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47話 魔王化についてのetc.

「趣味で人の体を使うな!」

 何なんだそのやれやれだな、みたいな顔は。

「そんなことより、キルケーが言っていたがヴァルの謹慎が解けたようだぞ、何か聞きたいことがあったのではないのか?」

 謹慎が解けたのか……

「そうだったのか、ありがとう」

「気にするな。あっはっはっは」

 アリアドネの体が自分の体になっていく。アリアドネが指を自身の体に這わせている。目の前で自分の体を使って気持ち悪いことをするのはやめて欲しい。

「やっぱり、ユウの体はいいな! 若々しい男って感じが最高だな!」

 アリアドネが後ろを向いた瞬間にアームロックを決める。自分と同じ体の奴にアームロックをきめることになるなんて……頭が痛くなる……

「痛い! 痛い! うぐぐぐ……だが! これがいい!」

 うわぁ……アームロックを決められて顔を恍惚させながら悶えている。……自分と同じ体でくねくねしないでくれ……


「はぁ」

 息が漏れた。自室ってこんなにも安心出来るものなのか……枕も自分に合うものを買っているから、熟睡できて疲れが残らなかった。やっぱり自室って最高!

 昨日までのことを思い返す、一歩ずつでも先に進んでいると信じたい。窓からの朝日を浴び伸びをしながら考えていた。

『おはようございます。今日はお早いですね。せっかくお可愛い寝顔を堪能させて頂こうと思っていましたのに、と言う訳で寝てください』

 わぁ、なんて理不尽……

『行くのですよね? ヴァル様の所に』

 今日の予定の話か。

 バタンっ。

 ……シルフがベッドに倒れ、枕に顔を押し付けていた。

『ご主人様の濃厚な臭い……堪りませんね……ハスハス……ハァハァ……』

 ……思考停止している場合ではない、この変態を止めないと。

 シルフの体を掴み、ベッドから剥がす。

「本人の目の前でナニをやってるの?」

 シルフは惚けた顔をしている。

『ナニとは?  あ、私の枕なら好きに使ってください』

 誰が使うか!  いや、でも、ちょっと気になる……シルフの匂いかぁ……

『朝ご飯は出来ています』

 シルフはベッドを洗濯のために整え始めた、ここに居ては邪魔になるだけだ。朝食の準備は出来ているらしいのでリビングに行こう。

『一つ、ご主人様にお話ししておきます』

 何だろう?  足を止める。

『ご主人様が外出している間、枕が無くなっている時があります。それだけです』

 ……何人が自分の枕を使っているんだ!?  ……シルフも何故それを知っているんだ!?  こんなに不法侵入されるなんてプライバシーも何もあったものでは無いな。はぁ、これは諦めるしかないか……


 リビングに入ると良い匂いがする。朝ご飯の良い匂い、涎が出てくるな。

「おはよう! 兄、朝ご飯できたよ!」

 モニカが調理器具を持ったまま台所からリビングに出てきた。

「おはよう。モニカ。運ぶの手伝うよ」

「その必要はありません! おはようございます! ユウ!」

 朝から元気なソフィアが全員分の朝食をトレイに乗せ運んでいる。トレイがふらふらしている。うーん、危ない。

「ソフィア、無理しない。落とす前に渡して」

「うぅ……はい……」


 朝食を終えても、まだ、全員がリビングに残っている。

「自分は少し出かけるから、別について来なくてもいいよ」

 みんな立ち上がり出かける準備を始めた!? どうして!?

「待って! ついて来なくていいって言ったんだよ!?」

『ついて来て欲しいんだよね? 分かってるよ。ユウ』

 全然分かってない……

「はぁ、言い方が悪かったか、全員お留守番ね」

 全員からブーイングをされる、何で……? 少し出るだけなのに……


 たった一人での外出は久々だ。前は……いや、この世界に来て、一人で行動したことは無かったか。どうせ、行って帰るだけだが、少しくらい羽を伸ばしてもいいだろう。

「やあ! 今日は1人? 珍しいね」

 ネクサスさん。屋敷を出てすぐに会うなんて運が悪い……

「え!? 露骨に嫌な顔された……僕何かやった?」

 嫌な顔を止め、普通の顔に戻す。

「ネクサスさん。おはようございます。今日はどうかしましたか?」

「うわぁ、凄く他人行儀……まあ、ちょっと用事があってね」

 ……巡回ではなくて用事? 珍し……くは無いか、この人、一応この国を守る騎士団長だし忙しいはずなんだ。

「失礼なこと考えていないかな? あ、来たね」


「すみません、お待たせしました。ネクサス様」

 2人の少女が走ってきた。

「あっ、お久しぶりです! ユウ様。お元気でしたか? あの時はびっくりしました。あんな酷い傷を負うなんて……」

「お、お久しぶりです」

 アリシアさんとマナカさんだった、あの時以来かな?

「久しぶり。自分はもう大丈夫だよ、アリシアさんこそ、大丈夫?」

「はい、私は大丈夫です。父のことはありますけど、マナカが居ますから」

「ふ、ふぇぇ、私?」

「もちろんです、私のパートナーはマナカ、あなたしかありえません」

 ……なにこれ尊い。少女達の絆っていいものだな。

「それで、2人はどうしたの?」

「今日は父の面会に、やってはいけないことをやっても父なので……」

 なるほど。ネクサスさんはその案内ってところか。

「あの、ユウ様は何を?」

「そうだ! 呼び止めたけど、何か用事でもあったのかな?」

 ネクサスさん、テキトー過ぎません?

「ヴァルに会いに行こうとしていたところです。謹慎が解けたらしいので」

「なるほどね、アレイスター、反省文千枚書き終わったんだ……」

 反省文千枚? それは……大変そうだな……

「まあ、途中まで同じ方向だから、一緒に行こうか。うん、それがいいね」

 この人勝手に納得して進み始めた。そういうところなんだよなぁ、ネクサスさん……


「アリシアちゃんは今、政治について学んでいて、将来は、この国の政務を担ってくれる人物になるよ。うん、僕が保証するよ」

 そんなことになっていたのか、素直に凄いと思う。

「いえいえ、ネクサス様の推薦があってこそでした。それに、誰も殺すことなく父の不正を暴いてくれた、ユウ様達に、私をいつも支えてくれているマナカが居るから、今があるのです。私の力など、微塵も……」

「アリシアさん。過ぎた謙遜は嫌味に聞こえることも有るから注意しないとダメだよ? アリシアさんは、ちゃんと身内の不正を正せたんだから」

「そうだね。政治の世界に入るからにはアリシアちゃんの父親のことを後ろ指を指して、失脚させようとしてくる者も出てくると思う。その時に謙遜して、胸を張らなかったら、簡単に突き落とされるからね。アリシアちゃんが父親の償いを政治を以てしたいのなら尚更ね」

 うわっ、あのネクサスさんが真面目なこと言ってる。

「……はい」

「まあ、難しいことなのは分かるけどね」


「あそこのジャムが絶品なんですよ」

「わ、私も好きです。色々なジャムがあるんです……」

 通りにあるお店を見ておしゃべりをしながら歩く。

「おっと、ユウ君とはここでお別れだね」

 ネクサスさん達は今歩いている通りを真っ直ぐ行くようだが、ヴァルの居る場所は違う方向にある、楽しいおしゃべりもここで終わりか。

「またね」

 手を振って別の道を進む。

「それでは、ユウ様、また、会いましょう」

「ば、バイバイです」

「ああ、ユウ君、暇なときでいいから本部に顔出してね。相談したいことがあるからさ。うん。またねー!」

 ……相談したいこと? 面倒なことでは無ければ良いが。


 ヴァルの居る建物の部屋の前まで来た。質素なのにムードあるお洒落な少し古い建物で、何処かの部屋からはピアノの音が聞こえてくる。

 ノックをして返事を待つ。アポなしなので居るかどうかは分からない。

「どうぞ」

 ヴァルの声が聞こえた。ドアを開けると、整理整頓された書類の山が床に積まれていて部屋が散らかっているのか整頓されているのかよく分からないような状態になっていた。

「申し訳ない。こちらからでは書類の山で顔が見えない。名乗ってもらえないか?」

 ヴァルが言ったように自分からもヴァルの顔は見えない。

「ユウ。久しぶり。ヴァル」

 ガタンと音が立った、椅子でもたおしたのか?

 書類の山の裏からヴァルが現れ、自分の肩を持つ。

「ユウか! 大丈夫だったのか? ネクサス殿から聞いていたが……とにかく無事でよかった」

「自分こそ何も連絡出来なくて申し訳なかった」

「……それに関しては気にしないでくれ、まあ、見てもらえると分かるだろうが、この書類の山は反省文だ。これを書き終えるまでは許さないと、キルケー殿に言われてしまい……な」

 ヴァルは反省文の山を見て黄昏ている。

「マーリンやキルケーに比べて明らかに年上なのに始末書を書かされるんだね……」

 ヴァルは不思議そうな顔をしている。

「いや、賢者の中では私が一番新参だが」

 まあ、あの人達が年齢をごまかしていることくらい想像はつく。ヴァルは見た目からしても威厳のある年の取り方をしているように見え、実際に年長者なのかと勝手に勘違いしていたようだ。まあ、700ちょっとの騎士団長が、かなり緩いからだけど。

「まあ、とりあえず、座ってくれ、飲み物を用意しよう、何がいい?」

 書類の山を避けながら座る。

「あ、お茶で」

「分かった。少し待っていてくれ」

 ヴァルがお茶の準備をしている間にアヤネが横に座った。

「や、元気? 私みたいな出不精の耳にも噂が届いているよ」

 相変わらず目にクマを作って白衣を着ている。

「……噂?」

 噂をされるようなことなんてあったかな、思い浮かばない。

「そう、国をぶっ壊した狂人って」

 ……なるほど、強ち間違いではないな。

「気にすることは無い。ユウやアルベド様によって失脚した愚か者の陰口が噂になったのだろうから」

 お茶とお菓子を持ってきたヴァルが慰めの言葉をかけてくれるが、元々気にしていない。

「お、いいお菓子だ、いただきまーす」

 アヤネが一つ摘まんでいった。

「はぁ、アヤネ君、行儀が悪いぞ」

 アヤネは定位置の机にお茶とお菓子を持って戻っていった。

「それで、今日はどういう用事で来たんだ? 何でも頼ってくれ」

「そっか。ありがとう。聞きたいことが有って来たんだ」

「分かった。何でも聞いてくれ。私なら答えられると思って来てくれたのだろう?」

「ああ、そうなんだ。聞きたいことは2つ、まず1つ目なんだけど、魔王化は意図的に引き起こせるものなのか?」

 ヴァルは考え込み始めた。

「そういう質問か……なるほど、少し待ってくれ」

 言葉を選ぶのに時間がかかるのか、それとも答えがまだ出ていないのか。

「意図的に引き起こせる。たぶん、本題は他人が魔王化を意図的に引き起こすことができるかってとこでしょ?」

 意外なことに答えたのはアヤネだった。それに聞きたいことの核心を突いてきた。

「まあ、そういうことなんだ」

「……ふぅ、理論上は可能だ、だが、誰もやったことが無い、理論上でしかない。アルベド様は、自ら魔王化を起こし魔王になった、もしかしたら、城の禁書庫に、意図的に魔王化を引き起こす術を記した書が有るのかもしれないな」

 城の禁書庫か……

「まあ、ほぼ資料も無いから、最近のケースで判断するしかないんだがな」

「過去の資料が無いの?」

「ああ、あるとすれば、マーリン殿のところか禁書庫くらいだろうな。どちらも取り合ってくれないだろうが」

「最近のケースは?」

「私の魔王化くらいだ。それ以外は基本的に暴走し、死んでいる」

 暴走か、アメジストの父親の件も……そうだったな……

「私の件もあまり役に立つとは言えない」

「どういうこと? 意味が分からない」

「商会の依頼で出ていた時に突然魔王化が始まったからな」

「……えっ!? 突然? 前触れは何も無かったの?」

 ヴァルはまた考え込み、少し経ってから口を開いた。

「分からないんだ、正直、あの時は混乱していたということもあって、状況確認が出来なかった。すまない」

「いや、ヴァルはやれることをやっただろ」

 ヴァルは混乱している中、街はずれまで移動し自ら封印している。そのおかげで犠牲者が出なかったと言える。

「私の思ったことを言っていい?」

 アヤネが口を挟んだ。

「魔王化の基本原理は魔力異常、なら、普通に暮らしていた魔力保有者がいきなり魔力異常を起こし魔王化する確率と、他人が魔力異常を引き起こし、魔王化する確率、どっちが高いと思う?」

 どっちと言われてもそんな知識は持っていない。

「私は圧倒的に後者だと思う。魔力異常によって魔王化させる術自体はあることが分かっているでしょ。それを知っている奴が居る確率と魔力異常を起こす確率を比較すると目に見えている、誰かが魔力異常を起こしたって聞いたことが有る? ね? ヴァル」

「なるほど、そういうことが有れば、噂になるだろうな」

 ……他人に因ってではなく前触れもなく急に魔力異常が起きたという噂が無いからは起きていない……か。

「そう、後者はアルベドが居て、術を知っている人物が居るという事実が確定している。こっちは他にも居る可能性が高いよね?」

 ……0と1なら1の方が高くなる、なるほど……だが、それならば。

「ヴァルの魔王化も他人によって引き起こされたってこと?」

「私はそう思う。まあ、私達はその術すら知らないからこれ以上は探りようが無いけど」

 ……アメジストの父親の件もアルベドが起こした可能性があるのか?

 これ以上は会話が続かなかった。黙々とお茶とお菓子を平らげる。

「一応ユウには話しておく、魔王の力をかなりコントロール出来るようになった、戦闘でも役に立つかもしれない」

「そうか、うん」

 そろそろ帰ろうか。うん、お昼ご飯までに帰りたい。

「自分はそろそろ帰るよ。今日はありがとう」

「ああ、また来てくれ。用が無くても寄ってくれて構わない、アヤネ君が居るだろうから」

「ヴァルは私達を本当の子供みたいに思ってるから、来ていいってさ。そうだとしたら私が姉だけど」

 ……姉なんだ……

「コホン、今のはアヤネ君が勝手に言ったことだ。責任はとらんぞ」

 わざとらしい咳払いをしている。分かりやすいな……

「それでは、失礼します。また」

 部屋を出る。

「ああ、また」

「またねー」


 帰る前に騎士団本部に寄っておくか。相談か……なるべく早く終わりますように。


「団長ならまだ帰って来て無いですよ」

 団長室を覗いていると声を掛けられて、団員にネクサスさんの不在を教えてもらった。うーん、マジかぁ……無駄足になったか……どうしようか、いつ帰って来るかなんて分からないし、帰ろうか……

「あ、おい!」

 後ろから声をかけられた。声からしてジュンか……面倒だし聞こえないふりでいいか……帰ろう……

「おい! てめぇ! 露骨に聞こえないふりしてるだろ!」

 振り返ってみると、鬼のような形相でジュンが追いかけてきている。何なんだ……

「何か用?」

 ジュンは何も答えない、本当に何なんだ……

「帰っていい?」

「……ダメだ。少し付き合え」

 勝手に行ってしまった……はぁ、マジで何なんだ……


 着いた場所は訓練場だ。今は自分達以外誰も居ない。

「頼みがある! ネクサスさんから聞いたかもしれないが」

 相談があるとは聞いたが、それ以上は聞いていない、頼みとはどういうことだろう。

「いや、相談があるってことしか知らない」

 ジュンが驚いた顔をして固まった。

「そ、そうか……いや、分かったここで話す」

 やっと事情が分かりそうだ。

「俺を鍛えてくれ!! 頼む!!」

 ……は? 何を……? ジュンは土下座して頼み込んでいる。ネクサスさんの相談はジュンを鍛えて欲しいということは分かったがいまいち事情が分からない。

「俺は強くなりたいんだ! あの赤い鎧に勝てるように! 俺を特訓してくれ!」

 なるほど……熱意は分かった。だが、

「無理だ!」

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