30話 その野望の終幕
瞬きをすれば見失ってしまう。ネクサスはジグザグに動きながら詰め寄って来る。
従来、剣は史実では決闘に用いられるくらいで戦争などで使われることは滅多に無かった。理由は二つ、一つはリーチ、古来から戦争の主流であった槍にリーチで勝つことが出来ないという弱点があるから。
そして、二つ、鎧への不利、剣では金属の鎧を斬ることが出来ない。斬ろうとすれば剣が先に折れてしまう。挙句の果てに、自身も鎧を着ると鎧の重さと腕の動く範囲が限定されることによりまともに剣を振ることさえ出来ない。
戦場で剣なんて持てば槍に鎧の隙間から刺されて終わりだ。
しかし、その弱さを克服することが出来たら?
ネクサスは鎧でも敵の攻撃を簡単に避けれるくらいに俊敏で、剣を振るために鎧の可動域を調整し、剣が折れないように魔術で剣を強化している。笑えないな。その全てが剣の神髄と言ってもいい。
だからといって、負けるつもりは無い。
「ノーム! 力を貸して!」
『ユウくん! お姉ちゃんの全てを使って!』
ネクサスとまだ距離がある内に床で壁を作り視界を塞ぐ、自分に瓜二つの土像を作ったところで近くの瓦礫に姿を隠した。ネクサスが像に近づいたところを持てる火力の全てで勝負に出るしかない。
ネクサスが壁を蹴破った。像はノームの力で自分の思うように動かすことが出来る、像にネクサスをおびき寄せるために後退させる。ネクサスは後退する像の倍の速さで詰め首を飛ばした。飛ばした首は崩壊しながら土に還っていく、そこでネクサスは斬ったものが土像であることに気が付いたようだ。像には自分の魔力を仕込んでおいた、気付けるわけが無い。今こそ絶好のチャンスだ!
「サラマンダー! 今だ!」
『私の全て! ダーリンに捧げるっ!』
サラマンダーがネクサスに向け熱線を撃つ、焔など比較にならない程の熱と光、直撃した壁が溶けている。
しかし、不意打ちをしても当たらなかった。ネクサスは熱線が当たる前に横に飛び込んで回避されていた。ネクサスはほとんど攻撃を避けている、何か対策をしなければ。
考えている時間も無く詰められる。回避に専念していても剣先が服や肌を掠り、体中に切り傷が出来ていく。
『ボクがユウを救う!』
床の水が球状になりネクサスを閉じ込める。今のうちに距離を置こう。
ザッパーンッ!
剣の一振りで水球が破裂した。
石が頭に落ちてきて足を止める。上を向くと天井に穴が開いていた、そうか、降りるときに開けた穴から石が落ちてきたのか。
「サラマンダー! 天井を! ウンディーネ! 引き続きお願い!」
『分かった! ダーリン!』
『了解だよ! ユウ!』
サラマンダーが天井に拡散熱線を撃ち、ウンディーネは床の水を全て集め分厚い水の壁を造る。
ネクサスは水の壁を切り裂き接近している。その隙に、天井が崩壊し、瓦礫がネクサスを襲う。元々開いていた穴の下に居る自分には瓦礫は落ちてこない。
しかし、ネクサスは瓦礫を剣で割り無傷で切り抜ける。
「ノーム。下を頼める?」
下を指さしながらネクサスに聞こえないように話す。
『もっちろん!』
返事をしてノームは魔法に集中する。この階より下の階の全ての床を取っ払い縦穴を造ってもらう。
「シルフ。最後の一撃を頼んでもいい?」
『光栄です。と言っておきます』
ネクサスが詰めてくる、距離は1m近く、ノームの魔法も準備は終わった、あとは、勝つだけだ。
『さあ、やりましょう。ご主人様』
シルフと手を繋ぐと風で体が宙に浮く。バランスはシルフが取ってくれる、崩壊した天井を抜け玉座前の広場の天井に着く。体を逆さにし、天井に立つ、頭に血が上るし、落ちないように常に強風が吹き付けている、傷口から漏れた血が宙に浮いていた。
ネクサスは自分達を追って跳んだ。かなりの高さがあるのにも関わらずどんどん迫っている。
10m……7m……5m、今だな。
「ああ、残念」
何も言葉は返ってこなかった。
「これで自分達の勝ちですね。楽しかったです」
ノームが床に穴を開けた、ここはかなり高層だ、この城の最下層まで続く穴の底は見えない。
シルフと一緒にネクサスに向けて右腕を突き出す。
「シルフ!」
『ご主人様!』
『「暴風一撃!」』
一陣の暴風がネクサスに目掛けて突き進む。空中で避ける術があれば大惨事でお手上げだが……
「負けかぁ……あはは、やっぱり君って……」
暴風を正面から受け凄まじい勢いで穴に落下していく。地面に叩き付けられた後も当分の間は暴風に押し潰されて動けないはずだ。
シルフと共に穴の淵に静かに降り立つ。
『ご主人様はそういうキャラなのですか?』
「いや、昂ぶっただけだよ、うん」
『変態ですね。変態ですね』
「2回も言う!?」
正面に居るシルフの顔に赤い水滴が跳んだ。
『ご主人様! 口から血を吐いています! 早く治療を!』
「こ、これで、大丈夫です。たぶん」
マナカさんの治療を受け吐血は治まった。
「面目ない」
「いえ、私達に被害を出さないように戦ってくださり感謝しています。ね? マナカ?」
「はい! も、もちろんです!」
「まあ、玉座に行こう。全ての決着を着けておかないと」
自分が先導しながら玉座へ進みむ、玉座への扉を開けると今まで話していた貴族と王は静まった。
「何者だ! ここがニグレド王の前と知っての狼藉か!?」
自己中は声が大きいな、耳が痛くなる。野次を無視しながら貴族たちの中心に躍り出る。
「わざわざ引導を渡しに来てあげたのにギャアギャア騒がないで欲しいんだけど」
「そうです。お父様、もう終わりにしてください。これ以上人を傷つけるようなことは止めてください!」
「アリシア!? 何故ここに!? あの男にたぶらかされたのか!?」
指差された、相変わらず失礼な奴。
「私は私の意志でここに来ました。お父様、いえ、あなたの悪行に終止符を打つために」
「何もわかっていない、アリシア、これは政治に必要なことだ。当然のことだ。民衆を導きより良い国にするためには、そうしなければこの国は帝国に占領される! アリシア、そこの男、それが分かってやっているのか!?」
「民が不幸になっていくのが見えていないあなたの言葉に価値はありません」
壮大な親子喧嘩が始まってしまった。
「ちょっといいかな? 取引をしませんか?」
自分の言葉でざわめく声が落ち着いた。
「取引だと?」
忌々し気な顔だ。散々悪行を働いておいてその顔か、腹が立つな。
「ええ、自分が要求するのは、カミール卿派閥の貴族全員の全財産です」
「何を馬鹿げた事を」
一蹴され笑われてしまった。
「要求を飲んでくださらないのなら……命の保証が無いだけですけどね」
静まった。自分の顔を覗き嘘か誠か見定めようとしている。
「自分の命を狙っている連中に対しての取引ですから、要求を飲んでくださらないのなら、このくらいは普通ですよねー? まあ、自分が欲深いだけかもしれませんけどね。因みに、この場に居る方全員カミール卿の派閥に属していると聞いていますので、逃がしませんよ?」
ただの脅しだが顔を真っ青にし始めた、勇者って凄い。
「分かった。命だけは助けてくれー!」
一人を皮切りにどんどん要求を飲んでくれる。飲まなくても殺しはしないんだけどね。
「ユウ様、その……」
アリシアさんが心配そうに見てくる。
「大丈夫、分かっているから。お金は奴隷にされた人たちと貴族どもの家族に返すよ」
貴族どもに聞こえないように話す。
「申し訳ございません。ユウ様」
アリシアさんは顔を俯いて、謝っている。
「そういうときは、ありがとう、って言うものなんだってさ」
ちょっとらしく無かったかもしれない。
「……ありがとうございます!」
初めてアリシアさんの年相応な元気な笑顔が見ることが出来た、後は、みんなの無事を祈りながらここで待っているとしようか。




