31話 理想と正義の幕開け
パチパチパチパチ!
拍手が聞こえる、貴族どもがそんなことをするはずがない。
「素晴らしい、素晴らしいな! 俺様の臣下になれ! 手厚く歓迎するぞ! そこの勇者!」
玉座に堂々と謎の金髪長身イケメンが入ってきた。その一歩後ろにセツナくんがついて来ている。
誰?
「ユウさん、無事だったんですね、良かったです! 流石です!」
セツナくんが興奮冷めやらぬ様子で自分の前に来る。
「いや、みんなが居てくれたから、何とかなったんだよ」
嘘偽り無い素直な気持ちだ。自分一人では何処で野垂れ死にしていたか分かったものではない。
「ア、ア、アルベド!? 何故だ!? どうやって!? あ、あ、あぁ……」
今まで一言も発しなかったニグレド王が狂気じみた叫び声を上げた。
「兄上か……感謝しようこの国を護っ……いや、壊したと言うべきか。まあ、それでもな」
「アルベド様、どうしますか?」
セツナくんが剣を抜きニグレド王に歩み寄る。
「待て、セツナ、殺してしまえば民に示しがつかない。降りてもらえ」
「了解しました」
セツナくんはニグレド王を剣の柄で殴って気絶させた後、椅子から叩き下ろした。セツナくん、こんなに凶暴だったかなぁ。
「どうした? そこの勇者? 口を開けたまま立ち尽くして。というか、名くらい名乗るが良い」
「え、ああ、はい、名はユウです。はい」
呆気にとられながらも名乗る。
「そうか、ユウか、さっさと徴収を済ませるが良い、これから俺様の戴冠式を行う、参加していけ。臣下になるかどうかはその後でも構わない」
怒涛の展開に何が何だかさっぱりだ。
そうこうしているうちにアルベドは玉座に着いた。
「ふん、感謝しなければな。やっと、あるべき形に戻ったと言えよう」
徴収し終えた貴族どもは玉座から一目散に逃げ出していく。
「戴冠式と行きたいが……僧がな……居ない……どうするべきか」
行き当たりばったりか! 直前になってグダグダになるのは止めてくれ、居づらいだろ! でも、言えない……
「うーむ、セツナ頼む!」
投げた。
「冠がありません。アルベド様」
セツナくんが素直に返した。でも、そういうことではないよね?
「冠? 冠は何処にいったのだろうか?」
聞くなよ。勇者とアリシアさんの中で誰が知っていると思ったんだよ。
「帰りたい……」
聞かれないようボソッと呟く。
「終わったー? こっちはニーナを見つけたよー!」
「おい! ユウ! 生きてんのか!?」
ヴェロニカとゴリラを先頭にして集まってきた。
「大丈夫なんだけど……大丈夫のはず!」
要領を得ない応え方になってしまった。
玉座にふんぞり返るアルベドとその前で寝ているニグレド王を見てみんな唖然としている。
「そなた達もセツナの仲間か? 歓迎しよう。俺様の臣下になれ。あと、冠を見なかったか?」
みんな一様にポカーンとして自分を見る、知らない、と首を横に振って返すしかない。
この微妙な空気をどうすればいいのか、誰か救いの手を……
「はぁ、誰も知らぬのか。全く困ったものだ」
「僕が探してきます、この城の中にあるんですよね?」
「分からん!」
自信満々に言うなよ……
バンッ!
矢が玉座に刺さっている。当たる音がするまで分からなかった。アルベドの頭があった場所に矢が刺さっている。何処から!?
アルベドは自分の隣に移動していた。いつの間に!?
「いきなり狙われるとはな」
矢は角度から玉座の外の広間から撃たれたものと分かった。誰がこんなことを?
「ユウ! 今すぐそいつから離れるのだわ! そして構えるのよ!」
アメジストの声が聞こえる。混乱する頭を無理矢理働かせ、アルベドと距離を取る。
「そいつは、私の親の仇よ!」
続けざまにアルベドの頭部に矢が飛んで来る。アメジストが撃っているようだ。アルベドは微動だにしない、死ぬ気なのか!?
……当たらなかった……当たる直前に姿が消え、違う場所に移動していた。瞬間移動か? いや、判断するには材料が足りない。
「逆賊か? 姿を見せよ!」
アメジストとサファイアが姿を見せる。それは不味い。
「みんな行ける?」
周りに聞かれないように精霊達に問いかける。みんな静かに頷いてくれた。しかし、ネクサスとの戦闘で限界なのは分かっている。
「アメジスト姫か……」
冷酷な表情をしている、ああ、本当に不味いな。
「退け。それ以上は言わぬ」
アルベドはアメジストを指さすと指先が光を帯びる。ビームでも撃つ気か!?
「おい! こっちを見ろ!」
叫ぶ。アルベドは言った通りに自分を見た。
「何のつもりだ? 余計なことはするな」
「悪いけど、くたばれ」
風、水、焔、土の魔法弾がアルベドを狙い放たれる。
姿が消えた、素早い系の能力のテンプレなら死角を取るはずだ。急いで振り返る。遅かった。足が皮一枚先に迫っていた、蹴りを首筋に受け床に顔面を叩き付けられる。
「何故だ? 俺様が後ろに回ることが……いや、よい」
立ち上がれない、頭がガンガンして痛む。そんなことを考えている場合ではない……!
顔を上げ左手を床に着く。後方が光った。光線が左肩を貫き、左手が滑る。また顔面を床にぶつけた。
「立つな」
冷酷な声だ。こいつがアメジストの親を……
「アルベド様……ユウさん……もう止めてください!」
セツナくんの悲痛な叫びが玉座に響く。
「終わらせてやろう」
眩しい、勝てない、どうすれば……
光が一際輝きを強めた。
「そうはいかない。この私、万鏡の魔女、アリアドネが許さない」
黒い靄というか、闇かな、たぶん、闇が自分の体に纏わりつき光線を弾いた。
マナカさんが闇を生み出していた、いや、やっぱりマナカさんAAAAないな。
「今までありがとう。マナカ。もう行かないと。マナカは頑張れる子だ。自信を持て。私が居なくても大丈夫だ」
マナカさんの体でそれを言うと訳が分からなくなるな。マナカさんの前に先が見えなくなるほど濃い魔力の渦が出来る。その中からセクシーな服装の妖艶な美女が現れた。
「もう一度名乗ろう。私が万鏡の魔女アリアドネだ」
「ふざけた名だ。騙るな魔女!」
アルベドが怒りに満ちた声を上げる。
「はぁ、本物なんだがな私」
アリアドネは分かりやすいジェスチャーと共に大きなため息を吐いた。
「本物と言うのならこれくらい耐えて見せろ!」
アルベドの後ろに光の輪が出来る。
「拡散、反射、光輪!」
光の輪から光が何本も湾曲しながらアリアドネに襲い掛かる。
「児戯か? その程度で私がイくとでも?」
……おい! 下ネタだろそれ!?
アリアドネは一切動かなかった。光が当たっても傷一つ出来ない。動く必要が無かったのだ。
「何かやったか? ふわぁぁぁ。申し訳ない、欠伸が出てしまった。次は本気で来てみるか?」
これまた分かりやすいジェスチャー付きだ。あと、胸がブルンブルン……
「本物だと言うのか!? ふん、確認できただけで満足だ。これ以上やる必要は無い」
アルベドはアメジストに近づいていく。ダメだ。アメジストは肩で息をし、動けていない。
「アルベド、と言ったか? 新たな王が玉座を開けるとは不用心だな。どれ? 私が王になっても良いのか?」
アリアドネは自分に目配せをする、どういうことだ?
「アメジストちゃん!! 何でこんなことになっているのですか!?」
師匠の声が聞こえる。師匠が全力疾走で玉座に入ってきた。
「ユウ! あなたはボロボロではないですか!?」
アルベドは足を止めた。
「……分かった。俺様は玉座に戻る。この者達の処遇はエレノア司教、貴様に委ねる。それで文句は無いな? アリアドネ」
アルベドは不機嫌なまま玉座にふんぞり返り口を開かなくなった。
「安心してください。ユウ。すぐに治療しますから。安心して寝てください」
限界が来たようだ、疲労が眠気となり意識が無くなった。




