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5話 依頼と勇者

『おはようございます。お寝坊なご主人様。そのまぬけな寝顔を私にさらし続けても構いませんがそろそろ起きてください』

 シルフの声が聞こえ目が覚める。目を開くとシルフの顔が息がかかるほど近くにあった。自分の上に乗っかっているようだ。外は太陽が昇り、もう明るかった。

「近くない? あと、おはようございます」

『おはようございます。この屋敷には食べ物がありませんでしたので朝食の準備はしておりません。アメジスト様とサファイア様は先ほど出かけられました。後のことは任せた、と仰られておりました』

 なるほど、起きる前のことを教えてくれたのか……あと、料理できるの?

「ありがとう、起きるからそろそろ離れて欲しいな」

『……はぁ、分かりました』

 シルフはゆっくりと自分の上から離れ始める。部屋のドアが開きウンディーネが顔を見せる。

『おはよう! ユウ! ボクが起こしに……』

 ウンディーネの顔が一瞬真っ青になりすぐ真っ赤になった。分かりやすい……

『そこをどけ! 女狐! ボクのユウに触れるなぁっ!』

 ウンディーネが飛び込んでくる。自分の上に居たシルフの姿が消えた。ウンディーネの飛び込んでくるそのコースは自分の上にダイブし胸に直撃する。覚悟を決めるしかない。

 顔から胸にダイブされ、そのまま抱きしめられた。サッカーボールが直撃したような痛さと胸部の圧迫で息が一瞬だけできなかった。

『ユウ! ユウ! ユウー!』

 ウンディーネは顔を胸にぐりぐりしている、痛い、追い打ちになっている。

『ご主人様、起きて後の二人を起こすのを手伝っていただけませんでしょうか』

 シルフはドアの前まで移動していた。

「分かった」

 シルフは行ってしまった。

「ウンディーネ、おはよう。起こしに来てくれてありがとう」

『ユウ。おはよう』


 起き上がってもウンディーネが離れてくれるまでに多少時間がかかった。その間に顔を洗い服装を整えることができてしまった。

 シルフに促され、まずはサラマンダーの部屋に行く。

 ぐっすり寝ているな。いたいけな少女の寝顔を見るのことに後ろめたさを感じるが、可愛い、いつまでも見ていたい。しかし、ベッドの横に立っても起きる気配がない。そろそろ起こさないといけない。

「サラマンダー! おはよう!」

『うぅん……まだぁ……寝かせてぇ……』

 寝言とも起きているとも言えない返事、仕方ないので揺すってみる。

『……だぁ……りん?』

「はいはい、そろそろ起きて。」

『……うわぁっ!? こほんっ! レディの寝顔を見るのは失礼よっ。でも、毎晩一緒に寝てくれるのなら考えてあげても……』

「おはよう、準備ができたらリビングに集まって。そろそろ準備しないとお昼になるから」

『もう! わかった。リビングで待ってるから。ダーリン。あと、おはようのキスを……』

 最後の一言は聞かなかったことにしよう。頬を膨らませたサラマンダーを尻目に部屋を出た。

 サラマンダーも起きた。後はノームだ。ノームはお姉ちゃんを自称しているし、もう起きているのではないだろうか。


 部屋に入りノームのベッドを見る。見事に熟睡している。最強の敵は最後に現れるのか。

「おはよう! ノーム、そろそろ起きて!」

 声をかけても反応しない。次に体を揺すってみる。これも反応しない。どうしたものか。

 不意に腕を掴まれる。ノームが寝ぼけながら腕を掴みベッドに引き込んでくる。

「ノーム! ちょっと! 起きて!」

 何を言っても無駄だった。起きない。そのまま凄い力で抱きしめられる。もがいてももがいても抜け出せない。そして、何より起きない!


『はぁ、ご主人様、女性が眠っている間に同衾とは、いかがなものかと。変態行為も大概にしてくださいね』

 シルフがドアの前に立っていた。冷たい目をしている。

「引き込まれて動けない……」

 体ががっちり拘束されていて自分だけではどうにもならない。

『はぁ、分かりました』

 大きなため息を吐き、シルフは窓を開け、布団を剥がす。

『少し時間が経てば起きます。』

 動くこともできないのでシルフを信じるしかない。

『うぅ……んん? 柔らかい……えっ!? ユウくん!? ど、どうして!?』

 ノームが目を覚まし、抱きしめられている自分を見て赤面して驚き戸惑う。

「おはよう。ノーム、そろそろ辛いから放してくれると助かるんだけど……」

『ごめんね……ダメなお姉ちゃんで……』

 全てを察したノームが落ち込んでしまう。かける言葉が見つからない。

『早くリビングに集まってください。私は先に行きますから』

 シルフはさっさと行ってしまう。

「まあ、その、誰にでも苦手なことはあるから、あまり気にしても仕方ない……かな?」

『うぅ……ユウくん、ありがとう。好きぃ……』


 みんながリビングに揃う。待っていたシルフが口を開いた。

『揃いましたね。では、これからの予定について、まず、何処かのお店で食事にしましょう。その後、お城に向かう。それでよろしいでしょうか。ご主人様』

 計画を立ててくれたのか……本当に何でもできる。

「ありがとう。それで良いと思うよ」

『では、行きましょうか』

 屋敷の鍵はシルフが任されているらしい。まあシルフはしっかり者だし。


 適当なお店で食事を取り、城に着く。

 衛兵に依頼を受けることができる場所を尋ね、依頼の管理部署に到着する。

 掲示板に依頼書が貼られている。様々な依頼から依頼を選び、管理人に渡せばその依頼を受けることができる。


 依頼を見る、依頼を受けようとしている人達で見辛い。

 ……一つの依頼だけ報酬の金額の桁が圧倒的に多い。内容は、盗賊退治か。力を鍛えることもできるな。よし、それにしよう。その依頼書に手を伸ばす。

 あと少しで手に取れるといったところで他の人の手がぶつかる。

「あっ」

「済まない」

 当たった相手を見る……あれ? ゴリラだ。

「あっ、ゴリラ」

「……誰がゴリラだ! そういうお前はあの時の……もしかしてお前も勇者なのか?」

「え!? あぁ、ゴリラも勇者か……」

 空気が凍り付いた。


「あの、ちょっと良いですか?」

「え、あ、はい」

 掲示板を管理しているらしき人物に声をかけられる。

「その依頼は、基本的に複数人で受け報酬は山分けということもできます、お二方とも受けてみるのはどうでしょう? 聞いたところどちらも勇者様ということですし協力してみるのはいかがでしょうか?」

 改めて依頼書を隅々まで見て熟読する。依頼内容は、村を占拠した盗賊から村を解放し捕らえるというもので、依頼主は貴族らしい。流石貴族だ、お金は持っている。

「自分は受ける」

 精霊達も頷き賛同してくれている。

「……俺も受ける」

「それは良かった。依頼ですが、その村に行って盗賊どもを捕らえてください。盗賊の引き渡しに憲兵が何人かつきますから案内してもらってください。よろしくお願いします」


 管理人に言われた場所に移動する。憲兵が5人来て挨拶をし、詳しい依頼内容の確認と作戦会議を始める。それが終わるとその村へ出発するようだ。流れるような作業の速さに自分は何もできない。

「大丈夫だ。万が一の時は俺たちに任せとけって! 勇者様!」

 憲兵の一人に励まされる。頼もしい。

 村へ出発する時間だな。頼もしい憲兵達に協力してもらえる。何とかなるな。問題はゴリラの方だ。

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