第七話
このラミア・カルディオネだが、
好んで曰くつきの剣を佩き、しかも美人と評判の商人のご夫人と浮名を流したあげく問答無用で恋敵を斬って捨てるという、女性にとってはふたつの意味で危険な男(つまり僕のことだが)と、平然と外で食事をすることからして、肝の据わった女であるのは間違いないのだが、
彼女の剛毅ぶりは、その令嬢然とした上品な顔立ちからは想像がつかないものだった。
新人にしては腕が立ったし、頭も切れる。
士官学校で元素術や治癒術を学んでおり、その方面でも重宝された。
なにより度胸があった。
こういう荒っぽい職場では、いざ魔物に囲まれたとき、どれだけ勇敢に振舞うかで、同僚のあいだでの格が決まる。
いちどでも及び腰なところを見せればもうヘタレ扱いだ。
なにかのたびに、そのことを蒸し返され、イジられる。
他方、命知らずの振舞いをして味方に貢献すれば、ちょっとした英雄扱いで、新人だろうが若造だろうが、おおいに敬意を払われるようになる。
ラミア・カルディオネはやがて勇敢であるとの評判を得て、その呼ばれ方も「お嬢ちゃん」から「カルディオネ殿」に変わった。
公爵家の当主であり、帝国軍第三軍団の指揮官をつとめるカルディオネ将軍は、部下や同僚にそのことをしきりに自慢しているらしかった。
以前にも話したが、帝国は建国の頃よりダンジョンに睨みを利かせることを国家の重大事と心得ていたから、その管理局で武名を挙げたとなると、騎士としてたいへんな箔がつく。
驚いたのはラミアの実兄のほうで、嗣子の地位を妹にもっていかれてしまうのではないかと戦々恐々としているという噂であった。
が、それも長くは続かなかった。
カルディオネ殿は勇敢である、という評が、あいつは無謀すぎる、に変わってきたのだ。
彼女は明らかに、役人より冒険者むきの気質であった。
仕事でダンジョンに入れば帰り道のことも考えずひたすら奥へ奥へと進もうとし、魔物との戦いになれば単騎がけが目立つようになった。
新人にはよく、恐怖の裏返しとしての蛮勇を見せる者がいて、それは皆が通ってきた道であったから、先輩はいちいち小言を言わずフォローしてやることになっていたが、彼女の場合、それとはすこし違っていた。
よく言えば旅に憧れるホビット、悪く言えば命知らずの冒険ばかという感じで、周囲からたびたび警告を受け、ついには主任捜査官たるビクターから個人のオフィスに呼び出されて説教されるに至った。
兄貴は滅多にひとに苦言など言わない(僕はべつとして)。
それがいち新人に命の大切さを諄々と説いて聞かせるのだからよほどのことだ。
しかし、それでもラミア・カルディオネは態度を改めなかった。
明らかに、魔剣《暁の雲》の影響であった。
「最近、妙な夢を見るのです……」
ある日、ラミアが管理局の食堂で僕にむかってそんなことを言いだした。
「まるで続きものの物語みたい。
昨夜は、北方の森の奥深くで、筋骨隆々の半裸の男たちとゴブリンを狩っている夢でした。
わたし、北方なんて旅したことないのに」
「それで?」
僕はピッツァのくずを払いながら先を促した。
「信じられないくらい、野蛮な男たちなんです。
生け捕りにしたゴブリンの両腕を斬り落として、矢の的にして遊ぶんですよ。
それから、討ち取ったゴブリンを杭にくし刺しにして、道ぞいに立てておいたりする。
彼らはそれを魔よけかなにかと思っている様子でした。
動物を仕留めれば血をすすって生肉を食らう。
しかもその食べ方がとても汚いのです。
お母さまやお姉さまたちが見たら卒倒しそうなくらい。
顔に泥をぬり、体毛はもじゃもじゃで、体臭もひどかった。
でも、みんな気のいい人たちでした。
すっぱくてまっずい謎のお酒をがぶがぶ飲んで、夜通し、陽気に歌って踊るんです。
女たちは貞操観念なんかまるでなくて、誘われたら誰にでも身体を任せて、鶏が卵を産むみたいにぽんぽん子供を産む。
母系社会のようで、子供をたくさん産んだ女は毛むくじゃらの男たちからママ、ママと呼ばれて、おおいに敬意を払われていました。
かれらはよく、南の空にむかって雄たけびをあげ、文明人どもの街を略奪するんだ、女たちのために塩をたくさん持ってかえるんだと息巻いていましたよ」
そうして、うっとりとした様子でこう付け加える。
「……とっても、楽しい夢でした」
「そりゃあ、なによりだ」
僕の厭な予感は、ますます募るばかりだった。
ストックが
乏しくなってきたので
更新間隔をすこし開けます……
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