1つ目の扉を開けてみようか
「本当にありがとうございました」
とレジから大きな声がして見るとこの間ひかる店長が図書館を紹介してあげた少女が深々と頭を下げている。
ひかる店長は焦って
「ちょっと頭を上げてちょうだい私が何かしたって思われるから」
と言うと少女はハッとして
「すいませんそうですよね、すいません」
とまた頭を下げたもんだからまわりは白い目でひかる店長を見ていた。ひかる店長は半泣きになって
「だから頭下げちゃダメだってばぁ、皆さん違いますよこの子は何もしてないし何でもありませんからね」
と言いひかる店長は少女を連れて事務所に引っ込んでいった。それを見ていた、つい最近40歳になってますます旦那さんをシリに引いている川久保伊織が沙代子に
「店長ったらあんな若い子からカツアゲするなんで鬼ね」
と言うので沙代子は
「あのねぇカツアゲって違いますから、この間手に入らない本の情報を教えてあげたんでお礼に来たんですよ…ったく、ひかる店長って今日は厄日なのかもしれないな」
と言うと伊織が興味津々で
「えっなによそれ、私聞いてないわよ厄日ってなによ教えなさいよ」
と沙代子に迫ってくる。沙代子はひきつりながら
「今朝本社から電話があったらしくて、呼び出し食らったから明日行かなきゃって嫌そうにしてましたよ」
と言うと伊織はニヤリと笑って
「ほうほう、それは気になるぅ帰ってきたらじっくり話を聞かせてもらわなくっちゃね」
と言い去っていく伊織を見て沙代子は
あれは絶対何かたくらんでる顔だわ
とあきれていると不比等がやって来て
「楽しんでいるところになんなんですけど、頼みますから仕事してください」
と言うので沙代子は
うわぁ本当にムカつく生意気なお子様ね可愛くないわぁ
とため息をつき不比等を見て
「ハイハイ分かりましたお坊っちゃま」
と言った。不比等はムッとして
お坊っちゃまだと!ため息をつきたいのはこっちだ人の事バカにして、何なんだここは揉め事も多いし何考えてるか分かんない奴等ばっかりじゃないか。
とイライラしながらDVDコーナーのレジに向かうと後ろから女子大生らしき声が聞こえてきた。
また変なのが沸いてきた一難去ってまた一難かよ
と不比等が思っていると
「ほらあの人すてき」
「どれどれ…やだぁ本当にすてき~」
品定めをするかのように頭から足の先までなめるように誰かを見ているので、不比等はその視線の先を見た。そこには細マッチョで綺羅びやかなイケメンがたっていて、不比等を見て近寄って来る。
えっなに俺に何か用かよ
と思いながら見ていると男性は柔らかく微笑んで
「あれ君って新しい子だね高校生かな可愛いね」
と言って来たので不比等がゾッとしていると
「ごめん男の子に可愛いはダメだよね…それより巧馬、永塚巧馬がどこにいるか知らない?」
と顔を近寄せて言うその後ろで
ギャーギャー
と騒ぐギャラリーの声がより大きく響いた。このイケメンは巧馬の高校の先輩で合コンの帝王と言われる八尾颯也である。
颯也はまわりの声なんて全く気にせず不比等に
「なに知らないの?」
と微笑んで聞いてくるので不比等はあっちにいますよと指差した。
「ありがとう僕ちゃん」
と言い颯也はギャラリーの女性たちにウインクをして去っていった。射抜かれた女性たちはぞろぞろと颯也についていく。
はぁ僕ちゃんだと!ガキ扱いしやがって何なんだよアイツ。結構いやカナリのイケメンだけど、俺だって前髪をあげて眼鏡をはずしたら負けないんだからな。
不比等はムカッとして眼鏡をはずし胸ポケットにいれ前髪をかきあげた。
ごきゅっ
突然、生唾を飲む音がして振り返ると伊織が顔を覗きこんできた。
「川久保さん何んなんですか」
と言うと伊織は満面の笑みを浮かべ
「赤池…あんたって本当はモテたいのね」
と言うと、ドキッとした不比等はひきつりながら
「そんなことないです、俺は地味に目立たないように生きなきゃいけないんだ」
と言う不比等を見てニヤリとほくそ笑んだ伊織は
「そう言えば昔、よそん家の女の子と間違われて誘拐されそうになったのよね。てことは、その子よりあんたの方がよっぽど可愛かったってことよね」
と言われて不比等は
「可愛いってのは俺にとっては誉め言葉じゃないんで、それに女なんて…」
と言うと伊織が
「女なんてなに?」
と聞くとイラッとしながら
「仕事、仕事してください」
そんな不比等を伊織はニヤリと笑って見て
「そうかぁ可愛いじゃなくてカッコいいって言われたいのかぁ。イヤン可愛いわぁ」
と言われてムッとする不比等に伊織はすかさず
「ものは相談なんだけど、私に一度いじらせてみない?」
「はぁ?」
「大丈夫よぉ悪いようにはしないから新しい自分を見付けにいくのよぉ」
と言い有無を言わさず不比等の腕をむんずと掴み引きずるように店を出ていった。そんな2人に気付いた沙代子がひかる店長に
「店長~不比等君が伊織さんにラチられましたぁ良いんですか?」
と言うと店長はニヤリと笑って
「いいんじゃない⁉️伊織のお手並み拝見ってところね」
と言った。
「そうねそんな感じで仕上げて、あとカラーは紫か紺が良いと思うんだけど」
「さすが伊織さんお目が高い俺もその色ですよ」
と店から徒歩10分のところにある伊織…いやほとんどの店員の行きつけ美容室『ふぁんたいむ』の店長の大和に伊織が
「いい感じのイケメンに仕上げてよね」
と勝手にオーダーをした。
「任せて下さい」
と言うと髪を切ろうとしたので不比等はあわてて
「ちょっと待て俺の意見は聞かないのかよ?」
と言うと伊織に肩を押さえつけられ
「おいおい今から見かけだけでもいい男にしてあげるからさ、黙って言うなりになってなさい。頼んだわね」
と言うと大和のハサミが不比等の髪に入った。店内ではやっと不比等がいないことに気付いた李々子が美緒に
「あれ?赤池くんがいないんだけど伊織さんもいないような」
「今ごろ気付いたんですか?多分あと30分位したら帰ってくると思いますよ」
と言い去っていった。李々子がどういう事?となっていると巧馬が
「心配ないって赤池君は伊織さんの洗礼を受けているだけだから楽しみだなぁ」
李々子は目を点にしたあと哀れむように
「確かに楽しみではあるけど…お坊っちゃま無事に帰ってきますように」
と祈っていると
「じゃあ俺もう上がるね」
と巧馬が言うので
「ちょっと待って何で?今日は早上がりじゃなかったよね」
と言うと巧馬はドキッとして
「ちょっと颯也さんと待ち合わせしてて」
と言うので李々子は
「まさか合コンに誘われてたりしないわよね」
と巧馬に詰め寄ると巧馬は
「俺がそう言うの苦手なの知ってるでしょってか颯也さんが待ってるからじゃあね」
と言い着替えに事務所に去っていった。李々子はムッとしたあと
メール送りまくりしてやる、ふんっ
と愚痴りながらレジに入った。
その頃不比等は鏡のなかに写る凛々しいイケメンをじっと見ていた。ソファーに座り本を読んでいた伊織はキョトンとして自分を見ている不比等に近寄り
「ほうほう、これなら女の子には見えないし凄くカッコいいから安心しなさい」
と伊織に言われ不比等は驚いて伊織を見ると
「あんたがひねくれるまでに何があったかなんて私にはどうでもいいんだけど、自分の殻に閉じ籠ったままじゃもったいないわよアンタいいもん持ってんだから」
と優しく微笑んだあと
「松岡と永塚とそれぞれのツーショットと3人のショットとって…クフフこれでBLが売れまくるわよぉひかる店員に約束してあった焼き肉おごってもらわなくちゃ」
と言い去っていった。美容院に取り残されていた不比等はムッとしながら
約束の焼き肉って…ほら見てみろ良いやつかもって思ったら突き落とされるんだよ。くそー
不比等が立ち上がりカットとカラー代を払おうとレジにいくと大和が
「もういただいてるから良いよ」
「えっ」
「確かにムカつくよね勝手につれてこられて好き放題なこと言われてさ。でもねあの店舗の皆は変わっているけど面白くて好い人ばかりだよ、人の足を引っ張ったり…雄大さんはされてるか…」
「あの人トロそうですからね」
と無愛想に言う不比等に大和は
「トロそうか…まあ雄大さんもそれを楽しんでる所もあるしね。だから信じて頼ってみれば?絶対に君を助けて守って一緒になって遊んでくれるから試してごらん」
と大和に言われた不比等は眉間にシワをよせ
「そんなことあるわけがないんです。皆俺を一人にする裏切るんだ。とくに女ってやつはズルいし」
と言うと苦笑いをした大和が
「んーズルいのは女とか男とかの問題じゃなくて、その人の問題でしょ」
と言った。不比等がジロッと大和を見て
「そんなの分かんねえし」
と言うと大和はフワッと微笑んで
「だから試してみれば良いんだよ。皆待ってると思うし頼ってみれば?ほら行ってらっしゃい」
と言って不比等の背中を押した。不比等は
この人もお節介で変な人だな
と思いながらしぶしぶ店に戻っていった。