65話 虚無と孤独の魔王
爆発を見るとすぐに、ヘイが大狼になってみんなを乗せ、帝国に走りだした。
「帝国には今誰が居ますか?」
「戦闘が出来るのはルビーさんとカオリさんだけです」
「トモヤは?」
「トモヤさんはアスタルトとの戦争での前線に物資の補給に行っています」
爆発はトモヤとトゥルースブレイブと関係無いのか? しかし、ギルバートが出張って来ていることも確かだ。爆発は一度だけ。
「どう? シルフ、様子は?」
『爆発は思っていたよりも大きく、煙で満たされていて、空気から状況を知ることは出来そうにもありません』
シルフの報告を受ける。帝国が近づいてきた。状況が分からないまま、中に突っ込むのは危険だが、やむを得ない。
帝国の中に入った。多くの人が逃げ回り、混乱を極めている。
「乗り物に乗ったままでは行けないようですね。ヘイさん、あなたの部下に頼んで騒ぎを収めていただけますか?」
「ああ、分かった。おい! 聞いたか?」
「了解です! ボス!」
喧騒の中、どこからともなく声が聞こえた。
「走って行きましょう!」
マリスさんが荷台から飛び降り、ヘイと自分もそれに続いた。
「おやおや、歓迎しに来ましたのに、お急ぎですか?」
ギルバートが先で待ち構えていた。多くの信者を引き連れて、道を塞いでいた。あの数を相手にするのは骨が折れるな。
「俺に任せろ。俺が一番相性がいいはずだ」
ヘイ……漫画なら間違いなく死亡フラグだが、ヘイは相性が良い、一方的になるだろう。
「行きましょう。ユウさん」
マリスさんが違う道に走り出した。追いかけなくては!
「ああ、残念ですね。他の方は、私ほど優しくありませんよ、特に主は……」
最後まで聞き取れなかった。何人仲間が居るか分からない、全員勇者ということもあり得る。躊躇している時間は無い。トモヤの下に急がなければ。
戦闘音が聞こえる。ルビーとカオリとヴェロニカが誰かと戦っている。
「マリス様! 早く陛下の所へ! 奴らの狙いは陛下です!」
ルビーは額から血を流している。援護したいがそれどころではなさそうだ。
「分かりました!」
マリスさんは足を止めない。今は……優先順位をしっかり決めて動かないといけない。
「あらぁ、余裕ねぇ、あたしに倒されるのに」
「黙れ! 私がその無駄に大きな体を真っ二つにしてやる、オカマ野郎!」
ルビーに余裕が無いのはすぐに分かる。筋骨隆々としたオカマに押されている。カオリはティナの友人だった少女カリンと空中戦をしている。ヴェロニカは、黒人の男と……年端もいかない少年を相手にしている。少年が召喚者なのか? みんな旗色が悪そうだ……しかし、止まっていられない……
陛下の居城とも言える建物の前の広場にトモヤは居た。男性とも女性ともとれない人物と対峙している。自分達に気付いた。
「マリスさん! ユウ! こいつが犯人です! こいつがトゥルースブレイブのリーダーです!」
中性的な人物を指差して言っている。どういうことなんだ……? 指差された奴は動じず片手で顔を覆いながら笑っている。
『トモヤくん! ギルバートと一緒に居た痕跡があったのはどう説明するつもり?』
ノームが指摘する。トモヤは目の前の奴から目を離せず、こっちに構っていられないようだった。
「ああ、それか、こういうことだ」
奴は指を鳴らし、トモヤそっくりに姿を変えた……
『ユウくん! あいつだよ! あの痕跡はあいつの物と全く同じ……トモヤくんのでは無かった……』
変身で痕跡までそっくりに出来るのか!?
「俺を信じてくれ! 頼む……!」
トモヤの必死な叫びが響く。奴を止めさえすれば後はどうにでもなるはずだ……急いでトモヤに駆け寄る。
「ダメです! ユウさん!」
マリスさんが止めようとする、何故?
「なーんて」
トモヤの声が聞こえた。どういう意味だ? 右目に何かが刺さった。視界が狭まる。何が起きたか分からない。
「良い茶番だったぞ、トモヤ」
「俺はこういうことは嫌いだ、アイオーン」
奴、アイオーンはトモヤの姿から元に戻り、大笑いしながら手を叩いている。
「大丈夫ですか? ユウさん! ああ、目にナイフが……」
マリスさんはナイフを抜くことも出来ず、呆然としている。
「トモヤさんに変身した理由なんて、トモヤさんから疑いの目から背けさせる以外無いでしょうに」
情に絆され、何も考えず信じてしまった自分の落ち度だ。トモヤ……何故こんなことを?
「ああ、ごめん、ユウ、痛いと思うけど、この世界は回復魔法があるから、我慢してよ」
軽い、目を潰しておいてそんな軽く言えるか!?
「生かすのか? そろそろ食べ頃だと思うぞ」
「まだまだ、ユウはもっと強くなる」
「何が目的ですか?」
マリスさんが前に出る。
「ギルバートから聞いたと思うけど、世界の救済だよ。大丈夫、俺はちゃんと救うよ」
「多くの人を殺したあなたの言葉を信じろと?」
「そうだよ。アイオーンは知らないけど」
「永遠に振るか。ああ、トモヤは世界を救うさ。世界の管理者、いや、神たる永遠が保証しよう。あっはっは!」
「頭が……おかしいのか!」
「いやいや、本当にアイオーンは神なんだよ。それも勇者の力を生み出した神だ。それに俺は選ばれたんだよ。証拠に……」
国中の空に、剣、槍、斧などのありとあらゆる武器が出現する。これは……!?
「最強の、真の勇者、それが俺なんだ」
言葉と共に土砂降りの雨のように武器が降り注ぐ。
『ダメ! ユウくん! 危ない!』
ノームが覆い被さった。土で防壁を造っても武器は貫通してノームの背中に刺さる。
「ノーム!」
『だ、大丈夫、ユウくんだけでも絶対に守るから!』
ノームを引き離そうとしても離れてくれない、早く離さないとノームが……!
「まずは1人」
ノームの力が緩んだ。ノームの背中には戦斧が突き刺さっている。その柄をトモヤは持っていた。
「まあ、また会えるよ」
怒り、憎しみ、絶望、悲しみ、喪失感、色々な感情が同時に押し寄せる。
『ごめ……んね……ユウ……くん』
「ノーム!」
余裕だと思ってた、武器の雨で、部下も信者も町の人も全滅した。
「あのお方、いえ、トモヤ様が力を使えばこうもなります」
「お前……仲間ごと殺ったんだぞ! 何も思わないのか!?」
「何を今更。みな信じていますから」
吐き気がする。武器が当たって出来た傷が痛む。俺を慕ってくれた、部下の亡骸が辺りに……
「お前は……ズタボロにしても絶対に!」
奴の首を噛みちぎって、手向けにしてやる。狼の姿になる。この姿が速くパワーもある、一瞬で終わらせてやる!
地を駆け、一息に接近する。奴の首まであと少し!
「獣が……」
「……」
鋭い痛みが全身を襲う。何が……
「私の力、反発させるだけだと思いますか? その反対、引き寄せることも出来るのです。ええ、信者やあなたの部下、魔力をかなり持っていることはお分かりですね?」
この男……!
「刺さってるものは、それです」
最期の力を振り絞り、奴の首に……
体が重過ぎた、届かない。
「せめて、その時まで安らかに」
大太刀の刃が通らない。あのデカブツ! 武器が大量に降ってきて、体がズタズタに……くっ……
「あらまぁ、女の子がしたらダメよ。そんな顔。もっと愛に溢れてないとぉ」
気持ち悪い、こいつ、愛とかふざけたことを言うな。
「私にふざけたことを……その首必ず落とす!」
「はぁ、野蛮ねぇ、あたしみたいに深い愛がないとダメよぉ」
「クタバレ! バケモノ!」
大太刀を回し、首を狙う。金属同士のぶつかる音がして弾かれる。
「あたしはマルガリータ。最期だけど、来世でよろしくっねっ!」
マルガリータの全身が金属で覆われる。刃が通らない。どうする? カオリもカリンとかいう奴の爆撃でボロボロだ。
「ルビー、ごめん、私も……」
「カオリン……すみません……」
マルガリータに体を掴まれ、抱き寄せられる。鋼鉄の皮膚、凄まじい力で締められる。
「ぐ……ぐぅ……あぁ……」
「ルビー!」
「トモヤ様の為に次の世に逝け!」
カオリンが爆撃に飲み込まれると同時に、背骨を折られ……
「おいおい、余所見は良くないZE」
あっちの2人がやられた……私、戦闘員では無いんだけど……でも、ニーアもティナも武器の雨で……
「良かったな、これで復讐が果たせるんだろ?」
ネイティブ・アメリカンっぽい男と少年、復讐?
「お前のせいで父上は自殺された……お前らがカミール卿をやったから……」
あのクソ野郎の派閥の誰かの子供……父親の自殺……そんな事が……
「普段ならお喋りで終わらせようZEって言いたいところだが、周りみたらわかるだろ?」
死ねって事よね。ほんとーに嫌な奴ら。どれだけ殺せば気が済むの?
「まあ、安心しろよ。次の世が待ってるからSA」
透明になっても分身しても的確に追ってくる。なんなのこいつ。次の世とかカルトも良いところよ。
「俺には精霊が付いててくれる、精霊の力、くらえYO!」
地震、大地が割れる。その中をナイフを持って平然と向かってくる。
「ジェイコブだ、次の世では仲良くしようZE! 怪盗先輩」
足を地面に挟まれた。ここまでかぁ……ごめんね、みんな。首にナイフが刺さった。
『よくも……ノームを……ユウを……!』
トモヤは苦笑いをしておどけている。
『飲まれて、藻屑になれ!』
何処からともなく水が湧き出て周囲の建物を飲み込む巨大な濁流が出来る。アンフィスバエナの時で力は尽きかけているのにこれ程までの濁流、ウンディーネ……
「ふーん、まあまあかな」
バキバキと異様な音を立て濁流が凍りつく。ウンディーネは力なく膝をついた。
「2人目」
トモヤが剣を持ちウンディーネに向かう。させない! 体を無理矢理動かして、間に割って入ろうとする。
「そこで待ってて」
武器が自分に集中的に降り手足を貫き動きを止められる。体を貫く武器を抜く、絶対に間に合わせなければいけない!
『逃げて……ユウ……』
剣がウンディーネの胸を貫いた。ウンディーネがトモヤの刺している腕を掴んだ。
『ウンディーネ……私だって!』
太陽と見間違う程の巨大な火球、サラマンダーの魔法だ。
「さっきの氷は魔法なんだ。魔王の力で全ての魔法の適性を得たんだ」
火球がトモヤを飲み込む。
「ちょっと暑い、これ? 武器でガードしてるだけ、溶けたら交換すれば良いし、無限に武器を出せるからさ」
火球が地面に衝突し、焔が消えてもトモヤには傷一つない。
「3人目、あと1人」
トモヤが投げた槍がサラマンダーを貫く。何を考えられるか分からない、感情の波に押し潰されそうだ……
「狼藉はそこまでじゃ! 我が直接相手をしてやる!」
激しい砲撃音の中でも掻き消されない陛下の声、トモヤとアイオーンを砲撃しながら陛下が君臨する。
「アイオーン、相手をしたら? 暇だよね?」
「永遠を顎で使うか、まあ許そう」
「マリス、あれは?」
「神と自称しています」
「ふん、痴れ者に相応しい」
「俺たちは少し休憩にしようか」
まるで特訓でもしてるだけのような軽さで近寄ってくる。
「あれでも全ての勇者の力を使えるからね。これはアイオーンには内緒だけど、俺はアイオーンを倒して力を奪う、そして、神になって世界を作り直すつもり。死んだ奴全て蘇らせて平和な世界を作るんだ」
何を……何を!?
「だからさ、力が必要なんだ。その為にユウにもっと強くなってもらわないと、奪う為に」
アイオーンの力は圧倒的だった。ゴリラの盾、セツナの宝石、ジュンの毒、全ての勇者の力を使えるというのは事実だった。
「神に楯突く、ああ、愚かだ」
「何故じゃ! ゴフッ」
「陛下!」
「お前は死体だから毒が効かないのか」
アイオーンは手を掲げる。雲の合間から何かが降りてくる。
「俺の力まで使う?」
帝国を優に超える大きさの剣だった。剣が落ちれば帝国が潰れるだけで済むのか!?
「ユウさん。陛下を頼みます」
もう何もする気のないアイオーンを通り過ぎ、マリスさんは剣の落下点まで歩く。体から宝石が生え、動くこともままならない。
「命には凄い力があります。私の命を使ってあれを帝国の外に反らします」
「ほぉ? 素晴らしい余興だ。見せてみろ」
マリス……さん……
「陛下、ありがとうございます。私に生きる価値を与えてくださって」
マリスさんは剣に向かって飛んだ。剣がまだ上空にあるうちに手を打つのだろう、その命を使って。
爆発した。マリスという命のエネルギーを全て放出し、剣にぶつける。剣は傾き帝国の外に向かって落ちる。
「良い余興だ、褒美をやろう」
マリスさんだった機械の残骸が降る。何で……こんな……
「あ……」
影が陛下の胸を貫き、発火した。
「会わせてやろう、神の慈悲だ。痛みもなく次へ」
「よーいしょ」
トモヤが自分の左目にナイフを突き立てようとする。もう避ける気力も無い。
『ぐっ……申し訳ございません。ご主人様』
シルフに庇われ、背中からシルフの心臓にナイフが突き刺さる。シルフと共に倒れる。シルフは動かなくなった。
「これで全員。ユウ以外はみんな死んだよ? どうかな? 怒りや憎しみがこみ上げてきて覚醒しない?」
「これは放心しているな。トモヤ」
「まあ、待ってるから。俺は先に行くよ、アイオーン」
トモヤは去り、アイオーンが残った。
「良い事を教えておこう。トモヤの永遠から力を奪う計画だが……あれは成功しない。永遠の計画、これは永遠が終わる為の計画だ。永遠は管理者の座に縛り付けられ、世界を永遠に観察し続けるという責務を押し付けられた。実にくだらない永遠だ。トモヤは永遠を殺し、全ての世界ごと、この永遠を終わらせる。管理者の居ない世界は持続できはしない。人の生き死になど些細な事だろう?」
楽しげな表情で歩き去って行った。
倒れたまま、何日も何夜も過ごした。何もする気も起きなければ、飢えも渇きも無い。眠さも無い。死んでいるも生きているも無い虚無だけだ。
死ねないのは魔王の力が覚醒したからだろう。マーリンの無の魔法のように無の力を得た。全ての感覚を消していく。もう、どうでもいい。この世界には何も無い。目を閉じる。閉じてもどうにもならない。
「ユウ! まだ生きているかしら?」
「ユウさん! そんなところで寝ていたら風邪をひきますよ〜!」
「兄! ねえ! 兄起きて!」
「ユ、ユウ!? 心臓マッサージですか!? 人工呼吸すれば起きますか!?」
「ユウ! 起きなければ殴りますよ! 頼むから起きてください……」
目を開ける。アメジスト、サファイア、モニカ、ソフィア、師匠が自分を囲んでいる。
「体は傷だらけで砂塗れ、よく生きてたわよ」
「ユウさん、世界が終わりそうです! トゥルースブレイブとかいう連中が国を滅ぼして回ってて、ここまで、逃げて……」
「アルマにネクサス様もやられてしまい、もうユウしか……」
首を横に振る。精霊達もやられてしまった、自分には何も出来ない。
「こんな……要らない……こんな過去……」
「モニカちゃん……」
……要らない……か。何日も使っていなかった頭を必死で働かせる。体を起き上がらせる。
「ユウ!? 動くと死にますよ!?」
過去を消しても同じ事が繰り返されるだけだ……アイオーンをどうにかできれば……
「何か考えがあるのね?」
「ここにいる全員の命を使っていい?」
「いいわ! ね?」
アメジストの言葉にみんな頷く。どのみち終わる世界だ、幸せは無い。覚悟は決まった。目を閉じて手を繋ぐ。消えるときはみんな一緒だ。
魔王の力を使い、世界から6人の全てが消える。存在だけでは無く過去そのものも消える。自分の考えでは、過去は世界を構築する根幹のデータ、それが急に消失すれば、世界は矛盾だらけになり、歪む。そして、歪みに耐えられず世界は崩壊する。それが……自分の答えだ。




