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29話 対峙する特異

「先日起きた騒動はご存知ですか?」

「窃盗と喧嘩で処刑命令まで出たあれのことかい?」

「ええ、それです」

「そういえば犯人の名前がユウだったね。はぁ、そういうことなのか。で、アレイスターは私が介入しないよう監視しているといったところかい?」

「ええ、ユウ君には恩がありますから」

「私は構わないけど……」

「くだらねーことやってんなー」

 態度の悪い少女が出てくる。

「キルケー殿」

「……美少女に殿ってどうなんだ? あぁ?」

「はぁ、気難しい」

「キルケーたん、営業スマイルで」

 マーリンが棒読みで促す。

「しっかたないなぁ、もう、ダメだぞっ! 賢者はぁ、一人に入れ込んじゃいけないんだぞぉっ!」

 突っ込みどころしかないが誰もが突っ込みを入れない。

「これで賢者で無くなろうと構いません」

「アレイスターはぁ、ほんとぉにあとが無いぞっ」

「え、後が無いのかい?」

「んだこの緩い連中、これが国の上部とか頭おかしいだろ」

 キルケーが毒づくが誰も気に留めなかった。


「ここを抜ければ玉座はすぐです」

 玉座を目の前にして気付けば自分とアリシアさんとマナカさんの3人になっていた。

 二人に合わせながら廊下を抜けると、大きな広間に出た。広間の奥には厳かな大きな扉があり、その前には見慣れた黒い鎧が立っていた。

「やっほー! 待ったよー! やっと来たんだねー!」

 ネクサスさんは手を振っている。距離を置いて立ち止まる。

「ネクサスさん、何でここに居るんですか?」

「どういう意味かな?」

「言葉の通りです、どうしてここで自分を待っていたんですか?」

「ああ、そういうことかぁ、もちろん、君と戦うためだよ」

「戦う必要は無いと思いますけど」

「えー? ダメだよ。僕はこれでも騎士団団長なんだから、賊を玉座まで素通しなんてしたら僕の首が跳ぶよ」

 ネクサスは剣を構える。

「二人とも廊下くらいまで戻って」

 アリシアとマナカは顔を見合わせ手を繋いだ。

「ユウ様頑張ってください!」

 二人は走り出した。二人が行ったと同時に精霊達が姿を現す。

『最後の難関ですね。ご主人様』

「ああ、相手は異次元の存在だ」

 向き直り構える。

「ははは、本当に不思議だよ。そんな異質な力は初めてだ。契約、指示、それが君の能力の本質。たったそれだけの最弱と言っても差し支えない能力。それなのに、何故か国を変えるほどの重要な場に立っているんだよね。普通、あり得ないよ」

 お互いの殺気だけが場を支配している。

「君はそこに居ながらこの場を俯瞰している。全ての位置を把握している。だから、精密に精霊達に指示を送れるんだね」

「そんな大層なことはできないです。みんなにしっかり指示を送れるように、周りを注意深く観察しているだけです」

「ははは、それは謙遜だよ。さあ、始めようか。君にとっては傍迷惑だろうけどね」

 ネクサスは左手を掲げる。壁や地面から鎖が生え広間中に張り巡らされた。

「僕は君を殺す気で行くから。期待に応えてね」

 鎖の間を華麗に走り抜け、距離を詰めてくる。

「さて、どうするかな……」

 接近戦は分が悪い。距離を取るため後ろに下がる。

 ガッ!

 右腕を鎖にぶつけてしまった。鎖は右腕に絡まり急激に重くなる、右腕から地面に引き寄せられ倒された。

「あーあ、不用心だなぁ。あ、首貰うね」

 自分の首目掛けて剣が振り下ろされる。

「ノーム! 地面を崩して!」

『お姉ちゃんにまっかせてー!』

 地面が崩れて下の階に落ちる。少しでも遅ければ首から上が無くなっていた。絡まっていた鎖も消えている。しかし、床まで高さがある、落下し床に叩き付けられたら骨折では済まなさそうだ。

『ご主人様。お手を!』

 シルフが自分を追い落下しながら手を伸ばしている。

 シルフの手を掴むと下から風が吹きつけてくる、風のおかげで落下速度がゆっくりになり体勢を整えながら着地することができた。

「ありがとう。シルフ」

『いえ、それより反撃の準備を』

 ネクサスはヒョイと降りてきた。

「うん、凄い凄い。無傷で切り抜けるなんてね」

 また左手を掲げる。左手で魔術をコントロールしているのか。床にいくつもの魔法陣が出現する。

「その魔法陣、実は、踏むと爆発するんだっ」

 要は地雷か。踏むと体がバラバラに吹っ飛ぶだろうな。

「あ、僕には反応しないよ。そういうことだから」

 魔法陣地雷原を真っ直ぐ突っ込んでくる。

『ボクの出番だね』

 床から水が湧き出て万遍なく床を覆う。ウンディーネに補助して貰い水の上に立つ。これで地雷を踏むことは無い。

「つまらないなぁ、威力を試してみたかったのに」

 ネクサスは鎧そのもの。何が有効打か分からない。でも、このまま何もせず見ているわけにもいかない。

「サラマンダー! 牽制をして欲しい!」

『もちろんだよ! ダーリン!』

 ガトリングの様にネクサスに向かって火の粉を撃ち続ける。

「熱い! 熱い! 鎧が溶ける!」

 言葉と裏腹に真っ直ぐ向かってくる。効いていないどころか牽制にすらならない。

 ネクサスは水を蹴り上げ目潰ししようとする。

『ボク相手に水を使おうなんてバカだね!』

 水は自分に届く前に空中で静止しネクサスに狙いを変え放たれる。

 ネクサスに当たる前に回避され、数発が壁に穴をあける。魔法陣に当たった一発が大爆発と水飛沫を引き起こした。踏んでいればバラバラというよりも細かい肉片になっていたな。

「ウンディーネ! もう一度撃って!」

 ネクサスの足元の魔法陣を起爆させて巻き込めば一溜まりもないはず。

『ふふっ。任せてよ! ユウの為なら何だってボクはやってみせる!』

 水の弾がネクサスの足元一帯を襲う。

「まさか、逆手に取るなんてね。流石だね」

 魔法陣が爆発を起こし水飛沫でネクサスの姿が見えなくなる。これで終わるわけが無い。

「ノーム。追撃して欲しい」

『お姉ちゃんの本気の力、行っくよーっ!』

 爆発で出来た瓦礫が合体し、巨大な腕になる。巨大な瓦礫の掌が水飛沫ごとネクサスを叩き潰す。

 反応が無い。いや、わざと反応していないだけだよな。だって、この程度で死なないんだろう?


 崩壊した瓦礫の腕の先から剣が飛んできた。狙いは自分ではなく自分の近くの魔法陣。仕方がない。腕を差し出すしか無さそうだ。剣に手を伸ばす、剣は手を貫通するが魔法陣には届くことはなかった。

『ユウくん!? 大丈夫!?』

「まあ、覚悟は決めていたから。後でマナカさんに治してもらおう」

 掌から剣を抜きシルフに応急処置をして貰う。

「良い策だと思ったんだけどなぁ」

 ネクサスが瓦礫の後ろから姿を現す。鎧の腹部に穴が開いている、ちゃんとダメージは通っている。

「お互い様なのではないですか? あれでくたばらないなんて」

 ネクサスが左手を掲げると、剣が光の粒子となりネクサスの右手で再構築される。

「あはは、そうかもね?」

 ネクサスは剣を構え直す。両手でしっかりと構えている。

「神、いや、正確には神と崇められていたドラゴンを斃したくらいの剣の腕でしかないけど、つまらなかったら、ごめんね」

 神と崇められていたドラゴンとか色々と意味が分からない。わざわざ魔術を封じてまで剣技だけで勝負しようとしているからにはそれだけの自信、強さがあるのだろう。

 ああ、どうやって斃そうか?

 ここまでの命懸けの戦い、みんながここまで必死になって繋いでくれた、だから、申し訳なく感じる。とても楽しいんだ。


「まだ死なないでくださいよ。もっと楽しませてください!」

「まだ死なないでね。これから楽しくなるんだからさ!」


 二人の叫びが共鳴する。

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