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75話 人と共にある勇者

 空から天命剣プトレマイオスが迫っている。あれが落ちればダグザ城どころか周囲の国全て崩壊する。何としてでも止めなければならない。

「うん、アイオーンの時よりも大きいな。まあ、当然か、俺の力の剣だからさ」

 自分の全ての魔王の力を発現させる。右目の少しの痛みと共にウタカタノリンネが咲く。そして、すぐさまボトルを全て開ける。

 トモヤの動向に注意しつつ、力を集中させる。精霊の力と魔王の力、二つの持てる力の全てでプトレマイオスを破壊する。それ以外に手は無い。

 力を集約させる。花弁と焔、水、岩、風の魔力が混ざり合う。

「何で自分の力だけは使わない? 無の魔王の力を使えば、あの程度、苦労せず消せるでしょ?」

 トモヤの言っていることは的を得ている。消してしまえばすぐ終わる。集中したりする必要も無い。

「あの力、使えないからさ」

 不思議な事に笑みが出ていた。無という消す力が使えないことが嬉しかったのかもしれない。無くしたくない物だらけになった世界で、それを消してしまうかもしれない力なんて必要ない。自分にはみんなが貸してくれる力があればいい。

「ふ~ん?」

 トモヤは分からないって顔をしている。トモヤの世界の再構築は、過去を改竄し、死ぬはずの人間に死なないという事実を積み重ねていくものであり、過去を改竄すれば、今の仲間との関係も変わってしまうはずだ。トモヤ達はそれに気づいていないのか、知っていてもやろうとしているのか、判断できない。


 力が集約しきった。魔力は剣状に形を変える。

「群闘戟アマタ。黙って見ているのも面白く無いから今から妨害するよ」

 トモヤが分身し囲んだ。一人一人が別の武器を持っている。全員本物の可能性もありそうだ。今プトレマイオスを破壊しようとしても止められる。しかし、落下するまで時間もあまりない。

 考えている内に一斉に襲い掛かってきた。力を集約させるために集中力を使い過ぎてしまった。トモヤの能力、武器の力を集団で同時に使われると手も足も出ない。攻撃を防ぎ、避けるだけでどうにもならない。

「焦黙弩アグニ」

 矢が腹部に刺さり、矢に体を持っていかれ壁に叩き付けられた。傷と熱で声が出ないほど痛い。

「どんな力の矢だ……ありえないだろ」

 触れるだけで焼け焦げる程の熱を持つ矢を抜き捨てる。魔王になり自然治癒力が上がって傷は塞がるが凄まじい痛みは残ったままだ。黒く焦げた掌も治ってはいる。

「あまり時間無いけど? それとも、もう終わり?」

 トモヤは笑っている、心底楽しんでいる。ここまで力の差を見せつけられると笑えてくる。しかし、勝てなくてもトモヤは倒さなければならない。まずは、分身を一掃しプトレマイオスを破壊する。

 地面に手を突き、床いっぱいに花を咲かせていく。百花繚乱の花畑が出来る。

「これを燃やせば一網打尽に出来るかも」

「そんな風情の無いことはしない」

 まずは、プトレマイオスだ。壁を蹴って壁の上に登る。そして、プトレマイオスに集約した魔力の剣を投げつける。ここからなら届く。

「諦めた? まあ、どっちでも……足が動かない」

 分身が跳ぼうとして顔面からこけた。

「綺麗な花畑の栄養になってもらった」

 ノームの力で瓦礫を集め天井を作る。

「これで遠距離での妨害も防げる」

 トモヤが矢を地面に撃ち込む。花畑と共に分身が焦土に飲まれて行く。空が眩い光に埋め尽くされる、ちゃんとプトレマイオスに届いたようだ。プトレマイオスを見ると割れ目が出来裂けながら崩壊していっている。プトレマイオスが完全に崩壊したのを見届けてから壁から降りる。


「楽しくない? 俺は楽しい」

 プトレマイオスが破壊されてもトモヤに焦りはない。

「天命剣プトレマイオス」

 人でも持つことが出来るサイズのプトレマイオスがトモヤの手に収まった。トモヤが何度か振ると、急に壁が壊れた。

「楽しいよ。手が次々と浮かんでくる。戦う程に強くなっていくのが分かるんだ。これが楽しくないわけが無い」

 トモヤは世界が懸かっている戦いの中で楽しんで成長している。だが、成長しているのは自分も同じだ。

 一瞬でプトレマイオスの刃が伸びる。避けようとした場所に矢が飛んで来ている。

「アマタ」

 トモヤの声で矢が分裂していく。瓦礫で盾を作ろうにも瓦礫が反応しない。ボトルの力が完全に切れていた。しまった……

『ユウくん!』

 瓦礫が壁になり、矢から守ってくれる。

『ごめん、ダーリン、遅くなったね、えへへ』

「ううん」

 再会の嬉しさで抱きついてくるのを制する。

「ブライ」

 何重もの爆発音と共に瓦礫の壁が崩壊していく。矢じりが爆発を起こしている。

「それで本気が出せる?  俺だけ本気ってのもさ、面白くないし」

『私達が揃った時のご主人様は負け知らずです』

「へぇ、面白いね。生憎、俺は負けたことが無いから。見せてあげるよ、俺の魔王の力!」

 トモヤの目が赤く輝いた。トモヤから魔力が溢れ、オーラが見える。

「万能の魔王、全ての魔法が制限なく使えるのさ」

 あの勇者の力と仲間の力を宿した武器だけでも最強と言えるのに、万能に魔法が使えるだと!?

『大丈夫、ボク達が付いているんだから、ね? ユウ』

 みんなボロボロになっているのに誰も諦めていない。勝てると信じている。


「ははは、燃えろ! 焦土を創り上げろ! 煉獄招来!」

 トモヤを中心に床が黒い焦土になっていく。

『ボクが止める!』

 ウンディーネが操る水流が焦土を止める。焦土が水を蒸発させるが、焦土の侵食は何とか止まった。

「凍てつけ! 静止しろ! 絶対零度!」

 水流が凍り始め、氷がウンディーネを襲う。同時に大量の武器が降って来る。

 ウンディーネを抱き締め魔法を止めさせ、庇う、背中が凍り付き武器が何本も刺さる。

『ダーリン! 今助けるから!』

 サラマンダーが焔で氷を溶かしトモヤを焔で包囲した。その間に背中に刺さったままの武器を抜く。痛みがあることがまだ人間であるという証明、あり得ない速さで傷が再生していく。

「吹き荒べ! 着き進め! 神風神速!」

 焔が風で飛んで来る。中間で焔が止まった。

『お任せください。ご主人様』

 シルフが風で対抗させている。

『お姉ちゃんフルパワーパンチ!』

 瓦礫が集まりトモヤを叩きつける。

「フルパワーでこの程度?」

 片手で瓦礫を止めている。魔法と勇者の力を使いながら瓦礫を止めるのか!?

「協力すれば出来ることは増える!」

 回り込んで距離を詰める。花弁で剣を作り斬りかかる。5人で連携すれば手に負えないはずだ。

「それは甘い。バベル」

『きゃあ!?』

 瓦礫を支えていた手には槌が握られており、槌が触れた瞬間、瓦礫が粉砕された。そして、そのまま回し蹴りの体勢に入った。一瞬のことで対応しきれない、回し蹴りを頭に喰らい蹴飛ばされる。

「わざわざ力を分散させるとか勝つ気ある? 精霊と一つになればチャンスはあると思うけど?」

「みんなと一緒に居たいから、そんなことはしない!」

「ふ~ん? まあ、負けた所で次の世界まで待つだけだしね」

 脳が揺れて、視界も揺れる。分からない、どうすれば勝てる? ダメージが積み重なって来ている。凄まじい痛みの連続で精神が持たなくなってきている。


『ご主人様』

 自分の所にシルフ達が集まった。

『ここを切り抜ければ勝てる可能性はありますか?』

 大量の武器が空を覆い始めた。みんなダメージを受けている、これに対処しきれる程の元気はない。

『ボク達で、勇者と魔王の力を止めてみせる』

『だから、ダーリンが倒して!』

 今までトモヤはほぼ攻撃を受けていない。無理矢理攻撃を通せば、素直に倒れてくれる可能性がある。その可能性以外に勝てるところは想像できない。

『お姉ちゃん達の力、ユウくんに』

 普段はボトルを介しているが、今回は直接力を託された。やるしかない。

「ああ、勝とう。一緒なら絶対勝てる」


「そろそろ幕引きにしようか、ちょっと期待外れ。もう少しやれると思ったんだけどさ」

 トモヤの仲間の力が宿った武器が光始め一つに重なっていく。

「神話剣リセットハーモニー」

 神々しく輝く大剣が光の中から現れる。全ての力を統合させ出来た剣、神話を名乗るのに相応しいだろう。

 目を閉じ大きく深呼吸をする。今までのことが脳裏に浮かぶ。ただの人が気付けばこんなところに居る。こんなおかしいことがあるのだろうか。静かに目を開ける。研ぎ澄まされた意識は仲間の存在をしっかりと認識している。

「大丈夫、行こう!」

 全力で真っ直ぐ突っ込む。

「自棄になった? 決着といこうか」

 トモヤは神話剣を構える。トモヤの後ろから武器や魔法が大量に出現する。その全てが自分に向けて発射される。

『させません! 暴風一撃(ゲイルストライク)!』

『ダーリンは私が守る! 火炎大砲(フラムキャノン)!』

『ユウは絶対勝つ! 水流封鎖!(アクアオブシディオ)

『勝って幸せになるんだもん! 破城土槌!』

 トモヤの武器や魔法がシルフ達の魔法とぶつかり消滅していく。

「余力を振り絞って止めるつもり? 俺に勝つ手段が無くなったね」

 トモヤが消えた。伏せる。すれすれを剣が通り過ぎていく。裏を取ったトモヤが剣を首に狙い振った。

「勝つ手段ならある」

 力を拳に集中させる。振り向きながら裏拳をトモヤの顔に叩き込む。

「一緒なら勝てる。どんなことでも一緒なら超えて行ける!」

 そのまま二打目も顔に入れようとするが分身され外れる。

「はぁ? 何言ってる? こんなに力の差があるのにそんなことで勝てると思ってるの? それに俺の仲間はここにある!」

 剣が輝く。

『ダーリン! あいつが本体だよ! あいつだけ熱い!』

 サラマンダーが分身した一人に指をさした。

「え!?」

 トモヤが狼狽えた。その隙にサラマンダーが指差した奴にしっかりと拳を叩き込む。4属性の精霊の力が宿った拳を2度も叩き込まれ、トモヤは膝をつく。

「仲間がここに居れば防げたかもな」

「……そんなことで俺が負けると思うか?」

 トモヤからは明らかに余裕が消えている。しかし、トモヤも立ち上がる。

「俺は、成し遂げなければならない。だから、負けない」

 トモヤが剣を振り上げる。剣から勇者と魔王の力が溢れ出ている。

 持てる力を全て右手に集める。

「俺は勝って、全てを救う!」

 剣を振り下ろした。

「させない」

 振り下ろしている剣を殴る。剣と右拳が衝突し、力が溢れ、勝手に床に花が咲いていく。

「みんなが望んだこの世界を変えさせはしない!」


 剣が折れる。もう一度拳を振りかぶる。拳から血が流れ血が宙に浮いている。

 拳はトモヤの頬に入った。トモヤの体が浮き、そして、床を転がっていく。

 倒れたトモヤの前まで移動する。まだ意識はあったが、戦意はもう無さそうだった。

「ははは」

 トモヤを蹴飛ばす。トモヤが居た床から剣が飛び出してきて胸に刺さった。トモヤは自殺する気だった。

「何故だ! 死なせろよ!」

「……自分が守った世界で、考え直してくれ……本当にするべきことをさ……」

 苦しい。視界が歪む。息が荒くなる。力も使いきり体が治らない。力が抜け瞼が閉じられた。


 眩しくて目が覚める。まだ苦しい。息がほぼ出来ていない。

『ご主人様……休んでください』

 シルフが膝枕をしてくれている。隣にはウンディーネが添い寝している。

『ボクも居るから』

『大丈夫、お姉ちゃんが守ってあげる』

 ノームが周りを見ている。

『ダーリン』

 サラマンダーに手を握られている。

 胸を貫く剣が無い。体中に濡れている感触がある。そうか……もう終わりか……

「みんな……ありがとう」

 泣きそうなみんなの顔を見てしっかり記憶する。そして、静かに目を閉じた。

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