66話 散華と希望の魔王
死んで転生するときの真っ暗な空間にまた来ることになるとは思わなかった。自分達の全てを消失させることで世界を破壊し、アイオーンの目的を達成できないようにする作戦は失敗したのだろうか。この作戦、世界を破壊した後は、アイオーンに投げるという問題を抱えている。アイオーンが世界を自分に破壊されず、自分を消すことが出来れば、完全に失敗なのだ。世界の果て、暗黒空間を漂いながら考える、何も出来ないので考えることしかできないし、やることが無い。
時間はどれくらい経っただろうか。体が何処かに引っ張られているような不思議な感覚にとらわれる。体は無いはずなのに。この感覚……落下している時と同じような。点のような小さな光に向かって落下している。光を認識できたときには体が戻っていた。
光に吸い寄せられるように落下し続ける。体をジタバタさせようが、どうにもならない。光に近づいてきた。光は大きなシャボン玉のような球体から発生していた。体がシャボン玉のようなものに吸い込まれた。地面が見える。多くの花が咲いている花……畑だ。先ほどその花畑に顔面から不時着した。
「待っておったぞい。ユウ」
何処かで見たことのあるような爺に出迎えられる。ヴァルではない……では、この爺は?
「あっ! デミグラスハンバーグ!」
「デミウルゴス=ヤルダバオートじゃ! お主、ふざけておるな?」
「まあね。ふざけていないと心が折れそうだから」
仲間も自分もどうなったのか分からないままだ。むしろ、まだ正気を保っていることを称賛すべきだと自分は思う。
「時間が無い、お主が勝手に何処かに吹っ飛んでいくから」
何? 自分のせいなのか?
「本題に入るぞ。これを見ろ」
ヤルダバオートが一つの花を指す。ウタカタノリンネだ。
「何か思うことは無いか?」
何か思うこと? 何故具体的に言ってくれないのだろうか。ウタカタノリンネをよく観察する。
「前に見た時より花が開いている?」
「うむ。そうじゃ。満開になっておる。普通のウタカタノリンネは七分咲きで枯れ始める」
「それで?」
何が言いたいのかさっぱり分からない。話を切り上げて……
「話は最後まで聞くものじゃぞ。ここは管理者さえ見えぬ果ての果て、何処に行くつもりかのぉ?」
花畑の先や空が無い。漆黒、それ以外何も見えない。漆黒を通ってここに来たから、分かってはいた。
「わしにも時間が無い。話を続けるぞ」
ウタカタノリンネの咲いている場所まで戻ってきた。時間が無いとか言っておいて悠長なことだ。
「分かっておると思うが……お主が使った力は、もう使えない。いや、厳密には、使える時ではなくなった」
試してみるが、力が使えない。
「過程というものがある。お主はそれを覆したいのじゃろ?」
あんな酷いことが無いと使えないとかピーキーだな……
「それだけの力ということじゃ。お主はアメジストから力を貰っておるじゃろ? それを使えばよい」
そんな簡単に言うか?
「だから見せておるじゃろ? その力の在り方を」
「さっきから口に出してないのに答えないで欲しいんだけど!」
「時間が無いと言っておるじゃろ。よいか? 奴らを止めなければ世界はすぐ終わるぞ?」
トモヤのせいだ。こんな大変なことに巻き込まれたくはなかった。
「運命じゃ。受け入れろ」
運命ねぇ……都合のいい言葉だ。
「死を乗り越えたその先にしか咲かない花、今のお主と同じじゃな?」
まさか、これが力の在り方とでも言うつもりなのか!?
「そうじゃ、では、行け」
はぁ、適当過ぎる……体が消えていく。次がどうなるかは分からない、心の準備くらいはやっておこうか。
体の感覚が戻ってきた。
「なーんて」
棒読みな悪意のある声が聞こえ、右目にナイフが刺さり、膝を着いてしまう。なるほど、このタイミングに戻ってきたのか。
「貴様! 下等生物如きが何をしたか分かっているのか!」
アイオーンは激昂し、この場に居る全員は戸惑っている。
「さあな?」
立ち上がり、わざとおどけてみせる。
「永遠が世界を書き換えなければ消滅していた! トモヤ! この下等生物をすぐに殺せ!」
「あはは! 最高、そう思わない? アイオーン」
トモヤは爆笑したまま動かない。トモヤの態度にアイオーンはまた怒りを爆発させている。
「何がだ!」
「ユウ、滅茶苦茶強くなってる」
右目のナイフに手をかける。
『ご主人様! それを抜くのは……』
シルフの言葉の途中で思いっ切りナイフを引き抜いた。
「なっ!?」
「おっ?」
血が噴き出て床を赤く濡らす。痛みは感じない。
「なっ!?」
「おっ?」
全く同じ反応か。芸が無いな。
『ダーリン? 目から花が……』
ナイフが刺さった目が見える。見なくても分かる、右目に満開のウタカタノリンネが咲き目の代わりになっている。
「貴様……!」
「残念だったな、アイオーン。自殺出来なくて」
「ふぅん? 自殺? アイオーン? 何を隠してるのか知らないけどさぁ、いや、まあ、まずはユウ、殺り合おうか?」
空を覆い尽くす程の武器が出てくる。出てきた武器を一睨みすると、蔦が絡み花が咲く。こんなものかな? これでコントロールは奪った。
「おお、凄い凄い、動かせない」
「みんな下がって。まだどれくらい出来るか分からないから」
トモヤが剣を持って飛び掛かってきた。周囲から花弁が集まり剣状になる、その剣でトモヤの一撃を防ぐ。剣がまた花弁に戻る。トモヤの次の一撃を花弁でガードし、花弁は槍に形を変えた。トモヤが剣から手を放すと、槍が出てきてそれを掴んだ。合わせてくるつもりか。身体能力は明らかに上がっている。剣戟をしても手が痺れ無い。
「わぁ! 全然違う!」
トモヤは楽しそうに驚いている。その隙を突かせてもらう。花弁の槍を地面に突き立て棒高跳びの要領でトモヤの頭に蹴りを狙う。蹴りの先に武器の切っ先出てくる。槍を使い、空中で無理矢理軌道を変え、武器を避ける。武器はそのまま飛んでいった。着地し、槍を花弁に戻す。
「まだまだ扱いきれないな」
魔王の力だけでは勝てる気配が無い、ボトルに手をかける。
「ちっ! もう一度チャンスを貰えるとはな」
無残に死んだはずだった。仲間を殺され自らも負けてしまうとはな。
「ふぅ、一筋縄にはいかないようですね」
ギルバートの言葉と同時に信者が襲い掛かる。
「おい! 足手まといだ! さっさと行け!」
「了解です! ボス!」
部下達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「獣のくせに成長するのですね」
「言ってろよ」
信者の間をすり抜け、ギルバートに突っ走る。魔力の有るこいつらの死骸が武器になるとはな。ギルバートが一瞬身構えた。どうやらこれで正解のようだな。信者達がギルバートの盾になる。その程度で止められると思っているらしい、馬鹿にしてやがる! ギルバートの上を飛び越え、背中を爪で切る。
「うぐ!?」
さあ、止めだ。恨みは色々あるが一思いに殺してやるよ。後ろから首に牙を立てる。何も噛めず口が閉じた。
「無い……」
ギルバートの姿が無くなっていた。辺りの信者達は俺を見て後退りしている。どういうことだ? 空中の武器も止まっている。仕方がない、マリスさんのところに行くか。
「ん~。これはどういうことなのかしらぁん?」
マルガリータの声で気が付く。奴に背骨を折られ私は……
「仕方無いわねぇ……ごめんね。もう一度痛いと思うけどこれも愛だから」
マルガリータの手が近づいてくる。慌ててバックステップして距離を開ける。
「お前に……一つ言っておく」
「あらぁ? どうしたの?」
「私は……」
大きく息を吸う、こんなこと従者らしくないけど、アメジスト様なら笑って許してくれるかな……
「私を売ってでも、姫を、陛下を、姉妹を守ってみせる!」
「ルビー! 私にも手伝わせてよね?」
上から声が聞こえた。そうだ、私にはこんな奴に負けないくらいの愛がある。
「はい! カオリン!」
大太刀を大きく振り回す。壁や地面、マルガリータに刃が当たる。壁が崩れ、地面が斬撃の跡だらけになるがマルガリータには傷がつかない。遂にマルガリータの首に当たり刃が折れる。
「ふぅ、気は済んだ?」
息が切れ切れになり動けない。マルガリータが近寄って来る。
……ここは居住区、民家なら必ずキッチンがあるはずだ。壁の瓦礫で見辛いがその下で何かが光った。
「えぇ、気は済みました。あなたにもう用は有りません。さようなら」
光った物に向けて折れた大太刀と脇差を打ち付ける。火花が出た。
「はぁ、往生際が悪いのね」
火花が瓦礫の下の油に引火しマルガリータに燃え移った。
「ぎゃあああ!?」
切れなくても燃やせる。空中のカオリンに目をやる。カオリンは距離を開け、爆発から逃れ、ビームで反撃している。あっ、勝った。
「やったよ! ルビー!」
「ええ、早く陛下の下に……」
一瞬の違和感の後、マルガリータ達が消えた。
「行こう。陛下の所に」
ユウと会ってから、何度も奇跡が起きる。今回も起きてしまったにゃあ。まあ、あのままなのは嫌だけどさぁ……
「おいおい、こいつは一体どういうことだYO!」
「あんたさ、怪盗なの?」
「ああ、そうだZE!」
ウザイ語尾をどうにかして欲しい。
「私さ、あんたと違って怪盗になんてなりたくなかったの」
「おいおい、まじかYO! 偉大な大先輩からそんなこと聞きたくなかったZE」
私は孤児だった。名前すらない孤児。それを名付けてくれて育ててくれたシスターと家族の為だった。組織に飼われ、盗みを犯すどうしようもない私、偉大だとか先輩だとか、馬鹿にしてる。絶対に許さない。
「怖い顔するなYO、可愛いお顔が台無しDA」
「私の本気から、お前は逃れられない」
幾重にも分身する。読んで見せろよ。私の力を!
「はっはぁ、そんなことしてもYO、俺には精霊が……どういうことDA!? 何処にも居ないだと!?」
分身がジェイコブを囲む。
「Goodby」
近くの建物の上に逃げていた。分身には爆弾が仕込んである。そのまま爆発しろ。分身が爆発しジェイコブを飲み込む。さぁて、復讐、いや、八つ当たり少年にもお仕置きをしないとねっ!
「よっと」
少年の前に飛び降りる。
「君のやってることは、ただの八つ当たりだから。悪い事をしたら罰を受けないといけないんだよ? 君のお父さんみたいに」
爆弾を一つ取り出し、腰を抜かし泣きながら逃げ惑う少年に渡す。
「ごきげんよう」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
爆弾から花火が打ちあがる。泡を吹いて気絶してしまった。
「根性無いなぁ~、もう大丈夫だよ~! ティナ! ニーア!」
ティナとニーアが建物の影から出てくる。
「お姉ちゃんかっこいー! むぎゅ!」
ニーアが抱き締められバタバタしている。空の武器も振ってこない、それどころか花が生えている。目を疑うような光景だ。
「あれ、まさか、ユウの仕業?」
「あ!? あぁぁ!?」
ティナの叫びが聞こえた。何も無い所を指差している。いや、ジェイコブと少年が居た場所だ! いつの間に逃げられたんだ!?
ボトルの蓋に手をかける。第二ラウンドだ。精霊の力と魔王の力、同時に使って何処まで扱えるか分からないが、やるしかない。
「トモ! 全滅した!」
ボトルを開ける直前、声が聞こえ、身構える。
「なっ!?」
「ケイスケ、それは本当?」
驚くアイオーンと正反対に全く動じないトモヤ、状況をケイスケから詳しく聞いている。このタイミングで仕掛けるべきか……
「ここは引こう。ケイスケ、頼む」
「分かった」
逃げる気のようだ。
「今回はここまでにしようか。次までに準備をしておいてね。何度次が有るか分からないからさ。全力で楽しもう」
3人が姿を消した。ケイスケの時間を止める力だ。もう追いつけない。力が抜け座り込む。
『ユウ! ごめん、ボクが……ボクが……!』
『ユウくん~』
『ダ~リ~ン』
みんなが泣きながら抱き着いてくる。
「シルフは来ないの?」
何も言わず抱き着いてきた。顔を決して見せようとしないところがシルフらしい。
「これはもう我らだけではどうにもならんな」
「陛下……」
「各国に通達せよ。これはこの世界の問題じゃ!」
「分かりました、直ちに」
トモヤ……絶対に止めてみせる。必死に生きている人の邪魔なんてさせない。




