51話 光輝と執着の魔王
「何でついて来たんだ?」
屋敷までついて来て、息を切らせ肩で息をしているジュンが怒っている。
「てめぇなぁ、どうやってエレノア司教の下まで行く気なんだ? 場所知ってんのか?」
そう言えば知らない。転移魔術の使える所まで連れて行ってくれるのか。
「いや、うん、そうだな。悪い。準備できるまでソファーに座ってゆっくりしていてくれ」
先に屋敷に帰って来ていたシルフ達に説明し、出発する準備をしなければならない。少し時間がかかる。
「おう、そうさせてもらうぜ」
『お昼ご飯は食べましたか? ご主人様。もし食べていないのでしたら食べていきましょう。着いてお腹を鳴らして、わざわざエレノア様の気を煩わせることはありません』
お昼ご飯をもう作っていたシルフと話す。
「それもそうだな。ジュンの分も頼んでいい?」
『はい、承りました』
「悪かったな、わざわざ俺の分まで」
お昼ご飯を食べ終わった。
『いえ。主人のお客様ですので』
シルフはモニカやソフィアと淡々と食器を片付けている。
『片付け終わりましたら出発しましょう。ご主人様。準備しておいてくださいね』
シルフに食器は任せて準備を急ごう。
「うん、分かった。ありがとう。シルフ」
『いえ、構いません。なので、さっさと準備をしてください』
手厳しいが、まあ、いつも通りというか……
「全ての詰め所で転移魔術が使えるわけじゃねぇ。ちょっとは歩くことになるぞ」
そうなのか、てっきり全ての詰め所で転移魔術が使えると思っていた。
「てめぇの事情はネクサスさんから聞いた、てめぇはこれからどうするつもりなんだ?」
詰め所まで歩きながらみんなと話している。
「別に、どうするもこうするも無いような気がするけど」
「状況分かってんのか? 国に喧嘩売ってんだぞ? 馬鹿でもやらねぇよ!」
興奮気味にまくし立てられた。あと、暗に馬鹿って言われてるよね……
「この国がどうなろうと自分にはどうでもいいんだけど。それにネクサスさんが居れば滅びることは無いでしょ?」
ジュンは目に見えて呆れる。
「はぁ、俺には分かんねぇわ」
「じゃ、あとは頼む。まあ、なんだ、意識戻って良かったな。俺は仕事に戻るぜ」
詰め所まで着き、ジュンは詰め所の団員に自分達を引き渡し去って言った。
「では、ご案内します。快復、良かったですね」
もしかして、ネクサスさんはみんなに話したのだろうか。あまり広まっていいことでは無いような。
「まあ、ありがとうございます」
団員に案内され転移魔術を発動してくれる。
「帰りもこちらを利用されますよね?」
「まあ、たぶん、そうです。その時はお願いします」
「はい、分かりました。いってらっしゃい」
アメジストや師匠の居る聖堂に着いた。シスター達が騒がしく慌て動き回っている。どうしたんだろうか? 騎士団はいつも通りだったから何か大きな事件が起きたということは無いはずだけど。
「ユウ! アメジストちゃん達を見ませんでしたか?」
師匠が不吉なことを言いながら駆け寄ってきた。
「見てないです。師匠、何が起きたんですか?」
師匠は一枚の手紙を取り出し自分に渡してきた。半分くらい読めない……
「これを置いてアメジストちゃんとサファイアちゃんが居なくなりました」
手紙をソフィアに渡し読んでも貰う。
「師匠、ごめんなさい。私は、やっぱり命を捨てでも復讐するつもりです。目の前で父上を殺されたのに黙っていられません。だから、探さないでください。あと、もし、ユウに会ったら言っておいて欲しいです。今まで巻き込んでごめんなさい、最後の私の身勝手を許して欲しいですわ。と書かれています。アメジスト姫!?」
まさか、突っ込んでいったのか!? 冷や汗が止まらない、最悪の場合が簡単に頭に浮かぶ。
「行かないと、時間が無い! 師匠! 転移魔術をお願いします!」
師匠は動こうとしない。
「……ダメです。行っても間に合わないかもしれない、そうなったとき、あなたまで失うことに私は耐えられません。それに、勝てる保証も……ありませんし」
師匠は俯いた。地面に水滴が落ちていた。泣いていた……
「まだ、間に合わないかどうか分かりません。いや、絶対に間に合わせます! だから、師匠!」
「調子に乗らないでください!!」
師匠の怒号が聖堂に響いた。
「師匠?」
師匠は拳を握りしめ震えていた。
「暴走状態の魔王を何とか出来たくらいの力では、どうにかなる問題ではないのです。完全に覚醒した魔王というのは暴走状態の魔王とは桁違いの力を持っています」
師匠は声を震わせている。
「師匠」
意を決して声を出す。ここで引くわけにはいかない。
「……何ですか?」
「自分達の事を弱いと思ってます?」
「はい。あなたにアルベド様に勝つくらいの実力はありませんよ。アルベド様の力は光、どうやって勝つつもりなんですか? 愚かにも程があります」
「ふっ。対策はもう有るんで。圧勝して見せますけど。師匠も簡単に倒して見せましょうか?」
精一杯のドヤ顔を師匠に見せる。師匠は呆れている。
「馬鹿ですね。なら、私に勝てたら、考えてあげます。現実を見せてあげます」
よし、乗ってくれた。
聖堂の前の広場に出る。
「最初から本気で行きます」
師匠がシスター服を脱いだ!? 白いレオタードを中に来ていたのか。いや、目のやり場に困る。
魔法陣が師匠の四肢の先に出てくる。ニーソと長手袋の上に魔法陣が出現しその中から白い鎧が出てきて装着される。そして、魔法陣の中から胸当てと共にハンマーが出現し装着した。
「この鎧は自動で魔法障壁を発生させ、身体能力も強化してくれます。努々勝てるとは思わないことですね。現実を分からせてあげます」
ハンマーを振り下ろしながら飛び掛かってきた。
「シルフ、防御頼んでいい?」
『はい、もちろんです』
自分の体を包むように強風が展開される。ハンマーは風にあおられて横を通り過ぎて行った。
「当てないんですかぁ? ならこっちから行きますよ?」
時間はかけられない、早くけりをつけなければ。
「サラマンダー」
サラマンダーは師匠との間に火球を一つだけ作り、師匠に飛ばす。魔法障壁に防がれあっけなく火球弾け消えた。
「……舐めているのですか?」
忌々しそうにキレている。
「ええ、もちろん!」
ウザいくらいの笑顔で返した。
『ダーリン!?』
「サラマンダー、さっきのを連発して距離を稼いで欲しい」
『いいけど。師匠を怒らせて大丈夫なの?』
「いやぁ、あとで謝らないとね……まあ、頼むね」
サラマンダーが火球で絶え間なく弾幕を張る。火球が弾ける爆音で今ならどんな大声で叫んでも師匠には聞こえないだろう。
「ノーム」
『お姉ちゃんならいつでも大丈夫だよっ!』
「それは心強い」
『「破城土槌!」』
ありったけの言霊を込めて呪文を唱える。右腕に土石が絡み付く。重い……スピードを犠牲にして威力に特化させるなんてあまりらしくないな。
『ごめんダーリン! もう無理!』
弾幕が途切れ、煙の中を突っ切って師匠が現れる。飛んだ!?
「サラマンダーありがとう。もう大丈夫」
師匠がハンマーを振りかぶる。ハンマーの頭が展開し大きくなり後ろ側にブースターのようなものが出来ている。ブースター部分から魔力の光が溢れ出ている。
「これで諦めてください!」
ハンマーを自分目掛けて振り下ろした。
『させません!』
シルフがどれだけ強風を吹き付けてもハンマーの軌道は変わらない。師匠の絶対優位が見て取れる。
「無駄です! あなたに止められるわけがありません!!」
『そんな……なんて、これでいいですか? ご主人様』
シルフが退避して、準備が整った。
「もちろん。ありがとう。シルフ。さあ、やるよ、ノーム」
『もっちろん!』
『「破城土槌! 展開!」』
右腕を師匠に向ける。右腕に纏わりついていた土石が大きなクローに変化し師匠ごと魔法障壁を掴む。師匠がハンマーを振り、ハンマーがクローにめり込むがクローは壊れず、ハンマーをクローの土の中に取り込む。
『「破壊する! その魔法障壁を!」』
凄まじい力で魔法障壁を握り、地面に叩き付ける。魔法障壁が割れた、尻餅を着いた師匠を取り囲む。魔法障壁の張れない距離に入り、精霊達が魔法を撃つ用意をしている。
「どうですか? 師匠」
「はぁ、分かりました。仕方がありません。言ってしまったのですから。でも」
師匠が尻餅を着いたまま自分の脛を蹴った!
「いったいっ!!」
「少しは師匠に気を使うことです!」
「えぇ……」
そんな理不尽な……
師匠は武装を解除してシスター服を着た。
「ユウ。これを」
何故かシスター服を渡された。結構大きい、いや、またなのか!?
「それに着替えてください、変装です」
大真面目に何を言っているんだ!?
「あの、師匠、変装は必要ないと思いませんか? だって、別に普通にしていたら敵意有るように見えませんよね?」
「何を言っているのですか、ユウ。あなた、城に入れませんよ?」
……え? 何でそんなことになっているのだろう?
「前に暴れてアルベド様に刃向かっているので警戒されているに決まっているでしょう」
確かに……騎士団所属は監視だからアルベドが警戒していることは分かり切っていることだった。
「どうしても……それでないとダメですか?」
「残念ですがここにはこれしかありません」
後ろから肩を掴まれた……みんなが笑っている。
『着替えましょうね?』
『大丈夫だよ。ダーリンなら何を着ても似合うから』
『はぁ……はぁ……もう興奮で鼻血が出そうだよ、ボクは……』
『ご、ごめんね? お姉ちゃんにどうにも』
「えっと……大丈夫です! ユウなら似合いますから!」
「兄……頑張って!」
「楽しむなーーーー!! がはっ!?」
殴られ、無理矢理着せ替えられた。
「はぁ、何で毎回さぁ……こんなことになるんだろう」
みんなシスター服を着ている。自分含めて。
「ぼやいている暇はありませんよ。座標を合わせたので一気にアルベド様の下まで行きます」
ますます変装の意味が無くなっている。
転移魔術が発動し、玉座の手前の広場まで転移した。
玉座の方が眩しい。これなら、まだ間に合う! ボトルを開け、玉座に走る。
体中に火傷をしてボロボロなアメジストとサファイアが壁際に追い込まれていた。
「拡散、反射、光輪!」
玉座からアルベドが攻撃を始めた。間に入り疑似魔法障壁を張る。
「ユ……ウさん? 何でここに? みなさんまで……来たら、ダメなのに……」
息も絶え絶えなサファイア達を師匠やソフィアが介抱している。
「何の真似だ? シスター」
……えぇ、自分に向かって言っているよね? 変装って意外と効果有るのか……
「よぉ。久しぶりですね。アルベド王」
「……何!? シスターでは無いな!?」
はぁ、どうしようか……まあ、変装を外そうか。シスター服に手をかけ脱ぐ。いつもの服に戻った。
「な!? 貴様!? どうやった!?」
後ろから精霊達が着せ替えただけなんだが、まあ、言わないでいいや。
「何故、こんなことを? アルベド王」
アルベドは玉座から降りてきた。
「決まっている。王を討たんとする者を野放しにするつもりは無い」
「そうではないだろ。ダグザ王を殺して何故謝罪すらしない。アメジストはお前に家族を殺されたんだぞ!」
「黙れ。国を守るためだ」
「……何?」
「この国を守る為ならば俺様は何でもしよう。非道だと言われようが、守るために為すべきことを為すだけだ。代々この国を守ってきた王達のように」
「人を犠牲にしてまで国を守りたいと言うのか!?」
「そうだ。そこを退いてあの二人を俺様に寄こせ。そうすれば他の奴は助けてやる」
「出来ないし、させない。自分がお前を倒す。そして、この復讐を終わらせる」
「くだらない。貴様に何が出来る? イキがるなよ、雑魚が」
「弱いことくらい分かってるさ、でも、お前にだけは負けられないんだよ!」
ノームの力で砂埃が立ち込める。少しでも遮光出来れば。
「分かった、貴様もここで終わらせる。それでいいな?」
「拡散、反射、光輪!」
アルベドの背後に出来た光輪から何本も湾曲し、壁を反射し、自分を狙って光が進む。
躱せない、疑似魔法障壁を張り防ぐが、障壁を貫通し手足を焼く。直撃した場所に穴が開かない分、威力は砂埃と障壁で削れている。これなら自分でも耐えられる。
『ダーリン! 何でダーリンが受けているの!? ダメだよ!』
サラマンダーか……
「違う、自分で受けなければいけないんだ、みんなにはその分攻撃を頑張って欲しい。そうでないと勝てない」
自分一人でダメージを受ければ、精霊達は攻撃にまわれる。
『うぅ……分かった……ダーリン! 絶対に倒れたらダメだよ!』
「甘いな。光輝、直射、閃光!」
アルベドの指先が輝いた。
次の瞬間、バランスが崩れる。左肩を前から押された気がした、左肩から左腕が無くなっていた。
後方でドサッと音を立てて何かが落ちた音がした。吐き気と眩暈がする。怖くて確認できない。
そんなまさか、そんなまさか、そんなまさか……焦げた臭いがして左腕の感覚が無い。
「ユ、ユウの左腕が……何で私は、何で……こんなこと望んでなんか……こんなの有り得ないわ……」
アメジストの声が聞こえた。力が抜けて膝をついた。




