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56話 変わらなかったもの

『このお店美味しそうだよねー? お姉ちゃん気になる!』

 ……見るからに赤くヤバイ雰囲気が出ている店を指差している。スパイシーで刺激的な匂いがする。

『この国の名物のようです……ね。男女問わず列が出来るほどの人気店のようです』

 それ、怖いもの見たさだよね? 大丈夫?

『入ってみよう! いいよね? ダーリン!』

 まあ、いいかな、辛い物は嫌いではないし。


「大丈夫? みんな」

 超超激辛専門店……自分は耐えられたけど……ノームとウンディーネが撃沈した。

『うう、まだ唇がヒリヒリするぅ……ダーリン』

『ふむ。ご主人様は大丈夫なのですね。私も辛い物は好きです。辛い物デート、有りですね』

 辛い物、まあ、好き。食べ歩きデートもいいね。

『ダーリン前甘い物ばっかり食べてなかった? 何処に行っても甘い物食べてたよね?』

「甘い物も好きだよ」

『この国はスパイスの流通が良いようですね。珍しい物も多くありました。精力増強……ふふっ』

 料理にアレなもの入れたら全員が同じもの食べるから大惨事だよ?

『大丈夫です。料理は美味しく食べていただかないと。最後にちょっと隠し味に混ぜるだけですから。ふふふっ』

 悪い顔しながらお淑やかに笑っている、止めない?

「まだ2人ともダウンしてるの? 本当に大丈夫?」

 2人は首を横に振り、自分の肩に体重を預け項垂れている。ノームとウンディーネには甘い物でも買ってあげないと立ち直れそうに無いな。

「甘い物買おうか?」

 2人は首を縦に振った。

『買ってきたよ。ダーリン。みんな分』

「ありがとう、サラマンダー。配ってあげて」

『りょーかーい!』

 激辛から甘い物まで色々揃っているんだな。今までの国では、そういう料理の専門店は無かった。大国だから様々な人が集まり専門店もやっていけるのだろうな。


「あっ! お前は……」

 ……嫌な声が聞こえた、逃げよう。帰ろう。

「おい! 俺とポーカーしないか?」

 逃げようと思ったけど足を止めた。

「ポーカー?」

「ああ、興味を持ったか? 俺はギャンブルが好きなんだ」

 うわぁ、破滅しそうな趣味をお持ちですね。

「まあ、付き合う気は無いけど」

「なんだ、逃げるのか? つまらない奴だな」

 安い挑発に乗る程愚かでは無い……つもりだ。

「女に頼るだけか、女も女で馬鹿だな、こんな軟弱な奴について行かなければならないなんてさ。俺についていれば苦労することも無いだろうになぁ? そうだろう、お前ら?」

 ヘイの部下が大笑いする。これも挑発だ。だが……

「いいよ、ポーカーでお前の全財産奪えばいいんだろう?」

 仲間を馬鹿にされたら引けない。


「ディーラーはお前が選べ、ハンデだ」

 ヘイの向かいに座りトランプを投げ渡された。……このトランプ少し何かの匂いが付いている。あまりにも匂いが薄すぎて何の匂いか判別はできない。

「ウンディーネ、お願いしていい?」

『もちろんだよ』

 ウンディーネはゲーム好きだからシャッフルなんてお手の物だろう。

『はい』

 最初のベットを終え、カードが配られる。エースとジャックのツーペアか。

「自分は降りる」

「そんなに手が悪かったのか? 弱い上に運も無いと来たか。つくづく残念で臆病な奴だな」

 ……なるほどな。

「水貰える?」

「ああ」

 コップを滑らせてトランプの上に水をぶちまける。

「……悪い、代わりのトランプはある?」

「いや、無いな、買わせてくる。おい、誰か行って買ってこい」

 ……トランプの匂いはヘイのイカサマ用、一枚一枚全てのトランプに別の匂いを着け、勇者の力を使い嗅ぎ分けている、と考えられる。

 まあ、自分もシルフに空気を伝ってヘイの手を見てもらい教えてもらっている。ここまで手の込んだイカサマ、バレるわけが無い。ぼろ儲けさせてもらおう。

「新しいトランプだ。続きをやろう」

 ディーラーも何度か交代したけど、まあ、圧勝ですよねー。

「……マジかよ……」

 大敗に次ぐ大敗、絶望しますよねー。

「そろそろ終わりにする?」

「ああ、そうさせてもらう、今日は勝負運がダメだな。勝負を中断されるわ、イカサマさえ見抜けないなわ」

 ……まあ、イカサマしてたことは察するか。がっぽり稼いだし、帰ってゆっくり休もう。


 部屋に帰って早速、買ったものを整理する。部屋にお風呂までついているなんて、破格の待遇なのでは?

『ユウくん! ユウくん! 見て見て! 夜景が凄いよ!』

 部屋の窓から景色を見る。部屋は陛下が住む建物の中層にあるのでまあまあの高さがあり、帝国を一望できる。見渡す限りの街の明かり、綺麗だ。夜でも明かりをつけている建物が多いんだな。

『明日は訓練場に直接行けば言いそうです。ご主人様を測るですか……』

 何をどう測るのだろうか、想像もつかない。

「ベッドはみんなで使って。自分はソファーで寝るから。自分はソファーで寝るから!」

『2回も言うこと!?』

「しつこく言っておかないとソファーに来るでしょ? 挙句の果てに自分の上に乗り寝始めるでしょ?」

『そんなことしないよ! ね? ユウ』

 何言ってるのウンディーネさん?

「明日の為にゆっくり休ませて……」


 深夜、寝ていたのだが、体にのしかかる重さに目が覚める。

『ユウ……動くと、ボク落ちるよ……』

 ……お決まりというか、何で自分の上で寝てるんだ、ウンディーネ……

 ウンディーネが自分の上から床に落ちた。

『ご主人様の上は、もちろん、私の場所です』

 シルフがウンディーネを落としたようだ。あーあ、今夜は寝られない……

『何でオマエがボクのユウの上に!』

『何でも何もここは私の場所なので。あなたこそベッドに戻るべきです』

 ウンディーネがシルフを自分から引き剥がす。この2人はこうなると言っても止めてくれないからなぁ……枕を持ってソファーから移動し床で寝る。絨毯がふかふかで案外心地良い。もう一度眠りにつく。


 ……目が覚めると隣でサラマンダーが添い寝している。反対側にはノームも居る。……みんな床で寝てたのか……

 がっしり腕を掴まれていて起き上がれない。

「おはよー。起きてー」

『ダーリン。おはよー。あ、ごめんね。ダーリン』

 サラマンダーが腕を放す。

「ノームも起きて」

『おはよー、ユウくん。もうちょっと……』

「起きて! ノーム!」

『わぁ!? おはよーユウくん!?』

 ノームも腕を放した。

 自分の足を抱きながらシルフとウンディーネが寝ている。ベッド誰も使ってない……

「2人とも?」

『おはようございます。ご主人様』

『おはよう。ユウ』

「分かった。今日からみんなでベッドで寝よう」

 何でガッツポーズしているんですかね?


 シルフの作った朝食を食べて、訓練場に向かう。

「おはようございます。名前はいいですよね」

 訓練場で待っていたのはトモヤだった。

「これ、目を通しておいてください。今日やることです」

 紙を渡され見る。体育測定みたいな紙だ……

「昨日の見てました。俺もヘイさんも叩き上げだから。いや、何でも」

 叩き上げ……スカウトではないということか。

「早く始めてください」


 最初は筋力を測るのか……この世界に来て今まで特訓していた。しかし、全く成長している気がしないな。

 握力か。

 精一杯力を込める。

「平均以下。元の世界で言うと30くらい」

 ……30くらいか、うん、全く成長していない。

 次は持久走か……苦手だ。しかし、今までかなり走らされている。少しは成長していてもいいだろう。

 ペース配分を考えながら走る。

「これも平均以下」

 いつもと同じ、いや、学校で測った時と変わっていない。走っているはずなのに。

 柔軟や魔力も測定した。しかし、この世界に来た時、いや、この世界に来る前と変わっている気がしない。何なんだこれ!? 成長がまるで無いのか!?


「終わりましたね。提出しますので紙を」

 トモヤに紙を渡す。トモヤは自分を残し何処かに行ってしまった。

『ご主人様。特訓していますよね? しかし、まるで成長しているように見えませんでした……』

 シルフも戸惑いを隠しきれていない。毎日少しだけど筋トレはしていたんだ。それなのに全く変化が無い。

 この体に何が起きているのだろうか、今まで気になっていなかったことが取れないシミのように脳裏にこびりついて離れなくなった。

 やっぱり勇者は一度死んだことが影響して成長したり体が変化したりすることは無いのか。

「勇者も成長はする」

 戻ってきたトモヤの突き放すような冷たい一言に耳を疑う。

「成長してもしてなくても俺は知らない。原因も分かるはずがない」

 正論。それはそうだな。寝たきりだったはずのセツナ君が普通に走り回って戦っていたのだから成長はするはずなんだ……

「休めば? もうやることは無いってマリスさん言ってたから。明日は仕事があるってさ」

 ……休ませてもらおう。疲れた、心身ともに。何て言うか頑張りを否定されているような、嫌な感じ。

 明日の仕事か……こんなことで落ち込んでいられない、あのお方探し、頑張らないと、ニグレドを追えない。

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