つながる想いと新たな真実
少し歴史を遡りましょう。瞳お祖母さんのお話です。
葬儀から一週間が過ぎたが、まだ不比等は立ち直れずにいた。
心配した昌久が不比等のアパートにいくと真っ暗な中で膝を抱えて座りんでいた。昌久は照明をつけながら
「お前いい加減にしろよ、お前がそんなんじゃ祖母さんが心配するだろ」
と言うと虚ろな目で
「だったら生きかえれよ…もっと色々話したかったのに何でだよ」
昌久は不比等の隣に座り
「そうだな、これからだったのにな」
「また俺だけ何にも知らなかった、祖母ちゃんがそんなに悪かったなんて知らなかった…いつもいつも俺だけのけ者かよ」
と涙ぐむ不比等の頭を撫でて
「勘違いすんな、のけ者なんかじゃない。皆お前には笑っててほしかったんだ。祖母さんもやっと笑えるようになってきたお前に最後の日まで笑っててほしかったんだよ」
不比等の目からポロポロと涙がこぼれた。
「祖母さんは再発したときから入院しないって決めてたんだ」
「何で…入院すればもっと生きられたんだろ何でだよ」
昌久は困った顔になり
「祖母さんは祖父さんの傍に最後までいたかったんだ。だから入院にしたら2度と出れないって知って」
「なんだよそれ…それで寿命縮めるなんてバカかよ」
「まあそう言うな…それだけ祖母さんにとって祖父さんは特別な人だったんだよ」
「特別な人」
一瞬不比等の脳裏に生前の祖母と祖父の楽しそうな笑顔が浮かんだ。
「なあ不比等うちの祖父さんが婿養子だってのは知ってるか?」
「えっ」
突然の言葉に驚く不比等、昌久はヤッパリという顔をして
「知らなかったか…まあ仕方ないよな」
「それがなんの関係があるんだよ」
「関係大有り、祖母さんが入院したくなかった理由…それは祖父さんと初めてあった公園に皆で行くことだったんだ。でも一番気になっていたのは不比等、お前のことだぞ」
「俺?」
「そう、その公園って今じゃ図書館になってて…お前のバイト先の隣駅の市立図書館。だから帰りに2人でお前の様子を見に行ってた」
不比等はポカンとして昌久をみた。
「いつ?いつ来てたんだよ、てか昌兄はいつから帰って来てたんだよ」
と聞くと昌久は微笑みながら
「祖父さんから連絡もらってだから、たしか3ヶ月前?で3日に一度は祖母さんと2人で見に行ってた」
「嘘だろ3ヶ月も前からいたってなんで教えてくれなかったんだよ」
「まあちょっと色々報告もあってバタバタしてたから」
不比等は唖然として
「何なんだよ」
「だから悪かったって、あと祖母さんからの遺言伝えるぞ」
「えっ今」
「そう今、まず知りたいことは全部父さん達と話をしてちゃんと和解しろ」
不比等は苦虫を潰したような表情をして
「それはムリ」
「ムリじゃない、父さん達も不比等を子供扱いせずに事実をちゃんと話すって祖母さんと約束したんだから」
「子供扱い」
という言葉が引っ掛かった不比等を見て昌久は慌てて
「あっヤバイ」
と口ごもった。
「まって、まさか今までのって除け者じゃなくて子供扱いしてたってこと?」
と不比等に言われた昌久は諦めたように
「だって仕方ないだろ、俺達にしたら不比等はいつまでもあの誘拐事件の頃の10才の可愛い子供なんだから」
不比等はポカンとして
「やめろ俺の黒歴史」
「まあ女の子に間違われて誘拐されたなんて言えないよな」
「悪いか、でも逃げ出しただろ」
と言うと昌久は不比等の前髪を持ち上げ生え際の傷を撫でて
「でも可愛い顔に傷が残っちゃったし」
「やっやめろソレ、キモいキモいキモい」
昌久は仕方なく手を離し椅子に腰かけた。そして
「それと、たぶんこれが一番大事なお願いみたいなんだけど…インカローズの彼女って聞いたことあるか?」
「インカローズ…あぁプレゼントしたって言ってた」
「そう、その女の子に会って自分のかわりにお礼をいってくれって」
「お礼ってなんの?」
不比等が不思議そうに聞くと昌久は優しく笑って
「その子のおかげで楽しかったからだそうだ。俺は姿をチラッと見ただけなんだが、その子の話はお洒落や恋愛の話をする今時の子と違ってて、地球のロマンや歴史の話ばっかりで、いつも新鮮な驚きがあって楽しかったって笑ってた」
「なんか誰かに似てるような…でもそれにしたって石まであげて、その上にお礼もって」
と不比等が分からないという顔をして言うと
「だからだよ」
「えっ?」
「年寄りの自分とも分け隔てなく話してくれる彼女。そんな彼女ならって祖母さんはかけてみようと思ったんだ。いつかお前と出会って欲しいって」
「だから俺に会いに行かせようってか」
不比等は困った顔になり
「なんだよそれお節介だなぁ」
「お節介だよなぁでもそれは祖母さんだから許されるんだよ。売れない作家だった祖父さんにもお節介をして、はじめてのプレゼントがその石なんだから」
「売れない作家?」
昌久はこれも知らなかったのかとため息をつき
「お前は本当に何にも知らないんだな」
不比等はムッとして
「誰も教えてくれなかったからだろ」
「それは悪かった」
「祖父ちゃん本当に作家だったのか?」
「ああ売れない作家だった。祖母さんは小さいながらも自費出版も手掛ける本屋の娘で…」
若かりしころの2人が現れる。
何処の出版社に持ち込んでも門前払いを受け、途方にくれて公園のベンチでへたりこんでいた村沢哲成。そこに通りかかった彼女は哲成の手にある原稿と書かれた封筒を見てたまらなくなり
「あの、その原稿って?」
しまった私ったら、またお節介の虫がウズいてしまったわ
声をかけられた哲成が驚いて顔を上げると目の前に清楚な女性がたっていた。その女性に哲成が見とれてていると女性はしまったという顔をしたかと思うと気を取り直し
「あの本当に私は変な人ではありませんから、まあ変って思われても仕方がない状況ですが安心してください。それより手に持ってるそれ」
「これ?」
と哲成が封筒を差し出すと
「はい、その原稿の中身を知りたいんです。原稿を読ませてもらえませんか気になって仕方がなかったんです」
と必死に言ってくる様子に哲成は嬉しくてなんとなく楽しくなりフフフと笑出した。
「あの何かおかしいですか?あっもうすでに可笑しかったですよね。本当に私ったら思い付いたら止まらなくって」
「いえいえあの失礼しました。これ俺…僕が書いた小説ですけどそこまで言ってくれるなら読んでみますか」
と言うと女性は瞳をキラキラさせて
「はい拝見させてください」
と言い封筒を受け取り哲成の隣に腰掛け読み始めた。くすぐったいような不思議な感覚に哲成はいつの間にか落ち込んだ気持ちも軽くなっていた。
「ふー」
彼女は小さく息をはいて哲成に向き
「これ少し設定を変えて書き直してみませんか」
「えっ?」
「そうですね…例えば児童文学にしてみてはどうでしょう。僕と魔法使いってことで」
「魔法使いですか?」
「はい、どうですか?」
「まあ…でも児童文学になりますか?これ駆け落ちの話なんですけど」
哲成は恋愛ものを書いたのに児童文学と言われ、はじめての分野で戸惑っていたが
「大丈夫です私がついていますから。そうそう窓の外にはあの日の2人って題名より…君と僕との魔法ってどうですか」
「それなら…不思議な扉、君と僕の魔法でどうですか?」
「えっ」
女性が哲成を見るとペンと原稿を取り出しなにかを書き始め
「2人の逃避行の行く先を扉に見立てて、いつか大人になって2人が別々の道を選んでも又出会えるようにって話に」
と言って顔を上げると彼女が満面の笑みで見ていた。驚く哲成に彼女は
「すごいです」
彼女は驚きと期待に満ちた瞳で哲成を見ていた。ドクンと哲成の心臓が脈をうった。
「それ仕上がったらここに持って来てください。もとは本屋から別れた小さな出版社ですが信頼出来ますから」
と言い彼女は名刺を差し出した。
「あかり出版」
「私の叔父の会社ですどうですか?」
哲成は嬉しすぎて言葉が出ずにいた。そんな姿を見て彼女は
「とても嬉しいって顔ですね良かった。じゃあ待ってますから」
と言い立ち上がり哲成に微笑みかけ
「私は赤池瞳です覚えておいてくださいね。それと村沢哲成って本名ですか?」
と言われビックリした哲成は
「はっはい?」
と、すっとんきょうな声を出してしまった。彼女はクスッと笑ったあと
「素敵な名前ですね、じゃあ哲成さんまた会いましょう」
と言い去っていった。
「なんで俺の名前…あっ」
表紙に堂々と書かれている自分の名前を見て哲成は苦笑いをした。




