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39話 幻の家族

 ジリリリリリリッ!

 本当にうるさい目覚まし時計だ。

 ああ、体が痛い。目が覚めると隣にベッドの足が見える。床で寝ていたのか。最低の朝だ。PCもつけたままだ、自分でも呆れる。

 ぐるるるるっ!

 お腹が鳴った。今日がバイトの給料日だ。何時に入るのだろうか。そういえば今日は面接の日だ。親が死んでも何年かはお金があった。しかし、大学の授業料が払えなくなり、辞めて働かなければならなくなった。まあ、現状は受けた全ての会社にお祈りされてしまっているけど。

 スーツに着替え部屋を出る。面接の前に何か食べよう。


 暑い。夏日が肌に刺さる。満員電車と日の光の二重苦に吐きそうになる。やっと目的の駅についた。コンビニに寄ってお金とご飯だな。ATMでお金を下ろし適当におにぎりを買った。近くの公園のベンチでおにぎりを食べる。何でこんなことになったのだろうか。いつになってもその答えは出ない。


「相変わらず時化た面してんな、お前は」

 男が隣に座る。声からして桜川のおっさんか。

「まだ職見つかんねぇのか?」

 胸ポケットから煙草とライターを取り出し火をつけようとしているのを防ぐ。

「おい、何してんだ?」

 不機嫌になったがこの公園は禁煙だ。

「ここは禁煙だ。通報されるぞ」

 渋々煙草を収め始めた。

「はぁ、世知辛い世の中だぜ。ところでよ、豚の丸焼きって見たことあるか?」

「いきなり何なんだ?」

「お前の目が丸焼きにされた豚の目そっくりなんだよ」

「失礼極まりない言様だな。」

「何かあったのか?」

 上手く答えられそうにない、目が覚めた時にはどんな悪夢を見ていたのかほとんど覚えていなかった。

「何て言うか、自分が動けば動くほど周りの人を巻き込んで悪い方に落ちていくような夢を見た」

「それは傲慢だな、あっはっはっは」

 まあ、傲慢か……一人で周りの人を不幸に出来るとか。

「誰かを助けたいって思ったのにその人を不幸にし続けていく夢……何であんな夢をみたんだろうか」

「……俺はよ、あの事故の捜査の時、ずっとお前のことを考えてた」

 このおっさんは何を言ってるんだ。

「気持ち悪いな。悪寒がする」

「はっ、自分が助けたいって思ってる奴のことを思わなきゃやってらんねぇんだよ。アホ!」

「アホっていう方がアホだけどね!」

 いい歳した大人の子供みたいな罵倒が公園に飛び交った。

「いいか? 誰か知らねぇがそいつのことを思ってんのなら最後までやってやりゃあいいんだよ。それで大惨事起こしたら全力で謝りゃあいいだろ」

「おい、まさか、自分の時もそんなテキトーにやったのか!?」

「誰がテキトーだ、馬鹿! 全力でやったっての。言っとっけど全力でやったって言えねぇのはダセェことだからな」

 素面なのか酔ってるのか、本当に良く分からないな。たぶん、ガキなだけなんだろうけど。

「憐れんだ目で見てんじゃねーよ。人の為にやる全力ってのは案外上手くいくもんなんだよ」

「そういうものなのか?」

「ああ、実際に奇跡を起こして見せてんだから信じろ」

「そうか」

「おう、丸焼きにされた豚の目から死んだ魚の目にランクアップしてるぜ」

 アップしてないからな、それは。

「やるだけやりゃ、過程がどんなに不幸でも最後には一緒に笑えるんだよ。俺はそう信じてる。ふんっ」

 ドヤ顔で腕を組むな。そっか、そうなのか、一緒に笑えるのか。まあ、たまったものではないだろうけどな。

「それで相手はどんな美人なんだ?」

「それ、ニートに言う言葉ではないから。それに、好きな訳ではなくて、えっと、えぇっと、そうだ。可哀想だったんだ」

 自分と一緒で親が居ないことが可哀想だった。はず! 名前も顔も思い出せないけど。

「お、おう? そうなのか?」

「ああ、うん、たぶん、そう」

 頑張って夢の内容を思い出そうとするが靄がかかって思い出せない。

「お前の同類ってわけか。そいつは今何処に居るんだ?」

 何処……? そう、何処に居るんだ!? 皆目見当がつかない。

「お、おい? 大丈夫か? 酷い汗だぞ?」

 いや、ダメだ。出てこない。頭が痛い。

「もう無理に思い出すな。はぁ、そう言えば前に一緒に飯に行ったおっちゃんいただろ、ハゲ爺」

 話題を変えてくれた。少し頭痛が治まった。ハゲ爺か……居たな……

「あのハゲ爺さ、俺の相棒のハゲ爺だ。定年退職で辞めてったんだよ」

「えっ? 俺は絶対に現場で死ぬぞ。最後まで犯人に噛みついてやる! って言ってなかった?」

「言ってた。それが家族の為に定年退職だってさ。署から出るときに大泣きしてんだよ。もう、大爆笑しちまってさ。ぶん殴られたぞ、俺。お前は空気読め! この大馬鹿野郎! ってさ」

「あはは、よくやるよ。もう数発殴られればまともになるよ?」

「誰がなってやるかっての。その後釜がさ、伊集院暁っていう真面目だけが取り柄の木偶の坊なんだよ。」

 ……アカツキ?

「今もあいつに書類投げて、サボってんだよ。あいつ真面目に、分かりました、先輩! 俺に任せてください! って言うから笑いをこらえるのが大変だったぜ」

 アカツキ……珍しい名前だが聞いたことがあるような……

「落ち着いたか? まあ、お前が何をやろうと俺は応援するからよ。何処に行こうがやりたいことはやって見せろよ。お前にしか出来ないんだろ? そいつの為には。行ってやれよ、例え日本に戻れなくなってもな。それはねぇか。あっはっはっは」

 ……そうか。ここに戻れなくても。


「結構時間経ったがいいのか?」

「そうだな。行かないと」

 ベンチから立つ。

「おっさん、ありがとう」

「おう、またな。優」

 またはもう無いんだ。でも、ありがとう。おっさん。


 自室に戻ってきた。やっと思い出した。忘れていたことすら腹立たしい。どういう状況なんだこれは? どうして戻ってきている。どうすればあの世界にまた行けるんだ……もう一度死んでみるか……? いや、それは流石に馬鹿か。

 そう言えばこの世界は魔法はどうなのだろうか。やってみるしかない。

「シルフ! サラマンダー! ウンディーネ! ノーム! 応えてくれ!」


 ……まあ、返事は無いな。

 視界が歪む、さっきまで無かった、いや、無ければおかしい床と机に乾いた血がこびりついている。左腕が力が入らなくなり、だらりと動かなくなった。

 頭が重く立っていられない……膝をつく……

『ユウくん! お待たせ! お姉ちゃんが来たよ!』

 ノーム! ノームが魔法陣と共に部屋に現れた。何で服がボロボロになっているんだ? パンツが見えるしおっぱいもギリギリで隠れているような状態だ。

「大丈夫か? ノーム。何があったのか教えて欲しい」

『うん! 今みんなドラゴンに襲われてる。ドラゴンは周りと完全に同化してたから、誰にも感知出来なかった。そして、ユウくんの体もまだ見つかってないの! 今ユウくんは魂と魔力だけの状態だから』

 実体があるように感じているが、実際には無いということか。

「取りあえず、土か何かで体を作って。それに移れるか試してみよう」

『ええっ!? そんな危ないことはダメだよ!? もしも上手く移れなかったら……』

 そんな心配はしていない、大丈夫なんだ。

「余裕だよ。自分とノームなら」

『ええええええ!? ユウくん!? 頼りにしてくれるのは嬉しいけど……』

 ノームが恥ずかしそうにもじもじしている。

「自分の為にやってくれるんでしょ? だったら自分は信じるだけ。上手くいくよ」

『う、うん! お姉ちゃん頑張る! ユウくんにそこまで言わせてやれなかったらお姉ちゃん失格だもんね!』

 ノームが腕にしがみつく。

『行くよ!』

 見る見るうちに視界の全てが変わっていく歪み混ざり再構築されていく、全てが混ざり黒一色になったかと思うと黒が分かれ景色になっていく。元居た場所に戻ってきた。ボロボロのみんなが周りに集まっていた。

『遅いです。ご主人様』

『ダーリン……やっともどってきたぁ……』

『ボクのユウなのに勝手に離れていいなんて言ってないよ』

「ただいまって言いたいけど、それどころではないんだよね?」

 体を動かすと埃が宙を舞う、土で出来た仮初の体だから仕方ない。

 周囲の何処を見てもドラゴンの姿は見えない。ならばこっちから行かせてもらうだけだ。

「みんな、行くよ!」

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