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72話 黒の聖

「とお」

 見るものを魅了してしまうような鮮やかな一撃が後頭部に入った。舞を見せられたのではと、ヘイは混乱した。

「私は戦闘用員ではありマセンが、素手で一撃デスと!? バタッ」

 中年男は呆気なく倒れた。

「いや、凄いな。今、倒したそいつがゴーレムの力を持っていた奴だな。まあ、ゴーレムは止まってねぇけど」

「およよ、褒めても私の体くらいですが……よろしいですよ?」

「ああ、はい、引き続きゴーレムと他の勇者を頼む。セツナが治療中で手が足りていない」

「よろしいのでしょうか? 勇者を倒すと」

「分かってる。だが、あいつを信じて、俺達は帰る場所を守る。まあ、終わったら加勢に行けば良い。その前に終わってそうだけどな」

「およ? まさかのツンデレですか?」

「おい! 急接近している! あれはマルガリータだ!」

 巨体がヒメヒメに向けて飛んでいった、そのまま叩き潰す気だ。

「ざぁんねぇんだったわね!」

 地面が割れる程の圧倒的なパワーで叩き潰された。砂煙で立ち込めて見え辛いがヒメヒメの居た場所には黒い液体が広がっている。

「おい! 大丈夫か!?」

 マルガリータは手に着いた黒い液体を拭っている。砂煙が晴れても何処にも見えない。

「およ、大丈夫ですよ」

 普通に返事をしている。マルガリータの影からピョコっと姿を現す。黒い液体がヒメヒメの前に集まり筋肉モリモリのマッチョダンディーに形を変えた。

「ブラック・セイバーという力です。私は可愛くて好んでおります」

 マッスルポーズを決める黒い液体に可愛いという常人には理解できない言葉が出てヒメヒメ以外は混乱した。

「およ? どうかしましたか?」

「いや、何でもねぇ……好きにしてくれ」

「はい」

「ちょっとちょっと私を無視してるわねぇ?」

 ヒメヒメの前にマルガリータが立ちはだかる。

「およよ、申し訳ございません」

「え!? 謝んのかよ!?」

「およ? ダメでしたか?」

「ダメだろ、あいつ敵だぞ」

「あのねぇ、私が言うのもあれだけど。敵を前に緊張感無さすぎ!」

 ヒメヒメは敵に真っ当なツッコミをされても少女然としてほんわかオーラを出し続けている。

「全然攻撃してくださって大丈夫です」

「え、えぇっ、いや、さっきは攻撃したけどさぁ」

 マルガリータは戸惑いを隠せない。

「およよ。大丈夫です。乱暴にされても私は耐えられますから」

 ヒメヒメは恥じらうように頬を染め、その場に居るヒメヒメ以外はため息をついた。

「はぁ、ダメよぉ、女の子がそんなこと言ったら。うん、まあ、分かったわ。一撃で逝かせてあげる」

 マルガリータの肌が硬質化し金属のような光沢が出ている。腕を大きく引き、殴る準備をしている。

「おい!  バカな事を言っている暇は無いぞ!」

 マルガリータが腕を突き出す。砂を巻き上げ、ヒメヒメとマルガリータの姿が砂煙の中に隠れる。

「おい!  返事をしろ!  生きてんのか!?」

「はい。生きてます」

 惚けた返事が聞こえ、砂煙が晴れる。マッチョダンディーな黒い液体がマルガリータの拳を止めている。

「くっ、全然動かない……何この……何?」

「ブラックセイバーです」

 キョトンと目を点にして答える。

「いや、能力の名前を聞いているわけではないだろ……」

「およ? ただ防いだだけですが」

「イキリ系主人公かよ……」

「およよよ!? いえ、普通に防いだだけですよ!?」

「ぐぐぐ……コントは始まるし、普通に防がれるし、ふんっ」

 筋肉が盛り上がり、マルガリータの服が消し飛んだ。

「やってあげるわ。私のフルパワーでね!」

 マルガリータの体からは湯気が出ている。

「凄まじいエネルギーだ……この周辺ぶっ壊す気か!? 止めろ!」

 筋肉の脈動が衝撃波を放ち戦場を揺るがす。このパワーで殴れば帝国の領土全体の地形が変わる。

「ふふふっ。もう遅いわぁ……みんな纏めて送ってあげる」

 拳を引いた。これが突き出された時帝国に居る一般人やゴーレムと戦っている兵は耐えられない。

「ふんっ!!」

 マルガリータが拳を突き出しヒメヒメ目掛けて殴りかかった。

「せいばーぱんち」

 黒い液体がヒメヒメの声に合わせて、マルガリータの拳を殴る。半径数km内にあった物が衝撃波で吹き飛んだ。その中でもヒメヒメは全く動じない。一瞬の拳の打ち合いの後マルガリータは殴り飛ばされ地面を転げまわり動かなくなった。

「手加減しておきました」

「……は!?」

「はい、殺しておりません」

 真顔でサムズアップしている。こいつ、最強なのでは……!?

「なあ、お前がトモヤをボコればすぐに解決するだろ? なあ!?」

「うーん、それは無理ですね」

「そんなに強いのにか!?」

「およよ、私はその資格を持っていないのです。まあ、後は若い者同士でということです」

「……はぁ?」

「適材適所です。救世主を止めることが出来るのは救世主しか居ません。そういうものなのですよ」

 ヒメヒメは顔に影を落とす。

「経験したことがあるような言い方だな。まあ、深くは聞かねぇよ。言いそうにないしな」

「はい。乙女の秘密を聞き出すのは変態ですよ」

 ヘイは怒りで悶絶している。お前が言うな! 変態はお前だ!


 激しい銃声が鳴り響いた、マリスとギルバートが相対している。マリスは座って本を読んでいたギルバートに威嚇射撃をする。

「直接会うのは二度目ですね。一度目は取り逃してしまいましたが今回は倒させて貰います」

「参謀が直接、いえ、私もですね。ああ、揃いも揃って愚かですね。もうすぐ素晴らしい世界が待っているというのに争い、戦い、苦しみ続ける」

 優雅に本に栞を挟み懐に入れる。

「まあ、あなたが戦いたいというのであれば私は付き合いますが」

「ええ、少し痛い目にあっていただきましょう」

 手を真っ直ぐギルバートに向け、銃弾を撃つ。銃弾はギルバートの肩に直撃し、少し仰け反った。

「悪ぃ、マリスさん! そいつを殺したらダメだ!」

 伝声魔術から聞こえるヘイの声が2人の間に響いた。

「どういうことですか?」

 ギルバートは肩を抑えるだけで何もしてこない。不気味だ。

「トモヤの野郎に力が行くらしい。嘘かもしれねぇけど、出来るだけそれは抑えたい。殺さず倒してくれ」

「誰かが話してしまったようですね。しかし、倒さなければ国がボロボロになり、倒すと我々の計画が完成に近づく。どちらにせよ、あなた達の詰みですよ」

 静かに笑っている。

「いえ、ユウさんなら勝ってその計画を破滅させてくれます」

「私もトモヤ様が勝って計画を完成させると信じているのですよ」

 肩を抑えるのを止めた。

「ここは勝ちを譲って差し上げましょう。もちろん、ただではありませんが」

 機械の身体がガタガタと震える。魔力が奪われている、体が重い。

「マリスさん、どうした!?」

「ま、魔力が……」

「魔力を奪っただけです。獣よ。第3ラウンドといきましょう。最低2人は止めておかなくてはいけませんからね。私は参謀ですが、実力はナンバー2ですので」

 行ったところで魔力を解放し、周辺諸共更地にされるだけだが、どうするべきか……

「ヘイさん、行く必要はありません。私が何とかします」

 生命の維持にすら魔力を活用しているマリス、魔力を奪われそれさえままならない状況で戦う意思を見せている。

「その言葉、信じるぞ」

「ええ、任せてください」

 腕に付属している銃を向け撃とうとしてみる。弾は出ない。魔力で発射の補助をしているから当然撃てない。

「帝国の中央でこの魔力を解放すれば、治療に回っている勇者とあの獣を纏めて消し飛ばせます。参謀なのに策を見誤りましたね。そこで全てが終わるまで待っていてください」

「みんな……命を懸けています」

「そうですね。私達も懸けています」

「何故考えないのですか? 私もあなたと同じように命を使うことが出来ると」

「……残念ですが撃ったところで私には届きませんよ。魔力はコントロール出来ますのでね」

 淡々と感情の一切無い表情でギルバートは話す。この戦いなんて最初から眼中に無いといったところだ。

「もうすぐですね。トモヤ様、悲願が成就しますよ。あははははは! あっははははは! 主、いや、アイオーン如きトモヤ様を止めることは出来ないのですよ!」

 帝国へ歩き出したギルバートの背中が見える。自己陶酔し、次の世界を夢想している。

 マリスは左腕を肩ごと引き千切った。金属板やコードが見え血の代わりに油が出ている。引き千切った左腕を持つ。

「マリスさん……?」

 何も答えない。左腕を持った右手をギルバートの背中に向ける。

「何をする気なんだ……」

 マリスの右手が爆発する。持っていた左腕も連鎖爆破し、金属破片がギルバートの背中と腕に刺さる。

「痛みを感じないのは便利ですね……」

 マリスとギルバートがほぼ同時に倒れ伏す。

「マリスさん! すぐに救急部隊を呼ぶから待ってろ!」

「上手いものでしょう? 殺さず仕留めましたよ」

「そんなこと言ってる場合か!」

 ギルバートの背中が動いている。殺さず上手く倒している。

「全く……ここまでやってんだ。絶対勝ってくれよ」


「ふぅん……まあ、こんなものか」

 何処か遠くを見るアイオーン。アルベドやベアトリーチェ達は肩で息をしている。

「やはり、トモヤだけか。いや、これも布石だったか」

 アイオーンが腰を落とすと椅子が現れ、椅子に座った。

「つまらないな。全く面白く無い。永遠(わたし)は飽きた」

「まだ俺様達に付き合ってもらう」

「くだらない。消えろ。手を下すのも面倒だ。永遠(わたし)はこれからトモヤとあの男の戦いを観戦するのだから」

「そんなことは余が……させない。シャドウブレード!」

 影の刃がアイオーンを襲う。

「……」

 影の刃はアイオーンを通り越していった。

「なっ!? 魔王の力が通じない!?」

「そこで無様に待っていろ」

 椅子に座り、動かない。アイオーンの目の前の空間にユウとトモヤが現れた。

「我の力で……!」

「私が合わせる!」

 ヴァルが地面を叩き割りベアトリーチェの集中砲火をする。ユウとトモヤは動じす、アイオーンにも全く効いていない。

「ユウ!」

 反応しない。

「これは映像という奴だ。ここにはいない」

 アイオーンが興味なさそうに説明する。

「これが世界の顛末だ。楽しもうではないか?」

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