48話 ありふれている勇者達の一幕
「む、無理だと!?」
自分で教えられることはネクサスさんでも教えられるだろう。
「て、てめぇじゃねぇとダメなんだ! 何とか頼む!」
「何で自分ではないとダメなんだ? ネクサスさんでも、ゴリラ……アカツキでも良くないか?」
言ってて悪いけど、ゴリラは……うん、ダメそうだな。
「俺はネクサスさんに認められる男になりたい。その為に強くなりたいんだ」
「尚更ネクサスさんに頼むべきだな」
「それだと、ダメなんだ! ネクサスさんと肩を並べることが出来るてめぇじゃねぇとダメだ! あの人に頼ってもらえる男になるにはネクサスさんに頼り続けていてはなれない……!」
うわ……面倒な……というか、いつの間にか自分がネクサスさんと肩を並べるていることになっているし……
「頼む!」
聞くまで頭を上げないつもりなのか……?
「いや、悪いけど、今は精霊が居ないから、何も出来ない」
自分の言葉を聞いてポカーンっとしている。
「……は? どういうことだ?」
自分の力について、説明しないとダメか、面倒な。
「自分の力は精霊を使役する力だから精霊が居ないと何も出来ない」
「別に特訓して欲しいのはそういうことじゃねぇから安心しろよ」
頼まれているはずなのに上から目線のような気がする。うん。
「だったら、何を特訓して欲しいんだよ……」
「基本的な戦い方や判断の仕方とか能力のコントロール方法とか……じゃねぇか?」
自分に聞くな! 知る訳ないだろ!
「帰っていい?」
勢い良く頭を下げられた。
「そこをなんとか頼む!」
訓練用の剣をジュンに投げ渡し、自分もナイフを手に取る。
「まずは、肩慣らしだ。能力もガンガン使っていい。まあ、倒れたら、すぐに団員に言って助けてもらおう」
それだけ言ってナイフを構えながらジュンに突進する。
「何!?」
ジュンは判断しきれず、まだ動けていない。ジュンの腹に蹴りを入れる。
「ぐはっ!!」
腹を抱えて丸まり頭が下がった所をかかと落としを……って!? 体を落としたまま足にタックルをしてきた。片足を上げた状況ではかわし切れずにタックルをくらい宙を浮き、顔面から地面に落ちた。何で毎度毎度顔面から落ちなければいけないんだ。すぐに、ウンディーネのボトルを開ける。
体の向きを変えると、ジュンの靴の裏が視界に入る、このままでは踏みつけられるな。ウンディーネの力を使ってジュンの体を水で締め上げる。
「な!? 何処から水が!?」
空気中や、地面の中の水分を使っているけど、まあ、教える義理も無いな。立ち上がり体勢を立て直す。
「ウォーミングアップは終わり、能力を使っていいよ」
……使ってくる気配が無い。
「どうかした? 使ってこないと何も教えられないんだけど」
「上手くコントロール出来ない!」
凄く正直だ、うん。
「馬鹿!」
あまりにも正直なポンコツ発言に、つい、暴言がでてしまった……
特訓を中断して二人で座り込み、作戦を練る。
「はぁ、コントロールできないか……」
悩みどころだな、コントロールなんて使って得ていくものではないのか? 自分も前に自滅特訓をしてコントロールを得たが……毒か……大丈夫なのだろうか。
「ああ、コントロールできない!」
明るい笑顔だ。
「自信満々に言うな! 大馬鹿!」
この馬鹿……真面目だが、かなり頭が回らないな。
「自滅特訓をしてみるか?」
「は? 自滅特訓って何だ?」
聞き返された、まあ、今作った言葉だからな。
「自身に能力を使う特訓だ。自分自身を攻撃すれば嫌でもコントロールできるようになるぞ」
「……分かった。やってみる」
……物分かりがいいな。ジュンは年下っぽいし弟分みたいな感じに思えてきているのかな。
ジュンは訓練場の真ん中に立った。ジュンの背中から緑色の液体が湧き出でて龍の形を成していく。
「げほっ……な!?」
息が苦しい……これは……空気中に毒が散っているのか……確かに……コントロールできてないな……
「ス、ストップ! 死ぬ!」
サラマンダーのボトルを開け自分の周囲の空気を燃やす、緑色の焔が燃え上がった。
「空気中にまき散らすな!」
「だから、コントロールできねぇんだって!」
「分かった。そんな大技よりもっと簡単な小技からやるべきだな。今の技をかなり小さくしてコントロールしてみるべきだ」
毒を燃やして正常な空気を肺に入れる……仕方ないけど肺が燃えるほど熱い……しかし、永続的に周囲の空気を燃やしておかないと毒で死ぬな……
ジュンは手のひらサイズの毒の龍を作って見せた。
焔が緑色になった。ふーん、なるほど、大きさ以前の問題か……
「なあ、どういう感じで能力を使っているんだ?」
「えっ? ああ、ドラゴンをばーんって感じで毒を飛ばないように……って感じだ」
……なるほどなぁ……ちゃんと細部まで考え込まれていないのか。
「馬鹿! どうせなら毒の龍をしっかり想像しろ、毒の龍が空気に毒を分泌させているって気付け!」
「うっ……悪い……」
「ここで見てるから。続けて」
「うっす!」
……はぁ、大丈夫かな……まあ、一人でやってる間にちょっと食堂に行って飲み物を貰ってこようか。
食堂のおばちゃんに訓練中に良い塩分の入っているジュースを貰って訓練場に戻ってきた。
「おーい、休憩にするぞー!」
ふらふらしているジュンに声を掛ける。
「はい、飲み物、倒れるなよ。面倒だから」
ジュンはジュースを一気に飲み込む。
「ぷはーっ、あざっす! ……ユウって呼んでいいか?」
本当にヤンキーだな……
「好きにしろよ」
「ユウは何で強いんだ?」
……意図が読めない……どういう意味だ……?
「え、ああ、うん、まあ、誰かの為に負けられないってだけ、負けられないから、必死に勝てる方法を考えて動いていれば、ある程度は強くなる……かな?」
「なるほどなぁー、俺は、ネクサスさんに救われて、どうしてもネクサスさんの力になりたいって思っててそれで強くなりたいんだ」
「救われたってどういうことなんだ?」
「……死ぬ前は、薬中のチンピラヤンキーだったんだ」
「お前何処の国の人間だよ……」
「え、日本だ」
……マジか……視野が狭いから、なんて言いたくない、これは特別なパターンだ。うん、そう思おう。
「片親で親父が国会議員で俺になんて目もくれずって感じだったんだ。……それでぐれて悪い方に悪い方に落ちていった。馬鹿だからさ、何が正しいかなんて分りもしなかった。悪い奴とつるんで、最後には薬物にハマっていって、気付いたら死んでたんだ、笑えるだろ?」
「酷過ぎて笑えない」
ジュンは肩を落とした、笑うところなんだろうけど、笑えない……
「まあ、な、うん、何でか知らねぇけど、俺はネクサスさんに召喚されて、あ、召喚された時に薬物は完全に抜けてるぜ。でも、まあ、酷かったな、ぐれにぐれてて、ネクサスさんに向けて能力をぶちまけたんだから」
……ネクサスさんは鎧だから毒効かなかったんだな。
「それで? どうやったらネクサスさんを慕うことになるんだ?」
「ほとんど暴走状態だった俺を、ネクサスさんはぶん殴って説教したんだ。ぶん殴られて暴走が解けたら、ちゃんとしっかり言葉で俺の間違いをさ、諭してくれて、やっと、俺のことを考えてくれている人がここに居るって分かったらさ。こんなカッケー人が居るんだなって思って」
……マジで救われてるんだ……
「僕だってやるときにはやるんだよ」
ネクサスさんの声が聞こえてきた、また、頭の中に出てきたな……
「お疲れー、訓練はどう? ジュン君も僕意外と訓練することで色々得られたのではないかな?」
あれ? 消えない?
「ユウ君、大丈夫? ボーっとしてない? 水分不足?」
……上から兜が覗いてくる。うわぁっ!? 本当に居たの!?
「え、あ、ネクサスさん?」
冷たいコップを頬につけてきた。
「はい、これ飲んで、水分補給しないとダメだよ」
ジュンにもコップを渡した。
「あ、ありがとうございます」
「ジュン君、どう?」
ネクサスさんも座った。
「はい! ちょっとはコントロール出来るように……なったよな?」
こっちの顔を見ている。まあ、完全にコントロール出来るまでは、自身では分からないか。
「やってみたらいいと思う」
「それもそうだな」
ジュンは訓練場の中央に向かった。力が着れたので2本目のサラマンダーのボトルを開け、手のひらの上に焔を作り、備えておく。緑色になったら一度ジュンごと燃やしてやろう。
「行くぜ! 俺の本気!」
いやいや、余裕を持ってやってくれよ……
毒々しい緑色の液体がジュンから湧き出して龍の形になる。
……ある程度時間が経っても一切息苦しさも無く焔の色に変わりがない。
「これは、上手くいったのではないか?」
「……うっす……」
……コントロールに力を集中し過ぎて、体力が限界がきたようだな。
バッシャーンっと毒に顔から突っ込んでいった。
「ジュン君大丈夫? ジュン君!」
ネクサスさんが毒の中を躊躇い無く走っていった。まあ、鎧が本体だから、たぶん、毒は効かないと思うけど。
ジュンは医務室で熟睡している。全く人騒がせな奴だ。
「今日はありがとう。ユウ君のおかげでジュン君も成長できたよ」
「相談はこのことで良かったんですよね?」
「ああ、うん」
気の抜けた返事だなぁ……
「ジュン君さ、あんまり人付き合いが上手くないんだよね」
……それは自分もなんだけどね……
「アカツキ君だと、気を使って結局なあなあになりそうだったからね」
なるほど……それで自分に白羽の矢が立ったのか……
「今日はありがとう」
どうせ、ジュンも寝ているし、帰ろう。疲れたぁ……廊下にキャンバス……あっ……
「やあ、久しぶりです」
アダム……
「そのキャンバスは置き土産です。今日から旅に出るので」
突拍子も無い言葉だ、飲み込むまで時間がかかる。
「……旅?」
「はい、旅。行く当ても無く旅をして、その土地で絵を描き、気ままに生きる。生前の夢でした」
……まあ、ロマンティックな。
「人を殺したことはありますか?」
唐突な質問だ。
「……無い」
「そうですか。私はあります。二人殺しました」
……何も言えない。
「一人は私のアシスタント、もう一人は私自身、芸術家としては名が売れている方でしたが、ああ、全く納得できた作品が描けなかった、そこで、私は画材に血を使うことを試みました」
狂気の沙汰だ……あまりのインパクトに他に言葉がおもいつかない。
「狂気の沙汰ですよ。快く死んでくれたアシスタント、見殺しにした妹、顔向けできませんね」
……後悔していないわけではなかったのか。
「一度踏み外せば、自力で戻れない、そこまで落ちました。なら、嫌い合っていた方が幸せかもしれません」
……それは、寂しくないのか?
「最後まで聞いてくださってありがとうございます。私みたいに落ちたらダメですよ。Au revoir, jusqu'au jour de notre rencontre.」
……何て言ったんだよ……全く自由な男だ……
大きな荷物を持って騎士団本部から出て行った。止める理由は無い。
「あ! おい、ユウ!」
ゴリラとイブか。ゴリラの後ろを隠れるようにイブがついて来ている。
「……キャンバスだと……アダムの奴。また、片付けずに……」
ゴリラがぶつぶつ言っている間にイブがキャンバスを覗き込む。
「……これ! 昔の感じだ……」
イブの言葉が気になり、キャンバスの絵を見る、今までの絵は赤を主題に描いてあったが、この絵は色鮮やかで見ているだけで明るく楽しくなりそうだ。
「昔はこんな絵を描いてたのお兄ちゃんは。こんな絵を描いていた頃は優しかった」
……はぁ、ネクサスさんに言っておかないと、たぶん、何も言わずに行ったのだろうから。
「ただいまー」
屋敷に着くのがお昼過ぎになってしまった、お昼ご飯食べたい……
「おかえりー! ダーリン遅くない?」
サラマンダーの声しか聞こえない。
「色々あって遅くなったんだけど、お昼ご飯ある? あと、みんなは?」
リビングのソファーに寝そべって雑誌か何かを読んでいるサラマンダーしかいない。
「えっとね、ダーリン。みんなはモニカちゃんとソフィアちゃんの服を買いに行ったよ。ご飯は無いから、私が作ってあげるね、ダーリン! 期待しててね!」
サラマンダーがお昼ご飯を作ってくれるのか、料理の腕はどれほどのものだろうか、楽しみだ。
サラマンダーが料理を持ってきた。ステーキにサラダにパン、お昼ご飯にはちょっと豪華だ。見た目や匂い、美味しそうだ、食欲がそそられる。
「いただきます」
「どうぞ! ダーリンの為に頑張って作ったんだから!」
胸を張っている、楽しみだ。
サラダを一口食べる……あれ? 次にステーキを一口食べる。なるほど、サラマンダーの料理は良くも悪くもふつーな味だ……いや、シルフが料理上手だから、感覚が麻痺しているのか……
「えーっと、ダーリン?」
……取りあえず笑顔を作る。
「美味しかったよ」
「絶対嘘だー!」
ぐぅ、まあ、ばれるか。
「分かった。凄くふつーでした」
「むぅー、分かってるよー!」
怒られた、気難しい……何て言えば良かっただろうか。
「ダーリン! 明日暇?」
明日か、まあ、用事は無いな。
「うん。暇だけど、どうしたの?」
「私の……花嫁修業を手伝って!!」




