60話 怠惰と火器の魔王
「エメラルドも居るし、そろそろルビーとけりを着けるか……」
『ふっふっふ! ダーリンを散々馬鹿にした分、ボッコボコにするときが来たんだね! ダーリン!』
うーん、たぶんボッコボコには出来ないと思う。
「ふぇぇ!? お姉ちゃんに酷いことはしないでください。お願いします!」
エメラルドが泣きながら懇願している。どんな悪者に見えているんだ自分は……
「ああ、泣かせた~! ユウ、サイテー! ヘンターイ! ヒモ!」
ああ、ヴェロニカは本当に居るだけで騒がしいな。
「誤解だから。今までそんなことしたこと無いでしょ?」
……
誰も何も言わない……何で? 悲しい……
「それにサファイアには世話……? になったから。傷つける訳無いよ」
口をそろえて納得している。おかしくない? おかしくない!? やっぱり、あまり世話になった覚えないよ!?
『ご主人様。言い訳は醜いですよ』
……みんな酷い……
「まあ、何? たぶん大丈夫……たぶん」
何故だろう……色々不安になってきたぞ……あ、そんな疑いの目で見ないで……
「取りあえず」
ウンディーネがエメラルドを逃がさないように捕まえる。
「ふぇぇ!?」
おっと可愛く泣いたところで、逃がさない……
「エメラルドには、人質になって欲しいんだ。うん、大丈夫だから……あっはっはっは!」
柄にもなく悪役笑いをする。
「ニーアは! 悪いのはダメと思う!」
ニーアちゃんにまで怒られてしまった……辛い……
「普段ルビーは何処に居るの?」
……エメラルドは話さなくなった。
「まあ、マリスさんに聞けば分かるかな」
「ルビーさんですか? 今日は休みですよ。あ、でも」
でも?
「陛下と会っているかもしれませんね」
陛下の前は不味い……流石に……
「私がどうかしましたか?」
あれ? ……その声は……ルビー?
「げっ!? クズ」
自分に向けての第一声がそれか!?
「おっ! そなたは……えっとマリスの新しい部下だな!」
あぁ!? 陛下も居る!? 不味い!?
「あ、あはは、ユウです」
「ユウだったかぁ、これからも我とマリスに尽くすのだぞ、えっへん」
えっへんとか、可愛い……じゃなくて! ウンディーネがエメラルドの肩を掴んでいる状況は不味い!
「オマエ、何で私の妹を!!」
即大太刀を抜いたルビー、ああ、何でこうなるんだ!?
「釈明は有るか? 聞いた後首を落とす」
それ遺言の間違いだよね? マリスさんも陛下も止めてくれないの?
「あっはっは! 面白い、我が見届ける」
……陛下ぁ。
『良かったね? ダーリン。許可が出たよ? あの女丸焼きにしよう?』
『ふーん? たまには気が合うね。ボクはあの女を水責めしたいと思っていたんだ。苦しむ姿が良く分かるようにね』
『私は全て切り裂き、ズタボロにして差し上げようかと……』
笑顔で言っていい言葉ではない。ノームだけが頼みの綱だ……
『ふんすっ! お姉ちゃんだって怒ってるからね! デコピンくらいしないと!』
みんな、どうせ、自分の事なんか……膝を抱えて丸くなる。
「ありゃりゃ? ユウ落ち込んだよ?」
「観念したようですね」
ルビーが大太刀を自分の首に振り下ろす。
『余所見している暇があるのですね。吹き飛んでください』
シルフの風魔法が炸裂し、ルビーは壁際まで風で飛ばされる。
「おっと、ルビーの邪魔はさせないよ! マジカルラブリーカオリン参上! ラブリービーム!!」
カオリンは部屋の中なのに豪快に極太ビームを撃つ。
『私達の邪魔をするんだ! みんな燃えちゃえ!』
サラマンダーがビームと同じくらいの熱線で迎え撃った。ビームと熱線が正面衝突し周囲に弾け飛んでいる。
『不本意だけど、加勢するよ』
ウンディーネは横からカオリンに水流で横槍を入れる。
「うわぁ!?」
ウンディーネの水流攻撃でビームを制御できなくなり、バランスを崩して倒れた。サラマンダーは熱線が壁を焼く前に止めた。
「カオリ!」
壁際のルビーはカオリの援護に向かう。
『えーい!』
「な!?」
ルビーの足元が陥没しルビーは動けなくなる。
『あっけなく終わりましたね』
動けないルビーを精霊達が囲む。
「……」
諦めたのかもう何も言わない。
『煮るなり焼くなり自由だね。散々ダーリンの事馬鹿にした分、反省して貰わないとね……?』
流石にボコボコなんてのはよくない、いつでも間に入れるように準備はしておこう。そうならないとは思うけど……一応。
『えいっ!』
あ……ノームがデコピンした。
「くぅっ!?」
『まだまだ……これからですよ?』
シルフはくすぐり始めた。そよ風を使ってくすぐるとは……ちょっと自分も……
ルビーは無言で耐えている。気高い……どこかのダークエルフ姫騎士よりくっころしている。まだ、くっころ言ってなかった。
『どんどん行くよ?』
……暑くなってきた。サウナ責め!? 熱気を放つサラマンダーに一番近いのはルビーだ。メイド服という砂漠ではありえない服装のルビー、この中で一番着込んでいるだろう。少し汗をかき始めた。汗が目に入るのか目を閉じた……
『ちゃーんとユウに謝ればこんな苦労しなくてもいいのにね』
ウンディーネもくすぐりに参加した……何を見せられているのだろう……陛下は……楽しんでる……
ルビーがぐったりし始めた。暑さとくすぐりとデコピンに屈したようだ。
「こんな奴に、謝るくらいなら……謝るくらいなら、くっ! 殺せぇぇぇええ!」
あ、言った。遂にあのテンプレを……
『はぁ、強情ですね』
みんな呆れ始めた。
「ねえ? お姉ちゃん、悪い事したら謝らないとダメなんだよ?」
エメラルドが諭し始めた。みんなの前で妹に説教されるなんて、姉のプライドはボロボロだろう。
「うぅ……申し訳ありませんでした!!!!」
遂に謝った、顔を真っ赤にして怒りと恥ずかしさで噴火しそうになりながら。
「だから、誤解なんですって!」
アメジストとサファイアの復讐に協力していること、今までの事を事細かに説明する。
「信じられるか! そんなこと! どうせ、アメジスト様のお金や地位に眼が眩んだのだろう?」
はぁ、何でこの人こんなに頑固なんだ?
「我は信じる」
「陛下!?」
救いの手を差し伸べてくれたのは陛下だった。
「そもそもお金や地位が欲しいのなら真っ先に我の所に来るのではないか? トモヤやヘイみたいに」
「それは……そうですが」
「こんなに美人な精霊達に囲まれているのに死んだ魚のような目をしている男なのだぞ。手を出せるほどの甲斐性が有ると思うか?」
それは……どういう意味なんですか? 死んだ魚みたいな目って、前も同じようなことを言われたぞ……そんなに似ているのか!?
「うぐぐ……」
「大丈夫だ。たぶん、誰にも手を出せていないから、優柔不断な感じがするし」
当たってはいるけどもうちょっと手心をですね……
「それは置いておいて、我も一度、精霊達と戦ってみたいぞ」
……え? 無茶苦茶だ。この陛下……
「陛下、ユウも困っています。あまり無茶なことは控えてください」
「ええー。戦ってみたいー! 皇帝と手合わせできるなんて滅多に無いことなんだぞ! 光栄なことなんだぞ!」
陛下は見た目相応に駄々をこね始めた。
「陛下。駄目です。一国の主ともあるお方が駄々をこねるなど」
マリスさんが説得する、それでも駄々をこね続ける。
『ご主人様。私達なら大丈夫です。ここは恩を売っておいた方がよろしいのではありませんか?』
シルフがそういうのなら。
「陛下」
「なんじゃ?」
「一回だけなら大丈夫です。マリスさんもそれで良いですか?」
「ユウさん……ありがとうございます」
深々と頭を下げるマリスさん、自由な上司を持つとお互い大変ですね。
「やったー!!」
訓練場を人払いして使うことになった。それにしても陛下が相手かぁ……魔王らしいし、上手いこと立ち回らないと大変だ。
「ふっふっふっ! 我から行くぞ!」
何が起きるか分からない、身構える。
「刮目して目に焼き付けよ! これがこの国を導く力!」
息を呑む、何が起きるのか。
空中に自分達を囲むようにいくつもの魔法陣が出来る。魔法陣から黒い金属の筒が出てきた、大砲だ……大砲が自分達に狙いを定めている。
「何故この国が火器に力を入れていると思います? 簡単なことです。陛下が使うから、それだけです」
マリスさんの陛下自慢話を聞かされる。これは木端微塵か?
『どうするの? ダーリン?』
「いやぁ、どうにもならないよねぇ……」
『ダーリン!?』
「怖気づいたか? あっはっは! 斉射!!」
容赦ない砲弾の嵐が発射される。不味い不味い不味い!
「ノーム!」
『ユウくんはお姉ちゃんが守る!』
何重にも壁を造り、砲撃を防ぐ。直ぐにひびが入って壊れていく。光は通さないけど爆発は耐えられないか。
『ボクの力も使って!』
考えを読んでくれたのかウンディーネも水で壁を造り砲撃から守ってくれる。凄まじい砲撃の威力も水に吸収され弱まる。
爆音で地鳴りがする。天変地異かよ!?
「ウォーミングアップは終わりで良いな。本気で行くぞ! もっと我を楽しませてくれ!」
は……!? これがウォーミングアップだって!?
宙に浮いている大砲の数が増えた。三桁は優に超えている。
「これが我のリーサルウェポン!!」
『残念ながらチェックメイトです。いいえ、最初から詰んでいます』
シルフが陛下の後ろを取った。シルフが機転を利かせ動いてくれた。
「なるほどなぁ。本体は弱いから囮か……面白い。あっはっは!」
納得できない……囮をやっているつもりは無いのにな。
『余裕綽々ですね。私の攻撃を受けてもそのまま攻撃して勝ちが見えたのでしょう……』
シルフの報告は的を得ている。勝てないのか……
「で、何で我はこんなことを?」
「陛下のお戯れです」
「ああ、そうだった、我すっかり、マリスー! 甘い物食べたい!」
ああ、自由だなぁ……マリスさんも嬉しそうに甘い物をあげない。
「マリスさん父親みたいですね」
「まあ、そうですね……本当に陛下が幼い頃からお世話をしていますから。話したことがありませんでしたよね。いいでしょう。じっくりとお話しして差し上げます。部屋に戻りましょう。一日以上かかりますからね」
こんなにうきうきして饒舌になっているマリスさんは初めてだ。ルビーとカオリがエメラルドや陛下を連れてそそくさと逃げて行った。自分とマリスさんだけになった。マリスさんに手をがっしり掴まれ逃げられそうにない。
あれ? もしかして、地雷を踏んだ?




