インカローズとおまじない
「なあ付き合ってくれよ初デートなんだよぉ」
と言う多治見碧人が机の前から退こうとしないので不比等が困って
「だから、初デートならなおさら二人でいけばいいだろ」
と言うと碧人は困った顔をしてて
「お前な、人生初のデートでどうしたらいいか分かんないから助けてほしいって言ってんの。金は出す!そこにいてくれるだけで良いからそれで安心で出来るんだからさ」
と拝み出した。
どんだけ心配性なんだよ
と思いながら不比等はしぶしぶ
「分かったよでも本当に行くだけだからな」
「ありがとう、やっぱり不比等は良いヤツだ」
と言うと碧人はスマホを取り出しメッセージを送信し出した。不比等は
「あと、俺はデートのつもりじゃないから向こうの付き添いに馴れ馴れしくするなって言っとけよ」
と言うと碧人はメッセージを送信しおわり不比等を見て
「ハイハイ分かった分かった、じゃあ今週の日曜日行き先は遊園地でよろ」
とあまりに定番のデートコースを言う碧人に不比等は
「何だよそれベタすぎだろ」
と言うと碧人が少しムッとして
「ベタって言うなよ、お前なんか彼女も出来たことないしデートに行った事もないだろうが」
と言い返されて言葉につまる不比等。
「悪いかよ女なんて自分勝手で腹黒くて回りに迷惑かけて楽しむ悪魔みたいなもんだ」
と言って不比等が廊下を見ると何人もの女子が今までとイメージの変わった不比等を見てワーキャー騒いでいる。
ほら見ろちょっと見掛けが変わっただけでコロッと態度をかえやがる、くだらねー
と不比等はプイッと顔を背けた。そんな不比等に碧人が
「お前ってさぁ相当こじらせてるよな」
と言うと不比等が
「なんだよそれ悪かったなじゃあ行かねぇぞ」
「うわっ悪かったそれだけは勘弁して」
とまた碧人は不比等を拝んだ。
同じ頃、穂香は友人の高梨心春に拝まれていた。
「お願い一生のお願い、急に彼が友達を連れてダブルデートにしようって言い出すんだもん」
と何度目かの一生のお願いをされていた。穂香が
「せっかくの初デートなのに私が行っても邪魔だと思うよ。紹介してくれた桃田先輩について行ってもらうのが一番良いと思うんだけど」
と言うと心春は
「そんなのとっくにお願いしたわよ、そうしたら先輩の彼氏さん超やきもち焼きで無理だって言われたんだもん」
「じゃあ他の子を誘ったら良いのに」
と穂香が言うと心春は
「それはイヤ、もしも彼を取られちゃったら困るでしょ、その点穂香なら男子より遺跡の方が好きだから安心できるし」
と微笑んだ。穂香はため息をつき
私はモテないから安心ってことですか。私だって彼氏がほしいけど話が合う同い年ってなかなかいないんだぞ
と思っていると心春が
「大丈夫、穂香はもう一人の人と二人で私たちを盛り上げてくれるだけで良いから、お願い」
とガン見して言うので穂香が
「わかった一緒に行けば良いのよね」
と言うと心春はスマホを取り出しメッセージをおくって
「さすが穂香は永遠の友だよぉじゃあ先に帰るね」
「え?」
穂香が目を点にしていると
「だって日曜日の初デートの為に洋服を買って来ないと」
と気合いを入れる心春に
「そこまで気合いを入れなくても良いと思うんだけど」
と言うと心春は呆れたように穂香を見て
「穂香…お願いだからある程度はお洒落してきてよね、面倒くさいからって制服で来るのは無しなんだからね」
うっそこを言う!だって制服ならなにも考えなくて良いし…
と思ったが制服で行くと命の危険にさらされそうなくらい睨みつけられているので
「分かったある程度頑張ります」
と穂香が言うとニッコリ笑った心春がよろしくと言って帰っていった。残された穂香はため息をつき
ある程度か、私だってお洒落が嫌いな訳じゃないのよ。でもさ私のデートじゃないし付いていくだけなのに面倒くさいな…
「あっ図書館行くの忘れてた」
と思いだした穂香は慌てて教室を出ていった。図書館に着きDVDを見るためにパソコンのある机に向かっていると、どこからか聞き覚えのあるコツコツという杖の音が聞こえてきた。
あっこの間のお婆さんだ
穂香が急いで音のする方に向かうとお婆さんが本を探していた。穂香は近寄り
「こんにちは、今日はなんの本を探しているんですか?」
と声をかけるとお婆さんは気付き
「あらまあこの間のお嬢さんね、たしか穂香さんよね」
名前を覚えていてくれたことに嬉しくなった穂香は、小箱の宝石がとても綺麗な事や赤い表紙の不思議な扉と言う本を読んだことなどを話した。それをお婆さんがニコニコしながら聞いていると穂香がハッと気付き
「ごめんなさい私ったら自分の事ばかり話してる」
と謝る穂香にお婆さんは
「気にしなくていいのよ、あなたのお話は楽しいもの」
と言ってくれた。穂香は照れ臭そうに笑ったあと鞄の中から小箱を取り出した。お婆さんが不思議そうに見ていると、穂香は小箱のふたを開けメッセージカードを取り出して
「これを返さなきゃいけないと思ってお婆さんに会えるのを待ってました」
と言いカードをお婆さんにわたした。お婆さんはそのカードを見てフフフと微笑み穂香に渡しながら
「そうワザワザ待っていてくれたなんて嬉しいわ、これはね幸せになれるおまじないなのよ」
「おまじない?」
穂香が不思議そうに聞くとお婆さんは
「そうよ、そこに書かれている『あなたに素晴らしい愛を私と共に』って素敵な言葉でしょ」
と言って穂香に微笑みかける。穂香が頷くと
「良いことを教えてあげましょうね、この言葉を月明かりの下でインカローズの石を握りしめて唱えると素晴らしい出逢いが訪れるって言われているのよ」
と教えてくれた。穂香が本当なのかなとカードを見ているとお婆さんは続けて
「だからこのカードもあなたにプレゼントするわ、時々お祈りしてみてちょうだいね」
と言うので穂香が困りぎみになって
「おまじない…本当に効くのかなぁ神社とかお寺にお詣りには言ったことあるけど、おまじないは初めてだから」
と言うとお婆さんは
「大丈夫信じて、私と穂香さんが出会えたのは素晴らしい事なんだから。あなたにはこれからもっと素敵な事が訪れるはずよ」
と言った。穂香は驚いてお婆さんを見て
「素敵な事がおこるんですか?」
と言うとお婆さんは
「ええ、例えば素敵な男性と良いご縁があるかもしれないわ」
と言われた穂香は照れながら
「そんなの無理ですよ私は遺跡や世界遺産が好きな変わり者なんで男性と縁なんて…」
と言うとお婆さんは
「私はロマンがあって良い事だと思うわ。もしかして考古学者を目指しているのかしら?」
と言われたので穂香は首と手をブンブンふり
「そんななんと恐れ多い事を、私のような平凡な人間は学者の皆さんが調べてくださったものを拝見させてもらえるだけで幸せなんです。それこそ歴史の1ページをのぞかせてもらうような」
と言う穂香にお婆さんはやさしく微笑み
「でも人生は何があるか分からないものよ、考古学者になれなくてもいつか見に行けると良いわね、素敵な誰かと」
と言われた穂香は満面の笑みをして頷いた。そんな穂香に
「そろそろ私は帰らなくちゃ、またお会いできると良いわね」
と言い立ち上がった。穂香も一緒に立ち上がり
「はいまた色々お話させてください」
と言うとお婆さんは穂香を見て
「今度は孫の話を聞いてもらおうかしら、昔は優しくて可愛い子だったんだけど最近は少しひねくれてしまってるの穂香さん相談にのってちょうだいね」
と言うので穂香は深く考えもせず
「はいっ任せてください」
と言うとお婆さんはありがとうと言い去っていった。その後ろ姿を穂香は見送ったあと小箱を握りしめ
あなたに素晴らしい愛を私と共に…
と呟き、なくさないよう大切に鞄のなかに片付けた。