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71話 宝石の意志

 階段を上る。階段の先はダグザ王国、王城の玉座だ。トモヤはここに居る。

「遅かったな。来ないのかと思ったが……いや、それは思い過ごしか」

 蔦の生えた壁、植物だらけの床、ここで起きた惨劇が植物で隠れている。屋根が無く空が見える。

「屋根なら消し飛ばした。空が見たかったんだ」

 空が見たい……? 空を見上げる、曇りだ。晴れるか降るかどっちつかずの曇りだ。これから先のこの世界のようだ。

「そんなことより精霊は?」

「先に用事を終わらせて後から合流するらしい」

「ふぅん」

「何故ここを選んだ?」

 アメジストの父親の死んだ場所に呼び出された。ここで起きたことにトモヤも関わっているはず。

「始まりの場所だから。代々ダグザの王には魔王の血が流れている。勇者の魔力を入れなくても遅かれ早かれ覚醒する。だから、人為的に魔王化を起こす実験に使わせてもらった。おまけにニグレドをリーベル王に置けば、あの国も簡単に乗っ取ることが出来る予定だったんだけどな。あんな暗君、消えた所で大した騒ぎにならないだろ?」

 そんなことの為に何人も苦しめてきたのか!?

「世界を救えば、それも無問題だ。誰も不幸に死なない完全な世界が待っている。上手く行くまで俺は何度でも書き換えてみせるさ」

「上手く行くと思っているのか!?」

 世界を破壊し、アイオーンに書き換えさせた結果、トモヤの仲間は負けている。トモヤにとっては書き換えた結果悪くなっているはずだ。

「当然。神の力が有れば、アイオーンがやったように何度でも世界を書き換えることが出来る。成功するまでやればいいだけだから」

「アメジスト達は……お前が成功するまで何度も何度も苦しまないといけないのか? 必死にここまで足掻いてきたんだ。その痛みが何故分からない!」

「完全な世界、それを迎える為には我慢しなければならないこともあるさ」

 止めなければいけない、こいつだけは絶対に止めなければいけない。魔王の力を顕現させる。

「さあ、始めようか」

 剣がトモヤの周りに召喚され浮いている。まだ自分はトモヤに一撃も当てることすら出来ていない。だが、負けることは出来ない、手が震える。花弁が舞い、剣に形を変える。この世界に転生した時からこの運命は決まっていた。覚悟を決めて剣を手に取った。

「行くぞ、トモヤ!」


「これは凄い光景だな、吐き気がするぜ」

 ゴーレムの波が出来ている。全て帝国に向かっている。

「帰っても良いですよ。アカツキさん」

「ああ、弱音を吐くような奴は前線に要らない。帰れ、ゴリラ野郎」

 セツナと総指揮官のヘイにボコボコに文句を言われる。

「トモヤの野郎に帝国の兵は壊滅させられてたんだ。戦力差が分かっているここの奴らはみんな覚悟を決めてる」

「およよ、頼もしいですね。私の出番は無いかもしれませんね」

「いや、出番はあると思うぜ。俺が出れない分あんたには勇者を倒して貰わないとな」

「総指揮官は前に出られませんね」

「情報を整理するぞ。ギルバート、マルガリータ、ジェイコブ、ケイスケ、カリンとゴーレムの男が確認できている範囲では残っている。こいつらはここの戦場に現れる。俺達で対処しなければならない」

「もしかして、私達の方が人数少ない?」

 カオリの言葉は悲しいことに事実だった。

「俺も出ることが出来ない。案が無ければ俺が出るが」

 前にジェイコブを倒したヴェロニカが情報伝達役として走り回っているので仕方無いが、人手が足りない。各地で蜂起が起きているので情報伝達役も一筋縄ではいかない。

「およよ、仕方がありません。私が何人か相手をすればよろしいでしょう」

 ヒメヒメの言葉にその場に居る全員が目を丸くする。

「え!? ヒメヒメさん大丈夫なのか!?」

「ゴーレムを管理している男を妨害して、もう一人相手をしますよ?」

「頼む。もう一人足りない分をどうするか……だが」

「それについてはあまり考える必要はありませんよ?」

 ヒメヒメが言葉を発する度にヒメヒメに注目が集まる。

「どういうことだ?」

「ゴーレムの男を先に落とせばゴーレムは止まりますでしょう?」

「いや、それは分からない。仕方ないから臨機応変に頼む。最悪、俺が出る」

「いえ、指揮に徹してください。あなたしか出来ませんから。ヘイさん」

 いつの間にかマリスがいた。その傍にはティナがいる。

「おいおい、マリスさんが出るのか!?」

「そうです。こちらにはティナさんが居ます。彼女の力で全体の戦力増強が出来ますから」

「が、頑張ります! ユウ様の為に歌って踊って応援します!」

「はぁ、鉄砲玉に指揮させる時点でどうかと思うが、絶対に勝たせてやる。異存は無いな?」

「「おう!!」」

 全員の声が重なる。作戦は決まった。世界の命運をかけた決戦だ


 敵勇者が見つかるまではゴーレムの相手をしている。帝国を囲むようにゴーレム部隊が展開されている。城は攻めるよりも守る方が簡単、しかし、余りの数のゴーレムに現状苦戦を余儀なくされている。

「北に勇者が居る。セツナ、急げ!」

 通信魔術で指示がくる。ヘイは上から国を見渡し指示を飛ばしている。獣の力で戦場を見渡すことが出来るヘイにしか指揮は出来ない。

「了解です!」

 北に走る。ゴーレムに周囲を守らせている同じくらいの背丈の少年が見える。情報によるとケイスケのようだ。周囲を守っているゴーレムを宝石雪崩(ダイアヴァランチ)で蹴散らし、ケイスケに剣を向ける。

「あなたはケイスケですね? 大人しく投降してください。そうすれば危害は加えません」

 警戒しながら歩み寄る。ケイスケはまだ行動を起こしていない。投降してくれるかもしれない。

「投降してくださりますね?」

 わなわなと小さく震えている。怖い目に会ったのかもしれないと思い、手を差し伸べる。

「大丈夫です。傷つけません」

 姿が消えた!? 情報通り、時間を止める力を持っている。

「全てトモの為だ!」

 後ろから声が聞こえ瞬時に反転し剣を盾にする。ナイフが剣に当たる。

「投降してくださらないようですね。残念です」

 セツナは剣を構え直す。時を止めているときには攻撃をされなかった。時止め中は攻撃できない?

「何故こんなことをするのですか? これは、この世界に対するテロだと思いませんか?」

「トモが世界を救うためだ。分かってくれなんて言わない!」

 また姿が消えた。姿が消えた時点でケイスケは行動を起こしている。しかし、振り向いても攻撃が来ていない。注意深く周囲を警戒する。ゴーレムの残骸が一つまた一つと消えていく。

輝きの鎧(ダイヤモンドアーマー)

 輝きの鎧(ダイヤモンドアーマー)、攻撃に対して自動的に防御してくれる見えない宝石の鎧を纏う能力。時止めからの不意打ちを限りなく防ぐことが出来る。

 突如、周囲一帯が影で包まれる。ゴーレムの残骸の山がセツナの真上に現れた。

不滅の城壁(ダイヤモンドウォール)

 ダイヤモンドで出来た球体がセツナを包む。ゴーレムの残骸が降って来るがダイヤモンドに傷をつけることもトモヤに届くことも出来なかった。残骸が全て降り終わるとダイヤモンドが崩れる。

「正直に言ってこの力の差、僕の勝利は見えています。もう一度言います。投降してください」

 セツナは剣を降ろした。その瞬間、ケイスケが目の間にナイフを振り下ろしながら現れる。

「黙れ! 僕はトモを裏切ったりしない!」

 輝きの鎧(ダイヤモンドアーマー)が発動し、地面から宝石が伸びる。ケイスケの腕は宝石に防がれ、吹っ飛ばした。

「虚構境界・臨」

 セツナの視界に映った全てが停止する。砂煙すら動かない。

「うっ」

 腹部に冷たい感触が突き抜け、熱を感じる。ナイフで腹部を刺されたような感触はあるが血が一滴も出ていないければナイフも刺さっていない。視覚的にはそう見えている。動かしている手すら止まって見える。視界を操作されている。

「お前の視界と音を止めた。僕が弱くてもお前にはどうすることもできないだろ」

 周りが戦っている音が聞こえていないことに気が付く。無暗に動けば思うつぼだ。

「ああ、酷い傷だ。痛そうだ」

 まだ攻撃は来ない。

「こんな理不尽が無い世界をトモは作ろうとしている。理解したのなら僕らは協力すべきだよ!」

「僕は、僕が信じる正義の為に戦うと決めたんです。信じると決めたんです。志す正義も仲間も」

 ボロボロになっても決闘を引き受け、力の限り戦い抜いたユウさん、決闘したからこそ、自分自身の正義を貫くことの意味を知った。

「僕は正義の味方なんです。だから、負けません」

 剣を構え直す。

「いいよ。また来世」

 風の音しか聞こえなくなり、視界も完全に停止したままだ。何処から攻撃されるか分からない。腹部に激痛が走っている。ユウさんもこんな痛みの中アルベド様と戦ったのかと思うと笑えてくる。こんなに痛かったなんて知らなかった。

輝石高原(ダイヤモンドランド)

 自身を中心に地面を覆うように宝石が広がる。目に見えなくても自身の力、コントロールできる。

宝石雪崩(ダイアヴァランチ)……」

 剣に宝石が付着していく。

地吹雪(ランドブラスト)!」

 剣を振る。地面を覆っていた宝石が剥がれ、吹雪になる。宝石の吹雪が剣に付着する。

「綺麗だと思いませんか?」

 剣を横に薙ぐ。回転斬り。視界も音も変わらないが、手にかかる負荷は変わった。ケイスケに剣は当たった。

「うあああ!?」

 視界も音も戻っていく。視界が完全に戻ると、そこには宝石に拘束されたケイスケが見えた。

「僕の勝ちですね。安心してください、命までは取りませんから」

 宝石に拘束され身動きできないケイスケが睨んでいる。

「いいよ。どうせ僕は弱い。でもこの力がトモの役に立つなら……」

 役に立つなら……?

「僕達を倒した所でトモは負けない。僕達の力はトモのものだからね。倒したらトモの所に戻るだけだ」

「力が戻る!? では、倒した分だけ……」

「そうだよ。トモが強くなるだけさ。トモさえ勝てれば僕達は本望だから……」

 ケイスケは気絶した。


「ヘイさん聞こえますか!」

「ああ、全部聞いた。だが、俺達にはどうすることもできない。お前は周囲のゴーレムを引き続き倒せ」

「ですが!」

「信じろ! お前もさっき言ってただろ!」

「……はい。分かりました……ユウさんなら勝てます」

「ああ、そうだ。あいつは勝つ。俺達はそれを信じて戦うだけだ」

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