59話 真実の勇者
ギルバートの襲撃から部屋に戻ってきた。精霊達の空気が冷え切っている。それもそのはず、ティナが襲撃の後からずっと自分にくっついている。
『ダーリーン、大丈夫なの?』
「うぅ……私……何でもしますからぁ……」
『早く離れてよ!』
「それだけは……うぅ……」
精霊達が引き離そうとしても必死にしがみついている。
『そもそもまだスパイ疑惑が晴れたわけではありませんよ。いつ寝首を掻かれるか分かりません』
ごもっともだけど。
「それに関しては明日話すことになっているから。まあまあ」
『ユウくん、甘すぎるよ!』
「とりあえず今日だけの我慢だから、ね?」
『むぅ……なら一緒に寝てくれるよね?』
「ソファーで?」
全員が頷いた。ソファーで5人……
「しゅ、粛正される……」
更に怯えている。これは手がかかるな……
「寝室を使って。自分達はソファーで寝るから」
「い、一緒に……」
『それはダメ!』
ティナは渋々寝室に行った。やっと離れてくれた……蟹といいギルバートといい散々な1日だった、寝よう……
『ダーリン! 夜はこれか……ら……寝てる!?』
自分を起こさないでくれ、死ぬほど疲れてるから……
「おはよーございまー」
「おはようございます。たまに凄く適当になりますね」
ティナを怖がらせない為ですからね!
「それではじんも……」
不味い!
「ああああああ!」
大声を出してマリスさんの声をかき消す。
「ユウさん!?」
「おしゃべりですよね?」
「え!? まあ、そうです」
何とかティナを怖がらせずにできそうだ……
「では、話していただけますか?」
ティナは何度も頷いている。
「あのお方とは何者ですか?」
「分からない……会うときは頭陀袋を被っていて顔が見えないし……あまり、話さないし」
慎重で計算高いな、仲間にすら姿を明かさないか……
「目的は?」
「……この世界を正すって言ってた……」
正す……色々な意味に取れる。世界征服か世界の破壊か……本意が読めないな。
「次の作戦か何か分かることを話してください」
黙った、何も知らされていないのだろう。
「知ってることは全部……お願い! 助けて!」
「メンバーも話してください」
冷たいようだが、マリスさんにとっても死活問題なのだ……
「あのお方、ギルバート、ケイスケ、カリンちゃん……あとは分からない……カリンちゃんは友達だったから……でも、カリンちゃん、あのお方のことが大好きで……怖くなった……集会はいつもケイスケが教えてくれた……何処にいても急に出てきて……」
うーん? 連中の全貌も分からないな。
「トゥルースブレイブって言ってた……」
「それは?」
「名前……だと思う……」
真実の勇者、かな? 洒落た名前だな。数年も経てば悶えることになるだろう。
「これ以上は……本当に……何も知らない!」
涙ながらに訴えている。これ以上聞いても何も出てこないだろう。
「そうですか。ありがとうございます」
ほとんど情報が手に入らなかった。
「そ、それなら……」
「ええ、ユウさんが守ってくれます」
そうユウさんが……って丸投げ!?
「よかったぁ……」
安心して少し頰を緩ませ、袖を掴んできた。
『ちょっと待って!』
サラマンダー?
『ねぇ? ダーリンのことが好きなの!?』
それは単刀直入に聞き過ぎだよ!?
「う、うん……守ってくれたの……カッコよかった……」
……ああああああ!!??
頰を赤らめている。修羅場だ!? 修羅場だよね!?
『ご主人様。はっきりと断ることも時には幸せには必要なのですよ』
シルフの言う通りだ。自分には精霊達が居る。
「こほん、えっと、自分にはさ、精霊達が居るんだよね。だからさ、その、ごめんね?」
『ご主人様? はっきりとですよ?』
そんなこと言われても好きって言われることが無かったから。
「そんなこと……言われても……私……絶対に……絶対に……諦めないから!」
さっきまでの泣きそうな顔は何処かに行き、強く信念を感じる顔をしている。ストーカーになりそう。
『……手強そうだね。ダーリン』
ティナに尾行されるようになってしまった。まあ、トゥルースブレイブの奴らがティナを襲いに来ても対処し易いから良いけど。
『尾行されてますね。ご主人様』
「知ってるよ」
『いいえ、もう二人居ます』
どういうこと!? 何でそんなに尾行されているの!?
シルフが虚空を睨み続けている。
「あはは、バレたか~、おひさ~。ヴェロニカちゃんと久しぶりの感動の再開だぞ~」
何も無い場所から突然ヴェロニカが出てきた。ヴェロニカ!? 何故帝国に!? そう言えば透明になれましたよね~。
実はさ、ユウが帝国に行くことになった後から、ずっとつけてたんだよね」
『何故そのようなことを?』
「ひ・み・つ。お仕事だよ。あっ、依頼人は言わないからね」
こんな事する人はネクサスさんかアルベドあたりかな。
「もう一人はニーナちゃん?」
『いいえ』
「ニーナちゃんなら部屋で待ってるよ?」
……別に尾行している奴が居るってことだよね。
『持ってきたよ』
ウンディーネが小さい女の子を首根っこ押さえても連れてきた。
「この子が尾行を?」
『そうだよ』
緑色の髪のエルフ……
『ねぇ、ダーリン。この子もしかして、サフィの妹なんじゃ?』
……ルビーが尾行させていると考えれば筋が通っている。
「君、名前を教えて欲しいなぁ……」
目線を合わせて聞いてみる。
「エメラルドです。ごめんなさい。お姉ちゃんは何も悪く無いんです」
健気だ……あの姉二人の妹とは思えない。
「ユウ様……その女とその子は……誰なんですか?」
ティナも出てきて、もう滅茶苦茶だな……
「ティナちゃんだー! 私ファンだったの、握手!」
ヴェロニカがティナの手を取って握手している。
「ごめんなさい……私……もうアイドルでは無いから」
ティナが丁寧に断っている。
ぐぅぅぅ!
誰かのお腹が鳴った。
「ごめん、お腹空いたからお昼ご飯にしない? ニーナちゃんも連れてきて」
『ユウくん、ありがと~!』
ノーム、それ言うとバレるよ!?
「ユウの奢り? やったー、ゴチでーす! みんな何食べたい?」
ヴェロニカ!! 何言ってるの!?
「ここのお店気になってたんだよね~、ガイドにも載ってたし」
ニーナちゃんと合流しヴェロニカに連れられ、レストランに着いた。どう見ても綺麗な高級レストランだ!? そんなにお金持ってないんだけど!?
「ヴェロニカさん? あまり手持ちが無いので……」
「あ……貸切だって……」
貸切か……良かったぁ……
安堵しているところ、お店から強面の人が出てくる。
「どうぞ、お入りください」
「は?」
「中でヘイさんがお待ちです」
……ヘイ? 中にヘイがいるのか? お待ちってどういうことだ?
「よう。まあ、入れよ。ここで飯食いたいんだろ? 奢ってやるよ」
両脇に女性を抱いたヘイが出てきた。
「え? いや……」
遠慮したい。
「やったー……あっ!?」
意気揚々と店に入ろうとしたヴェロニカが素っ頓狂な声を上げた。
「あ? どうかしたか?」
「イヤ、ナンデモナイデス」
片言になっているぞ。ヘイに聞かれたくないのか耳元で話かけてくる。
「ユウ。実はさ、転生する前に、こいつから宝石盗んだことがある……」
ヴェロニカ!?
「いや、仕事だったんだよ~、顔は知らないだろうけど、ちょっと気まずいって言うか~」
「何話してんだ? まあいいからさっさと入れよ」
「俺と手を組まないか? 聞いた話だと帝国に長く居るつもりは無いんだろ?」
料理はコースになった。ヘイの向かいに座り、提案を聞く。
「どういうことだ? 目的は何だ?」
「決まってるだろ。成り上がるんだよ。皇帝にはなれなくても、皇帝を操る立場になればよ、全てが手に入るだろ」
「上昇志向が激しいんだよ、こいつ、宝石とか、有名な絵とか買いまくってたし。チャイニーズマフィアの元鉄砲玉、それが上全滅させてトップになってるんだから、笑えるよね~」
……マジかよ。どうなっているんだ前の世界は……
「手を組むなんてまどろっこしいことはやめだ。俺の下につけ」
まさかの上から目線。
「自分にも目的が有るんだ」
「知ってるぜ」
紙を出してきた。紙にはニグレドの顔が写っている。
「こいつを探しているんだろ? なあ? 協力しようぜ?」
こいつ、色々手を回しているのか。狡猾な狼だ、気を付けておかないと。
協力か、精霊達の顔色を窺う、大丈夫そうだ。
「分かった」
「物分かりが良いな。そういうの好きだぜ」
「面倒なことは嫌いだからさ。協力してくれるなら、歓迎」
ヘイが手を伸ばしてきた。握手を交わす。
「ところで、この男がどういう人物か知っているのか?」
ニグレドの絵を指して聞いてみる。
「ああ、こいつは、クズだな。暗殺、賄賂、何でもありな奴だ。人身売買に手を出してお前に潰されたんだろ?」
よく知っている……少し恥ずかしい。
「まあ、そうだな」
「まあ、極め付きのクズだ、何だったかな、昨日の、ああ、トゥルースブレイブと付き合いがあるらしいな」
「……何!? それ、事実なのか!?」
「大きな声出すなよ。ああ、事実だぜ。一緒に行動してたのを見た奴が居るんだってよ」
まさかのまさかだ。どういう繋がりがあるのかは分からないが、思わぬ収穫だ。
「トゥルースブレイブ、こいつらを潰すのが今回の俺の仕事だ。戦力は多い方が良いからな。それにお前、狙われているんだろ? 囮に持って来いだな。じゃあ、協力を祝して乾杯!」
ヘイは内通者から除外出来そうだな。乾杯をして料理を口にする。
「ごちそうさまでした」
「おう、真面目だな。部下に見回りをさせて奴らに備えておくから、何かあったときは協力頼むぜ」
ヘイは会計を終え店から出て行った。本当に奢ってくれたようだ。
「いや~、よく食べたな~、ごちそーさまー」
「ヴェロニカ、頼みが有るんだけど」
「ん? 言ってみ?」
「ティナを守ってあげて欲しい」
「どゆこと?」
「前、村を襲って来た奴らから逃げてるんだ。ヴェロニカなら信頼出来るから。それに今部屋が一つしか無くて済む場所にも困ってるし」
「オッケー。任せんしゃい!」
これはかなり飲んでるな……
「ニーナに任せて! お兄ちゃん!」
うーん、ニーナちゃんの方が頼りになりそう。




