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32話 悲痛に泣く聖女

『ダーリーンッ! 起きて! おはよー!』

 サラマンダーが起こしに来てくれたのか、いつもと逆だな。

「おはよー」

 ああ、体中が痛む……

「痛むのか? よしよしナデナデ」

 服の中に腕を突っ込まれまさぐれる。頭にボインが当たっているのもわざとだろう。

「えーっと、アリアドネさん? 何やっているんですか?」

「ん? 決まっている、お触りだ!」

 自信満々に言うがただのセクハラだ。

「何だこの変態」

 つい口に出てしまった。

「……も、もっと罵ってください! ご主人様ぁ!」

 は!? もしかして、かなりの変態なのか!?

『私も……ダーリンと触れ合いたい!』

 サラマンダーが脱ぎ始めた。触発されてしまったのか!? サラマンダーが下着姿で足の上に乗っかる。

『だーりん。私と……一緒に……』

 服を脱がされ、頬ずりされる。ああ、すべすべ。

『朝から盛るとは、流石、ゴミご主人様ですね。司教様がお呼びです。それともここに司教様をお呼びいたしましょうか? ド変態ご主人様』

 目が覚めました。こんなところに師匠を呼ばれたら死ぬ。息の根が止まる。早く師匠の下に急ごう。


「おはようございます。師匠」

「おはようございます。ユウ。よく眠れましたか?」

「お気遣いありがとうございます。まあ、まだ体は痛みます。ところで、アメジスト達は?」

「アメジストちゃんが起きるのは当分先になるでしょう」

 当分先? アメジストに何があったのだろうか?

「アメジストちゃんの弓は体内の魔力を消費することでより威力の高い矢を放つ事が出来ます」

 なるほど。弓に魔力を注ぎ込めば強化できるのか。

「アメジストちゃんは元々魔力の保有量が少ないのです。そんな体で無理矢理使った結果です」

 ああ、連射していたな。

 師匠は目を伏せた。

「ねえ? 師匠?」

「何ですか? ユウ」

「自分はどうしたらいい? 自分に何ができる? 自分は……守れなかった……」

 やるせなかった。この現状をどうにも出来ない自分に腹が立った。

「ユウ。アメジストちゃんも私もユウを信じています。絶対にユウなら救ってくれる、と。だって、アメジストちゃんが呼んだ勇者なのですから」

 気休めなのか本気で言っているのか分からなかった。

「本題に入りましょう。ユウ。あなたは今日から騎士団所属となりました。詳しいことは騎士団本部に行き聞いてください」

 騎士団所属か、あれからネクサスさんはどうなったのだろうか。

「取りあえず、送ります。大丈夫です。ユウ。私もついて居ますから」


 騎士団本部に転移魔術で送られた。何故かアリアドネまで着いてきた。騎士団本部、整然としていて清潔感があり男ばかりの場所には見えない。

「団長室で待っておられます。どうぞ。こちらの部屋です」

 促されるまま部屋に入る、中には白い鎧の人物が窓から外を眺めていた。

「失礼します。ユウです。えーっと……」

 何を話せばよいのだろう? 言葉に詰まっていると、白い鎧の人物がこちらを向いた。

「畏まらなくていいよ。久しぶりだね。僕だよ、ネクサスだよ。イメチェンしたから分からないか」

 体全てを変えてイメチェンと言う言葉で片付けるのはどうかと思う。

「アルベドが黒はダメだ。これからは白にしろ! と言うものだからさ。仕方なくね」

 アルベド、白と反射光という意味がある。二つともある意味当てはまっている。

「無事だったんですか? あれから」

 腹に穴を開け、高所から叩きつけてしまったが、実際どうなのだろう。

「あの鎧は修繕中だよ。真っ二つになったからねぇ。ああ、僕はスペアがあるから大丈夫だよ。あと2桁はあるし」

 スペアに変えるだけで完全復活か。もう二度と戦いたくない。

「僕としてはアルベドに刃向かう気は無いんだ。でも、君が足掻くと言うのなら止めはしない。自由に動いてくれて構わないし、戦闘以外なら協力も惜しまないよ」

「ありがとうございます」

「あはは、僕に敬語を使うのは止めて欲しいなぁ。みんなに言っているのに誰もやめてくれないんだよ。ここではみんな背中を預けあう仲間なんだからさ」

 仲間か、みんな今頃どうしているのか。

「あと、騎士団には戦闘系の依頼が来ることも有るんだ、君も手伝ってくれたら謝礼を出すから、手伝ってあげて、みんなをね」


 ヴェロニカとニーナ、ゴリラ、セツナ、アリシアとマナカ、ヴァルとアヤネ、ソフィアとモニカ、それぞれがどうなったのか知る必要がある。幸い時間はある、ネクサスさんが気を使ってくれているおかげだ。まずは、ヴェロニカの隠れ家に向かう。

「主様。おかえりなさいませ。ご飯にしますか? 食事にしますか? それとも私を食べますか?」

 誰だ? こんなことを仕込んだ奴は。ヴェロニカしかいないか。隠れ家に戻るとソフィアとモニカの二人しか居なかった。

「ユウ様。お、お帰りなさいませ。ヴェロニカさんからの伝言で、初めて会った場所に居る、だそうです」

 ソフィアが変にドギマギしながら教えてくれる。初めて会った場所……か……

「ねえ? 二人とも今度から名前で呼んでくれないかな? 様って付けられるとあまりいい気分ではないから。」

 ここらで変えさせなければ対等な関係はいつまで経っても築けないし、彼女達の為にもならない。

「お言葉ですが、主様。シルフ様もご主人様、と言っているのは良いのですか?」

 モニカに反論された。

「あれは、照れ隠しだから」

『照れ隠しではありません。妄想癖変態ご主人様』

「シルフも名前で呼んでくれてもいいんだけど? ほら、名前で」

『うぅ、ユ、ユ、ユユユユ……うるさい! 変態ろくでなしポンコツご主人様!』

 顔を真っ赤にして照れ隠しで怒り始めた。可愛い。

「ほらね?」

 シルフが耳を掴んだ。そして、引っ張った。

「痛い!」


「それで二人はこれからどうするの?」

 椅子に座り腰を据えて話を始める。

「私は帰ることができますが、恩を返さずのこのこ帰れば姫にどんな文句を言われるか分かりません。ユウ」

「私は帰れない、帰ることが出来ない、ユウ」

「魔族の国アスタルトは国交断絶しているのです。帰そうにもどうにも」

 無理矢理話の最後に名前を呼ばせているが、まあ、いいかな。それにしても、帰ることが出来ないか、小さな女の子が親と離れて暮らすなんてあり得ない。

「それにアスタルトは帝国と戦争中」

 何からやればいいのだろう……自分に何が出来るのだろう。

 ここにあるのは虚しさだけだ。

「取りあえず、みんなで屋敷に戻ろうか?」


 屋敷に戻った。たった数日空けただけなのに懐かしく感じる。今はリビングでだらしなく過ごすアメジストもサファイアも居ない。サファイアは付きっきりでアメジストを看ている。

 たった二人居ないだけの、いや、二人も居ない寂しさが身を刻む。

 これからやるべきことは決まっている、アルベドについて調べなければならない。過去に何があったのか知らなければ。

「良い顔をしているな。ユウ」

 ろくでもない魔女様に声を掛けられた。

「世の中は常々理不尽なものだ。だがな、理不尽をする者とされる者に分けられる、さあ、ユウ、どっちになりたい?」

 そんなもの決まっている、自分は……自分は……

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