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召使いと天才ども  作者: クラゲん
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女神は女神らしく居て

眩いほどの光に包まれ、景色が白に塗り潰された。


次に目が覚めた時、見えたのは何処かの豪華なレストランだった。目の前の席に座っているのは白い絹のローブに身を包んた女性だった。

ローブから垣間見える顔は非常に整っており、鼻は高くツンと立ち、輪郭は黄金比と言える程の形を保っている。目までは見えないが、恐らくとてつもない美人だろう。

座っているその姿だけでもオーラというか、気品を感じさせる佇まいだ。例えるならそう、まるで女神のようだった。


「あー…これやっちゃったなぁ……」


なんか聞こえた。


やっと意識がしっかりとしてきた。顔を上げてローブの女に話しかける。


「───なんで俺はこんな所にいるんだ?」

「ッ!?」


俺の声を聞いた瞬間にビクッと体を揺らし、驚いたような顔を向けてくる女。なるほど、やはり美人だ。大きくクッキリとした目をしている。これ何がすごいって、これでもかって位目を見開いてるから美人は美人でも残念なんだ。


「ふ、ふふふ。目が覚めましたか? 高杉さん」

「…まあ」


澄んだような声が直接脳に響く。女は俺、高杉秋たかすぎ しゅうに微笑みかけてきた。


「おはようございます。貴方は今、天界におります」

「天界? 見たところレストランのど真ん中だが?」


周りを見ると白い布をまとったような変態チックな格好をした男から、タキシードのような服を着た男。全裸の女やギリシャ神話とかでよく見るような片方の肩から腰にかけて布を回した服の男がテーブルに着き、食事を楽しんでいた。


「まぁまずは食事でもどうですか?」

「状況が欠片も掴めないんだけど、とりあえずここは変態パーティー会場で良いのか」

「まさか、ここは天界のレストラン。その名も『フォーリン・ゴッデス』」

「堕天してんじゃねえか」


目覚めた直後にドギツイ冗談は辞めろ。要件はなんだ。身代金か無理心中か。それとも実験とかの名目上で生きたまま解剖したりするのか。


「なにそれこっわ…現代人は情報メディアに踊らされ過ぎてて発想がシャブキメてますね」

「仮にも女神ならそういう事言うなよ。いやお前が女神かどうかは知らんけど」

「ふふ、そうです。私が女神です。ククリとお呼びください」

「クスリ?」

「辞めてください」


今のところ女神要素が容姿以外見当たらないのはなんでなんだろう。

ウェイターらしき人がトレイの上に料理を乗せて運んできた。美味しそうなステーキだ。表面に光る肉汁が上質なことを訴えてくる。


あとなんでこのウェイター裸で背中に十字架背負ってるの?


「驚きましたか」

「驚くって言うか(おのの)くな」


得意気に胸を貼るククリ。タユンタユンと胸が揺れる。ウン、95点♠︎


「驚くでしょう……このステーキの大きさにっ!」

「ウェイターにだよ!! なんで裸なんだよ!! 今のご時世1番大事にしないといけない物無くしてるよ!」

「もしかしてデミグラスソース派でしたか?」

「違うよ! 羞恥心だよ! あと常識っ! なんで俺目が覚めて直ぐにこんな突っ込まされてんの!? いい加減に説明してくれるかな!?」


ゼェゼェと息を整える。なんだコイツ…最初の見た目とのギャップが激し過ぎる。ギャップ萌えどころかギャップ染めだよ。ギャップしかねぇよ。


「はい、彼はイエスです。キリストと言えば分かりやすいでしょうか」

「えっ、この裸のウェイターイエス・キリストなの!?」

「……グッ」

「なんか微笑みながらグッドサイン送ってきたけど全裸なんだどうすればいい」

「笑えばいいと思うよ」

「笑えるかッ!」


息整える暇さえ寄越さねぇのか、コイツは。


「さて、貴方はですね。これから異世界に飛ばされるのです」

「急に話が飛んだな」

「あぁすいません、散りましたか」

「油じゃねえよ。刺すぞ」

「ふぉ、フォークを向けないでください…女神相手にこんな態度の人間初めて見ました…」

「俺もここまで自由な女神初めて見たよ」


女神自体も初めて見たけど神話なりなんなりで見た女神はもう少しマトモだったと思うし、そうあって欲しい。


「貴方には才能があるのです。しかしそれを使えず老いていくのは勿体無い…このまま行けば借金抱えて職を失い希望を捨てた挙句に無理心中を計る未来が待っている……そんな貴方を救いたいと思い、お呼びしたのです…したのです…たのです…(セルフエコー)」

「色々と突っ込みたいとこはあるがまず言わせてくれ。そんなに俺はヤバい人生を送る予定だったのか?」

「はい。ついで言うなら貴方の人生の全盛期は0歳から半年でした」

「母親の乳飲んでる時が俺の人生最高潮だったの!?」


じゃあ今までの人生は全部消化試合だったの? 道理で色恋沙汰に関わりが無かった訳だ。


「言いづらいですが、そういう事ですね」

「じゃあもう少し言い淀めろよっ! 泣いていい? 良いよね!?」

「……グッ」

「キリストがこっち見てんよォ!」


遠くの方からこちらへ凄い優しい微笑みを向けてくれるイエス・キリスト。隣人愛を唱えた人は格が違うな。人間としての格が。


「話が脱線しましたね。戻しますが、つまり私が言いたいのは貴方が異世界に行き、他に呼んでいる方々の世話係をしろと言いたいのです」

「ごめん待ってどこをどうしたらそこに行き着くの?」

「あなたには『世話係の才能』があるのです! その才能が花開くのは異世界だけ! あなたは異世界に行く必要があるのです! この女神ククリより、異世界へ飛び立つ使命を与えます!」

「とりあえずテーブルの上から降りろ」


テンションが勢い余ったのか、テーブルに足をかけて天井を指差すククリ。もうなんか、どうでもいいよ。


「じゃあ、この食事が終わったら異世界に送り届けますね」

「ちなみに報酬は?」

「え?」

「報酬」

「ホウシュウ……? ホウシュ…What's?」

「急に流暢になるじゃん」


ローブから見える金髪が日本の血を引いてないことは分かる。わかるけれどさっきまで会話してたな?


「良いでしょう、もし貴方が異世界に渡り、貴方の使命をやり遂げた時!」

「……ごくり」


真剣な眼差しでこちらを見詰め返すククリ。懐から分厚い本の様なものを取り出してきた。


「こちらからお選び頂いた物をお送り致します」

「お中元で見るやつだコレ!」


カタログみたいなのを渡されたから叫びと共に破り捨てる。内容は見てない。多分ソファとかルンバとかそんなんだろ。


「あぁっ! わ、私がとっておいた大切なカタログが…週末にカタログ眺めるのが唯一の楽しみだったのに……」

「虚しい女神だなソレ」


泣きながらモリモリとステーキを食べるククリ。もう最初の女神らしさは欠片もありませんね。はい。









───結局、イエス・キリストのフルコースを食べ終わった後、店の外へと連れていかれるとその場でククリが異世界に送ると言い出した。


「高杉秋さん。あなたをこれから異世界に送ります。いいですね?」

「どうせ拒否権は無いだろ」

「もし拒否したら男性専用サウナの精霊にします」

「異世界ダイスキ。オレガンバル」

「そう言っていただけると思ってました」


神様に恐喝罪って適用します? しない? あ、そう…


「んんん〜〜……っ! 異世界へ届け! はんにゃんむらびほーいホイホイ!」

「掛け声ダサっ!?」


とその瞬間、ここに来た時と同じように目の前が真っ白に染まり意識が無くなっていく。消えていく視界の中に、女神が

「やべっ…またやっちゃったなぁ…」

みたいなこと呟いたのを最後に、俺の意識は無くなった。





身体を揺すられる感覚と共に、意識が覚醒してくるのが分かる。少し寒い風を感じ、より鮮明になってきた。重い瞼を開いてみると、そこは森の中だった。


「…あのクソ女神、もしや間違えたのはこれか」


転送先を間違えたようだ。こんな森の中に右も左も分からない俺を送り込むとは、ハードモード過ぎないか?


「ぐえっ…」


ん? なんか足元に違和感が…もう1回踏んでみるか。


「へぐっ…やっ、やめ…ぐぇぇえ」

「おぉ! 人が居たのか、気が付かなかった」


踏み心地の悪い地面だなと思ったら、どうやら人を踏んでいたようだった。驚きを隠せないな。


「もう少し早く分からなかったかい? 全く、危うく骨が折れるところだったじゃないか」

「悪いな、人を踏む事に慣れてないんだ」

「慣れてたらビックリだよ」


ゆっくりと立ち上がったソイツは女の子だった様で、何故か土の着いた白衣を着ていた。今着いたんだろう。パタパタと手を動かして土を落としている。


「さて、君は誰かな?」

「名前を名乗る時はまず自分から」

「え、えらく圧を掛けてくるじゃあないか…コホン、わ、私を見た事あるだろう? ほら、思い出さないか?」


腰をクネクネとさせてウィンクしてくる。なんだコイツ。さっきからろくな女に会わねぇな。


「じゃあヒントを出そう! ほら、最近テレビでさ、『天才少女現るっ!』みたいなニュース見なかったかい?」

「いやぁ、別に…」

「そっか」


そんな悲しそうな顔すんなよ…ごめんて。ニュースあんまり見ないんだよ。謝るから許せ。


「私の名前は遊佐町(ゆさまち)(ゆう)。化学の神童と呼ばれた女さ! そして君は?」

「佐藤太郎です」

「おっ……い、虐められてなかったかい? その名前だと」

「日本男児らしい名前をと母に」

「そうか…いやなんだ。私としては最早ある意味ユニークだと思うぞ。うん、実にイイ名前だ。佐藤太郎。うむうむ。太郎と呼んでいいかい?」

「いや、俺の名前高杉秋なんだけど」

「さっきまでの会話に意味は!?」


ごめん遊佐町、さっきまでツッコミ役に徹してたからボケになりたかったんだ。許してくれ。


「君はなんの才能を見出されてこの世界に送られたんだい? 歩きながらでも話そうよ」

「詳しいこと言われた覚えもなければ、なんなら自分に才能を感じた事すらない」


この森の中にずっと居る意味が無いので、出口を探すべく2人で歩き出す。世間話を混じえて。


「そうか。神様が教えてくれなかったのか? 私のところに出てきた神様は普通に教えてくれたが。まあ言われずとも自らの才能くらい、自分で理解していたがな!」

「女神は教えてくれないし、キリストは微笑むだけだったな」

「イエス・キリスト見たの!?」


あんぐりと口を開けて驚く遊佐町。絵に描いたような驚き方でお兄さん嬉しいよ。


と、ふと近くの木に目が行く。かなり大きい樹木だったが、何メートルも傷付けられているのが分かった。大きなヤスリのような物で抉ったのか、荒々しい傷は存在を誇張するかのようだ。


「おい遊佐町」

「遊で良いよ?それよりなんだいシュウ」

「これ、なんだと思う?」

「ふむ、これはあれだね? 熊とかがする縄張りを荒らされないようここは俺の縄張りだぞと表現するマークだ」


通常、熊はマーキングをする。そのやり方は例えば大きな身体を木に擦り付けて匂いを付けるのだ。まぁコレには痒いところかく為とか、求愛行動がどうとか色々と諸説あるのだが…俺が言いたいのはそういう事ではなく。


「近くにクマがいる」

「そうだね。そして、私は既に18個の同じマークを今さっきまでで見つけていたよ」

「誇らしげに言う前に言えよバカ!」

「あれこれなんだっけな〜とか思ってて、今思い出したんだ。そして、気が付いたかい? 後ろから近寄ってくる草木を押し倒して来てる音に」


ザザザッザザザッと音と共に巨体が走ってきている。ここからでも姿が見える。なるほど。どうやら俺の人生はここで詰みらしい。


「逃げるぞ」

「どう考えても間に合わないな。ホッキョクグマの最高速度は時速40kmと言う。それより速いにしろ遅いにしろ、徒歩の私達が逃げ切れる速さでは無いだろう」

「なんでお前はそんなに冷静なんだ! おい! 逃げるぞ!」

「間に合わないと言ってるだろう? まあ待ちたまえ」


諦めたのか、その場にしゃがみ込み、俯く遊佐町。こんな所で死ぬなんて、やっぱりクソだなこの人生。


「……っ! 分かったよ! ほら! 俺が囮になるから先逃げろ!」


俺は遊佐町の前へ出て、手を広げる。後ろへと行かせて、壁になるように立ち塞いだ。


「クマは木の上に逃げれば助かると聞いたことがある! 嘘かホントか、そもそもこの異世界? で通用するのかは知らんが何とかするから逃げろ遊佐町!」


目の前で死んだり、一緒に死ぬのは目覚めが悪い。どうせなら片方ぐらい生きていて欲しい。


「……君は自分を犠牲にするタイプには見えなかったが、ふむ。なるほど、興味が湧いてきた」

「はぁ? 一体何言って───」


と、その瞬間奥から咆哮が聞こえてきた。草木が揺れ、耳をつんざくような声にビリビリと体が痺れる。


「……くっ! 来い!」


巨体が姿を現した。やはりクマだ。しかもでかい。とてつもなく。あの木へのマーキング痕はコイツの物か。


「───シュウ、頭下げて」

「は?」


突然の声に無意識に体が反応し、頭を下げる。すると頭上を何かが通り過ぎ、クマの鼻へと直撃した。


「グォォォォオオォォオッッッ!!」


けたたましい叫び声と共に踵を返しドスドスと逃げていくクマ。直後、急に唐辛子のような匂いが鼻に着いた。


「一体何があった」

「危なかったね? 間に合ってよかったよ」


遊佐町の手には何かの液体が付着していた。そこからこの刺激臭はしてるらしい。


「なんだそれ」

「ふふん、私は化学、特に薬に置いては一家言あるんだ。今回は薬、というか薬膳の方向だがね」


遊佐町は反対の手に実が着いた草を持っていた。よく見てみるが、草など欠片も興味が無かった俺は何も分からない。


「完全に偶然だけどね、こういった森の中にもあったりするんだ。この世界じゃ唐辛子と言うのか知らないけど、辛み成分が、含まれている植物が生えてて良かった……うぅ、臭いな」


片手をヒラヒラと動かし、ツーンと来たのか少し涙目の遊佐町に俺は安堵のため息を吐いた。


「はぁ、まあなんだ。ほら、ハンカチやるよ」

「良いの? 匂いつくよ? こういう匂いってあんま取れないよ? 異世界だったら尚更」

「別に返さなくていいよ、やる」

「……ふーん」


ハンカチで手を拭きながら、微妙な反応をする遊佐町。分かってるよ、こんな男にハンカチ渡されても嬉しくないだろうな。はいはい。ほら、それよりも、見えてきたぞ。


「村、というか街だな。城下町」

「見えてきたのか、ふむ。まだ距離はあるかな」


遠くに平原を越えて街が見える。一際大きい建物は恐らく城だ。本来ならあそこに飛ばされていた筈なのだろうか。


「あそこまでの距離が大体3km。私のバストが大体86だ」

「なるほどな、丁度いいサイズじゃないか…って違うだろ!」

「ヒップは教えるがウエストは許してくれ。あんまり自信が無い」

「聞いてねぇよ! あと別に太ったようには見えないから安心しろ!」


逆セクハラやめてもらえませんかね。

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