なる殺人予告じゃねえか!!」
主催者『文字数も少なくなってきたし、サクサク進めよう! 第一のゲーム! “硫酸直飲みゲェーム”っ!!』
男「んストレートに死ぬね!!」
主催者『ゲーム説明ッ!! 硫酸をお互いに飲んでより体積が多く溶け残った方が勝利っ!!』
男「お互いに飲む相手もいねえし、どっちにしても死ぬし!! これ魔女裁判だな!!」
主催者『男さんのッ! ちょっとい~い所見てみたい~! それ一気! 一気っ!!』
男「ロボットアームで硫酸入り瓶を近づけんな!! 飲まねえし、つか普通に警察に通報するからな!!」
男「あれ……くそっ! 圏外……!?」
主催者『フフフ、馬鹿め。ここがどこだかわからんのか?』
男「なにい!」
主催者『ここは伊豆諸島の最南端、青ヶ島……集落から離れれば携帯は通じない』
男「くっ……」
主催者『東京から遠く離れた青ヶ島では、夏は圧巻の美しい星空を、冬になれば“カノープス”と呼ばれる星が見れるとのこと。天文ファンにはたまらない場所といえるだろう』
男「ぬう……?」
主催者『名産品はさつまいもをつかった焼酎の“あおちゅう”。ほかにも島キュウリや島唐辛子なども』
男「ちょっとまて! 途中から旅行会社のパンフみたいなことになってる!!」
主催者『フハハどうだ? 旅行してみたくなったか?』
男「こ、こんな状況で行けるわけないだろ!?」
主催者『その通り! だからこそ!』
男「一人一人が守ろう! ソーシャルディスタンス!!」
劇終。