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9話 エレノア司教

 セツナくんに案内された場所はひと際大きな豪邸の前だった。

「すみません、門番さん、マナカさんを呼んでくれませんか。できるだけ急いでください」

 門番は担がれている自分と黒い鎧の騎士ネクサスさんを見て目を丸くしたあと門を開け呼びに行こうとする。

「門番、呼びに行く必要はありません」

 入り口が開き二人の少女が立っていた。門番が道を開ける。

「そこでボーっとしている暇がありますか? 状況は分かりました。案内しますから早く来てください」


 アリシアさんの部屋まで案内される。セツナくんの交友関係広さに舌を巻く。この美少女二人とはどんな関係なのだろうか。

「私のベッドを使っても構いません。マナカ診てあげて」

 ベッドに降ろされる。良い匂いがする。

「は、はいぃ。分かりました」

 マナカと呼ばれた少女が首元に手をかざすと、手が淡く光り傷が塞がる。もしかしてマナカさんも勇者なのか!?

「え、……こ、これは、完全に治せないです。でも、安定させるくらいには……」

 マナカさんの手が元に戻る。かなり体調が楽になった。

「あ、後は、司教様の下に連れて行ってあげてください」

 またネクサスさんに担がれる。まだ、動くことはできない。

「ありがとうございます。マナカさんとアリシアさん。本当に助かりました」

 セツナくんがお礼を言っている。後でセツナくんにもお礼を言わないと。

「人助けは当然のことです。気にしないでください。そうでしょ、マナカ?」

「は! はい! そうでう! うぅ……」

 マナカさんは勢いよく噛み赤面した顔を手で隠す。


「え……あの、ユウさんの力、全然コントロールできてないって、そ、その……ご、ごめんなさい!」

 マナカさんの前で能力を使っていないのに何故能力のことを知っているんだ。

「この部屋に転移魔術の準備がしてあります」

 マナカさん言われたことを考えている間に着いていた。普通の一人部屋の床に魔法陣が書いてある。

「後は起動させるだけです。ネクサス様、お願いします」

 ネクサスさんが魔法陣に手をかざす、魔法陣が光り始めた。

「アリシアさん、ありがとう。帰りはそのまま詰め所に行くから」

 足元から光の粒子に分解されていく、痛くは無い。これが転移魔術か。

「ええ、分かりました」

 完全に分解され、視界が歪み何も見えなくなる。


 視界がクリアになると、綺麗な礼拝堂の中にいた。何人かシスターが居る。

「あらあら、どうしましたか? ネクサスさん。わざわざ転移魔術を使用するんて」

「エレノア司教。怪我人がいるんだ、治療して欲しい」

「はぁ、分かりました。奥の部屋のベッドに寝かせてください。そこで治療します」

 ベッドに寝かされ、頭をなでなでされる。

「よく頑張りましたね。安心してゆっくり休んでください。もう大丈夫です」

 なでなでされると眠くなってくる。

「ふふ、おやすみなさい」

 完全に意識がシャットダウンした。


 小鳥のさえずりが聞こえる。体にのしかかる重さに気付く。自分の3倍は大きく白い小鳥が自分の上に乗っていた。つぶらな瞳で自分の顔を覗いている、鋭いくちばしが自分の顔に向く、自分はこの小鳥にとって餌でしかない。くちばしが開く。この大きさなら自分の頭など一口で食べられてしまう。何でこんな目に合っているのか。いくら思い返しても理由は見当たらない。くちばしが自分の頭を食べようと閉じ始めた。


「あああああああああああああああああああっ!?」


 目の前には白い天井があった。夢か…………夢は記憶の整理というがこんな夢を見る原因は見当たらない。窓の外で小鳥はさえずっていた。

 4人の精霊が自分の上で寝ていた。一人用のベッドに5人はどうなのか。あのまぬけな悲鳴が聞こえているはずなのに4人とも起きなかった。ぐっすり寝ているところを起こすのは可哀想なので起こさないようにベッドを抜ける。服がいつもと違った、寝ている間に着替えさせてもらったのか。


 まだ夜が明けて間もない、薄暗い廊下には誰もいないので人を探して彷徨う。

 転移して来た礼拝堂に入る、聖堂よりは大聖堂と言える広さだ。

「おはようございます。もうお体は大丈夫ですか?」

 誰もいないと踏んでいたので急に声をかけられ体がビクッと反応する。声をかけてきたのは壇上にいたエレノア司教だった。

「もう体は大丈夫です。ありがとうございます」

「それは良かったです。でも、あなたを助けたのは私だけではありません。精霊様達はあなたが寝ている間ずっとあなたの世話をしていらのですよ? ちゃんと感謝するように」

「はい。そうですね」

 セツナくんにネクサスさん、アリシアさん、マナカさんと精霊達も自分を助けるために頑張ってくれた。おかげで生き延びることができたのだ。感謝してもしきれない。

「もう少ししたら、朝食の用意をします。それまでゆっくりしておいてください。3日も寝ていたのです、無理に動かないことです」

 3日も寝ていたのか、そう考えるとフラフラしてきた。近くの長椅子に腰を下ろす。

「あと、アメジストちゃんにも連絡しておきましたから、安心してください」

「アメジストと知り合いなんですか?」

「アメジストちゃんに魔術を教えたのは私ですから。言わば師匠です」

 どうみても20代なのに司教になり、魔術も教えることができるとは。

「こう見えて私、年齢3桁行ってますので」

 ギャルがプリクラをするときのような笑顔でダブルピースしながら何か言った。何の冗談なんだ。

「魔法で老化を止めているだけです。珍しいものではありませんよ。強い魔力を持つと魔力を一番上手く使える年齢で止めてしまうことは珍しくないことです」

 とんでもないことを聞いてしまった。もしかして、この世界にはロリババアもいるのかな。

「……アメジストちゃんを助ける覚悟はありますか? もし、あるのなら示して欲しいのです」

 真剣な表情で尋ねてくる。

「アメジストちゃんはもし目的が達成できなかったときは自らを終わらせてしまおう、と考えています。師匠としては可愛い弟子がそんなことになって欲しくない。中途半端な覚悟なら今ここで手を引いてください」

 何も言えない。もし、アメジストを助けることが出来なければ自分は……。

「師匠。それは私が選んだ私の勇者です。」

 自分の後ろにアメジストが立っていた。

「遅くなりましたわ。ユウ。まさか、こんなことになるなんて思いもしなかったですわ」

 アメジストの顔を見ることができない。自分にそんな資格は無い。

「師匠。今日はお願いがあってここに来ました。ユウを特訓してください。お願いします」

 アメジストが頭を下げる。胸が痛かった。

「……アメジストちゃん」

 エレノア司教は戸惑っている。

「お願いします!」

 エレノア司教に頭を下げる。覚悟はできた。ここからはシルフに言われるような最弱のままではダメなんだ。最強になってアメジストを必ず助けてみせる。その為にはどんな特訓だってこなしてみせる。

「はぁ、分かりました。ですが、もし特訓から逃げ出すようなら、その時は覚悟してくださいね。あと、もう朝食なので、アメジストちゃんも食べてください」

 エレノア司教はそう言い残し礼拝堂を出て行った。

「ユウ。正直に言うと地獄の特訓など生温いような特訓を受けることになりますわ。せめて死なないでくださいね」

 アメジストは特訓を受けたときは思い返したようで虚ろな目で怖いことを口にする。

「ユウ、朝食に行くわよ。早く行かないとマタオコラレルカラネ」

 普段は冷静なアメジストが片言になるくらい強烈な特訓……凄く怖い。

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