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69話 剣戟・紅

「演習が始まる時間だね。ルビーさんとの対決だよね。僕は君にベットしてるから、頑張って勝ってね!」

 賭けてるの!? 何やってるのこの人!? 人としても騎士としても俗物過ぎる。酒場で酔っ払ってうだつが上がらないおっさんと一緒だよ! プレッシャーとギャンブルでかけるをかけてるのか!? 残念ながら言えない。言えるほどのコミュニケーション能力が無い。

『ダーリン。何悩んでるの?』

「いや、別に、大丈夫」

『ダーリンがいいならいいんだけど。悩み事があったら相談してね?』

 ダメ騎士団長のせいで余計な気苦労をさせてしまったようだ。

「おはよう。ユウ。泣いて謝り、私に永遠に忠誠を誓う準備は出来たかしら?」

 アメジスト達が来た。また調子に乗ってる。

「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 ルビーと握手を交わす。


『フレー! フレー! ダーリン! 頑張れ! 頑張れ! ダーリン!』

 精霊達がチアの衣装を身に纏っている。チアガールだと!? ミニスカから覗くスパッツ……眩い、直視出来ない。

「単純に戦って私から技術を盗む。そういうことでよろしいですか?」

 ルビーが大太刀を抜く。いつまでもチア姿を見ていたいが、ルビーに特訓を付き合ってもらっている手前、そういうわけにもいかない。魔王の力を発現させる。

 ルビーの近接戦闘技術を習得出来れば魔王の力と合わせて最強になれる。そこにシルフ達が居る。これで負けるようなら世界は最初から滅びる運命だったのだろう。

「はい。お願いします……何で不満げな顔を?」

「初めから素直に話を聞いていれば、姫様への不憫な思いも面倒なことをしなくても良かったと思うと……」

 思うと……?

「顔が燃え上がるほど恥ずかしいし、腹が立つんです! これも全てあなたの所為です! やっぱりここで首を落とします!」

 八つ当たりだー!?


 地を這うように低空を一蹴りで跳んでくる。背を超える長さの太刀を持ちながら、そんなことが!? エルフの身体能力の高さを見せつけられる。だが、こちらも魔王化の副次効果で身体能力は上がっている。魔王の力で桜吹雪が舞う。花弁が棒状に集まり、槍に形を変える。

 大太刀による逆袈裟斬り、槍の柄で防ぐ。打ち上げられそうな程の膂力に手が痺れる。槍を花弁に戻し、距離を取る。大太刀の横薙ぎ、距離を開けてもまだ刃が届く。得物を知ることは何よりも基本で大事なことだ。伏せて回避する、リーチでは勝てない。ついでにパワーでも勝てない。

『わぁ!? ユウくん頑張ってー!』

 声援が耳に入ってきて集中できない。声援を受けるようなことが無かったから、気になって仕方ない。

「負ければ皆殺し、そういう想像をすれば緊張感が出ますよ?」

 ルビーが凄まじい助言をくれる。まあ、緊張感を出すならそれくらいは必要か。一度実際にやられているから容易に想像できることが辛い。

 体勢を直し、深呼吸をする。守りたいものがある。もう二度と失いたくないから、トモヤには勝たないといけない。

「うん、それでいきますか」

 リーチにパワー、ついでにスピードも負けている。どう魔王の力を使えば近接戦闘で勝てるのか。相手によって変える戦い方ではなく、自分の戦い方が必要になる。

 大太刀が迫って来ている。接近に気付けなかった。速い。花弁をショートソードに変化させ、防ぐ。

「ぐっ!? 重い」

「太刀の重さです! 一応体重も乗せてますけど……」

 エルフと人間のパワー差が出ている。ただ回避しても、回避後を狩られてしまう。しかし、パワーで負けているから押し切られることも時間の問題。魔王の力を使って花弁で攻撃しても良いが、それでは特訓にならない。

「はっ!」

 パワーで押し切られ、弾き飛ばされる。

「あれです。バーンとやってこなければドーンってなりますよ」

 ……どういうこと? ギフテッドはこれだから……

「ルビーお姉ちゃん何が何だか分かりません!」

 エメラルドにツッコミを入れられてる。

「ええ!? これほど分かりやすい説明は無いですよ!」

 大太刀を片手で左右に振り、体勢を整えている。こちらも立ち上がる。ネクサスさんはルビーにどうやって勝ったのだろうか。砂を払いながら考える。

「まだいけますか?」

「うん、この程度で終わるっても何も得られないから」

「どんどん行きます」

 ある程度の距離を開けたまま、大太刀を振る。全てギリギリで大太刀が届く。防ぐだけで手一杯だ。パワーとスピードは、身体能力の差だ、そう易々と補えない。どうにかリーチくらいは勝ちたい。

 攻撃を避けながら体勢を整える。大太刀の一撃を剣で受け止める。剣が分解し、花弁が大太刀を包み込む。蛇腹剣のように相手の武器を絡め捕る。そのまま大太刀を落とさせれば……

「はぁ!!」

 逆に花弁ごと剣を飛ばされた。パワーで勝てるわけがなかった。


「掴めてきたと思う」

 その後も特訓は続いた。明らかなパワー差がどうにもならない。近接戦闘の特訓だから仕方がないけど、悔しい。

「最初に比べると、シュバって出来て、ズドーンって感じで良くなってます」

 いや、何言ってるか分からない。

『判断が速くなってきていて良くなってる……って言いたいのかな?』

「それです!」

 それかぁ……分からないよ。

「僕からも一つ、近接戦闘は択の多さで勝負が決まると言ってもいい。僕も剣術を極めている方だけど、剣で出来る択は未だに探求し続けているよ。え? ギャンブル? あはは、あれ冗談だから」

 聞いても無いのによく喋りますね。択の多さはゲームでも強さだった。択の多さと判断力、この二つは特訓で、もっと鍛えていきたい。

『飲み物とタオルです。ルビー様もどうぞ』

「ありがとうございます。私もシルフさんを見習いたいなぁ……メイドとして」

「でも、お姉ちゃん、戦闘以外まるでダメですよね~?」

「ぐっ、サフィ、これから鍛えていけばいいの! ね? エメラルド」

「もう! お姉ちゃん達! みんなの前で恥ずかしいよ!」

 一番年下が一番しっかりしてる……

「ネクサスさん、全体はどうだったんですか?」

「よくなっては、いるけど。まあ、僕達が中心になると思う」

 勇者の相手は勇者しかいないか。

「でも、トゥルースブレイブに組する町や村もあるから。その鎮圧ではしっかり働いてもらうことになるかな」

「あるんですか?」

「うん、まあまあ。家族の死んだ人が中心に組しているね。悲しいことに」

 ネクサスさんも妻を失っているから、分かるのだろう。自分も死んだ身、蘇ることの悲しみも分かっている。死してまともな人間でなくなることの喪失感と背徳感は、人によっては耐えきれない悲しみになる。アメジストやシルフ達が居なければ、悲しみと狂気に飲まれていたはずだ。

『えいっ!』

 激しい衝撃が額に走り、脳が揺れる。意識が飛びかける……

『ちょっと!? ノーム何やってるの!?』

『え!? え!? ユウくんを元気づけようと思ってぇ……』

『力が強すぎるのよ! ダーリン! 大丈夫!?』

「あはは、仲が良いね。色々面倒なことになってるから気を付けた方が良いよ」

「アルマにやられたって聞きましたけど」

「え!? それを言う?」

 素っ頓狂な声を上げた。この人大丈夫か……

「負けた理由は置いておいて。どうにもデウス=エクス=マキナが関わっているんだよね」

『デウス=エクス=マキナですか? 聞いたことが有りませんが』

「ん? 話したこと無かったね。ある国を支配していたドラゴンだよ。昔、リーベルはそいつに攻められていたんだ、まあ、僕が倒したんだけど。おかげで至神の騎士なんて大層な称号を貰ったんだけど」

 神と呼ばれるドラゴン、それがデウス=エクス=マキナか。デウス=エクス=マキナ、元は演劇の言葉で解決困難な状況に一石を投じ解決させる存在のことだったな。

「神で察するかも知れないけどデウス=エクス=マキナはアイオーンの分身の一部だよ。アルマの神だからアルマも協力を惜しまないだろうね」

『決着を着けるの? ネクサスさん、大丈夫? ユウくんを心配させるようなことはしないでね?』

「あはは……」

 苦笑いをしながら訓練に戻っていった。


 今日はもう特訓したくない。自分の体はボロボロだ。ルビーにぶっ飛ばされ過ぎた。周りの人の特訓でも見ておこうかな。

「ああああ!」

「甘い!  もっと本気を出せるだろ!」

 暑苦しい声が聞こえるセツナくんとゴリラの声だ。セツナくんが攻撃し、ゴリラがそれを防御している。宝石で強化した剣を盾でガードする、お互いの力を鍛える特訓のようだ。素通りしよう、巻き込まれたくない。

「よ!  ユウ!  一緒にどおだ?」

「はぁ、鼻が効くな、ゴリラ犬なのか?  今日はもう特訓しない予定なんだよ」

「ゴリラ犬って何だよ!?  つーか俺はゴリラでは無い!」

「ユウさん、もう特訓しないのですか? それは残念です。特訓の成果、ユウさんに見てもらいたかったのですが」

「見るだけなら、うん、見るだけなら、大丈夫」

「では、行きます! 構えてくださいアカツキさん!」

「おい! 待て! 急に言うなあ!?」

宝石雪崩(ダイアヴァランチ)

 セツナが剣を振ると斬撃が宝石になった。

「うぉぉぉ!? そんな技さっきまで使ってねぇだろ!?」

「それ戦場で言うつもりですか?」

「いや、言うつもりはねぇけどよ。普通、仲間にそれをやるか!?」

「え? 仲間ですか?」

「そ、そうだろ? 違うのか?」

 何で自身無さげなんだ。

「僕はユウさんの仲間です。絶対に力になってみせます!」

「お、俺もだ! まかせとけよ!」

「みんなが居ます! 絶対に勝ちましょう! ユウさん」

 みんなの期待を裏切る訳にはいかない。

「ああ、そうだ。ユウ。その意気だ」

 アリアドネが背後に立っていた。油断も隙も無い。

「この騒動が終わったとき、ユウはこの世界の統治者になる資格が有る。私は期待しているぞ」

 何の期待だ!? 相変わらずわけがわからない。

『シルフ』

『ええ、分かっています。ウンディーネ』

 精霊達が不穏な顔をしている。トモヤ以外にも、まだ問題がありそうだ。

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