伏兵は結構近くに潜んでいるものです
「おはよっなあ穂香ちゃんとどうよ、うまく行きそうか?」
と朝っぱらから碧人に聞かれた不比等は
「あれは無理、ガチで変わってるから一生彼氏なんて出来ないだろな」
と言う不比等を
それをお前が言う?オレからしたらお前も一緒だよ
と思いながらも碧人は
「そっか、でも取り合えず俺の手前あと一回くらいは会ってくれよ」
と言いお願いをすると不比等は仕方なさそうに
「分かったよ」
ん?えっ?どうした不比等が断らないなんて…もしかして
碧人がニヤニヤしながら不比等を見ると気付いた不比等が
「何なんだよ、気持ち悪いな」
と言い捨てて席に戻った。そこに隣の教室の女子がやって来て
「赤池君これ読んで」
と言い不比等の机の上に手紙をおいて去っていった。
「ほー何々ラブレターか、お前さぁイメチェンしてからモテモテだな」
と碧人が言うと不比等はその手紙を握りつぶしゴミ箱に捨てた。相変わらずの塩対応の不比等を皆は引きぎみで見ていた。
「見た目でよってくる女はクズなんだよ」
と言う不比等をクラスメイト達は
赤池って本当に鬼だな
と思いながら見ていた。碧人は
あ~ぁこのままじゃ最低最悪男って穂香ちゃんにも嫌われるかも
どうしたものかと碧人は悲しそうに不比等を見ていた。
「なんですって!ヲタ丸出ししたって言うの」
「心春、声がでかい」
心春はワナワナと怒りながら
「このバカせっかくセッティングしたのに、なんでうまく隠せなかったのよ」
と言ってくるので穂香は
「だってあれはレアな展示だったんだよ!それに遺跡とか好きな仲間だと勘違いしちゃって…」
と言う穂香を見て心春はぐったりと落ち込み
「ああもう仕方ないな、次に会う時にやったら泣くし絶交よ」
と言って心春は怒りながら帰っていった。取り残された穂香は
次って何?それに何で泣いて絶交しなきゃいけないの…私の恋愛を勝手に決めて文句言わないでよ
と穂香が落ち込んでいると後ろの席からクスクスと笑い声がした。穂香が驚いて振り向くと幸村朔が笑いをこらえようと肩で笑っていた。穂香は真っ赤になって
「幸村君…話聞いてたの?」
と言うと朔はチラッと穂香をみて
「この前からずっと聞いてたんだけど旭川さん全然気付いてなかったんだね」
と言われ穂香は真っ青になって
「えってことは私がヲタクって事は」
「それは…前から知ってた」
穂香はドン引きをして思考回路がフリーズした。固まる穂香に朔は
「まあヲタクなのも良いんじゃないかな?俺は嫌いじゃないよ」
嫌いじゃない…嫌いじゃない…嫌いじゃない?
頭のなかで繰り返された言葉に穂香は嬉しくなり
「そうだよね、悪いことじゃないし遺跡はロマンだよね」
と言い顔をあげると優しく微笑む朔と目が合いみるみる真っ赤になる穂香。
うわっまた男子と目があってしまった…眩しい
クスッ赤くなったり青くなったり旭川さんて可愛いな
朔はそんな穂香に
「何か色々大変みたいだから、うまくヲタクを隠して付き合えるように俺と練習する?」
と言ってきた。穂香はキョトンとして
「えっ?練習って何で?いやいや私なんかのために幸村君のお手を煩わせるわけには」
一瞬、朔の目が泳ぎ
「あのほら同じクラスだし…多分俺だけだよ旭川さんがヲタクだって事を知ってる男子は。それに旭川さん男子に免疫ないのバレバレだから」
「…バレバレ…」
「うん、男子と目を合わせるの苦手でしょ」
と言って微笑む朔を穂香は目を見開いてみたあと拝み
ここにも素敵な神がいたぁ
「本当に良いの?ありがとう幸村君よろしくお願いいたします」
と言って頭を下げた。口許が緩みそうなのを我慢しながら幸村は
「じゃあさっそく今日からどう?」
と言うと穂香は
「いやその今日は図書館に行く予定で…」
「じゃあ図書館で特訓しようよ」
「えっ」
いやそれはそれで心の準備が…
「それはさすがに幸村君に悪いので」
「大丈夫だけど」
「…いやいや」
「友達でしょ」
と言われ目が点になる穂香
何時からですか?いつの間に友達になった?
とぐるぐるしていると
「あー覚えてないか」
なんですかそれは?覚えてないって私何かしたんですか?
その時授業開始のチャイムがなり、穂香はあわてて前に向いた。その穂香の後ろで朔はにやけた口を慌ててごまかしていた。
放課後、結局一緒に図書館に行くことになった穂香と朔。向かいの席に座り夢中で本を読んでいる穂香を
旭川さんて、よくみるとまつ毛長いな…
と朔は見つめてた。ふとイースター島の本を読んでいた穂香が
「うわぁ、ごめんなさいまた夢中で読んでた」
と言って顔をあげた穂香に慌てて朔は目をそらしながら
「大丈夫だから」
と言って微笑んだ。穂香は珍しく朔をまっすぐ見て
「それでどうすればいいのかな?」
と言った。朔はあわてて手元にあった「コミュ障さんの間の手」という本を広げてわたし
「ここに、ひとつの話題の時間はどれくらいで切り上げたらいいとか、話し方のコツや目線の配りかたや相手のシグナルも書いてあるんだ。読めたら遺跡の事とか色々聞くから実践してみよう。あと話し方もまとめてみるといいよ」
というので穂香はノートに言いたいことを色々書き出していった。
「うわっ書き出したら止まらないよ」
と穂香が言うと朔は
「今日は要点をまとめる手前だから何でも書き出すと良いよ」
と優しく微笑んで
「そうそう、俺…旭川さんと2人で前に話したことあるんだよ覚えてないみたいだけど」
と言って穂香を見つめた。穂香がキョトンとしていると朔は
「小学校の時の合同海洋訓練で俺と旭川さんのカヌーがぶつかって川岸に引き上げられたよね。で、2人が乗れる車が迎えに来るまで待ってって言われて」
その時思い出した穂香がそうそうと頷き
「そうだった懐かしいね、たしかあの時迎えが来ないかもって幸村君が心配しだして、私ったら何とかしなくちゃって思って貝塚とか前方後円墳の話をしてさ」
「うん」
「うわぁ今思うと本当につまんなかったよね、ごめんなさい」
と謝る穂香に朔は
「そんなことないよ、旭川さんが話をしてくれたから安心して待っていられたんだ」
と言って穂香を見つめた。
あの時、君が生き生きと楽しそうに話してくれてたから心配もどこかに吹き飛んだ。だから君がこの学校を受験するって聞いて会いたくて…
と朔が思っていると
「あっ私もう帰らないと」
と言い穂香が立ち上がった。あわてて幸村は穂香の腕をつかみ
「あのさメールアドレス教えてもらっていいかな」
「えっ?」
「ほら連絡しやすくなるし」
「あっそっかそうだよね」
と言うと穂香はスマホをだしメールアドレスの交換をした。
「本当に幸村君今日はありがとう、またよろしく」
「うんまた」
と言い2人は図書館の玄関で別れた。
家まで送りたかったな
と朔は穂香の後ろ姿を見送った。
それにしても誰だそいつ、ゆっくりと近づこうとしていたのに計画が台無しじゃないか
と朔は不比等の事を苦々しく思った。
祖母に読み聞かせをしていた不比等はゾクッと身震いをした。そんな不比等に気付いた祖母の瞳は
「あらあら風邪でもひいたのかしら?」
と言うと不比等は憤然として
「どうせあの変わり者の遺跡女がオレの悪口でも言ってるんだよ」
と言うと隣で読み聞かせを一緒に聞いていた兄の昌久が
「その子そんなに変わってるのか?」
と言うと不比等は堰を切ったように
「あれは最悪だぞ、遺跡だ遺産だ何とかピラミッドだ王の棺には何たらかんたらロマンですね~とか言いやがって、結構かわいい服装してたんだからもっとこっちの気を引くような事とか、何が好きですかとか聞いてくるもんだろ。それが放ったらかしでさ」
「ちょっと待て不比等」
と昌久は不比等の喋りを途中で止めて
「何お前…その子に自分の話を聞いてもらえなかったのが寂しくてすねてんのか?」
と言った。不比等はビックリして
「なにいってんだよ違うって、女ってのは男の気を引こうとあの手この手を使って誉めちぎってすり寄ってくるもんだろ。それなのに遺跡って何なんだ、あれでも女子か!」
と言うと昌久は唖然として不比等を見たあと
「お前って本当に…あのな不比等その子はおそらく二度と現れないレアキャラかもしれないぞ」
と言った。
「レアキャラってなんだよ」
と聞くと昌久は鞄の中から携帯を取り出し自分が担当したゲームアプリを開き
「これオレが作ったアプリで遺跡に眠る秘宝を集め王を召喚する度に強くなって戦っていくヤツ。ここに出てくる神の巫女ってのがレアキャラなんだよ」
なにが言いたいんだこの兄貴は
と不比等が思っていると昌久は
「彼女はまわりにいる女子とは違うってお前は直感したんだよ。もっと彼女の事を知ってみるといい、そうしたら本当のお前の事を知ってもらえるかもしれないな」
「そうね、そんな人とはもう二度と会えないかもしれないわね不比等」
と祖母も言ったので不比等はムッとして
「うるさいな、あんなヤツこっちから願い下げなんだよ」
と言い鞄を持ち
「俺もう帰る」
と言い部屋を出で帰っていった。昌久は祖母の瞳に
「婆さん心配ない不比等は俺みたいにはならないから、それよりいつまで不比等に隠しておくんだよ」
と言うと昌久は瞳を抱えあげベッドにつれていき酸素吸入器をつけた。
「ありがとう昌久、そうね私が元気なうちに不比等が大切なことに気づいてくれるといいんだけど」
と言い瞳は微笑んだ。