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36話 剣戟・蒼

『ご主人様。ネクサス様がお呼びでした。明日でも良いと申しておりましたけど』

 リビングに移り会議が始まった。ウンディーネが抱き着いたままで白い目で見られ続けながら会議は進んでいく。

「用件は何て言ってた?」

『いいえ、仰りませんでした』

 業務的に答えるシルフ、冷たい。

「行ってみるしかないか。はぁ」


 団長室前についてしまった。ノックをして待つ。ノックの回数のマナーが元の世界と同じとは限らない、そんなくだらないことが頭に浮かんだ。

「どうぞ」

「失礼します」

 部屋に入るとネクサスさんは書類に印を押していた。動き辛そうな鎧で書類仕事をしている光景は滑稽だが、言わないでおこう。

「君か、わざわざノックなんてしなくてもいいんだけどね。いや、親しき中にも礼儀ありかな」

 何でそんな言葉を知っているのか聞きたい気もするけど、面倒だし、いいか。

「何か失礼なことを考えてないかな? 用件は君に付き合ってもらいたいことが有るんだ」

「嫌って言いたいけど付き合います」

「良かった。君の為でもあるからね。付いて来て」

 ネクサスさんは部屋に鍵も掛けずに行ってしまった。書類は大丈夫なのか?


 訓練場に連れてこられた、嫌な予感がする。

「君に訓練を付けないといけない。君も騎士団所属だからね」

「はい?」

「はい、これ訓練用の木刀ね。騎士団のルールとして、所属者は必ず訓練を受ける、というルールがあるんだ。君が元気になったから受けて貰わないと」

 訓練用の木刀を渡されたがかなり重い、持ち上げるだけで汗が出そうだ。

「まずは、軽く素振りと行こうか。大丈夫、型も教えるから」

 何とか持ち上げるが木刀がプルプルしている。

「基本的には振らずに突くんだよ。鎧は斬れないからね。出来るだけ体の軸は固定してね。せーのっ!」

「よいしょっと!」

 すぽんっと木刀が手から抜けネクサスさんの兜に直撃した。

「あ゛い゛た゛っ゛!!」

 ガシャンと倒れるネクサスさん。周囲の団員が音に反応して集まってくる。

「え、えっと、もしかして、自分やっちゃいましたか!? すみませんでした!?」

 頭を下げネクサスさんに近寄って様子を見る。

「あはは、大丈夫、大丈夫、初心者にはよくあること、気にしない、気にしない。よっこらせっと」

 ネクサスさんに手を貸すと、サッとネクサスさんは立ち上がった。

「ネクサスさんでも痛いんですね」

 鎧だけのはずなのに痛覚があるんだ。そう思ったけど、これは団員達の前では言えない。

「あはは、僕でも痛いものは痛いよ。うん。でも、その調子だったら剣は持てそうに無いね」

 そういえばセツナくんも剣を持っていた。

「セツナくんの剣のタイプはどうなんですか?」

「ああ、あれはショートソードだね。それも宝剣で特別軽く作ってあると思うよ。僕の見立てだと」

『少しよろしいでしょうか? ネクサス様。ご主人様は私達精霊がお守りするので武器を持つ必要は無いように思えます』

 シルフが割って入る。

「常に精霊様がついて居られるとは限らないし、丸腰より武器を持っていた方が動けることも有ると僕は思うよ。まあ、これがルールだから受けて貰うしかないんだけど」

『む……そうですか』

 あれ? 普通に引き下がるんだ。

『ご主人様。ウンディーネが暴走しない程度にお願いしますね』

 あっはい。そうですね。ウンディーネがジッと睨み続けていた。

「ユウ君ならナイフくらいがいいかもね」

 木のナイフを二本渡された。どうしろと?

「まず、構えからやろうか。これは前途多難だね。うん」

 ネクサスさんが後ろに回り込みしっかりと体勢を覚えるように自分の腕や足を動かしていく。ネクサスさんの手が体から離れた。この体勢が基本のようだ。

「それが基本だから、しっかり体で覚えてね」

 刺突能力に特化したダガーのような木のナイフだ。まあまあ重い。何故二本も渡されたのだろうか?

「近接攻撃から守るように刃を頑丈にしてあるんだ。あまり攻撃には向いて無いから、無理しないことだね。それに、ちょっと構えて」

 言われて構え直す。ネクサスさんが木刀をナイフに向けて振り下ろす。乾いた木が打ち合う音がしてナイフが手から跳ばされた。跳ばされたナイフを持っていた手はビリビリしてまともに動かせない。

「そういうこと、打ち合えば間違いなく負けるからね。ちょっと休憩にしようか」


 時間が経ってやっと手の痺れが消えていく。打ち合わずに受け流せ、とのことで、それは素人に出来るのか?

「やっほー。ユウさん、おひさー」

 ん? その声は、サファイア!?

「師匠に息抜きにユウさんの様子を見て来いって言われてー来たんだよー」

「アメジストはどう?」

「アメちゃんはまだ起きてこないよー。本当に早く起きてよアメちゃん。ところで、ユウさん、ナイフを持つことになったんだってー? 私と一戦やろうよー?」

『サフィ、ダーリンはね、今日初めてナイフを持ったばかりの産まれたての小鹿もビックリのプルプルよわよわダサダサだから、手加減をしてね。お願いだから!』

 言いたい放題な上に心配された!?

「サラマンダー!? ちょっと!?」

「あ、私がナイフで攻撃しなければいいハンデになるかなー?」

 これは露骨に舐められた発言、逃げ道を塞がれた!?

「分かった……やろうか」

『ダーリン、声が震えてるよ……?』


 サファイアが準備を運動にその場でステップし膝丈のスカートが揺れている。

「行くよー!」

 言葉と共に少し跳び頭に回し蹴りを繰り出してきた! 咄嗟に腕で防ぐ。

「ぐっ!?」

 防ぎきれない、蹴りが鋭すぎる。バランスを崩してしまう。

「あらら? 次行くよー!」

 サファイアは反転し頭を目掛けてかかと落としをする。避けられないし防げない! 頭に当たる前に足が止まった。地面に腰を着き、サファイアを見上げる形になる。あと、サファイアの青い縞パンが見える。

「ちょっとダメダメだねー」

 サファイアは足を戻し手を差し伸べてきた。有難く手を借りて起き上がる。

「ユウさん、せっかく持ってるナイフがあるのに腕で受けたらナイフを持ってる意味ないよー?」

「いや、咄嗟にナイフを出せるレベルではないから、まだ」

 慌てて、まだ、を付け加え体裁を取り繕う。

「蹴りにナイフを合わせるだけで抑止力になるからねー。相手を傷つけるのが怖かったらナイフの腹で受けてもいいんだよー?」

「ナイフの腹で受ければいいのか、なるほど。あと、サファイアって強かったんだな」

「えへへ、私は護衛と暗殺専門で本当に強いのは私のお姉ちゃんだよー」

 サファイアは姉妹居たのか。そういうことサファイアは何も聞いたことが無かったな。

「私は三姉妹の次女だよー、お姉ちゃんのルビーちゃんと妹のエメラルドちゃんが居るんだー。言ってなかったよね?」

「うん、聞いたことが無い」

「お姉さんのルビーさんはダグザの守護神と称される人物で僕とも何度か試合をしたことがあるんだよ」

 ネクサスさんが周りの団員の指導から戻ってきた。

「僕よりもその道に通じてるサファイアさんに稽古をつけてもらった方がいいかもね。僕は見てるよ」

 ネクサスさんは段差に座り観戦にまわった。

『サファイア、ユウこれはボクとシルフと騎士団食堂からの差し入れだよ。これを飲んで頑張ってね。ユウ』

 ウンディーネに冷たいジュースを手渡された、大量に作って周りにも騎士団の食事係の人が配っているようだ。

「ジュースで回復したら次行くよー!」

 サファイアの指導でナイフの腹で受けるコツを掴んできた。相手の初動を見て大まかな攻撃の来る位置を読み、ナイフを攻撃の来る範囲に準備することが大事なようだ。何度も蹴られてやっと受け流せるナイフの角度も分かってきた。

「たぁーっ!」

 サファイアの蹴り上げをかわす。そのまま来るかかと落としをナイフの腹で滑らせ流す。

「おおっ!? できたよねー? やったー!」

 サファイアが自身のことのように喜んでくれる。

『ユウくん、偉ーいっ! お姉ちゃんがナデナデしてあげる』

 ノームに飛びつかれ頭を撫でられる。今汗臭いからって言いたかったけど、もう言える元気もない。

「お疲れ様。今日は帰ってぐっすり眠って疲れを取るといいよ。今日のこと忘れないようにね」

 ネクサスさんも最後まで見届けてくれた。言われた通り戻ってゆっくり休もう。

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