ある意味それは未知との遭遇
さて週末の日曜日がとうとうやって来た。
遊園地の入り口で待っている心春はセミロングの髪の片方を耳にかけ蝶々のピン止めをつけ、膝丈のデニムのタイトスカートにフワッとした袖が可愛い白のトップスとピンクの小さめのショルダーバッグにスニーカーをはいている。
一方の穂香はいつものひとつ結びの髪型で母に選んでもらったであろう優しいピンク色のAラインワンピースと白のカーディガンを着て、いつも履いている茶色のスクールローファーを履きいつもの大きめの黒のリュックを背負っていた。それを見た心春が
「さすが穂香のお母さん可愛いを心得てるわね。なのに何でそこまで出来ていつもの通学用の靴なのよ、あるでしょパンプスとかスニーカーとかお洒落なのが」
と言うと穂香は困って
「あーうん揃えてあったみたいなんだけど、ほらこれ履きなれてるし可愛いもの」
と言うので心春は
「分かったそこは何とか我慢するとしても、背負っているのがいつもの黒リュックって何なのよその服に似合うと思ってんの?今から学校にでも行くつもりなのかよ」
と聞くと穂香はキョトンとして
「だってこれが一番色々入るんだよすごく重宝するよね」
と微笑んだ。心春はため息をつき
本当に遺跡とか以外には興味なさ過ぎる。これじゃ絶対に彼氏なんて出来ないよ
「穂香、私ね先輩から初デートに関する色んなテクニックを教わったの。穂香にも伝授するからよく見て覚えて彼氏を作るんだよ」
と言われた穂香は
「私は彼氏より遺跡や世界遺産や秘宝が良いから別に伝授してくれなくても良いよ」
と言う穂香の両肩を心春はつかんで
「今時の女子高生がそんな悲しいこと言わないでよ、命短し恋せよ乙女っていうじゃない今がその時なのよ頑張ろうよ」
と両肩を揺すってくる。首をガクガクさせていた穂香は
このままじゃ離してくれないよなー困ったな
と思い仕方なく
「分かったから今日は勉強させていただきます」
と言うと心春はヨシッと言ってガッツポーズをした。
そこにボーダTシャツに紺のロングコーディガンとデニムパンツの碧人と、白のパーカーにグレーのチェスターコートと黒のスキニーパンツ姿の不比等がやって来た。
「キャー碧人くん素敵」
と頬を赤らめて喜ぶ心春とは違い穂香は
2人ともまぶしい眩しすぎる。私がいては場違いだよ帰りたいよぉ
とブルーになっていた。碧人はそんな心春と穂香を見付けて
「うわぁ可愛い」
と言いながら近寄って来て
「ごめん待った?」
と碧人が言うと心春は
「ううん、さっき来たところだから大丈夫」
うわっ猫被ってる
心春を見ていた穂香と不比等は同時にそう思った。そんな2人の微妙な視線を物ともせずに碧人が
「どうこいつの服、俺が選んだんだ」
と不比等の肩に手をおくと不比等はあからさまに嫌そうな顔をし
パーカーとスエットで良かったのに
と碧人を睨み付けた。
ヤバい怒ってる…
焦った碧人は
「あー俺ちょっとチケット買ってくるわ。待っててもらっていい」
と言いチケット売り場にかけていった。取り残された不比等は2人に
「どうも初めまして赤池不比等です。で君が高梨心春さんであってる?」
と聞いてきた。心春は待ってましたと
「そう私が高梨心春でこっちは友達の旭川穂香」
紹介されて穂香は
「旭川穂香ですよろしくお願いします」
とお辞儀をした。不比等は少しも自分と目をあわせない穂香を変なやつと認識した。
戻ってきた碧人からチケットを受け取り4人は園内に入っていった。
まずはじめはフライングゴンドラに乗り続いて回転ブランコや定番のジェットコースターに乗るとキャーキャー楽しむ心春と碧人がいた。
そんな2人とは対照的に真っ青になり足をガクガクさせて、ひょっこりひょっこりと歩く穂香に不比等が気が付いた。
この子ジェットコースターとか苦手なのか、だったら先に言えば良かったのに面倒くさいな
と思っていると心春が
「ねえ観覧車に乗らない」
と言い出した。穂香は
いやいや、あんたね高所恐怖症の私を殺す気ですか!
と思いながらハッと気付き
「えっと私は休憩してるんで皆さんで楽しんで来てください」
と穂香が言い出した。心春は焦って
「そんなのダメだって穂香がいないと3人になっちゃうじゃない、皆でいこうよ」
と言ってくる心春の後ろで碧人が不比等に何かの目配せをしていた。穂香が
だから苦手なんだってば知ってるくせに
と思いひきつり笑いをしながらもう一度
「いやいや、どうぞどうぞ私の事はお気になさらずに楽しんで来てください」
と言うと不比等は碧人に分かってるよと目配せをして
「俺さ実は高いところって苦手なんだよね、俺と彼女はここら辺で待ってるから2人で行ってくればいいじゃん」
と言い出した。その言葉にぎょっとする穂香とは違い碧人と心春は嬉しそうに
「じゃあ穂香のことお願いしようかな」
「そうだね不比等頼んだぞ」
と言い2人は手を繋いで観覧車の方へ歩いていった。
どっどういうこと?
と穂香が戸惑っていると不比等が
「あいつら、そろそろ2人っきりになりたかったんだよ」
と言って来た。穂香がなるほどそう言うことかと納得していると
「なぁ、あそこ椅子が空いたから座るか」
と言い歩き出した。穂香が慌てて付いていくと不比等が
「なんか飲む?何が良い?」
と聞いてきたので穂香は
「じゃあ、お茶で」
と言ってうつむいた。不比等はコーヒーとお茶を買い穂香にお茶を差し出した。
「ありがとう…あっお金払わなきゃ」
と言い穂香が顔を上げると思わず不比等と目があった。
えっ何?目が離せないよこれはどうしたもんですかね…
と穂香がぐるぐるしていると不比等が
「お金は良いんだけど、あんたってさ人の目を見て話さないのって癖な訳」
と聞いてきた。穂香が目を点にしたあと
「いや癖って言うより…」
と口ごもったので不比等は少しイラッとして
「はっきり言ってくれないとモヤモヤするんだよね。それともそれってなんかの作戦とかな訳?」
と言われて穂香は真っ赤になり
「作戦って何?」
「わざと話を途中で切って男の気を引く作戦だ。悪どいな」
そう言われた穂香は、はぁ?何ですかそれと少しムッとして
「あのね彼氏がいない私が弟以外の男子と出掛けるのは初めてなんです。だからこんな綺羅びやかな皆さんと、私のようなそこら辺に転がっているような岩が一緒にいるなんて心臓に悪いんです」
と言うと
は?なに言ってんだコイツ
と呆気にとられて見ている不比等に穂香は続けて
「皆さんは私とは違って特別枠なんです。だから眩しすぎて直視なんて出来ませんし、そんな事はとんでもなく恐れ多い事なんです。ましてや初めてのことで困惑しまくってるのに」
初めてって弟以外の男子って…だからその特別枠って何なんだ?この子なんかすごく変だぞ
不比等は目をパチクリして
「あのさ特別枠ってなんなの?そんなの何処にあるんだ」
と聞かれて
「特別枠っていうのはですね、そこにいるだけで光を放つものなんです。そう例えば日本なら天照さまやスサノオさまやツクヨミ様のような別世界の神様のような存在と言いますか、私が触れてはいけない触れると壊れてしまうような、そんな存在なんです」
と言い穂香はつい不比等を見て固まった。そんな穂香が面白くて不比等は目が点になり
「おい大丈夫か?」
「…」
「もういい分かったから落ち着けよ俺がいじめてるみたいだろ」
と言うと我にかえった穂香が
「あああ」
と言うと不比等は
おいおい、あああってなんだよ
と思ったあと
「ってか神様ってなんなんだ俺らみたいなのが神様だなんて、それこそ神様に失礼だろ」
と言われビクッとした穂香は
「あー本当だ、すいません神様!無礼な私を許して」
天に向かって拝む穂香を見て不比等は
そこまで熱心に神様に謝られると、それはそれで何かちょっと辛い
とひきつり笑いをした。
「もういいから、てか大丈夫か落ち着いたか?」
と優しくいう不比等に穂香は
やっぱりこの人は神だ、美しい上に優しい神だよ
と嬉しくなり微笑むと不比等はそれを見逃さず
コイツって思ったよりめちゃくちゃ面白いのかも
と思ったあとすぐに
いやいやコイツだって裏があるに決まってる。女なんて男を手玉にとることしか考えない腹黒なんだ騙されんな俺
と思い直した。そんな事を不比等が思っているとは夢にも思っていない穂香は、奥の方に見えかくれしている立看板に気付きガン見した。