50話 Spiral・Love・Trap
「おはよー。もう昼近いけど……」
リビングに入ると、ウンディーネが本を読んでいる。
『おはよう。ユウ。みんなは日用品を買いに出かけたよ。ボクはユウのお守りだよ。そこに朝ご飯があるから、もう、冷めたけどね』
まあ、朝ご飯が覚めたのは自分が朝に起きなかったから仕方ないけど。
「その本は?」
『そんなことより早く朝ご飯食べたら? あまり放置すると良くないよ。ユウ』
「まあ、そうだけど」
いつもと違って冷たい……静かに朝食を食べ、食器を洗い、リビングに戻る。
『ふふっ。ふふふっ。ふふふふふふっ』
突然笑い始めた、そんなに面白いことが書いてあったのか?
『ユウ! そこに立って! 早く!』
いきなりどういうこと!!!!?? 言われた通りにしてソファーの前に立つ。
『……』
ウンディーネに睨まれ、眩暈がする、どうしたんだろう、今日。ソファーに座り目を閉じ休む。
「うん! 成功だね!」
……あれ? 今自分は声を出したか?
「もっと驚いてもいいよ?」
何も言っていないのに自分の声が聞こえる。目を開けると目の前にさっきまで居た場所に自分が居る……あれ? この視界の位置だと自分はウンディーネの居た場所に居るのか?
『なあ? ウンディーネ? 何を……』
自分が話したはずなのにウンディーネの声が聞こえた……まさか、体を入れ替えられた!?
「やっと気付いた? そうだよ、今はボクがユウでユウがボク、魔法の入門書で勉強してみたんだ。眉唾物だったけど、案外出来るものだね」
著者にエレノアという文字が見える。まさかね。
『満足した? そろそろ戻して欲しいんだけど?』
ソファーに体を預ける、体がいつもより軽いが、筋肉が無い分軽いのは辛いだけだ。
「ふふふっ。今日一日は戻らないよ。ユウ」
……何? 一日!?
「諦めてボクとデートしようね」
自分で何言ってるか分かってます!?
「それとも、このままここに居て、みんなにどう説明するつもり?」
……むむむ、説明しようとすればするほど沼にハマっていく行く気がする。
『分かった。デートに行こう』
体が交換されたまま街に繰り出す。
「ユウ。僕の腕につかまっておいた方がいいと思うよ?」
そこまで人が多いわけでは無い。別につかまらなくたって歩ける。
『それ、どういう意味?』
後ろから肩を叩かれた。何だ? 振り返ると二人組の男が立っていた。
「なあ、姉ちゃん、そんなボケーっとしたダサ男ほっといて俺達としようぜ!」
古典的なナンパの手口だ、漫画でも見たことが無いぞ。
『ウンディーネ、テキトーに頼む。怪我させないでね』
……いや待て、今は自分がウンディーネだ、この場合はどうなるんだ?
「いいよ、でも、もちろん、分かるよね?」
いや、言ってくれないと分からないけど。
「ああ、君達、ボクのユウに悪く言ったこと絶対に許さないから!」
今はウンディーネがユウなんだって! それただの変人だからね!
「え!? 何だこいつ頭狂ってるのか!?」
肩から手を放し逃げ腰になっている。
『ウンディーネ、こいつらの記憶を消せる? 周りに話される前に絶つ』
ウンディーネは空気中の水を集めハンマーの形に変える。それで頭を殴れば記憶がとばせそうだな。
「もちろん」
ウンディーネが二人に向けてハンマーを振り下ろした。
「うわぁぁぁあああああああ!!!」
『やりすぎだな、仮にも一般人なんだから』
たんこぶや痣をいくつもつくり男たちは倒れている、明らかにオーバーキルだ。
「彼らが悪いんだよ? ユウを馬鹿にする奴に価値なんて無いからね?」
暴論過ぎて突っ込む気すらしない。
「さあ、掃除も終わったし何処に行く? ボクと楽しいコト、しない?」
『止めてくれ、その体自分の体なんだから、ちょっと気持ち悪い』
「ふぅん? ボクはこの顔も体も全て好きだけどね。アイシテルよ?」
おわぁ……これは酷い……正直世界一見たくないものかもしれない。
「うーん? 逆効果なんだね。気を付けないと。まあ、何処かに遊びに行こうよ。ね?」
ウンディーネは自分の体を気に入って楽しんでいる。
『頼むから、早く体戻して……』
超上機嫌で街のお店を見て回るウンディーネについて行く。何故か何度もナンパされ、その度にウンディーネが蹴散らしていく。……ウンディーネが元の体の時は誰もナンパしてこないのに何でだろうか?
「見てアレ、ジュースにお菓子を入れてるね、流行りなのかな? ボクとしては行儀の悪さが気になるけど……」
ウンディーネの示すお店に若い女性が集まっている、ああいうタイプって何処でも流行るものなんだな……
『買ってみる? 物は試しだよ』
「ボクは流行りものよりユウの好きなものの方がいいんだけど。ユウの好きなものひたすら追って、追って追い続けるんだ。ボクにとってはそっちのほうが幸せだよ?」
……一瞬だけ健気に見えた。
「まあ、ユウが気になるなら、買ってもいいと思うよ」
『……ああ、うん、分かった、買って来るよ』
お店に向かおうとすると、ウンディーネに腕を掴まれた。
「待って、一人で行ったらダメだよ? ボクが守ってあげる」
ああ、はい。結局、2人で列に並ぶのか。
「なるほど……味は普通。特に言うことは無いね」
買って近くのベンチに座り、飲む。ウンディーネはこういう事にはさっぱりしているんだな。
『キャッキャッしながら雰囲気を楽しむものだから。たぶん』
とはいえ自分もこんなことでキャッキャッしたことが無い。悲しきボッチの性。
「ふーん。ねぇ? こっち見て?」
何だろうか。隣にいるウンディーネの方を向く。目の前にジュースのストローの先が自分に向いている。ウンディーネは持っているジュースのストローを自分の口に突っ込んだ!?
「あげる。ボクはもうジュースには満足したから、あとは、ユウが飲んでいる所を眺めて満足することにするよ。ふふっ」
周りの通行人がざわめく、分かる。とんでもないバカップルだよ、これ!?
『ウ、ウンディーネ? そんなに見つめられると飲み辛いんだけど』
「なら、ボクが飲ませてあげるよ」
無理矢理口にストローを突っ込んでくる。違う、そうではないでしょ。
ウンディーネが覆い被さるようにベンチの背に手を着く。
『どうしたんだ? ウンディーネ?』
凄く顔が近い。
「凄くイイコトを考えついたんだ、ユウ」
悪い顔をしながらさらに顔を近づけてくる。周囲に自分達を見てざわめく人だかりが出来始めている。
『ウンディーネ? 何を考えているんだ?』
ウンディーネから魔力を感じ、眩暈がして目を閉じる。
次に目を開けるとウンディーネの顔が目の前にあった。
『そんなにボクを求めてくれるんだね! ボクはとても嬉しい!』
策士め!! 大衆の前で元に戻して既成事実を作る気か!
『ボクはもう、準備……できてるよ?』
ウンディーネはジュースを口から離し、目を瞑り唇を差し出す。
「うおっ! キスか!? スゲー!! やるなー!!」
周りの大衆も好き放題言い始めた、このままでは収拾がつかない。
ウンディーネの口にストローを突っ込み、抱きかかえる。お姫様抱っこして大衆から逃げる。
『ユウ? 女の子にここまでさせて逃げるの?』
「悪いけど、人の策に嵌るのは耐えられないからね」
『ユウらしいけどね、まあ、後で覚えておいてよ』
拗ねた。
ジュースを飲み終わり、体も元に戻りデートの続きをするが、ウンディーネが頬を抓り放してくれない。
「えーっと、まだ、機嫌なおしてくれない?」
『もちろん、それなりの誠意が必要だとは思わない?』
うーん……どうしようか……街を探索しながら考える。
「言うこと聞くよ? 何でも、とはいかないけど」
『なら、もう一度』
有無を言わさず、体を交換させられた。
『半日経たないと解除できないみたいなことを言って無かった?』
「それはボクが解除しない場合だよ?」
なるほど、全て話していないだけ……という、卑怯な手を……
「あそこに服屋があるよね? ユウ。あそこの服、ボク好みなんだよね……でも、ボク一人で見て買うと後ろとか分からなくてまだ買って無かったんだよねー」
要望は着せ替え人形か……
「良かったよ、客観的に服を選べるなんて滅多にできることではないからね、ユウ」
「まずは、この服」
渡されたのはワンピース……試着して、ウンディーネに見せる。
「なるほど、ちょっと回って。見えないかチェックするから。スカート部分を持って優雅にね」
『分かった。はぁ』
言われた通りに回る。見えそうで恥ずかしい。
「うん、いいね、つぎはこれ」
胸部を強調させたダボっとした感じの服だ。
『下は?』
「無いよ。ちゃんと隠れるように作ってあるし、ボクの部屋着にするつもりだからね。着心地の感想も頼むね」
強引に試着室に放り込まれた。
『こ、これで、どう? 凄くスースーして恥ずかしいんだけど……』
ウンディーネは表情を変えず、服をしっかり見ている。
「着心地はどうかな?」
『え? だから、スースーして……ちょっと……』
「それは来てない部分の感想だよね?」
え? あ、そう……なの?
「そもそも部屋着だから下着は付けないで着ないと……ね?」
酷い辱めだ。今度は下着を脱いでウンディーネに見せる。
「どう? 顔が真っ赤になってるよ?」
恥ずかしいに決まってる。少しでも動けば他の客に見えるかもしれないのに……
『着心地は……生地が柔らかくて凄く楽……あと、薄くて……』
ウンディーネが服を触る、見えるから!
「確かに、でも、薄すぎかな、すぐに破れると、余計な出費になるからね……」
「お客様、その服は薄いわりにとても丈夫なつくりとなっていて、部屋着の中では断トツの人気なんですよ」
店員さんが近寄り、服の良いところを教えてくれる。見えてない? ウンディーネが服の裾に手をかける。待って! それは見えるって!?
慌てて股をてで抑え、服の下が見えないように隠す。
『ま、待って! それ以上はダメ……!』
「ああ、ゴメン。これ、買おうかなぁ」
「え? ああ、はい、値段はこのくらいなので少し値を張りますけど、それ以上の価値があると思いますよ」
店員さんは少し困惑した顔をしたがすぐに営業スマイルに戻った。それはそうだ、女物を男が何食わぬ顔で買おうとしているのだから。
「分かりました。買います。良かったね、ユーウ?」
完全に弄ばれた。お嫁に行け……いや、違う婿だ。
「あ!」
ウンディーネは何かを見つけてそっちに向かった。その間に下着を着けておこう。
「これ見てよ。可愛いよね? 着て?」
……バニーガールみたいな服だ……何でそんなものが置いてあるんだこの店は!
『え?』
服を受け取りどうしていいか分からず立ち往生する。
「可愛い、涙目で困惑するユウ、もっとイジメたくなるよ」
足元から水が這いずり上がり、手首と足首にしっかりと固定された。
「大丈夫、それが補助してくれるから」
強引に水に体を操られ着替えさせられる。
『え? え? え? う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?』
大事なところをほぼ隠せていない、腕で隠しながら崩れる。ニヤニヤしたウンディーネが自分を見ている。
「可愛い。これも買っておこうね。良かったら、これを着て相手をしてあげるよ?」
うぅ、そんなことはいいのでもう勘弁してくださいー!
服を買い、店を出てやっと体を返してもらった。
『今日は楽しかったよ? ユウ? またやろうね?』
げっそりだ……
「もう……勘弁してください……」
『適当にお昼を買って帰る?』
まだ、お昼時か……濃厚な時間を過ごした所為で働き詰めなくらい疲労が体を襲っている。バイトくらいしかしたこと無いけど……
「お!? てめぇ何処ほっつき歩いてたんだ!!」
……その声はジュン? 走って近寄ってきた。
「何か用か?」
「ああ、屋敷に行っても居なかったから探したぜ、誰もてめぇの居場所を知らねぇって言うからよ……」
みんなは買い物から帰っていたようだ。
「本題は?」
「ネクサスさんに伝えてくれって言われて、ちょっと待ってくれ、今整理して言うから」
ネクサスさんの伝言か……また面倒事を押し付けられるのだろうか……
「エレノア司教がてめぇを呼んでいるってよ、何か、アメジスト姫……? が目を覚ましたらしくてよ」
……
『ユウ? ボーっとしてるよ?』
ウンディーネが目の前で手を振る。
「早く言えって!」
「うおっ!? いや、てめぇが居なかったからだろ!」
「ウンディーネ、早く戻るよ」
『分かったよ。ユウ。急ごう』
ウンディーネと共に屋敷に向かって全力で駆ける。急ごう。
「あ! おい! ちょっと待て!」
ジュンも何故か追いかけてきた。




