20.父マグロー、奴隷商人になる
ケインの誘拐事件からまもなくして、ベルリアル家は奴隷商としての再出発を飾った。
父マグローがアザイ男爵と交わした密談によって、マクトワーズが残した家屋や奴隷たちといった財産はそのままベルリアル家のものとなった。それらの奴隷商ギルドへの申請も速やかに完了し、引越し作業もあれよという間に進んで、ケインは誘拐されたことに対する恐怖やストレスを引きずる時間もなく日々に追われた。
その甲斐あってか、後日行われた実行犯の裁判の結果を聞いても、まるで他人事のように冷静に考えることができていた。
ケインは引越しの最中にくすねておいた誘拐犯の手紙を手に、新居にあてがわれた自室のベッドで考えをめぐらせた。どうにも引っ掛かりが拭えない何かがそこに隠されているように思えてならなかったからだ。
誘拐犯のクニマルたち3人は、罰金200ベリルという高額の刑が言い渡され、当然それを支払えないということで後日絞首刑に処されるということだった。世論はそれを当然と支持し、アザイ男爵の判決を高く評価する声が大きく沸き起こる。ケインの中の薫子の心理としてはどうにも解せないものが残り、事件そのものの真相は夜逃げして裁判を逃れたマクトワーズしか知りえぬものになったのだと感じた。
粉引き小屋の管理人が追放され、騎士であるタイジェンリッター卿がしばらく管理人として留まることや、ユキヒがギルドの規定違反に問われて街中のロウソクが数日手に入らなくなったりと、ちょっとした事件もあったが、それからのケインの日々は一転して忙しくなる。
体力づくりのランニングに加えて、奴隷たちの世話の一部がケインの日課に追加された。
ミスカの家と近所になったことで、エメラの散歩にも付き合うことになり、グシュタワにからかわれながらも3人でつるみだした。
父マグローの奴隷商としての手腕も、マクトワーズが残した奴隷たちが皆女性だったことを差し引いても見事なもので、新しい奴隷の購入に市場へと
ケインを連れ立つこともしばしばだった。
ケインが6歳になる頃には、フルフランとベルリアルはナフレの2大奴隷商とまで言われるほどに成長を遂げ、ミスカやグシュタワとともに商人学校に通うようになった。
めまぐるしく変わる日々の中で唯一変わらないのは、エメラが売れ残り続けていることくらいなものだった。




