53話 その正義の終焉
「……決闘?」
セツナ君に聞き返す。
「そうです」
決闘……決闘かぁ……命を懸けて死合うあれ?
「ユウさんと戦えば僕にも分かる気がするんです。僕が本当に追い求めている正義が」
正直なところ、体は内外ボロボロで立っているのもやっとだ。眩暈だってするし体で痛いところが無いくらいだ。
「はぁ、分かった。受けて立つよ」
セツナ君の目は真っすぐで迷いを見据えていた。
「ユウ!? ダメです、その体でまともに動ける訳がありません! 下手をすると死にますよ!」
師匠が体を掴み止めにかかる。師匠の腕を振り払いナイフに手をかける。残るボトルは全員分が1セットだけか……心もとないな。
「師匠、危ないので下がっていてください」
手が震える……力を籠めてナイフの柄を握り震えを止める。
「馬鹿です! 本当に大馬鹿です! どうなっても知りませんからね!」
「あらかじめ言っておきます。僕の剣先に入ると結晶が生えることになります」
セツナ君が壁に剣先を向けると壁に禍々しく美しい紫色の結晶が生えた。セツナ君は堂々と自分の手を明かしてきた。
「僕ばかりユウさんの戦いを見て、手を知っているのは不公平ですから、それに」
……それに?
「ユウさんは弱さを情報でカバーして戦うタイプなので、今のままだとただ弱いだけになりますよね」
揃いも揃ってみんな自分の事を弱いって言い過ぎではないか? 悲しいことに精霊達の力を借りないと何も出来ないから、事実だけどさ。
「負けた時の言い訳にしないでよ?」
精一杯強がりを言って、ナイフを構える。
「はい! 全力を持って挑ませていただきます! ユウさん!」
お互いに武器を構える。
「先手必勝ということで僕から行かせてもらいます!」
床が宝石で覆われる。ギザギザで動き辛いし、こけたら酷いことになりそうだな。
セツナ君は宝石の上をものともせず、自分に剣先を向けながら走る。
迎え撃つ、それしかない。ボトルを全て開けながら、セツナ君の剣先から外れる。剣先の向いた壁に結晶が生えた。遠近隙が無い。
「僕は……正義のヒーローになりたい! アルベド様やユウさんみたいな正義のヒーローになりたいんです!」
剣を振りながらセツナ君は叫ぶ。自分がヒーローか。セツナ君の剣戟をナイフで捌く。間に土の壁を造るとセツナ君に壁を切り裂かれた。そこに正面から蹴りを入れる。剣の腹で蹴りを防ぎ弾かれる。
「正義のヒーローなんかではないさ。そんな崇高なものになったつもりは……無い!」
セツナ君の憧れる自分は、上澄みのようなものだ、見えているそれだけが自分ではない。剣のリーチに入っているので剣を振らせないために続けざまに蹴りを入れ続ける。
「アルベド様は、強くて……正しくて……聡明で……どれだけ酷い目に会っても立ち上がった。本や映画の中に出てくる主人公そのものだった。そんなアルベド様にユウさんは勝った。僕は知りたい! そしてそれを吸収して強くなりたい!」
剣が腕を掠め服を切り裂いた。腕から結晶が生える。剣を振り切った隙を突き顔面を殴り、距離が出来る。
痛いし怠い……毒が体を回り始めた。
(正義ってのは泥のヘドロの沼の底にあるもんだ、世間は沼の上澄みしか見てねぇけどな。ってことで、違法捜査してるけど、まぁ見逃してくれ。な?)
昔のことを思い出した。知ってるんだ。正義が綺麗な物ではないことくらい。セツナ君の言うおとぎ話のの主人公のような正義だけではないことを。腕に生えた結晶を破壊して傷を焼く。さて、自分はセツナ君にどう対応するべきなのだろうか。
セツナ君が剣を振る。剣先が向いた場所全てに結晶が生える。強すぎて変な笑いがでそうになる。同じ勇者なのにここまで違うのか。精霊と契約出来るだけの能力、契約し終えたら能力が無いに等しい。
「悪いけどさ、セツナ君。絶対に負けないから」
かまいたちを起こしながら同時にセツナ君に突っ込む。
「僕だって負けるつもりはありません!」
セツナ君はかまいたちを剣で防ぎながら、しっかりと構える。
セツナ君の剣が腹に刺さる。ナイフを捨てセツナ君の腕を抑え剣を抜けないようにする。
結局、泥臭くやるしかないか……それが……自分だから、自分は強くないから。
何度も頭突きをする。額から血が滴る。どっちの血か分からない。
「……まだ! 僕は! 正義のヒーローはこんなところで負けない!」
セツナ君の蹴りが脛に入り、腕を放してしまう。腹から剣を抜かれ血が大量に零れ落ちる。セツナ君が距離を開ける。血を止める為に傷を焼く、痛みに痛みを重ね続け、麻痺してくる。あまり長引けば出血多量で死ぬ。
どうやってワンチャン通すか……それ以外に勝ち目が見え無い。出血し過ぎでボーっとして思考がまとまらない。ボトルの使える時間ももう長くない。
自分の命を懸けているわけでも仲間の為でも無い、戦い辛い、このまま倒れた方が楽に終われる。セツナ君も倒れた相手にわざわざ止めを刺さないだろうし。
でも、負けたくない。それしか考えられない。必死に勝てる方法を探る。地べたに這いつくばってでも、泥水を啜っても勝ちたい。
だって、自分だってカッコよく居たいから。
ナイフを拾う為に屈む、血が足りない……
「はぁああ!!」
一瞬気を失っていた、セツナ君の声で目が覚めた、倒れかけている。ここぞとばかりにセツナ君が斬りかかる。
ふらつく程血を失っている状況で頭を下げれば、気を失う可能性があることは分かっていた。
だからこそ、セツナ君もここで決めに来ることも。
いずれにしても自分もここで決めないと、もう勝ち目は無い。残りのボトルの力をかき集める。
剣が肩に食い込む、肉が裂け血が噴き出る。
ナイフを拾い、ナイフに力を全て付与する。
「その状態から反撃出来ることは流石ですけど、僕の方が一枚上手です!」
宝石で盾を作りナイフを阻む。
「さあな?」
ナイフが盾に当たる。水、土、焔、風の嵐が宝石の表面を少し削った。
「僕の……勝ちです!」
「いいや、ここからだ、ここからが自分の……正義のヒーローの執念だ!」
4属性の嵐に宝石が混じる、同じ強度の宝石なら宝石を穿つことが出来る。宝石が宝石を削る。
「無様で弱くてせこくても物語のように行かなくても」
……やっぱりか、やっぱりそうだよな、自分のヒーローはあの人しか居ないから。
「正義のヒーローはカッコいいからさ」
盾を貫通してセツナ君の腹部を貫く。
「ぐっ!?」
「違法捜査してんの? やばくない?」
「まあ、軽い不法侵入とか令状無いのに捜査したりとかさ、やった方が早い時も有んだよ」
「アホだなー。捕まっても知らないぞ。居酒屋で人居るのにそんなこと言ってさ」
「まあ、お前が警察になって不正を正してくれるっつうんならさ、俺も安心して捜査が出来るんだがなー」
「誰が警察なんかになるか!」
勢いに任せて心にもないことを言ってしまった。
「流石のツンデレっぷりだな、まあ、頑張れよ、将来の相棒」
酔ってわけわかんないこと言いやがって。勢い良く料理を掻き込む。
「馬鹿! それは俺のだ!」
素直に警察になりたいと言わなくて良かったかもしれない。叶わない夢になったのだから。
鳥のさえずりで目が覚めた。夢だと分かっていながら夢を見ることは切ない。
「おはようございます。大馬鹿者」
師匠か……
「一番最初に起きるのが一番ボロボロなユウだとは思いませんでした」
周りを見るとみんなベッドに倒れている。
「私もずーっと働き詰めでそろそろ倒れたいのですが」
師匠がベッドの端に座る。
「すみません。師匠」
「でも、まあ、ユウのおかげで少し状況は変わりましたよ」
……それはどういう?
「この騒ぎに騎士団が介入することになったのです」
「どうしてこんなことになったのか僕らが調査しなければいけなくなっただけだよ。もう見て見ぬふりはおしまい。君が命懸けでやったことには報いてみせるよ」
ネクサスさん……
「でも、まあ、国王を襲ったことに対する罰は受けることになるだろうね。まあ、それは色々あるから後程ね」
王様を襲った罰……うん、普通なら極刑だなー……
「ユウ。アメジストちゃんのことで相談があります」
「関わりのある話だから寝たふりはそろそろ終わりだよ、アルベド」
「ふんっ。ネクサス、相変わらずだな。しかし、奴の魔王化はおおよそユウが原因だ。俺様が関わる必要は無いはずだ」
アルベドも起き上がり話に加わる。聞き捨てならないこと言い始めた。アルベドをネクサスさんが睨んでいる。
「はぁ、魔力異常というボカした言い方はもう必要無いだろう? ほとんどの魔王化は勇者の魔力を取り込んでしまったから起きている。今回も例にもれず、奴は貴様の魔力を取り込んでしまったのだろう」
「マジで言っているのか?」
「何故嘘をつく必要がある?」
「本当にごめんね、ユウ君、嘘では無いんだ」
ネクサスさんまで……
「暴走の方は勇者の魔力を取り込み過ぎたのだろうな。勇者の魔力を取り除くことで症状は抑えられる、良かったではないか、貴様が魔力を吸い出せば良いだけなのだから、まあ、貴様も魔王化の影響を受けることにはなるけどな」
ネクサスさんも師匠も俯いたまま何も言わなくなった。事実なのか。
詳しい説明を受ける。魔力を取り除くことは容易ではない、しかし、元々自身の魔力なら取り返しやすいらしい。
ただし、取り返す魔力は暴走していて、取り返した人も魔王化する。そして、取り除かれた方の魔王化も完全に消すことが出来ない。……仕方ないか。
「師匠。早くやりましょう? やってしまった方がみんな楽になれますよ」
しかし、皮肉というか、普通は魔王を止めるために勇者が生まれるものだと思っていたけど、勇者から魔王が生まれるなんてな。
「……分かりました。ユウには、苦労をかけますね……」
自分が魔法を使えないから師匠達にやってもらうことになった。
「久しぶりエリファスとして表で仕事をすることになるなんて、嫌という程因縁を感じるよ」
ネクサスさん、賢者エリファスの名前も持ってたの? 何でも有りだなこの人は。
「始めるよ? 準備はいい? エレノア司教」
「大丈夫です。ネクサス様。ユウはそのままにしていてください」
……
「はい、終わり、異変は……うん、あるね」
「……え?」
体の感覚は何も変わった感じも無い、体を見ても何も変わっていない……
「ユウ。驚かずに聞いてください。目から華が生えています」
……えぇ!? 思い切って瞬きをする、何が体に当たり落ちた。恐る恐る下を見ると華が落ちていた。
「あ! 治りました。良かったですね?」
「良くないですけど!?」
『やはり、アメジスト様と近い魔王の力を得たという事なのでしょうか?』
起きて来た精霊達に一連の話をする。
『どれくらい出来るか試した方が良いよね? ダーリン?』
なるほどね……集中して花畑をイメージする。
床に一輪だけ華が咲いた。
『わぁ! 可愛い! お姉ちゃん貰っていい?』
ノームが花を摘む。思っていたものとは天と地ほどの差がある。
『ユウ? 上手く使えなくてもあまり気を落としたらダメだよ? ボクが居るからね。よしよし』
上手く使えないことに気づいたウンディーネの慰めが辛い。
「遊んでいる暇が有るのか? もうすぐ極刑だぞ?」
アルベド……
「なら、刑の前に単刀直入に聞くけどお前がダグザ王を魔王化させたのか? アルベド」
「その問いをしている時点で答えは分かっているのではないか?」
「いや、確証が無いから、そうとも言えない」
「ふぅん、そのまま遊んで刑を待つ気か? それもいいだろう、貴様らしい終わりだ」
「それはお互いに最悪の手ではないか? 自分は死に、お前は過ちを犯すことになる」
「くだらない言い合いは終わりでいい。行くぞ」
「僕もお供します。アルベド様。ユウさん」
「ここだ」
城の一室、ここにニグレドが幽閉されているのか。ダグザ王の魔王化、アルベドの封印、全てがこの男の良いように回った。どんな手を使ったのかここで暴く、もう自分も後が無い。
「開けます」
セツナ君がドアを開ける。中には誰も居ない。
「どうなっている? ここは厳重に魔法で封鎖しているはずだ!」
衛兵も驚いている。密室から人が消えた!?
「影です! 影の能力を持っていた男です!」
セツナ君の言葉で察する。しまった! 影が部屋から逃げてゆく。
「拡散、反射、光輪!」
影は光に当たり消えた……
「完全にやられましたね」
「でも、全て分かった、ダグザ王の魔王化はアルベドを嵌める為にニグレドとあの影の能力を持った男が起こした。方法は影の男の魔力をダグザ王に取り込ませたんだろうな」
ああ、全て分かったんだ。
「でも、何処に逃げたのかも分からない……どうすれば……」
「私がお手伝いしましょうか?」
……誰だ? 機械のように冷たい声だ。
「……マリス殿」
アルベドの呟いた名前に聞き覚えは無い。声のした方を向く。紳士然とした服に顔の無い真っ白な仮面、インナーウェアと手袋とシルクハット、素肌が見える場所が無い。
「こんにちは、アルベド王。さて、私はバール帝国皇帝補佐マリス、と申します。初めまして。ユウさん」
「はぁ、そうですか……こちらこそ……」
……帝国のお偉いさんか。
「それで、もう準備は済まされましたか?」
自分の方を向いて聞いている。……自分?
「……何の話ですか?」
「ああ、まだ、話が伝わっていませんでしたか」
アルベドがそっぽを向く。セツナ君は話についていけていない。
「あなたは極刑を回避する代わりに帝国に食客として招かれることになっています」
……何!?
『そうなの!? ユウくん!!』
精霊達が騒めいている。
「いや、自分も初めて聞いたんだけど!?」




