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57話 悲しいレクリエーション

「おはようございます。マリスさん」

 翌朝、指定された部屋に行くとマリスさんが書類に目を通していた。本棚に所狭しと詰め込まれた本、綺麗なソファーとテーブル、観葉植物、綺麗にまとまっている。だが、使っている感じが無く寒々しく感じる。今日はあの連中全員と仕事らしいが。

「おはようございます。ユウさん。測定、酷い結果でしたね。陛下の半分も無いですね」

 ……何!? え、あの幼女陛下の半分も無い結果だったの? ちょっと意味が分からない……

「陛下はあんな姿でも才能はこの国の皇帝に相応しい物をお持ちです。可愛すぎるところもです」

 間違いない。この人親バカだ。陛下の話題は口にしない方が良いな。延々と話されかねない。勝手に話し始めそうだけど。

「それでマリスさん、仕事というのは?」

「簡単な魔物退治です。全員でやるレクリエーションみたいなものですよ。ええ」

 ……帰っていいですか? いや、帰ったらダメですよねー……

「あ、皆さんが来ましたよ」


 ヘイを先頭にぞろぞろと部屋に入って来る。

「何だ。お前が一番かよ。真面目ちゃんだな」

 恨みがましい視線が首に。

「クビ……オトス……」

 まだ許されないんだ……このまま誤解が死ぬまで解ける気がしない。

 そして、全く口を開かないカオリさん、いや、開かれてもなぁ、魔法少女マジカルラブリーカオリン、あのインパクトならどんな性格でも霞んで見えますね……はい……

 おかしいなぁ、もう疲れた。

「もしかして俺が一番最後ですか?」

 トモヤが最後に入ってきて全員集合か。トモヤも我関せずって感じだ。

「では、仲良く魔物退治に行きましょう!」

 仲良く……仲良く……無理……


 うわぁ、荷台の中、熱いし、険悪な空気が流れ続けている。一人を除いて。

「陛下って、もうとっても可愛いんですよ。知ってます?」

 マリスさん、いつまでも陛下の話しかしないし、陛下の話になると、通常の2倍は速く話すな。話すこと無くならないの? いや、同じ話をしているな。

「聞いてますか? ユウさん」

「キイテマス。キイテマス。ハイ」

「そうですか、続けますよ。陛下の好きなものはですね……やはり、甘い物です。これだけはどんな一流シェフでも私に勝てません。ええ、特訓に特訓を重ね生み出した、陛下専用スイーツはですね……」

「あの、今日討伐する魔物について聞いていいですか?」

 話を変えたくて自分から切り出す、これがコミュ障には吐血ものなのだ……

「ああ、はい。それもそうですね。蟹です。それで陛下はですね、決まった果物しか食べてくださらないので……」

「待ってください! 蟹だけで終わられても何の情報も入ってこないです! そもそも蟹ならわざわざ討伐するまでも無いのでは!?」

「蟹です。蟹」

 押し通す気なんですか!?

「余裕ですよ。蟹ですから。蟹。そう蟹」

 ……カニがゲシュタルト崩壊する。蟹って……

「勇者4人に最強のエルフ剣士、これで負けることが有ると思いますか?」

 無いな!

「なので、陛下の話をですね」


 ドーン!

「あああああああああああ!」

 ドーン!

「何でこの蟹爆発するんだ!?」

 蟹に近づくと甲羅が爆発する。そして、人並みに大きい!

「鋏と甲羅が火打石の原理で発火し、体内で作られる油に燃え移り、爆発します。たまに大量発生するのでこうやって討伐しなければなりません。困ったことに川辺に湧くので。水運も大事ですから」

 自分以外蟹に近づいていない。知っていたのか!!

『ダーリン! 大丈夫!?』

 サラマンダーが焔で攻撃する……それは引火する!!

「近づかなければ爆発しませんので。大丈夫なのですが……」

 近づく前に言わないか!? いや、言う前に近づいたのが自分が悪いのか!?

『ダーリン! ごめんね!』

 サラマンダーが自然化し逃げた。

 ドーン!

 爆風に煽られ砂漠を転げまわる。砂が熱い!

「近接戦闘できないのでは私は来ただけ無駄ではありませんか?」

 ルビーが大太刀を収めた。これでは最強のエルフ剣士(笑)になってるような。

「俺もパス。相性悪いしな」

 ヘイもか! トモヤも首を横に振り、動こうとしない。何で自分だけボロボロに!?

『どうする? ユウ。あの蟹、水も弾くよ。体を油でコーティングしているからかな? そして、爆発にも耐えられる殻で身を守っているね。ボクはお手上げかな』

 頼みの綱のウンディーネでもダメなのか!?

「ふぅ。仕方ないね。私がやってみようかなぁ」

 珍しくカオリさんが口を開いた。意外と普通な性格だ。

「行くのですか? カオリ」

「うん。マジカルチェンジ!」

 カオリさんが光に包まれ魔法少女へと変身した……

「魔法少女マジカルラブリーカオリン、行っくよー!」

 空高く飛んだ、上空から光の矢で攻撃するつもりなのか……光、油、それはヤバイ!!

「待って! それはダメだ!」

「え?」

 遅かった、カオリンは光の矢を蟹に撃っていた。光の矢は蟹の甲羅にコーティングされた油に反射し、辺りを無差別に攻撃し始めた。

 光の矢の一本がマリスさんに向かっている!

「危ない!」

 声を掛けたもののもう間に合わない!

「痛っ!」

 マリスさんの白い仮面に矢が刺さって倒れた。あ。

「大丈夫ですか?」

 手を差し伸べる。

「何とかね……まさかこんなに苦戦するなんてね」

 自分の手を借り立ち上がった。

「全員、ちょっと下がってて」

 言われた通りにマリスさんの後ろに下がる。攻撃された蟹がこちらに向かって来始めた。

 マリスさんが腕も蟹に向けて伸ばす。筒が腕辺りから出てきた。

「見るのは初めてですよね? これが我が国の技術です」

 魔法のある世界に似つかわしくない音を立てながら蟹を銃撃している。蟹は爆発しながら動きを止めていく。

「この蟹、美味しいんですよ。あとで食べましょう」


『簡単な調理しかしていませんが。まあ、素材が良いので』

 殻を剥かれ茹でられたプリプリの身が並んでいる。手に取り少し口に入れてみる。

「美味しいですね……」

 そのまま食べようとしていたがシルフの提案でシルフが調理をすることになった。この蟹、身が柔らかくて美味しい。

「美味しい、良かったです」

 マリスさんも仮面を着けたまま食べている。器用だな。

「それにしても凄い技術ですね。自分の世界でもそんなこと出来ませんよ」

「半分以上陛下の魔法の賜物です」

「陛下ってやっぱりあの?」

 デザートを口いっぱいに頬張り笑顔を見せる幼女しか頭に浮かばない。

「ええ、そうです。そうですよ」

 全然想像出来ない。

「陛下は魔法によって機械技術を安定させる方法を編み出しました。まだまだ、実用化には遠いですが、陛下の功績として、未来永劫語られるべきですね」

 陛下のことになると……

「殻も有効利用できます。全て持って帰りましょう」


 流石に蟹を全て積むと遅くなるな。自分達が乗る用以外にも連れてきていたが、それでも足りないくらいだ。

 目の前に死んだ蟹の目がある、ずっと見られている気がして、居心地は更に最悪だな。

「水ありませんよね? 町に寄っていきましょう」

 マリスさんの提案で近くの町に寄ることになった。陛下が関わらないと周りに気配りもできるんだなぁ。

 川沿いの町、水運の要であり、この町に船で運ばれて来たものは、ここからは陸路を行く。大変だな。

「……町の様子が少しおかしいですね」

 どういうこと?

「人通りが少ない。何かあったのか?」

「分かりません。ですが、気を引き締めてください」

 え? え? 全員が戦闘準備をしている。


「lalala」

 歌声が聞こえた。

「laーla-laー」

 歌声はなおも続く。

「久しぶりですね。生きているとは思いませんでしたよ。主もまた驚きになっておりました」

 この声! ギルバート!

「ギルバート! 何をした!」

 荷台から身を乗り出す。ギルバートの後ろからフラフラと信者が湧いてくる。

「何をですか? 私はただ主の素晴らしさを説いて回っただけです。ええ、皆様、すっかり信心深い教徒となってくださいました」

 ふざけている。お前のは洗脳だろうが。

「お前の知り合いか?」

「少し因縁があるだけだ」

「へー。まあ、先行かせてもらうぜ。手柄は俺のものだ! ガルルッ!」

 狼に変身して先を行くヘイ。砂漠を駆けギルバートに向かって疾走する。

「お前みたいな陰気臭い奴は嫌いなんだよ! くたばれ!」

 ヘイがギルバートの腕に噛みつきにいった。おい! それは首がヤバイ! 自分の時は腕を曲げられへし折られただけだったから良かったものの首は死ぬぞ!

「主よ。今一人あなたのもとに送ります」

 メキッ!?


 ヘイがギルバートの腕を噛み折った。

「不味い。下衆野郎の味がするぜ」

 ヘイがギルバートの血を吐き出す。

「魔力を反発させてるのか。生憎、俺は魔力が極端に少ない。残念だったな」

 ギルバートは腕を折られたのにもかかわらず笑っている。

 噛み跡が消え腕が治っていく。どういうことなんだ?

「俺達は周りの奴らを止めるぞ」

 町に近づいた。トモヤも荷台から出て信者を殴り倒した。倒れた信者はピクピク蠢いた後何事もなかったかのように立ち上がる。

「どういうことだ?」

 不死身か? いや、そんなことありえない……はず。

 荷台から降りる。

「ノーム。信者を拘束できる? 何か裏があるはず。それを探すしかない」

『もちろん。お姉ちゃんに任せてー!』

 ギルバートに近づかないようにノームが砂を使い信者を巻き上げる。

「いいのですか? そんなことをすれば……」

 バキッ!?

 信者の腕が落ちた……!?

「ああ、野蛮ですね。無辜の民を傷つけるなんて。悪魔を使役する最低の勇者です」

「ノーム。ストップ」

『うっ……分かった』

 砂が崩れ落ち信者を解放する。信者の腕がくっついて元通りになった。いや、マジか……

「lalaーla」

 まただ、また歌が聞こえる。この歌が不可解なことを引き起こしているのか?

 ルビーがギルバートの首を斬り飛ばした。しかし、首が元に戻る。カオリンが光の矢を撃つ。ギルバートに当たる前に光の矢は自分達に向きを変える。すれすれを光の矢が通り過ぎていった。魔力は全て通じないか。

「ああ。無駄なことをよく続けますね。それもいきなり襲ってきて」

 いきなり襲われたくせに余裕綽々だな……

「あなたは何が目的なんだ?」

 トモヤがいつの間にか剣を両手に一本ずつ持ち、距離を保ちながら、ギルバートに質問する。

「目的ですか? それは時が来たのです。ええ、あのお方の大いなる救世の」

 大仰に天を仰いでいる。

「あのお方とは誰なんだ?」

「時が来たら分かります。焦る必要はありません。悪しき皇帝が死に。悪しき勇者が力を失う。ただそれだけです」

 当然だけど答えてくれないか。

 ギルバートに穴が開き、血が噴き出る。

「……陛下が何ですか?」

 マリスさんが撃っていた。逆鱗に触れたようだな。

「この国の皇帝は魔王に堕ちました。それを悪と言わず何と言うのですか? 正しくありません。正しくありません」

 穴が閉じ銃創が綺麗に消えていく。

 陛下が魔王か、いや、あり得なくは無い。

「魔王も勇者も一人なのが正しいのです。ええ、主もそう仰られています」

 ……いや、お前何を言っているんだ? 支離滅裂だ。

「選ばせてあげましょう。あのお方の力となるか」

 勇者の力を集めているあのお方の力に……か……

 信者達が暴れ始めた。

「それとも、ここで主の下に逝くか。どうぞ、お選びください」

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