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召使いと天才ども  作者: クラゲん
2/2

大は小を兼ねる

舗装された道に出た俺たちは先程よりも歩きやすい道をトコトコと歩いていた。


「だから、何度も言ってるだろう? アインシュタインの相対性理論によって光を超えた速度を出すと時間がゆっくりになり、そのまま逆行していくと。だが同時に相対性理論の中で光よりも早いものは無いと証明されてるんだ。だけど最近は電子の動きが光よりも───」

「あーなるほど、完全に理解した」


遊佐町の話はとにかく理論的で分かりやすいようで分からん。アインシュタインは知ってる。相対性理論も名前は知ってる。詳しいことは分からない。


「やっぱりシュウは話しやすいなぁ」

「……お前そう言えば自然に呼び捨てにするよな」

「ダメだったかい? なんなら私の事を遊と呼んでくれれば良いよ?」

「遊佐町は陽キャなんだな」

「陽キャと陰キャの違いはなんだろうね? 陰キャは陰キャでも陽キャと一緒に居る時はあるし、陽キャでもオタクの人は居るし、どこが境界線なんだろうね?」

「あー完全に理解した」


お前が話しやすく思ってくれても俺はお前を話しやすいと思えないわ。


と、遠くから馬車がやって来るのが見えた。


「どうやらあの国の馬車みたいだね」

「なんで分かるんだ?」

「遠くからでも見えた旗と同じ紋章が刻まれてるじゃないか」

「なんで見える…」


目が良くないと科学者ってなれないの?


「細菌が目で見えるからね私は」

「化け物じゃねぇか!」

「ほら、シュウの顔にもいっぱいの細菌が──」

「ほんとにやめろ!」

「いたひっ」


ペチンと頭を叩く。女を叩くことに罪悪感はあるが、お前相手に罪悪感無しっ!!


馬車は速く、気が付いたら目の前まで来ていた。馬車を動かしていた御者さんがこちらを見て慌てたような喋り出す。


「君たちはもしかして異世界から来た者じゃないか!?」

「それなら私達が──」

「待て遊佐町。何かあったのか?」

「あ、あぁ。実は今日異世界から送られてくる者がいると神から告げられたのだ。早く見つけなければ」

「そうですか。残念ながら俺たちは見てませんね」

「ありがとう、では」


馬にパシンとムチを入れて走り出す馬車。それを見送り、また歩き出す。


「なんで伝えなかったんだい?」

「いやまぁ、念の為と言うやつだ。例えばだが、さっき言ってた神からのお告げで遊佐町みたいに才能がある奴を見つけたとする。その才能を見た権力者はどうすると思う」

「才能ある人材は大切だよね」

「あぁ、まぁ神が絡んでるならぞんざいな扱いは受けないだろうけど、下手に囲まれたら動きづらいだろ」

「あーあ、ここから街まで遠いのになー。私足疲れちゃった」


ペタンとへたり込む遊佐町。まあ、独断でやってしまった俺も悪い。


「ならおんぶして行くか」

「えっ!? い、いいのかい!?」

「なんだ、今そうして欲しかったんじゃないのか?」

「いや、別に狙ったわけじゃ無かったんだけど…」

「じゃあいいか」

「いや! いやいや! お願いしようかな!?」


慌てたように手を振る遊佐町。挙動不審だな?


遊佐町が後ろに回り、おずおずと体重を預けてくる。思ったより軽い。白衣で見えなかったが内側は恐らく細身だろう。


「お、重くないかい?」

「全然と言ったら嘘になる。運動してなかったし」

「重かったら降りるから! ほんとに大丈夫かい?」

「ぼちぼちだ。辛くなったら言う」


さて、まず思うのは手に伝わる感触がぷにぷにとしていることだ。

だが引き締まってはいないだけで、かと言って太っている訳では無い。適度に柔らかいこの感じは、運動をしていないがカロリー計算くらいはしているんだぞと科学者としての意地を感じさせる。

また、背中に触れるこの一際柔らかい双丘は俗に言う"パイオツ"と言うやつだ。こちらも気付かなかったがしっかりと主張してくる。彼女の胸と俺の背中で潰されているが、しかし反発。低反発。これを売り出せたなら恐らくは千客万来、一息で億万長者となれよう。私は今、口に出して言いたい。"パイオツカイデー"。さぁ、みんなも一緒に。


「パイオツカイデー!!」

「急に黙り込んだと思ったらなんだい!?」


赤面しながら頭を叩いてくる遊佐町。少々語り過ぎてしまったな。胸についての言及なぞ、今更意味は無い。語られ過ぎているからな。


「語るに落ちるとはこのことよ!」

「ねぇ! 前見て! 前!」


後ろから指差して声を上げる遊佐町。指が示す方向を見てみれば、少し遠くに儚げな表情で地面に座り込んでいる少女が居た。


「おいおい、行き倒れか」

「私食料も水も無いぞ」

「町は近いし、遊佐町を下ろしてあの子を背負えばなんとかなるだろ」

「そうやって取っかえ引っ変えして! 貴方っていつもそうっ!」

「俺とお前は出会ってまだ半日も経ってないけどな!」


いつもっていつだよ。(哲学)


と、少女に近づいて行くにつれ、違和感が増えていく。その違和感はなんだろうか、相対性理論ではなく。そう、あれだ、遠近感。


「遊佐町」

「ふむ、ここからの距離、そしてこの角度からの大きさ。私の人差し指の長さが大体6cm。見比べてみて計算されるのは…」


傍まで近づいて、少女を()()()()


「ざっと3m程かな」

「巨人かぁ〜…」


膝抱えて座っていて3メートル。立っていれば6、7メートルはあるだろう。


「立てば芍薬座れば牡丹という言葉があるが、この場合はなんて言うんだろうね」

「知らねぇよ。立っても座っても壁にしか見えねぇよ」


とか言ってると、雨が降ってきた。ポツポツと頭に当たる。痛いな。雨粒大き過ぎないか?


「雨宿りできるとこ探すか」

「いや、これは雨じゃないね。ぺろっ…うん。雨にしては塩分濃度が高い」

「舐めるなよ…じゃあなんだこれは」

「成分的には血に似てるね。鉄分とか赤血球が全然違うけど。簡単に言えば"涙"だ」


涙。涙? ナミダ……あぁ、なるほど。お決まりの展開かこれは。


「ひっく……うぇぇ……うっ……ご、ごめんなさぃぃぃ…」

「なんか聞こえたぞ」

「上から聞こえたな」

「か、壁にしか見えませんよね…うぅ…すいません……邪魔ですよね……ひっく」


その巨体には凡そ似つかわしくない可愛らしい声が上から響いてきた。見上げると、悲しげに涙を浮かべる少女が謝ってきているのに気付く。


「シュウ…泣かせたな」

「いやごめんて。悪かったって。デカいって良いことだと思いますよ俺は。便利だし、身長マウント取れるじゃん?」

「そういうとこだぞシュウ」

「お前は俺の何が分かるんだ、柔らかい太ももしやがって」

「は、はぁっ!? な、なんだい! 私は平均から考えれば十分細い部類に分類されると思ってるけどね! それとも何かい!? 君は極度に細くないと興奮できないのかい!? 私から言わせてもらうと適度に肉が付いていた方が感触も良いし健康的だと────」


やべ、一瞬で2つの地雷踏んじまったよ。ここらは紛争地帯か。地雷撒き散らかされてるじゃん。怖い怖い。


「なんでうずくまってたんだよ」

「うぅ…聞いて、くれるんですかぁ?」

「聞かないと話が進まないからな!」

「そ、そうですよね…すいません…じゃあ手短に話しますね…」


別に謝れって言った訳じゃないんだけど、あー、調子狂うなコイツ。


「信じてもらえないと思うんですけど…私、この世界とは別の世界から来たんです…気が付いたらここに居て…て、信じられないですよね……あぅ…うぅ」


ん? 待て待て、異世界だと? この巨体が日本に居たのか? いや今のSNS社会でこの身体を隠して生きていくのは不可能に近いだろ。


「結論を急ぐのは速いぞシュウ。巨人の少女よ。君のいた世界に日本という国はあったかい?」

「巨人の少女って凄い日本語だな」

「ニホン…? えと、そんな名前の国は、無かったと思います……はい…」

「え? それはどういう」

「ということは、つまりあれだね。私たちの世界だけじゃなく、別の世界からもこの世界に連れてこられた者が居るということになる」


な、なるほどぉぉお〜ッ!!

そうか、見解が間違っていた。そりゃあそうだ。この知らない世界があるのだから、別世界の人間とは違う生き物が居たとこでおかしくはない。


「えと…あの、もしかして貴方たちも…異世界から来た人達なんですか? あ、違ったらすみません…」

「いや、合ってるよ。俺の名前は高杉秋、シュウと呼んでくれ」

「私は遊佐町遊、化学の天才だ」

「あ、そうなんですか……! う、嬉しいです…仲間が居て…えと、私はユノと言います…巨人族なんですけど…普通より大きいみたいで…昔からそうだったから、いつも邪魔だったみたいで……うぅ」


えぇ…勝手に喋って勝手に泣き出したよこの人…服濡れちゃったよもう。


「しかし私たちは別に怒ってないし、邪魔じゃないと思っているつもりだ。大きいと色々と便利じゃないか? なあシュウ」

「あぁ。大は小を兼ねるとも言うからな。やはり男のロマンがたっぷり詰まっている証拠だ。大きいことは喜ばしいかな」

「念の為聞くけど大きさのことだよね?」

「あぁ、大きさのことだが?」


全く、何を言っているんだが。アレの話だよ、うむうむ。アレとはなんだ、アレだよ。言わせんな恥ずかしい。


「ほ、ホントですか…? 私、そんなふうに言って貰えたの初めてで……えへへ、ありがとうございます」

「さて、それで、歩けるかい?」

「は、はい。あの、どちらまで?」

「これからあそこにある街に行こうかと思ってるんだ。ほら、遠くに少し見えるだろう」


指をさした方には少し高い壁に囲まれた街がぼやけて見える。まだ距離はありそうだ。


「でも、私大きいから邪魔になるだろうし…」

「んー…そうだなぁ。遊、どう思う?」

「そうだね、色々と可能性はあるけど、大きく分けたら2つかな。1つ目は普通に驚かれ迫害を受ける。人間というのは自分と似た存在以外を受け入れられないからね。2つ目にこの世界にもユノ君と似たような巨人族が存在していて、大して驚かれない」

「期待したいのは2つ目だが…」


あまりバレたくないのはあるが、こんな所にユノが居たらそれはそれで見つかりそうだ。


「と、いうか。もしユノが女神に送られてきたなら、ユノも何かの才能を見出されたって事だよな」

「さっきも言ったが私は化学の天才。特に薬の分野に関しては任せて欲しい」

「えと…得意だったのは…鍛治です……一族のみんなの鎧や刀を作ってました…すいません」

「なんで謝るんだ? 凄いことじゃないか」


ユノは口癖なのか、よく謝る傾向にあるな。どれだけ怒られてきたんだか。


「そ、そんな。凄いだなんて…それに女が鍛冶をするのは良くないですし」

「なんだそれ?」

「えっ…あれ、でもシュウさんが例えば鎧を着たいと思った時、それを作ったのが私みたいな女だった時は嫌な気持ちになり…ますよね?」

「はぁ?」


何が言いたいのか分からないでいると、コホンと1つ咳をして背中に背負っている遊が喋り出した…………いい加減降りろよお前。


「ここまでの過程から得られた情報をまとめると、どうやらユノ君は女性差別のあった社会で生まれたらしい。無論、日本にも昔は同じように、鍛冶仕事は男専門。女なんて軟弱、といった考えはあったという。こういった差別は日本だけじゃなく、海外にもあった風習だ。我々が口をだす問題では無さそうだが…少なくとも私達がユノ君を嫌う理由にはならないね」

「説明助かる」

「頭の良さじゃ負けないよ」


元よりお前にそこ(頭の良さ)で勝つつもりはねぇよ。自分の分際くらい弁えてるさ。


「う、うぇぇ…うぅぅ……あぅ……うぁぁあ……ああ」

「お、おいおい。なんで泣き出すんだよ」

「だ、だって……私そんなふうに言われたことなんて1度もなくて……嬉しくてぇ……ふぐぅ……うっ、ぅぅぅ」

「あーあ、泣かせたなシュウ」

「またか、また俺なのか」


もうビショビショだよ…なんならその涙活かして働けるんじゃねえのか。シャワー的な。

美女の涙シャワー! 10分1万! 的な。儲かりまっか! 的な。


「じゃ、じゃあ連れて行ってくれますか」

「もちろん。何かあったらすぐ逃げればいいしな」

「は、はい!」


花が咲くような笑顔に俺と遊佐町は自然と頬が緩む。鍛冶の天才が居るのも意外だったし、それが巨人だったなんて驚きの連続だったけど……まぁ、悪いやつじゃなさそうだ。


「そういやシュウ、私の代わりに背負うんじゃ無かったのかい?」

「絶対無理だろ!!」

「し、失礼します……!」

「失礼すんな! 無理だバカ! 遊佐町もさっさと降りろ!」


頼むからボケを増やさないでくれ。



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