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始まりの扉の向こう(哲成と瞳)

策士見参

2週間後、哲成は書き上げた原稿をもって出版社の入り口でウロウロしていた。そんな哲成を窓から見ていた女性がたまらなくなり


「ねぇ社長、さっきから玄関でウロウロしている人がいるんだけどどうする?」

「あぁ瞳ちゃんのだろう」

「あぁ瞳ちゃんのってだったら早くなかに入れてあげなきゃダメでしょ、父さんたら本当に気が利かないんだから」

「おいおい社長に向かってその口の聞き方はないだろ」

「うるさいわね、ちょっと七瀬君」

「はい?」


お茶を飲もうとしていたのに突然呼ばれて女性を見ると、彼女がニヤリと微笑み


「あなた声をかけて連れてきてよ暇なんでしょ」


と言われた七瀬はため息をついたあと


「結局、面倒くさいから僕に行かせるんだろうなって思っていましたけど、社長も桃子(とうこ)さんも親子喧嘩はいい加減にしてくださいよ」


と言い玄関から出ていった。七瀬が玄関でウロウロしている哲成に


「あの邪魔になるんで中に入ってもらえますか話しは赤池さんから聞いてますから。それにもうすぐ赤池さんが戻って来るんで」


と言うと哲成は驚いて振り返り


「えっあの赤池さんってやっぱりここであってたんですね、良かった本当に良かった。もし嘘だったらどうしようとか、あれは実は夢だったんじゃないかとか悪い方に考えててそれで」


と興奮ぎみに言う哲成の話を遮り


「分かりましたから変に目立ってますから早く中に入りますよ」


と言い哲成を引きずって中に入っていった。上品な革のソファーに腰かけた哲成は自分を食い入るように見ている社長と桃子に怯えていた。そんな哲成にお茶を持ってきた七瀬が


「社長も桃子さんも獲物を見るような目付きやめてください、その人引きつってますよ。あ、お茶どうぞ」


哲成の前にお茶とお菓子を並べた。


「ありがとうございます」


そこにバタバタと赤池瞳が入ってきた。


「おじさん居る?遅くなってごめんなさいね予想外に長引いて、そうだ七瀬君これお土産の…えっ?」


異様な緊迫感に包まれた光景に驚いた瞳は七瀬に箱入りのお菓子を渡しながら


「ねぇ何がどうしたらああなるの?」


と聞くと七瀬は苦笑いをしながら


「あ…もうこれは御愁傷様としか言えません」


と自分の席についた。瞳は訳がわからないまま仕方ない私が仲裁するかと男性に近寄ると見覚えのある顔が


「えっ?やだ哲成さん…私ったらてっきり借金取りかと」

「瞳ちゃん借金取りって」

「今までの悪行を考えるとそうなるわよね。母さんかわいそう草葉の陰で泣いてるわ」

「お前は母さんを勝手に殺すな」

「まあまあ叔父さんそんなに怒らないで血圧が上がるから、もう良い歳なんだし」

「瞳ちゃんにまで年寄り扱いされたら悲しい」

「どっちかと言うとダメ親父」

「お前は父親をなんだと思ってるんだ」


プッ


思わず哲成は吹き出していた。そんな哲成を3人はじっと見て


「思ったより笑顔も可愛いじゃないか」

「そうね瞳ちゃんよく捕まえたわ」

「いえ、まだこれからなのよ」


とボソボソ話していると哲成が


「あの…俺…いや僕の事覚えてくれていたんですね」


と言うと瞳はにっこりと微笑み


「もちろんです、ずっと待ってました。でも本当に来てくれるのか心配していたんですよ」


と言うと緊張で固まっていた哲成はその声にホッとして緊張が緩み満面の笑みで立ち上がり


「瞳さん、あの日からあなたにお会いしたかった」


と言った自分に目が点になってしまった。


これじゃあ告白じゃないか原稿を持ってきただけなのに


と真っ赤になる哲成を見てフフッと笑い


「私も本当にお会いしたかったです哲成さんの…その原稿に」


と言って哲成を見つめた。そんな2人を横目に社長と桃子はそっと席をはずし七瀬の後ろに隠れて


「あれは落ちたわね」

「完全に落ちたな」

「計画通りね」

「これだから瞳ちゃんにはかなわないな」


自分の後ろでゴソゴソ言う2人に呆れながら七瀬は


この親子は…絶対に楽しんでるだろ本当に御愁傷様


と想いながら2人を見守って…そう見守っているであろう親子にため息をついた。


瞳はソファーに腰掛け受け取った原稿を読み始めた。哲成は手持ちぶさたになりお茶を飲んだりお菓子を食べたり落ち着かない様子だった。どれくらいたったのか哲成がいつの間にかうたた寝をしていると遠くから声がしてきた。


「哲成さん哲成さん?哲成さん起きてください」


目を開けると瞳の顔が目の前に、哲成が目を見開いて瞳を見つめると潤んだ瞳で哲成を見て


「すごくすごく良かったです。特に最後、2人は別々の扉を選ぶけれどそれは永遠のさよならじゃなく、もう一度出会うために相手を守れる力を得るための自分探しって…素敵です」

「そうですか?」

「はい哲成さんのこの作品にかける愛情や優しさや思いやりが溢れていて…私大好きです」


熱のこもった瞳の大好きですの言葉に哲成は思わず


「はい大好きです…同じくらい、あなたが好きです」


うわっ何を俺は言っているんだ


これは…私への告白なの?


瞳も徐々に真っ赤になって行き


「あ…ええ私も好きです」


と言ってうつむいてしまった。突然の自分の告白への答えに驚き立ち上がった哲成は


「えっえっえっ?いつからですかって俺もいつから?えっはじめてあった時から?これって完全に両想いってやつですよね」


と混乱しまくりで言うと瞳は頷き


「あの公園であなたの原稿を読み終わった時からです。私が原稿を読むのを真っ赤になったり青くなったりしてみている哲成さんがとっても可愛くって」


と言い愛おしそうに哲成を見つめると、その視線と目があった哲成はふにゃふにゃと座り込んだ。


あんな小動物を見るような目をするなんて恐るべし赤池瞳ハンター


遠くから様子を伺っていた3人が恐れおののいていると背後から


「なにやってるんですか?」


と呑気な男性の声がした。桃子が慌てて振り向きその口を塞ぎ


「あなた、これからが良いところなの黙ってなさい」


奥さんの迫力に負けた赤池方策(ほうさく)は黙りこんだ。


「さてさてここからが問題だ、どうやって婿養子にさせるかだな」

「え?お義父さんあれって瞳さんのですか?」


と方策が聞くと当たり前だと言わんばかりに


「そうだ決まってるだろ」


と社長が答えた。七瀬が眉間にシワを寄せ


「僕は婿養子はちょっと嫌だな」


と言うと桃子が


「一度も付き合ったことのない万年フラれ続きのひよっこは黙ってなさい」

「うっひどい」


痛いところをつかれてしょんぼりする七瀬を見て可愛そうになった方策が


「いくら七瀬君が口が悪くて背が低くてモテないからって、その言い方は七瀬君が可愛そうだよ」


しっ身長のことは言うな!


と社長と桃子が引きつっていると


「どうせ僕はチビですよ…」


傷口に塩を思いっきり塗り込まれた七瀬はとことん落ち込んだ。自分が地雷を踏んだことに気付かない方策は


「ん?どうしたの心配しなくても本当に好きなら僕みたく婿養子に入るから、ねぇお義父さん」


なんとも空気の読めない呑気な方策に


この鈍感男が!


怒り心頭の3人はそれぞれの仕事に戻っていった。


「えっ?えっ?何?何か悪いこと言った?ねえ」

「おだまり方策」

「やだ桃子さん怖いよぉ」


そんな外野と瞳の色々な思惑に気付いていない哲成は


「おっお付き合いしてください」


と思いきって言うと


「はい」


と答えた瞳の返事に天にも上る勢いだったが


「あっでも…」

「でも?」

「この本が出版されて最低でも1000部売れたらと言う事でどうでしょう」

「えっ」


と言われて哲成はキョトンとした。そんな哲成に畳み掛けるように瞳が


「あれ、売れる自信がないんですか?私はその小説を売る自信がありますけど」


にっこり微笑む瞳に哲成は


あれ?イメージが天女のはずだったのにあれ?


「どうしますか?やめますか」


と言われて顔を覗き込まれた哲成はドキドキしながらも覚悟を決め


「分かりました気になるところを修正してまた持ってきます。必ず1000部売れると信じます」


と言うと瞳は微笑んだあと少し表情を曇らせた。焦った哲成が


「えっ他にも何かあるんですか」


と聞くと瞳が上目使いで見て


「本のことは心配ないんだけれど…あの婿養子に入ってもらえますか?私一人娘だし哲成さんはお兄さんがあとを継いでるし三男ですものね」

「えっ?なんで俺が三男って知って」


やだ私ったら口が滑ってしまった


慌てて桃子が


「やだなぁそんな顔してるもの三男顔ってやつ。この人は私の夫で次男顔なのよぉ」

「はい次男です婿養子に入ってます」


そうか三男顔なのか…ん?なんか誤魔化されたような


哲成が鋭いのか鈍いのか混乱していると七瀬が


「あ~もうこんな時間、赤池さん一緒に外回りお願いします」

「そうね哲成さんまた今度」


と言い2人はいそいそと出ていった。気まずい空気のなか取り残された4人。社長は哲成に


「それでどうする?婿養子に入る?入らない?」


もし婿養子に入るとしても親に言わないと…すぐには無理だ…


「あの…1000部売れてからで良いですか?」


と答える哲成と3人はひきつり笑をするしかなかった。


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