27話 正義への渇望
「影に注意してください!」
セツナくんはアカツキに背を向け何も無い方に向かって走り出した。影……セツナくんが向かった先を見ると誰も居ないのに人型の影がある。あれを見て剣を振ったのか。
「ここは僕に任せて先に行ってください。これが終わったら僕はニーナさんを探します!」
ヴェロニカが先に走り出し、自分以外続いていく。
「おい、アカツキ、ここに居ると巻き込まれるけど、どうするつもりだ?」
早く行きたいが放置して行くわけにもいかない。
「止めたいんだ……俺だって」
「おい、伊集院暁巡査、寝てんな! 行くぞ!」
机に伏して寝ていた俺は声が聞こえて飛び起きる。
「分かりました! 先輩!」
ここ数日間、誘拐事件の捜査でまともに休む暇もない。急いで署を出て運転席に乗り込む。
「ここが正念場だ。終わったら一杯行って休もうぜ」
助手席に座っているのはバディの桜川巡査部長だ。少し皮肉屋だが、頼れる先輩だ。
「ここに行ってくれ、ここに奴さんが現れたらしい」
手帳に書いてある住所を見せられる。
「分かりました」
すぐに車を出す。慣れたものだ。
「ひでぇ雨だな、事故らすなよ。交通の奴らの面倒になるなんて俺ぁ御免だぞ」
助手席でふんぞり返っている。
「免許とって何年になると思ってんですか」
「そーいう油断したアホが捕まんだよ。それにさっきの右だ」
「はぁ!? 右!?」
驚いた拍子にハンドルがあらぬ方向に行き、車が揺れる。
「おい! ちゃんと運転しろ!」
「ここだ、この廃ビルに人質を連れて閉じこもってんだってよ」
最近廃ビルになったのか内装が綺麗だ。綺麗なのに人が居ないことが余計に不気味なもんだ。
「薬中にピッタリな場所だな。行くぞ、暁」
今回の事件は薬物中毒の男が金欲しさに身代金誘拐を行っている、どうにもならん奴だ。誘拐されたのは小さな女の子、早く解決させなければ。
「新人みたいに固くなってどうする」
前を行く先輩に笑われた。
「すみません。ですが、誘拐された子のことを考えるとどうにも」
周囲を探しながら先輩の話を聞く、何処に居るか分からないから目を凝らさないとな。
「はぁ、悪い癖だぞ。もっと柔軟にやらなきゃ解決出来ないことも有る」
全ての階層の捜索が終わってしまった。何処に居るんだ?
「そうですか。気を付けます」
屋上も見てみようか、土砂降りの中で屋上に居るとは思えないが……
居た! 土砂降りの中、痙攣しながら人質の女の子の頭に銃を突きつけ、周囲を見回し続けている。
「暁。まず俺が説得してみる、その間に応援呼んどいてくれ」
姿を隠しながら小声で指示を受ける。直ぐに無線で応援を呼ぼうとするが、電波がダメだ。スマホも圏外か。土砂降りの所為か?
「先輩、どっちもダメっすね」
首を横に振る。
「マジかよ!? 仕方がねぇ、俺たちだけでなんとかするぞ」
「はい!」
「まずは、俺が説得を試みる、何もせずに待機しておけ、だが、直ぐにでも動けるよう準備はしろ」
「よお。こんな雨ん中居ると風邪ひいちまうぜ」
先輩が犯人の前に出ていく。犯人は声に気付き銃を先輩に向ける。
「お、お、お前、だ、誰、だ?」
薬物の影響か呂律が回っていない。
「サツだよ。安心しろ、お前を傷つけに来たわけじゃねぇからよ」
先輩は手を上げながら近づき、一定の距離を置いて止まった。俺は回り込むように犯人の横側に移動する。
「ななな、何しに、来たん、だよ?」
「お前とその子を助けに来たんだよ。その子を放して暖かいところでゆっくりしようぜ? なあ? 本当に風邪ひいちまう」
その場に座り込んだ。
「し、んじられるか、お、お、お前も、俺を、消しに来たんだろ」
犯人は激高して銃を撃つ。的外れな方向に弾は飛んで行った。
「そうは言ってもお前もこのままじゃどうしようもねぇだろ。騙されたと思って聞いてくんねーか?」
「はぁ……はぁ……」
犯人は銃を下ろした。今だ! 犯人に突撃する、今が人質解放のチャンス!
「馬鹿野郎! 暁! 出るな!」
先輩が怒鳴っている、でも、今しか無い。
「騙したな! 騙した! 騙した!」
犯人が狂乱し銃を俺に向ける、しまった、まだ距離がある。
パンッ!
犯人の撃った弾は俺の腹を貫通し足がもつれうつ伏せに倒れる。だが、犯人は人質を放し、人質は逃げることが出来た。だが、犯人はまだ俺に銃を向けている。
「こ、ころ、ころ、ころ……す……」
血と雨で赤透明な水が地面に広がっている。目が霞む。
「おい、やめろ! そいつは、お前を消そうとしているわけじゃねぇ!」
犯人は先輩の言葉に反応しない、瞳孔が開き黒目がキョロキョロ動いている。2発目が背中に入り、口から勢いよく血が噴き出る。
「もうやめろ!」
先輩の撃った弾が犯人の胸を貫き、犯人が倒れた。
「暁!」
俺の下に駆ける。
パンッ!
先輩が吐血する。犯人はまだ意識があり先輩を撃った。先輩は力なく倒れた。
「悪ぃなぁ、不甲斐ねぇ、先輩で……よ……」
地面が赤く赤く広がっていく。ああ、何で? 何でだ? 命が消えていく。全部俺の所為だ。冷たい。
「どうするかだけ言ってくれ」
ここで思いだとか気持ちだとか聞いている余裕は無い。
「俺も連れて行け!」
アカツキは叫んだ。何か迷いを吹っ切った顔になった。
「はぁ、肩を貸すからさっさと行くぞ、ゴリラ」
肩を貸す、自分より体が大きいから上手く走れない。
「思い出したんだ。死ぬ前に先輩に教わったことを」
ゴリラは死んだ時のことを全て語った。
「先輩に言われたように柔軟にやってみたいって思ったらさ、今やるべきことが分かった気がしたんだ」
ゴリラはボロボロなはずなのにしっかりと走り出した。もう肩を貸す必要は無い。
「この先に後二人勇者が居る。そいつらは気難しい奴らだからどうなるかは分からない。そして、どんな奴か詳しくは分からない」
後二人勇者が……その中に氷の能力のフードの少女がいるはずだ。あと一人は何者だ?
「少女の方のイブが居たら俺に任せてくれないか?」
フードの少女はイブという名前なのか。
「何か策でもあるのか?」
「いや、無い。ただあの子は、虐待やいじめを受け、そのうえで空腹の中凍死したと兄のアダムが言っていた。倒すのではなく救ってやりたい」
「兄!? まさか兄も?」
「ああ、もう一人の勇者が兄のアダムだ。あいつはこの世界でも珍しい絵描きをやっていて絵にしか興味を示さない。実妹の事さえもな」
絵描き……? まさかな……会ったことがあったりするのか?
「降参すると言うのなら歓迎します」
影は動かない。
「聞こえていないんですか?」
姿を見せず、影も動きもしない。もしかしてもう逃げられた?
「正義の味方ごっこか?」
言葉が聞こえ、首元で何かが煌めく。身を翻す。ナイフの刃が首のあった場所を通っていった。影は動いていない。影が奴の本体では無いということか。
「影からコソコソと嫌な奴ですね。悪党らしくて正義の味方が蹴散らすのには最高ですが」
目の前に陰のある男が姿を現す。
「お子様には分からないだろう。正義なんかで金を得ることなんて出来ない。正義なんてゴミだ」
「ああ、分かり合えないようですね。始末しましょう」
床を一繋ぎの宝石が覆い、光が周囲に乱反射する。剣を男の首に突き出す。
「っ!?」
剣が刺さる前に男が姿を消した。光が乱反射する中、次に何処に行くかは分かっている。
宝石が形を変え、光の乱反射も変わる。壁の影に光が当たると男が姿を現した。
「影は光に弱い。当然のことですね」
男の体に結晶を生やす。致死毒のある結晶が男の体を蝕む。
「これで終わりですね」




