第一話「思いがけない出会い」
「はぁー」
朝っぱらからため息が止まらない。
「新学期早々、何辛気臭い顔してるのよ」
肩のあたりからそんな声が聞こえてくる。
「誰のせいでこんな顔していると思っているんだ、全く……」
新学期になって初の登校日、高校2年生になった僕、塚田誠は、隣に浮かんでいる彼女とそんな会話をしながら学校に向かっている。正門に向かうまでの並木道には、横にずらっと桜の木が並んでおり、吹き荒れる風に呼応して、僕の目の前で多数の桜花が舞い降ちる。僕は憂鬱そうな顔をしてそれを手で払い除ける。
なぜ僕はこんな陰鬱な気分で、足取り重く学校に向かっているのだろうか。話は2週間前の春休みの頃に遡る。
心地よい春風が窓から吹き込む中、自室のベッドの上で昼間から惰眠をむさぼろうとしていたその時。
「何昼間から、ぐうたら寝転がっているのよ」
自分しかいなかったはずの6畳一間で、聞き覚えの無い声が聞こえる。パッとベッドから飛び起き状態を起こすと、目の前に可愛らしいドレスを着た、体長は20センチほどしかないような、小さな美少女がふわふわと浮かんでいるのが目に入る。
その小さな少女は、
「私は妖精のエルミラ。突然だけどアンタに呪いをかけます」
開口一番そんなことを言いだした。
「呪い……?」
目の前の出来事に全く頭が追い付かず、思考回路がショートしてしまい、そう繰り返すしかできない。
「そう、呪い」
「呪い……呪いだって!?なんでそんなものを僕にかけるんだ!そもそも妖精のくせに呪いをかけるのかよ!」
「あーうるさいうるさい。後でちゃんと説明するから」
彼女は僕の言うことを軽くあしらった。そして、どこからか先が星型になっているステッキのようなモノを取り出し、何かを呟きながらそれを振り始める。
数秒ほどその行為を続けた後、彼女は目を見開き、ステッキの先を思いきり僕に向ける。その瞬間、目もくらむような閃光が走……ることも無く、大層な魔法陣が現れ……ることも無く、結局何も起こらなかった。
「ふぅー。終わったー」
彼女は一仕事終えたような顔をしてそう言った。
「あれ?何も起こってないんじゃないのかって顔をしているわね。いや、ちゃんと呪いはかかっているから安心して」
「いや、ちゃんとかかっていたらそっちの方が安心できないんだけど」
自分の身体を見回し、手を握ったり開いたりしてみる。
「うーん……身体に何か変化が起こったようには見えないけど……。いったいどういう呪 いをかけたんだ?」
「えーっと、女の子と手をつなぐと激痛が走り、キスすると死ぬっていう呪い。」
彼女はへらへらした笑みを浮かべながらそう言った。
「なんだよその呪い!?え?僕は一生女の子と手をつなぐこともキスすることも出来ないのか!?」
「激痛に耐えれば手をつなぐことは出来るわよ」
「ちなみに激痛ってどのくらい……?」
「プロ野球選手に金属バットでぶん殴られるくらい」
僕はガクンと首を折るようにして項垂れる。
「そんな落ち込まなくても大丈夫だって。一つだけ呪いを解く方法があるから」
彼女のそんな言葉に項垂れていた頭を上げる。
「本当に?それはどういう……」
「それはアンタが1年以内に同じ学校に通っている幼馴染を見つけ出してキスすること。それが出来れば呪いは解除されるわよ。」