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26話 狂気の目、閉じた目

 それぞれが明日の決戦に向けて準備をしている。セツナくん、ヴァルとアヤネ、アリシアさんとマナカさんは一度家に帰ることになった。

「ねえ? サファイア、その持っている物は何?」

 サファイアは黒い布を縫っていた。

「これですか? まあ、変装用の衣装なんで、明日のお楽しみってことで」

 悪い笑みが見えた。悪寒がする。

 さて、精霊達を集めて改めて話し合わなければ。

「シルフ。サラマンダー。ウンディーネ。ノーム」

『はい。どうかなされましたか? ご主人様』

 それぞれ姿を現す。みんないつも通りの表情だ。正直に言って安心している。

「今まで静かにしていたから、心配だっただけ」

 みんな揃ってため息を吐き、やれやれといった表情をする。

『もちろん、ダーリンに最後まで付き合うよ。みんな同じ気持ちだよ』

 サラマンダーの言葉にそれぞれが頷いた。

「ああ、うん……ありがとう」

『目指すはハッピーエンドだよ。ユウくん』

『ユウの敵はボクの敵、ボクが全て蹴散らしてあげるよ』

 全く、本当に頼もしい。


 良い目覚めだ。太陽の光に照らされて目が覚めた。ヴェロニカが静かに朝食を取っている。

「出来たーーーー!」

 サファイアの叫びが聞こえた。隣の部屋からだ。

 ドアを勢い良く開け部屋に入ってきた。手に大きめのメイド服を持っている……大きめ!?

「はい、どうぞー、ユウさんの変装用のメイド服! 少し調整したいので着てくださいー」

 ヴェロニカの口からコーヒーが宙を舞う。

「うわぁ!? 汚い!? ヴェロニカさん汚いー」

 今のうちに逃げよう。

『ユウ。何処に行くつもり? ダメだよ。逃げたら』

 ウンディーネが立ちはだかる。そうだ。何でスリーサイズがばれているんだ。誰かに測らせたことは無い。

「ウンディーネ! いつ測った!?」

『ナイショ』

 いたずらっぽく笑みを浮かべているが冗談ではない。

「早く着てくれないと丈が直せなくて困るのでー、早くー」

 ウンディーネに拘束され、サファイアに服を脱がされた。もうダメだ、受け入れるしか……無い。


「『可愛いー!』」

 ウンディーネとサファイアが嬌声を上げる。股がすーすーする。タイツは履いているがスカートの空気通りが辛い。

「これで満足ですか?」

 あえて低い声で話す。

「笑顔の方が可愛いよー」

 キャッキャッしてる二人が恨めしい。

「朝から元気ねー……何やっているのかしら。ユウ?」

 部屋に入ってきたアメジストがドン引きしている。本当に落ち込む。

「こんなので大丈夫かしら……」


 王城前まで着いた。もちろんメイド服で。ウィッグのおかげでおかしな目で見られなかったことが救いだ。

「案外ばれないものなのね。ちょっと驚きだわ」

「素がいいんだよねー。もしかして経験があったり?」

 静かに首を横に振る。喋ると通行人にばれるだろうな。

「ミステリアスな長身メイド萌えもありだねー!」

 無い! 無ーいー!

「おはようございま……す?」

 王城の門番をしている騎士団員が挨拶をしながら首をかしげている。

「どなたなのでしょうか、そのメイドさん?」

 近くに寄られてジロジロ見られる、仕事なのは分かるが、やめて欲しい。

「わ、私の従者ですわ。あまり女性をジロジロ見るのは失礼ですわよ」

 門番はサッと定位置に戻った。

「失礼いたしました。騎士団長から仰せつかっております。どうぞ!」

 城の中に何事も無く通された。


 城の中に入ると生き物の気配は自分たちだけだった。

「戦い辛いから着替えてくる」

 お手洗いに行って着替えようスカートが気になってまともに戦える気がしない。

『もったいないです。ご主人様。ずっとその格好でも構いません』

 聞く耳は持っていない。着替えてこよう。


「はぁー、いつもの服は落ち着くな……」

 ヴァルとアヤネ以外全員揃っていた、ヴァルとアヤネは外でマーリンの相手をしてくれるようだから居るわけが無いが。

「やっと揃ったね。アリシアちゃん、道案内よろしくねー」

「分かりました。ついて来てください」

 アリシアさんは自分の父親を成敗しようとしているのに堂々としている、なんとか力になってあげないと。

「悪いが、先に行かせるつもりは無い。帰ってくれないか?」

 城の2階からアカツキが姿を現し玄関広場に降りてきた。

「また、お前か、アカツキ」

 負けたのにのこのこ出てくるとは思わなかったな。

「う、うるさい! ユウ、お前を今度こそ……」

「今度こそなんて言ってる間は勝てないと思うけどね」

 間髪入れず黙らせる。

「悪いけど、相手をしている暇は無いからさっさと行くぞ!」

 アカツキの目の前に巨大な火球を生む。

「吹き飛べ!」

 火球は急速に圧縮され反動で大爆発を起こす。

「これで終わるわけが無い、煙に紛れて回り込むつもりだろう?」

 煙から少し距離を取る。アカツキが煙の右方向から出てきた。

「正面から突撃した方が攻撃を決めやすい、しかし、読まれたときに敵の目の前で無防備な状態を晒すことになる」

 わざと全てを一から説明する。お前の行動は全て読めていると言うように。

「さあ? 次はどうする?」

 自分が攻めない限りアカツキも手を出せない。奴はカウンターに弱い、常に盾で防御しているが攻撃を入れる瞬間だけは無防備になる。カウンターを狙っている間は攻めてこないだろう。しかし、どうするかな……このまま、カウンターまで煽ってみるかな。

「ユウ、お前、楽しんでいるな?」

 じりじりと詰め寄りながらアカツキが口を開いた。

「まあね、VRMMOを思い出したんだ。」

 昔やっていたゲームを思い出した。もう引退して長いし、出来なくなってしまった。

「これはゲームではない。命懸けなんだ。お前は狂っている」

 アカツキは静かにやるせない怒りを噛みしめていた。本当に真面目で優しい男だ。気付かれないようにシルフに背後を取らせる。

「そんなくだらないことを言うんだな。お前の召喚者は平気で暗殺しているのに。それを見逃しているんだろ? 自分自身の為にさ。権力にくっついていれば安泰だよなぁ?」

 我ながら最低の言葉だと思う。

「そんなことは……俺は……阻止するために……依頼を受け先回りをしようとしていたんだ……」

 それ以上言葉が続いてこなかった。アカツキのせいではないのにそれすら背負い込んでいる。

「目を閉じていて何を見ることが出来る? 全てから目を逸らして終わった後に、仕方がなかった、とでも言うつもりか?」

 まだ追い詰め続ける。

「俺は……俺は……」

「守りたいものから目を逸らしたら守ることはできない」

「……」

 もう何も言わなかった。

「シルフ。やって」

 アカツキの背後で待機していたシルフに指示を出す。

『かしこまりました。ご主人様』

 シルフは数多のかまいたちをアカツキ目掛けて放った。

「はっ!?」

 アカツキは攻撃に気付き振り返ったところを守る間もなく正面から切り刻まれた。

「ぐぅっ……」

 呻き声と共にその場に膝をついた。切り刻まれ全身から酷く出血している。あの出血量では動けないだろう。

「先を急ごうか」

 巻き込まれないように距離を置いていた仲間に声を掛ける。

「待、待て……」

 アカツキはボロボロで息も絶え絶えになりながらもまだ意識が残っていた。

 セツナくんが静かに剣を抜き、アカツキに切りかかった!?

 キーン!

 金属同士がぶつかった音がした。アカツキの足元にナイフが転がり落ちる。

「やっと、正体が分かりました。ユウさんをレンガで殴り、襲撃された時、僕に不意打ちをした奴の正体が分かったんです」

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