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8話 悪意の氷槍

 今日もアメジストたちと別行動で依頼を受けながら能力の訓練だ。

 昨日と同じようにサラマンダーとノームはなかなか起きなかった。結果、朝ご飯を食べ損ね、お昼にあのレストランに行った後、依頼掲示板に着く。

「あ、勇者様! 良かった! 実は、昨日の依頼者があなたを探しています。何か用事があるそうで」

 指輪が玩具だったことがばれてしまったか。

「それで、ここに来て欲しいとメモを預かっております」

 メモを受け取り見ると地図が書いてある。

「では、お願いします」

 足早に去っていった。依頼を受ける人の波を相手にしている、忙しそうだ。仕方が無い、行くか。

 城の外に出ると雨が降りそうな雲に空が覆われていた、嫌な天気だ。


 地図で示された場所に着く豪邸が立ち並ぶ住宅街の一角だった。王城に近く利便性も良い、最高の立地なんだろう。

 門番が門を開けてくれる。門番がついているなんてかなり金持っていたのか……

 フードを被った少女が豪邸の入り口で立っていた。こちらを確認すると入り口を開ける、何も言わないが付いて来いと言うかのように入っていった。案内が無ければ部屋だらけで迷子になりそうだ。

 フードの少女が部屋の前で止まりドアを開ける。この部屋に居るということだろう。

 その部屋は書斎だった。貴族がソファーに座って待っていた。

「どうぞ、お座りください」

 声をかけられ腰を下ろした。お茶を出される。貴族はお茶を一口飲みおどおどした口調で話し始める。

「実は買い取った指輪は偽物でして、何か知っているのでしたらお話頂けないかと」

「……偽物?」

 あの指輪が玩具であることは知っているが本物があるということは知る余地も無い。

「あ、知らなかったのですか。それは、困りました」

 貴族は顔を真っ青にして冷や汗を書き始めた。

「大丈夫ですか?」

「え、えぇ、ありがとうございます」

 少し顔色が戻った。何なのだろうか、事情を話してくれてもいいだろうに。

「来ていただいたのに申し訳ありません」

 どうやらこれ以上は聞かないし言わないらしい。

 部屋の入り口で待っていたフードの少女に連れられて貴族の豪邸を出る。


 どうしようか、昼頃を過ぎると依頼は殆ど無くなる、今日はもう帰ってゆっくりしよう。来た道を引き返さず屋敷の方に歩いていく。

 数分歩いた。屋敷が見える気配が無い。貴族の住宅街からは離れたようだが。……迷った。ここは何処なんだ? 道を聞きたいが周りに人が居ない。

 キョロキョロしていると、突然目の前が燃え上がりサラマンダーが出てくる。サラマンダーは自分の口を塞いで自分の頭を引き寄せ耳元で話しかけてくる。

『ダーリン、よく聞いて、あの貴族の家を出た時からつけられてる。あのフードの女よ』

 そんなまさか。後ろを確認しようとしたがサラマンダーが頭を抑えていて出来なかった。

『ちょっと! 私の声はあいつに聞こえないようにしてるけど、ダーリンが怪しい行動すればすぐにあの女にばれるからねっ!』

 次の角で待ち伏せてサラマンダーと挟み撃ちにしそこで捕まえよう。

 サラマンダーが位置に着いた。その後すぐ自分が角を曲がる。そして、勢い良く振り返る……フードの少女は居なかった。

 サラマンダーも怪訝そうにこちらを見ていた。


「……私の!」

 声が聞こえた。サラマンダーが私ではないと横に首を振る。フードの少女の声なのか? 戻って角から顔を出す。

「平穏の為に壊れろ!」

 氷の世界、そうとしか言いようがない。道も建物も凍り付いていた。その中にフードの少女は立っていた。

「見えてるのよ! ずっと!」

 フードの少女は情緒不安定のようで常に怒号を飛ばしている。

 逃げよう! サラマンダーに目配せをする。だが、サラマンダーは体を震わせながら自分を指さしていた。

 壁に触れていた腕、そして、足が凍っていた。凍り付いた部分が動かせない、ヤバい、動けない!?

「今度こそ終わりね!」

 言い終わると同時に凍り付いた地面から氷柱出て自分の首を刺していた。フードの少女は自分の首に刺さる氷柱を見て胸をなでおろし去っていった。


 氷柱のおかげで傷口が凍り付き、まだ生きている。だが、呼吸もギリギリ、声一つ出せない。何もしなければあの貴族の思惑通り犬死するだけだ。そんなことは絶対に許せない。

 まずは、傷を塞がなくては失血死してしまう。傷口を焼くしかない。茫然自失しているサラマンダーに必死に傷口を焼くイメージを送る。イメージが届いたのかサラマンダーが泣きながら首を横に振っている。少しでも焼けず血が流れても焼き過ぎても死んでしまう、それが怖いことなのは分かっている。でも、やらなければどの道死んでしまう。

 大丈夫、絶対に上手くいく、サラマンダーを勇気づけるように考える。この思いを読み取ってくれたようだ。サラマンダーは涙を拭き自分の首に手を当てる。その目にもう迷いはなかった。

『ダーリン、絶対に救うから!』

 サラマンダーの手が燃え上がり傷口を焼く。アドレナリンが出ているようで痛みは一切感じなかった。刺さっていた氷柱が溶けたが血は流れていない。サラマンダーは上手くやってくれた。

 でも、体は動かない。サラマンダーに向かって倒れる。

『ダーリン! どうして? 血は出なかったのに……』

 意識はあるのに何故か体が動かない。神経がやられたのか? 医療には詳しくない。どうすれば……


「こっちから火が見えたんだ!」

 誰かの声が聞こえる。サラマンダーの火を見て人が来たのか。助かるかもしれない。

 黒い鎧の騎士と衛兵が近づいてくる。

「君たち大丈夫か?」

 黒騎士は周囲を見渡し、自分を見ている。

「……これはまずい状況だね」

 黒騎士はそう言いながら自分を担ぎ始める。

『えっ!?』

 突如として起きている事態にサラマンダーは何もできない。

「彼はまだ意識がある。でも予断を許さない状況だ。僕が応急処置をしながら司教の下に連れていく。騎士団にも連絡するから、応援が来るまで君は彼女から事情を聞いてくれ」

「分かりました。団長!」

 黒騎士は自分を担いだまま自分の首に手を当て走り出した。

「君に回復魔術をかけているけど、焼け石に水な状況だ、司教の下に着くまで意識をしっかり持ってくれ!」

 肩の上で揺られているとサラマンダーが追いかけてきているのが見える。黒騎士も気づいたようだ。

「お嬢さん……待っていてくれないかな、君を置いていくことになるから」

『ダーリンをどうするの? どこに行くつもり?』

「こんな酷い傷、治せるのは司教くらいなんだ。だから、転移魔術のある騎士団詰め所まで連れていくつもりだよ」

 黒騎士はサラマンダーの質問に答えながら人の多い通りに出る。

「サラマンダーさん! ……えっ!? ユウさん!? どうなってるの!?」

 偶然にもその通りに居たセツナくんがこちらに気付き走って向かってくる。

「君はこの彼の知り合い?」

 黒騎士がセツナくんに声をかける頃にはセツナくんはもう黒騎士と並んで走っていた。

「そうです。友達です。……リーベル王国騎士団団長ネクサスさんですよね?」

 最後の一言だけ聞き取れないくらい小声だった。騎士団団長ネクサス……

「うん、そうだけど、それがどうかした?」

「いいえ、何でもないです。それより、近くに治せそうな僕の知り合いが居るんです。そこは転移魔術もあるので、そっちに行きませんか? 詰め所より近いです!」

 セツナくんが提案すると黒騎士は頷いた。

「分かった。そっちに向かおう。道案内を頼むね」

 セツナくんが先導し着いた場所は貴族の住宅街の一角だった。

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