37話 愚かな狂信の勇者
訓練から帰る途中に騎士団本部内廊下でキャンバスを見つけてしまった。居るのか……
「やあ、よく会うね。私も騎士団所属の身となりここでお世話になっているんだ」
「アダムさん」
「そういえば私の妹と仲良くしてくれているんだってね。あまり無駄なことはしない方がいい」
え!? あまりにも衝撃的なことを言われ意味を汲み取りかねる。
「どういうことですか?」
「私の妹は美的センスの欠片も無い。くだらない存在だ。君くらい芸術に理解があればまだ……いや、こんなくだらない話を君とするのは良くないな」
この人とは分かり合えないかもしれない。
「訓練で疲れているんだったね。今日はこれでお別れとしよう。引き留めて申し訳なかったね」
騎士団本部を出た。夕暮れの空と夜の空が混じっていて綺麗だ。
「私は師匠の下に帰るからー。あと、師匠情報だとヴァルさんとアヤネさん、謹慎になったらしくて手伝えないって言ってたよー。伝えたからねー。ばいばーい」
あの二人というかヴァルが謹慎になったのだろうな。あの件に巻き込まれた人達はこの結果に満足しているのだろうか?
帰ろう、帰ってゆっくり寝よう。
窓を叩く音が聞こえる。何度も何度も聞こえる。でもベッドから出たくない。
「おはよー! 起きてー! ユウ君、緊急の依頼があるんだ! 起きてくれー!」
これはネクサスさんが窓に張り付き窓を叩いている音だったか。起きたくないー、はぁ、ベッドから起き上がり窓を開ける。まだ外が暗い。
「おはようございます。窓から入ろうとしないでください」
ネクサスさんは窓から華麗な動きで部屋に入る。
「ごめん、ごめん、でも、緊急の案件なんだよ。ヴェロニカさんの居る村で集団失踪が起きたんだよ」
眼が覚める。脳が起きろと警鐘を鳴らし、身体が思考を開始する。
「どういうことですか?」
「ごめん、情報がほぼ無いんだ。昨夜村の付近でドラゴンを見たという通報を受け、調査に出た団員が今朝帰ってきて、村から誰も居なくなっていた、と報告を受けたんだ」
ドラゴンと村人の失踪、関連付けたくなるが……
「ドラゴンは元来から人に害を為すもの、君にドラゴン討伐に行って欲しい。それなりの報酬は用意するよ。」
ヴェロニカ達の安否も気になるところだ。
「分かりました。受けます」
「ありがとう。事態は一刻を争う。そして、増援も見込めないものだと思って欲しい。では健闘を祈るよ」
ネクサスさんが窓から出ていった。急いで着替えリビングにみんなを集め、準備をする。
「シルフ、あの村まで頼める?」
屋敷の外に出る、まだ早朝、歩いている人も居ない。
『主命、承りました。お手を』
シルフの手に手を重ねしっかり繋ぎあう。
『行きますよ!』
空高く飛び上がりヴェロニカ達の村まで飛んでいく。
村の近くまで飛んできた。
パキンッ!
脆いガラスのようなものが割れる音が聞こえたがここは空の上だ。嫌な予感にしかならない。
村の中心に降り立つ。異様な空気だ、何かに見られているような気がするのだが、何度見回しても誰も居ない。
『ご主人様。ご注意ください。途轍もない力を感じますが、それが何処からなのか皆目見当もつきません』
「ノーム何かわかる?」
ノームに地面を伝って周りの様子を見てもらう。
『お姉ちゃん、分かっちゃった。森の方に誰かいるよっ! でも、生気の無い何とも言えない感じ』
「行ってみるしか無さそうだな」
森に近づく。かなり鬱蒼とした森で先が見え辛い。
『ユウくんっ! その茂みだよ!』
恐る恐る茂みを掻き分ける。人が倒れている。顔は土気色し白目を剥いて口から泡をを吐いていて手足があらぬ方向に曲がっている。でも、ピクピク動いている。まだ生きていた。村人の服装では無いな。何だろう、宗教家が着るような服に似ている。
「これは……ホラーすぎる」
ゾンビなら襲い掛かって来そうだが、その気配も無い。
『これは……何か分かったことはあるかな? ユウ』
「いや、自分にはさっぱり分からない。」
『ユウで何も分からないなら手掛かりにならないね』
ガサッと他の茂みが動いた。こっちも掻き分けてみる。
「「うわぁっ!?」」
驚いた声を上げたのは茂みから出てきたヴェロニカとニーナだった。
「何があったのか教えて欲しいんだけど?」
ヴェロニカとニーナを保護し、一度村に戻ってきた。
「それが良く分からない」
ヴェロニカは下を見て思い出そうとしている。
「落ち着いて。もう一度何が起こったか整理して欲しいんだけど」
「そうだ! 昨日の夜中に村に一人の男が現れて、何かを叫んだの」
「はぁ、それだけだとさっぱり分からない」
「その後は森に居た。森に行ったと思うけど、何でだろう?」
ヴェロニカは自分の顔を見る。
「自分に聞かれても分からないから」
「それでニーナを森で探して森から出ようとした所をユウに驚かされた」
本当に人聞きの悪いことしか言わないな。
「一度ネクサスさんに報告するか」
現状ではどうにもならないし、ヴェロニカもニーナも森で切り傷を作っているから安全な場所に移動させた方が良いだろう。
村を出て王都への道を歩く。
ガンッ! 痛い! 何かに足をぶつけた後、体勢を崩し頭をぶつけた、頭をぶつけた嫌な音が自分でも聞こえた。
何も無い空間に手を突き出す。壁があるかのようにそれ以上手が前に動かない。
『ダーリン。これは……?』
みんな各々見えない壁に手を突く。
「逃がさないってことだろうね」
ひとしきり周囲を確かめたが、何処にも壁が無い場所も無い。シルフと協力して空も調べたがダメだった。
攻撃してみるか?
「止めておけ、無駄だ」
……アリアドネ。いつも急に出てくるな。
「これは超高強度魔法障壁、この辺りの魔力も異様だ、あまり取り込むと後で異常が出るぞ。敵はここで嬲り殺しにするつもりなんだろう」
アリアドネが魔力で炎を作ると炎は緑色に変わり悪臭を放ち、燃え尽きた。
「アリアドネ、いつも何処に居るんだ?」
「ユウに寄生している、と言っておく」
止めて欲しい、変態魔女に憑りつかれるとか、気が気でない。
一度村に戻るしか無さそうだ。
村は占領されていた。占領している連中から見えない位置で様子を見る。宗教団体みたいな連中が村の中央広場を陣取っている。紫色の司教服を着た男を中心に白い服の人々が周りを囲んでいる。
「何故入ってこられないのですか? 村を救いに来たのでは無いのですか?」
中心に居る男が声を上げた。見えない位置に居るはずなのに見えるのか!?
ヴェロニカがニーナの手を放し自分に頷く。するとヴェロニカの姿がその場で見えなくなった、ヴェロニカは姿を消す勇者の力を持っていた。
自分も行こう。
意を決して宗教団体の前に姿を現す。
「やっとおいでくださいましたか。初めまして。私は、ギルバートと申します。あなたと同じく勇者です」
紫色の祭服を着て重そうな本を抱えている男が挨拶をしてきた。
「自分の名前はユウだ。お前は何者だ? この村で何をしている? この異様な状況は何なんだ?」
ギルバートは本を閉じ、近づいてくる。
「私は前の世界では宗教家をしておりました。この世界でも広めたいと思っております。ほら、信者の皆様がこんなにも集まってくださいました。素晴らしいとは思いませんか?」
話をはぐらかされた。どうも話が合わない。
「あなたには、我らが主の捧げものとなって頂きたいのです」
やっぱり狂人だったか。信者が波のように襲い掛かってくる。信者は懐から刃物を取り出す。50人近く居るんだが!?
『ご主人様! 私が吹き飛ばします!』
シルフが前に出て魔法の準備を始める。
「ダメですよ。悪魔が主の前で暴れようなど、あり得てはならないことです」
窘めるようなギルバートの声と共にシルフが崩れ落ちた。
「シルフ!!?」
『ダメです、ご主人様! 逃げてください!』
ニーナもヴェロニカも居る、そして、あの魔法障壁があるから逃げられるわけが無い。
「さあ! その命を主の為に捧げてください!」
ギルバートの声と共に信者達は自分に飛びかかる。
「試練の時だ! 彼の狂信を打ち破らなければ、その命は無意味を知れ!」
声高に謳うアリアドネ、助けてはくれないらしい。
頭を働かせ戦え、自ら命を示せ、それ以外に生き残ることなど出来ないのだから。




