67話 終焉会議
雨の日だった。運の悪い奴が車に轢かれた、それだけ。自動車事故なんて年に何万件とある、そのうちの一つ。
それで死んでさえいなければ。
即死。近くに居た友人にも、家族にも何も言えず、死んだ。この程度の事故、テレビで見れば、ふーん。で終わってしまうような事故だ。
漆黒の中、納得もできない、感情も吐き出せない。途方に暮れるしかなかった。あいつが現れるまでは。
「おめでとう。君は選ばれたんだ。異世界を救う勇者に」
頭の中に響く声、嫌な予感と声が聞こえたことによる安堵が同時にやってくる。
「いやぁ、運が悪かったね。車に轢かれるなんて。君の世界で言う、お陀仏ってところかな」
死んだ事実を嫌と言う程突きつけてくる。
「永遠はアイオーン、永遠の管理者、君達の言うところの神だ」
胡散臭さが突き抜けている。
「トモヤ、君には永遠が思う最強の力を授けよう、君は世界を救う、その為の力だ、裏は無い、安心してくれたまえ」
そんな旨い話、信じる馬鹿が何処に居るんだよ。
「さあ、目覚めるまであまり時間は無い、心の準備をしておくように」
その言葉の終わりと同時に光溢れる終焉世界で目が覚める。隣にアイオーンも居たけど。
『おはようございます。ご主人様。マリス様からお呼び出しがかかっております』
シルフの声で目が覚める。ナイフで刺されたはずの右目が開く、傷一つ残っていない。魔王の力の副産物かな?
「呼び出しって?」
『はい、各国のトップと共に対策会議があるので、出て欲しいと仰っておりました』
……各国の……トップ!? 悪寒がする。出たくない。
『ノーム、着替えを手伝っていただけますか?』
『おっけー!』
ノームに羽交い締めにされ、無理矢理準備させられた。会議室の前までノームに抱っこされたまま運ばれる。
『行くよ! ダーリン!』
サラマンダーがドアを蹴破った!? 何でそんなことをするんだ!?
会議室の中には見知った顔がいっぱいある。アルベド、キルケー、ヴァル達、アリアドネ、ヤルダバオート、アスタロト、陛下、マリスさん、ヘイ、ルビー、カオリ、ヴェロニカ達、ゴリラ達にセツナ君、ヒメヒメさんまで!? そして、アメジスト、サファイア、ソフィアとモニカ、ここまで知り合いばかり集まるものなのか!? 頭が痛い。
「おめでとう、ユウ! アカシックレコードに干渉する力、実に素晴らしいな! もう覇王だ、あっはっは」
アリアドネが一番に口を開く。何を企んでいる。
「感動の再会も良いが、取りあえず会議を始めないか? 議長ならば我輩がしよう。慣れている」
ノームから降ろされ、もう一人誰か居ることが分かる。初めて見る顔だ。
「ふっ。知らないのか。あの男はウカノミタマ議会議長カイガンだ」
アルベドから説明を受ける。ウカノミタマのトップ……
「およおよ、お久しぶりです。お元気ですか?」
ヒメヒメさんにベタベタ触られながら挨拶をする。
「お久しぶりです。あの触るのはどうかと思いますけど」
「すみません。孫を思い出してしまって」
孫? どう見てもヒメヒメさんは少女だ。良く分からない冗談だ。
「ヒメヒメ、もうよいか? 会議の議題は当然トゥルースブレイブのことだ。まずは各々が知っている全ての情報を交換しようか」
カイガンは淡々と会議を続ける。ヒメヒメさんの上司だけあって扱いには慣れているな。
情報の交換が終わった。トモヤ率いるトゥルースブレイブの全体像が把握しきれない。思っていたよりも多くの勇者がいる巨大な組織だ。更に裏に居るアイオーンの対処。何処に潜伏しているか。いつ襲撃に来るか。これらが現状の大きな問題だ。分かっていることと言えば勇者の力を集めていることくらいか。トモヤ、アイオーンどちらの目的も勇者の力を集めることを通過する。
皆頭を抱えている。一度全滅させられた相手だ、迂闊に手を出せない。ただ、時間も無い。アイオーンの真の目的に気付かせるようにヒントも与えた、トモヤなら分かってくれるはずだ、アイオーンを勝手に倒して世界崩壊とか止めて欲しいところだが。
『ねぇ? ダーリン』
机の下からサラマンダーの頭が出てきた。何故机の下を潜ってきた。
『ダーリンの目、アメジストと同じになってるね、綺麗な紫色してる』
ああ、魔王化の影響が出ているのだろう。元はアメジストの力、アメジストの要素が出るなんてこともおかしくない。
『最期は一緒だからね』
流石に勘付かれるか。アイオーンの力をトモヤが手に入れてしまったら、相打ち出来れば運が良かったレベルになる。はぁ、何でこんなことになってしまったんだろう。サラッと復讐終わらせてのんびりほのぼのハーレムライフは何処に行ったのだろうか。
『一緒に逃げよう。ボク達が責任を取ることは無いよ』
気を使わせてしまった。逃げたら世界が滅びてしまうのだからそうもいかない。うだうだしていても仕方ないことなのは分かっているのだが、心はまだ覚悟できていない。
「はぁ、もふもふに癒されたい……」
『ユウくん!?』
全員の視線が自分に注がれる。口に出てた……恥ずかしい、死んでもふもふいっぱいの世界に転生したい。
「少し休憩だ。切り札が疲労困憊では、勝てるものも勝てなくなる」
各々伸びをしたり、お茶を飲んだり、談笑し始めた。椅子に深く背を預ける。
『ご主人様。お茶です』
目の前にお茶を出される。ありがたい。まだ何かあるようで耳元に近づいてくる。
『今夜、もふもふ、頑張ってみます』
まだ、お茶に口を付けてなくてよかった。顔が熱い。
『ご主人様。お顔が真っ赤ですよ? 何を想像したのか分かりませんが、ここはそういう場所ではありませんよ』
お茶に口を付け無視することにした。
『耳まで真っ赤です。熱いです』
耳を触られながら、努めて冷静にお茶を飲む。
「何でここでイチャイチャしてるの? 流石に気持ち悪いわよ?」
相変わらず言葉が鋭い。アメジスト達が来ていた。
「色々聞いたわ。奴らが仇ってことも」
やれやれって感じのジェスチャーをしている。親を殺した奴が救世主名乗っていればそうもなるな。
「姫! 姫!」
ルビーがアメジストを押し倒した。
「もう! ルビー! 離れなさいよ! 涙と鼻水でベトベトになるわよ!」
「ルビーお姉ちゃんステイ!」
サファイアの言葉でピシッと止まる。犬みたいに調教されてないか?
「サフィも会いたかった」
自分は口出ししないでいいかな。この場を離れよう。
「ユウ! あの時ぶりです!」
次はソフィアとモニカか。
「実は、あの後、モニカちゃんと一緒にまたユウを占ってみたんです」
また勝手に占ったの!?
「世界の正位置だったよ。兄凄い……」
世界の正位置、完成、完全か、思えば審判の逆位置は大当たりしていたな。これも当たってくれれば嬉しいな。
「普通なら審判の逆位置が過去に来るはずなんですけど、何故か何回やっても来ないんですよね、世界そのものが変わったからでしょうか?」
何か引っかかる言い方だ。来ることが当然だと思っている言い方なんだけど……
「よっ! 次から次へと大変だなユウ」
「無事で良かったです、ユウさん」
「この騒動が終わったら俺様の臣下にしてやろう、それがいい」
「結構です」
次はゴリラにセツナ君にアルベドか、本当にアルベドは図々しいな。
「国にはネクサス達が残っている。ネクサスも二度同じ失敗はしないだろう、まさか、民を庇ってドラゴンに潰されるとはな」
らしいと言えばらしい。
「俺とイブはウカノミタマに居たんだ。エレノア司教の紹介でヒメヒメさんの所で働いている。俺達の事なら気に掛ける必要は無いからな」
すっかりゴリラのことを忘れていた。まあ、いいか。言わなければばれない。
「おい! 何だその顔まさか忘れてたのか!?」
何でこんな時だけ勘が良い、いや、自分が顔に出やすいだけか。
「僕とユウさんとアルベド様ならどんな相手でも遅れは取りません、そうですよね?」
「ふっ、当然のことだ。言わなくてもいい。はっはっは」
自由人ばかりだなぁ……笑いながら歩いていった。
「はっはっは! 余も来てやったぞ! 勇者ユウ!」
アスタロト女王が続けざまにやってきた。
「余の所に来る気は無いか? ユウ? 余の嫁になるが良いぞ」
嫁!?
「可愛い顔をしておるからな。存分に可愛がってやるぞ?」
「ダメ……私の兄」
「モニカに言われたら敵わないな、だが、気が変わったらいつでも嫁ぎに来るが良い! はっはっは」
高笑いしながら席に戻った。あの人会議中に堂々と寝てるし、何しに来たんだろうか。
「よぉ、死ぬ準備は出来たか?」
キルケー。すぐにでも闇の魔法が撃てる状態で近づいてくる。
「キルケー殿!」
ヴァルがキルケーに立ちふさがる。
「うっせぇなぁ、やらねぇよ、こいつにはまだ世界を守る仕事が残ってんだろ。だがな、虚無をぶっ放して世界を破壊したんだ。マーリンの奴に目ぇつけられたぞ」
「分かってる。まあ、でも、もう使えない」
「知ってる、あれから聞いた」
ヤルダバオートを指差していた。それに気づいたヤルダバオートも来る。
「お主はよくやったと思うぞ、わしはな、わしは」
「ヤルダバオートも管理者なのか?」
忌憚なく聞く。散々迷惑を掛けられたんだしいいよね。
「そうじゃな。わしは世界の創造の管理をしておった。じゃからもう管理者としての仕事は無かった。いや、創造を終えるとアイオーン以外は皆役割を終えた、だが、アイオーンは永遠、縛られ続けなくてはならない」
それに飽き飽きしたのか。役割に縛られ続けることも辛いのは分かるが……いや、それが永遠に続くとなればどうなのだろうか……
「済まんが、止めてくれ、世界の為に」
会議が再開したがその後も建設的な意見は何もでなかった。今回は情報の共有と協力の取り付けだけで終わった。勇者の力が欲しいはず、襲撃は必ず来る。襲撃までに必ず何か手を打っておかなければならない。精霊達は会議中に先に帰ってしまった。まあ、何もなかったけれども。
「ただいまー」
ドアを開けると目を疑うような光景が待っていた。
『ご主人様、お帰りなさいぴょん』
『ぴょんぴょん! ユウくん、お帰りぴょん!』
際どいビキニにウサ耳と尻尾をつけている。
『尻尾は直接い……』
「ストップ! 聞きたくない!」
『これはねラビッタっていう生き物のコスプレだぴょん! どうかなぁ? だぁりん?』
自分も大人だ。こんなことでエロいとか興奮するとか、あ、鼻血が出てきた。
『今日はボク達を好きなだけもふもふして癒されていいんだ……ぴょん』
もふもふ要素が尻尾と耳しか無いけど!? 肌を擦りつけてくる。
『いっぱい愛してくださいぴょん』
もう理性なんてなくていいかな。




