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46話 アスタルトのアスタロト

「おはようございます。ユウさん。疲れはありませんか?」

 今日はアスタルトに向かう日だ、昨日のうちに入念に疲れを取ったつもりだが、歳かな……少し疲れがのこっている。

「おはよう、大丈夫かな。セツナ君は昨日は何を?」

 先に座って待っていたセツナ君の前に座る。

「昨日ですか? フリッグ王と話をしていました」

 王様と話? どんな会話をするのだろう……

「フリッグがリーベルの属国となるという話です。アルベド様からの任務です。アルベド様は、俺様よりセツナの方が交渉事には向いているだろう。後学の為にやってみたらどうだ? 結果は期待しているぞ。と言われまして」

 あの野郎……お前の所為で苦しんでいる人も居るって言うのに好き放題して……絶対ぶん殴ってやる。

「あの? ユウさん? 顔が怖いですよ? やっぱりあまり寝られなかったのでは?」

「セツナ君……大丈夫、元気が出た。さあ、朝飯食べて早くアスタルトに行こう」

 パンを頬張る、旅先の物ばかり食べている所為か実家みたいなシルフの手料理が食べたくなる。

「僕も負けていられませんね! ぱくっ! ごふっ!」

 セツナ君は一口パンに齧りつき喉に詰めた。大丈夫か……? 飲み物を渡す。

「ぷはーっ! ありがとうございます。死ぬかと思いました。あはは……」

 セツナ君の病弱設定が頭に引っかかり冗談に聞こえない。うっかり死んでしまいそうで怖い……

「ユウさん、手が止まっていますよ。アスタルトまで遠いですから、しっかり食べておいた方がいいですよ」

 ……さっきまで喉に詰まらせていたのに、もうバクバク食べている。セツナ君も天然な方なのかな。まあ、自分も食べないと。


 女性陣も次々に集まってきた。化粧とか気にすることが多くて時間がかかるのだろう……自分も身だしなみには気を付けよう……

 モニカが隣に座った。

「ねぇ? ユウ兄? アスタルトに行かなくてもいいよ? 私は一緒に居られればいいんだ……」

「家族が心配しない? 一緒に居るのは良いって言われたりしなければ流石にダメだよ」

「だって……」

 疲れているのかな、頭を撫でる。

「んっ……兄……」

「大丈夫。何があっても自分が何とかするから」

「うん! 兄を信じる!」

 にい……兄のことか……

「ああ、まかせてくれ」

「わ、私も居ますからねー!」

 ソフィアも賛同している。

「姉は……少し……不安」

 その気持ち……凄く分かる。ソフィアはしっかりしているオーラを出しているが、かなりの天然ボケだ。有り余るパワーと大雑把さ爆発させ、周囲を巻き込み暴走していく。

「うー……2人共酷いです……そんな怪訝な目で見なくても……そんなに頼り無いですか?」

 目を潤ませながら自分達を見ている

「頼り無い訳ではない……よ? ……ただ……姉……」

「何ですか? 遠慮なく言ってください!」

 ドンっと胸を張って目を瞑った。

「うん……凄く……間抜け」

 思っていたよりも直球だった! モニカ!?

「あぅぅ……まぬけぇ……」

 生気の抜けた酷い間抜け顔だ。さぞかしショックだったのだろうな。固まったまま全く動かない。まあ、放置で良いか。

「兄ぃ……」

 ソフィアに兄と呼ばれ体が反応するが、絶対に目は合わせないぞ。

「兄ぃ……モニカちゃん……」

 ジーっとジト目で見てくる。食べ辛い……


「ごちそうさまでした」

 流石、城の朝食なだけあってエレガントな朝食だった。燃え尽きた灰のように白くなっているソフィアを除けば。

「準備を終えたら出発しますよ。そうすれば昼には着きますからね」

 お昼に着くんだ……とんでもない強行軍を行えば夜にはここに帰ってこれそうだな。魔族の国アスタルトか……どんな国なんだろうか。


 フリッグからずっと平野を歩いている。視界には平野しか映らない。まるでシルフの胸部……

『ご主人様。飽きたのでしたら、空中散歩と参りましょうか? 降りるときに補助は有りませんけど』

 それ、フリーフォールって奴ですよね。それも安全装置無しの。

「遠慮させていただきます」

 そんなことしたら命がいくつあっても……いや、とっくに足りていないけど。

「空飛べる?」

 モニカが口を開けた。

『え!? あ、はい、飛べますよ、モニカさん』

 モニカの言葉にシルフが驚いている、これは珍しい。モニカはこれ以上何も言わないが空を飛んでみたいということは明らかだ。モニカには聞こえないようにシルフに耳打ちする。

「シルフ、お願い。モニカちゃんを飛ばせてあげて」

『はぁ、分かりました。褒美は後程お願いしますね。ご主人様』

 強欲だなぁ……

『モニカさん、空飛んでみますか? 周りに敵性生物がいないか偵察しなければなりません。手伝っていただけますか?』

 上手い言い回しだ。誰も傷つかない気の利いた言葉選び、自分にもして欲しい。

「いいの?」

『ええ、皆様の安全の為に力を貸していただきたいのです』

「う……うん!」

『では、行きましょうか』

 シルフとモニカが飛んでいく。

「平和ですね。魔物が出るらしいですけど」

 それは、フラグか!? と思ったが何も出てこない。気にしすぎか……


 シルフとモニカが戻ってきた。

「どうだった? モニカ」

 目は口程に物を言うというが。モニカは目をキラキラ輝かせている。そんなに楽しかったのか。

「楽しかった! あっ! 周りは安全だったよ!」

 シルフも静かに頷く。

「そっか。ありがとう。モニカ」

 頭を預けてくるので撫でる。嬉しそうに頭を擦りつけてくる。

『ご主人様。あまりにも静か過ぎます。少し注意をした方がよろしいかと』

 静かなのに注意? ふざけているようには見えない。

『ご主人様の頭の中はお花畑のようですね。弱い魔物が群れるから騒がしくなるのであって、強い魔物が一体なら騒がしくなることはありませんよ』

 なるほど、ぼっちは喋らないもんな……何処かにこの辺りの魔物を全て倒した奴がいるのか!?

 いや、そんな訳が無い。何処にも暴れた後が無い。単純に平野過ぎて住処が無いだけだろう。本当に心配性だなぁ。


 考えている間にみんな立ち止まり空を見上げ、口を開いていた。何をやっているのだろうか?

「わぁ……大きい鳥さんだー!」

 モニカの言葉を聞いて、ハッとした。なるほど……鳥か……空から急襲してそのまま住処に持ち帰れば、跡は残らないな、なるほど。

『ご主人様! 暢気に考え事をしている場合ではありません! 空から来ています!』

 ……マジで!?

 慌てて空を見上げる。黒い点にしか見えないがどんどん近づいて……鳥の魔物だぁぁああ!?

「サラマンダー!」

『えっ!? 私なの!? ダーリン!?』

「燃やせば焼き鳥になるでしょ!?」

 焦り過ぎて自分でも何を言っているのか……

『わ、分かった!! やってみるね!! ダーリン!!』

 ドォォォン!!!!

 あっ、鳥が爆発四散した……火の付いた羽が降って来る。輝く羽の中、空を見る。

 鳥が落ちてきた。待って!! 屋敷くらいの大きさがあるぞ!?

「うわぁぁぁあああああああ!?」


「……ということがあったんだ」

 アスタルトの門番に事情話す。全く信じていないようで怪訝な顔をしている。

「はぁ、それでどうしろと」

 どう……いや、何も考えてなかったな、報告すれば良いものだと……

「まあ、引き取ってもらえればさ……道塞いでるから邪魔だし」

「ああ、はい、分かりました」

 門番は頭を掻きながら知らせに行った。

「何はともあれ、アスタルトに着きましたね。みんな無事で良かったです」

 本当に何はともあれ、と言うか……

「それでこれからどうするつもりなんですか?」

「そうだね、住民票か何かがある場所に行けば手っ取り早くていいんだけどね」

「僕と一緒に城に行きませんか?」

 城か……まあ、人も多そうだし行ってみるのも有りかな。

「そうさせてもらうよ」


 魔族の国アスタルト……その名の通り、何処を見ても魔族しか居ない。角や羽、尻尾など、様々だ。ここでは、自分達の方が珍しいのだろう。ジロジロ見られる。

「やっぱり、異国ですから、珍しいのでしょうね。まあ、こうジロジロと見られるのはちょっとあれですけど」

 ぼかしながらも言いたいことはセツナ君が全て言ってしまった。怪我をした一団が隣を通っていった。

「戦争中なんです、この国」

「帝国とだったかな?」

「そうです。どうやっても傷つくだけの争い。悲しいものですね」

 争いにも種類がある、自分とネクサスさんの闘争のようなお互いを高めあう為のものもあれば、戦争のようにただ壊すだけのものも……

「お城、リーベルと同じくらい大きいですよ」

 空気に耐えられなくなり、話題が変わる。ザ・魔族って感じのラスボスの居そうな造形の城だ。どんな人物がこの国を治めているのだろうか。


「あーっはっはっはっはっ! げほっ! ごほっ! 余の下によくぞ参った! リーベルの使者よ! げほっ!」

 おい……大丈夫かぁ……ポンコツ臭がするんだけど。

「余はアスタルト国の王アスタロトだ! 覚えておくが良い! あーっはっはっはっはっ! げほっ! ごほっ!」

 高笑いしたあとに必ず咳き込むくらいならしなければいいのに。

「……アスタロト国のアスタルト様ですか?」

 早速混ざった。ソフィアさん?

「ち、違う違う! もう一度言うぞ、アスタルト国の王アスタロトだ!」

 威厳が零れ落ちていくようだ……

「ほぇー、アスタルト国のアスタルト様ですかぁ……」

 天丼……


「それで、リーベルの使者よ、用件は何だ?」

 アスタロトが座り、本来の用件にやっと入れる。何の冗談なのか分からないくらい、ソフィアがアスタロトの名前を間違え続けた所為だけど。

「先にユウさん達の件を終わらせておきませんか? その方が僕も安心できますので」

 その申し出はありがたい。お言葉に甘えて先にモニカの親探しをしよう。

「では、まず、いいですか? アスタロト様」

「ふっふーんっ! 良いぞ!」

「実はこの子の親を探してリーベルから来たんです。力を貸して頂けませんか?」

 抱き着いてきたモニカの頭を撫でる。これで安心してくれるなら、いつだって撫でよう。

「戦争中は人攫いなど、無法な者が現れる。そのことは余も心を痛めていた。ここまで連れ帰って来たこと感謝するぞ。童よ。名を名乗り、親の事を教えよ」

 モニカの頭から手を放す。

「モニカ……親は……戦争で……居ない」

 離れたくない理由はそういうことだったのか。予想はつくが信じたくは無かったから、考えなかった。

「それで、モニカよ、これからどうしたい? 余の妹にしても良いが」

 モニカは即首を横に振った。

「うっ。そんなに首を横に振らずとも。そんなに余の妹が嫌なのか……」

 落ち込んだ……

「やっぱり一緒に居たい……」

 モニカ……

「ダメ? ……迷惑にならないように頑張るから……!」

 みんなが自分を見ている。選択権は自分にあるようだ。

「最初から迷惑なんて思ってないよ、一緒に居ようか」

 何でみんなガッツポーズをして喜び泣いているのだろうか。そんなに冷血に見えるのだろうか……

『いやー、良かったね、モニカちゃん! でも、ダーリンは譲らないからね!』

「譲らない……もん」

 何を言ってるんだ、この人達は。

「ハッピーエンドで良かったです。では、僕の方の用件も終わらせましょうか」

「ふむ。聞こう」

「リーベルと同盟を結びませんか? 帝国に対抗するために」


「……何?」

 空気が一瞬で重くなった。同盟、帝国、対抗、その言葉は重く響いた。アスタロトもセツナ君の真意を伺っているようだ。

「リーベルと同盟を結べば、帝国と比肩しうる力になることは、明らかです。戦争が続けば国力が衰えていく一方です。アルベド様は、そのことを憂いております。帝国の力、横暴に対抗するために手を結ぶことは、良いことだと思いますけど」

 政治なんて首を突っ込みたくないが、住んでいるからこそ、逃げられもしない。でも、何も言えない。

「ただ同盟を組むと?」

「ええ、帝国への圧力を増やすことが主な目的だそうで」

「なるほど。理にかなっているな。分かった。同盟を結ぼう」

 とんでもないことに巻き込まれてしまったらしい。

「どういう……つもりなんだ? セツナ君」

 セツナ君はポカーンとしている。

「どういうつもりとは?」

「こんなことをしている理由が知りたいんだ」

「正義のため、みんなのためです」

 嘘を言っているようには感じられない。本気なのか!?

「アルベド様は、そう言ってますし。僕もそう思っています。帝国が起こしている戦争やそれに乗じて名を騙り悪事を働くもの、それらを止める為です。止めなければ、いつ被害が出るか分かりません」

 ……何も言えない。街を燃やしたイライアス、ヴェロニカの村を崩壊させかけたギルバートにソフィアの国をボロボロにしたあの二人、帝国の名を騙り悪事を働いていることは事実だ。理路整然と話すセツナ君にどうすればいいのか分からない。

「同盟の締結をすれば、用事は全て終わります。フリッグで一度泊まってから、リーベルまで帰りましょう」

 淡々とセツナ君の声が頭に響いた。


 帰り道、セツナ君との間に重い空気が流れていた。お互いに口を開かない。ソフィアが自分達の顔色を窺いキョロキョロしている。

 気まずい。気まずいと思っているのは自分だけかも知れないけど。俯きがちに考えながら歩いて帰った。

 リーベルに着くまでセツナ君と言葉を交わせなかった。自分でも何を言っていいのか分からない。国のことを考えアルベドに賛同するセツナ君と自分の間には埋めようのない溝を感じた。


「着きましたね。モニカさんのこと良かったですね」

 屋敷の前まで戻ってきた。

「……ああ」

 生返事だ……

「僕はアルベド様に報告しなければならないのでここでお別れですね。ユウさん。また」

 セツナ君は城に向かって歩いていった。

「取りあえず、入りましょうか」

 モニカが玄関ドアを開けた。

「おかえり」

 ……何!? 目の前には、また自分が居た。まさか、また、デミウルゴスの能力か!?

 ナイフを抜き構える。

「あはは、驚くのも無理はない」

 目の前の自分の体は溶けていき、アリアドネの姿が出てきた。

「万鏡、何処から見ても鏡のように姿を映し返す。それが私の基本さ」

 アリアドネの魔法なのか……全然顔を出さないと思ったら屋敷でサボっていたのか。

「サボってない。キルケーちゃんとドラゴンの研究をしていた」

 うわぁ、心を読まれた……

「……何で自分の姿に?」

 満面の笑みを浮かべた。碌なことを考えていないだろうな。

「それは簡単だ。趣味だ!」

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