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58話 歌姫の裏切り

「あ゛? 好き勝手言ってんじゃねぇよ!」

 ヘイが爪でギルバートを切りつける。しかし、すぐに傷が再生する。即時回復、めんどーな奴だな。ここはヘイ達に任せて歌っている奴を止めてみるしかないか。

「シルフ、歌っている奴の場所を見つけられる?」

『申し訳ございません。分かりませんでした』

 ……流石シ……あれ?

『申し訳ございません』

「あらら。ノームは分かる?」

『お姉ちゃんもダメっぽい、ギルバートって奴のせいだと思う……』

 おのれ! ギルバート!

「探すしかないよね……ここまかせるから!」

 町の奥へ走る。

「貸しだからな!」

 余裕があって結構。


 信者を押しのけ町を進む。信者の呻き声がうるさい。歌声が何処から聞こえているか探しているけど全く分からない四方八方から聞こえてくる。

「まだ分からない?」

『うん、ごめんね』

「いや、仕方ない」

 しかし、手掛かりも無くどうやって探せばいいんだろうか、襲って来る信者も捌きながら探すのは手間がかかるぞ。

「おい。どうするつもりなんだ?」

 後ろからトモヤに声を掛けられた。

「分からない、策も無い」

「……しらみつぶしに探すのか?」

「そうなるな」

 トモヤも考え込み黙ってしまった。

 しかし、町を走り回っているが何処に居ても四方八方から歌声が聞こえるなんて、どういう仕掛けなんだろうか……

『それについては、ボクは分かったよ』

 いきなり話し始めたウンディーネにトモヤは困惑している。勝手に自分の考えていたことを読んで話し始めたのだから何のことだかさっぱり分からないはずだ。

「ウンディーネ、どういうこと?」

『あの女の子を見て、あっ、見惚れないでよ』

 周りの信者と同じようにフラフラしている小さな女の子を指差している。余計な心配しなくていいからどういうことなのか教えて欲しい。

『あの子、歌っているんだよ』

 そんな風には見えないし聞こえない、自分には分からない。

『唾だよ。唾が歌で震えているんだ』

 そんなことが分かるの!?

『分かるよ。あんな役立たずな二人に頼らず、今度からはボクを頼ってね』

 シルフとノームが自分をジト目で睨んでいる。ごめん。

 女の子に近づく、すると、先ほどまではフラフラと襲い掛かっていた信者の目の色が変わり一斉になだれ込んできた。大当たりか。

「俺が止める」

 トモヤが剣を鞘に納めたまま、信者を殴り倒す。

 その間に女の子に近づく。まさか暗殺者御用達関節技大全の締め技が役に立つときがくるなんて。

 首を少しだけ締め気絶させる。歌声は……

「ahーahah」

 止まっていない。


「どういうことだ?」

 辺りの信者を全員殴り倒し、信者の少ない場所に逃げてきた。殴り倒してもすぐに起き上がって来る。ゾンビ映画に迷い込んだ気分だ。気絶させた女の子が起き上がりまた歌いだすかもしれないので投げておくこともできない。

「さあ? 何人にも歌わせてカモフラージュしているとか?」

 本体が居るのか、それとも、歌っている奴全員を止めないといけないのか、どちらにしてもしらみつぶししかない。

「ウンディーネ、頼める?」

 歌っている奴を探すにはシルフとノームの冷たい視線に耐えるしかない。

『もちろんだよ』

 上機嫌で返事をしてくれる。

「どうする気だ?」

 ほったらかしにしていたトモヤの質問は尤もだ。

「しらみつぶし」

「分かった」

 一つ返事で宙に剣を出現させる。剣の勇者……正統な勇者感がカッコいいな。

「早く行くぞ」

 斥候をしてくれるのか、何このまともな勇者感、自分と違い過ぎない?

『ダーリンのいいところは私が分かってるからね!』

 ……慰めてくれた。人に甘えられなかった性格故にくすぐったいな。

「俺は早く終わらせたいんだけど」

「ああ、悪い」

 町全体を蠢く信者の集団の中に歌っている奴がいる。ウンディーネが探知できるが、見つけるには一定の範囲に入らないといけない。それまでに何か手掛かりがあればいいのだけど……

 それにしても迷いなく信者を殴り倒すなぁ。一撃で信者を沈めていくトモヤに感心する。

「何か分かったか?」

『全然』

 ……何人か居るのなら……指示しないと……それなら上かな。

「何処かの建物の上は?」

 周りの建物を見る。下からだと建物の上の様子は分からない。

「何故そう思う?」

「え、上なら視界が良いから」

 トモヤは建物の壁を蹴り登って行った。凄いな……

『手を取って! ユウ!』

 ウンディーネが自分に手を伸ばしている。その手を取る。ウンディーネが作った水流に乗り建物の上に上がる。

『あそこだね』

 下からでは角度が悪く見えなかったが、建物の上からなら見える。役場の建物の上で誰かが歌っている。

 凄まじい身体能力で屋根の上を飛び越えていくトモヤ。

『ボク達も急ごう!』


 自分達が役場の屋根に着いた時には、トモヤ一人で追いつめていた。

「お願い……許して……」

 歌っていた奴は、腰が砕け後退りしながら涙ながらに助けを求めている。トモヤは尚も剣を向けている。

「おい?」

 トモヤが剣を振り上げた。殺す気なのか!? 居ても立っても居られずトモヤにタックルする。

「何をしている!?」

 トモヤは尻餅をつき、剣を落とした。落とした剣が目に見える魔力となり霧散していった。

「殺す必要は無いだろ? それに自分の寝覚めが悪くなる!」

 我ながら身勝手だ、殺した方が楽かもしれない……でも、寝覚めには代えられない。

 歌っている奴、高校生くらいの女の子は自分の背に逃げこんだ。

 トモヤと睨み合いになる。

「エクスプロージョン!!」

 上から声が聞こえた。まだ仲間が居るのか!?

 咄嗟に身を翻す。自分の居た場所から爆発が起き屋根が崩壊し始めた。

「ティナ! 大丈夫? 絶対に許さない!!」

 空から人が急降下している、こいつが奴らの仲間か。屋根が崩壊し役場の中に落ちる。

「嫌! 来ないで!!」

「ウンディーネ!」

『分かっているよ!』

 ティナと呼ばれた女の子の下に水のクッションを作る。トモヤは自力で体勢を立て直した。

 体の向きを変え上を向く。太陽の光が目に入り、相手の姿が捉えられない。つくづく光が敵に回るな。

『ユウ。ボクなら分かるから。ボクに任せて』

 落下しながらウンディーネが背中に抱き着く。

「任せる」

『うん』


「エクス……!」

 もう一度爆発させる気だ!

『させない! ボクのユウには傷一つつけさせない!』

 周囲から水がウンディーネの手のひらに集まっていく。ウンディーネの手のひらの前に大きな水の塊が出来る。水の塊にまた周囲の水が吸い込まれ、大きくなっていく。

「プロー……」

 景色が歪む程の魔力が集まっている。あれを撃たせれば町が消し飛ぶ。

『!』

 集まった大量の水が激流になって敵を飲み込む。

 魔法を使うことも出来ないまま激流に流されて行った。

『何とかなったね。ユウ』

 背中に抱き着いているウンディーネを無理矢理引き剥がし、抱き締める。

『ユ、ユウ。ここででもボクは……大丈夫だよ』

 ウンディーネは照れながら目を閉じた。背中から落下し役場の床に叩きつけられた。

「い、痛い……」

 背中痛む。後頭部も打ち、視界が揺らぐ。肺が押され呼吸がままならない。

『……ユウ!? 大丈夫!?』

 反応できない。頭がぼやけてボーっとする。

『ユウ、赤い液体が……』

 冷たい液体が背中を浸す。

「お前……」

 トモヤが上から覗き込んでいる。その顔からは悲壮感が漂っている。

「な、何で、私が……助けを求めたから……!?」

 ティナと呼ばれた女の子が泣きそうな顔で自分を見ている。

「これ……」

 赤い液体の付いた手を顔の前に持ってくる。

「甘い匂いがする」

「は?」

「いや、本当。これって何かの果物のジュース?」

 トモヤは呆れた顔をして口を閉じた。

『もう! ユウ? こんなにボクを心配させて、どう責任取るつもり?』

 え!? いや、落ちて頭打ってるのに酷くない?

 外が騒がしくなってきた。信者の呻きではなく活気に満ちた驚きの声だ。やっぱり洗脳だったんだな。

「戻るぞ。そいつも連れて」


「何でお前真っ赤に……? つーかそいつ誰だ?」

 ヘイが自分とティナを交互に見ている。

「気にするな。この子はあのお方のお仲間だった」

 袖を掴まれる。

「お願い……私を売らないで……何でもするから……!」

 今何でもって……いや、涙目でそんなこと言わなくても売るつもりは無いんだけど……そんな風に言われるとまるで自分が悪党みたいだ。

「元からですけどゴミ」

「ゴミだね」

 ルビーとカオリさんが冷たく言い放つ。

「勘違いだから! というか、そっちはどうだったんですか?」

「消えました。急に跡形も無く」

 4人とも傷一つ無い。いや、ボロボロなのは自分だけか……

「それはたぶん、ケイスケの力……」

 ティナが自分の後ろから話す。

「ケイスケ?」

 聞いたことの無い名前が出てきた。

「うん、あのお方の右腕の少年。時間を止める力を持ってる……」

 時間を止める……前にスカウトしてきたあの少年か。

「仕方がありません。蟹を降ろして帰りましょう。ティナさんは私とユウさんで保護するという形で」

 え? 自分も?

「何でもするから……私を……うぅ……夜の相手でもするから……私、前の世界でアイドルしてた……だから……殺さないで……」

 いや、アイドルは関係な……まあ、アイドルが夜の相手か……いや、しないよ!? 夜の相手も殺しも。

『ボクシンジテルヨ?』

 何で疑問形!?

『なら、ボクにキスくらい出来るよね?』

 えっと、ウンディーネさん? ウンディーネは目を閉じて待っている。

『調子に乗らないで頂けますか?』

 シルフがウンディーネにアームロックを掛ける。

『この売女! ボクから離れろ!』

『頭がおかしいのですね。可哀想に』

 取っ組み合いの喧嘩が始まった……

「精霊の痴話げんか、凄く珍しいですね」

 楽しんでますよね? 凄く恥ずかしいんですけど。

「ノーム。止めて……」

『はーい。とぉっ!』

『『グエッ!』』

 ノームのパンチがシルフとウンディーネの顎にヒットして沈んだ。

「はい!  帰りましょうか?  帰りましょう!」

 全員の視線が冷たかった。

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