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42話 その恋はそよ風のように

『ご主人様。少しお時間よろしいでしょうか? 相談したいことがあります』

 それは夕食の後の事だった。シルフに相談を持ち掛けられることは珍しい。

「大丈夫。どうかした?」

 愛読書の暗殺者御用達関節技大全中級者編をテーブルに置き、向かいのソファーに座っているシルフに顔を向ける。

『ええ、以前よりご主人様と空を往くことが多くなりました。私一人なら何処まででも行けます。しかし、ご主人様を抱えるとなるとまだ少し不安があります。そこで特訓に付き合っていただきたいのです』

 シルフから不安という言葉が出ることに驚いた。

「分かった。それでプランとか立ててあったりする?」

『はい。ある程度の距離を飛ぶために何ヵ所か、行き先を決めています』

 モニカはサラマンダーと一緒に漫画を読み、ソフィアとウンディーネとノームも仲良くお喋りしている。自分とシルフが留守にしても大丈夫かな。

「分かった。付き合うよ」

『ありがとうございます。では、明日の朝お部屋に迎えに行きます』


『おはようございます。ご主人様。朝です。準備を』

 目を開けると息がかかる位置にシルフの顔がある、いつものことだな。

『流石に慣れましたか。では、がばっ、ぎゅー』

 抱き締められたがシルフなら普通にやりそうなことだから慌てることは無い。

「気は済んだ?」

 シルフが離れ起き上がる。

『はい、ご主人様成分は十分に補給出来ました』

 成……分……?

『では、朝食を用意してきます』


 シルフの作った朝食を食べ終え、屋敷を出る。

「何処に行く予定?」

『北にある温泉街が今まで行った場所より遠く、練習になると考えられます。いかがでしょうか?』

「いいと思うよ」

 何も考えていない自分と比べるとしっかり考えてきたことがよく分かる。

『では、行きましょうか』

 いつも通り手を重ねる。白く透き通った柔らかい肌、意識すると緊張してしまう。

『高い所が苦手なんですか? 可愛いですね』

 いや、そうではないんだけど。そのまま体が浮く。

『では、温泉街まで』

 空を鳥と並んで飛ぶ。シルフのスカートがはためき、中の黒い下着が見え隠れする。際どい下着を着けている、お尻が見える……形が綺麗……

 ダメだ見ると、またからかわれる……下を向くしかない、高所を飛んでいるから、それも怖いが仕方ない。

『もう着きます。下を向いていられるなんて余裕があるのですね。クスクス』

 シルフが足を前後させパンツを見せつけてくる、早く着いてくださいお願いします。


『はい、到着です。ぎゅっ。これで安全です』

 シルフに引っ張られ抱っこされる形になり、着地した。周りに人の居ない場所を選んでくれたようだ……いや、十分悪戯された後だけど。

『離れたくないですかー? よしよし。甘えん坊のご主人様ですねー』

 ……降りよう、というか、降ろして! 降りるときにバランスを崩して頭から地面に突っ込んだ。

「ありがとう、シルフ。特訓どうだった?」

 立ち上がり特訓の成果を聞いてみる。

『余裕ですね。何処まででも行けますよ』

 それ、特訓必要無いよね?

『せっかくなので観光しましょう。行きますよ。ご主人様』

 手を引かれ温泉街に連れて行かれた。それが目的か。


 温泉街は完全に観光地のようで周りに浴衣の人が多く歩いている。

『実はですね。これを見てください。これは、この温泉街で一番評判の良い温泉宿のスイートを利用できる券です。ヴェロニカ様の村の村長さんがお礼にくださりました。リビングに置き手紙を残しておきましたので、安心してください』

 シルフは紙切れをひらひらさせている。本当に抜け目ない……

『さあ、行きましょう。デートですよ』

 シルフはスキップして先を行きクルリと振り向き前かがみで上目遣いをしている。ああ、可愛い……はっ!?

『早く来ないと置いて行きますよー! ご主人様!』


 道中で温泉卵を買い、足湯に寄る。シルフは客が少なく広いのに身を寄せてくる。

『好きな人と触れ合うことは最高の幸せですよ。それを否定するのですか? ご主人様は?』

 否定できるわけが無い。シルフの肩を抱き寄せる。

『んっ……! それでいいのです。ご主人様……』

「でも、寄り道する前に宿に行った方がいいと思う」

『温泉卵を食べたら行きましょうか。ご主人様。あーん。お気に召しましたら帰っても作りましょう』

 温泉卵を食べさせ合ってから宿に向かった。


『二人で使うには少し広すぎるお部屋ですね』

 畳の敷かれて広い部屋だ、

「まあ、スイートだからね。豪華すぎると落ち着かないね」

『二人で身を寄せ合い、少し窮屈でも手を伸ばせばすぐに触れ合える生活も悪くないですね。浴衣に着替えましょうか』

 バサッ!

 シルフは着ているものを全て脱ぎ捨て服をたたみ始める。

「シルフ! 先に着るか、隠すかしないと!」

『はぁ……分かりました』

 シルフは腕で目線を隠した。全裸で目線だけ隠すとかいかがわしさがヤバい……

『ご主人様も早く脱いでください。服を畳みますから。いえ、脱がせて差し上げます』

 シルフが自分の服に手をかける。

「ちょっと待って! それはダメだ! ダメだって!」

 上を無理矢理脱がし下に手を出し始めた。

『暴れないでください。本当に手がかかりますね』

 ガラッ!

「あの……返事が無かったので……失礼しました! お風呂用意出来ましたので!」

 仲居さんが逃げていった、まあ、全裸の女に脱がされそうになっている男なんてヤバい状況でしかないし。そのまま全部脱がされ浴衣を着せられた。

『では、お風呂に参りましょう』

 浴衣を着てテンションの上がったシルフが待っている。行くか。


『この温泉が貸切です。今日は私達二人だけなので何時でも入って良いそうです』

 うわぁ、広い、いくつもの露天風呂、二人で入るにはもったいないな。シルフが温泉の一つを指さしている。深く狭い立って入るタイプの温泉か。一人入るので精一杯だな。

「入って来たら?」

『唐変木ですね。二人で入りたいのです』

「……分かりました」

 自分が先に入りシルフが入るのを補助する。

『行きますよ? しっかり抱きとめてくださいね』

 シルフが入り抱き着いてくる。いつまで経っても自分にしがみついている。お風呂の深さが自分でもギリギリなのでシルフでは足が届かなかったらしい。バスタオル一枚を挟んでシルフの体があると考えるとのぼせそうだ。

『ご主人様の首筋……いただきます』

 !!? シルフが首筋に口付けをする。

『マーキングは……止めておきましょうか。そろそろ上がらないのぼせてしまいしまいそうですね』


 露天風呂に二人で腰を掛ける。火照った体に風が吹き気持ちがいい。足場があることに気付かずお風呂から出ることに悪戦苦闘した所為で体が真っ赤になっている。

『はい。冷たいお飲み物です』

 シルフが冷たいジュースを持って来てくれた。タオルがピッタリ体に張り付き目のやり場に困る。

「ありがとう」

 ジュースを受け取り飲む。シルフは向かい合うように膝の上に腰を下ろした。

『美味しいですね。材料は何でしょうか。気になりますね』

「何で膝の上に?」

『それは、もちろん』

 抱き着いてくる。二人きりだと積極的だ。

『こうするためです。私はここが好きなので。私はあまり甘え上手ではないです。だから、二人きりの時くらい甘えたい……です……』

 か、可愛い……! 普段見せないしおらしさのギャップ、尊い……

『こうやっていつもご主人様を独占したいですが、みんなが居なければご主人様が我が道を往くことは出来ませんから。ですが、たまには、甘えさせてください。ご主人様……』


『美味しかったですね。山菜料理に川魚の塩焼き、戻っても食材が手に入らないので同じものは無理ですが、勉強になりました』

 シルフが満足そうで良かった。

『食後の運動にあの球技をしませんか? まだ、寝るのにはまだ早いですし』

 卓球台を指さしている。温泉といえば卓球なのは何処の世界でも……いや、誰かがそう思って伝えたのか……

「ゲームだったら負けてあげられないけど、いい?」

『望むところです。行きますよ』

 シルフから玉を……シルフは胸が平らだ、動くだけではだけて見える……!

 カンッ!

 玉が自分の横を抜けていった。

『どうしましたか? ボーっとしてますよ? ふふふっ』

 シルフは浴衣を更にはだけさせる。

『暑いですね。ふふふっ。それっ!』

 お色気作戦とは卑怯だ! 気になって卓球どころではない。わざと見せつけている。

 惨敗した。それに途中から風でサポートしていたよね?

『勝ったのでご褒美いただけますよね?』

「ご褒美?」

『はい、ご主人様には今夜、私を抱き締めて一夜を過ごして欲しいです』

 シルフの顔は真剣そのもの、からかう為の冗談では無いらしい。

「お、おう……分かった」

『では、汗を流して同衾……しましょう?』

 同衾とはいかがわしい言い方を……


『片腕で腕枕、もう片方で抱き締めてくださればいいですよ』

「お望みどおりに」

『では、ぎゅー』

 自分の入っている布団に入り抱きしめてくるシルフ、とても優しい匂いがする。

『んっ!』

 べしべしと背中を叩かれる。催促のようだ。腕枕をして、抱き締める。

『私は一晩中と言いましたよね? その抱き締める強さで大丈夫ですか? 寝ている間に離れたらまた明日もお願いしますよ?』

 もっと強く抱き締めろってことか。抱き締める力を恐る恐る強める。

『きついくらいがちょうどいいです。安心できます……ご主人様。おやすみなさい』

「おやすみなさい。シルフ」

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