19話 焔のアバンチュール
「起きて! デートするんでしょ?」
相変わらず寝相が悪い。浴衣がはだけて見えそう。下着を着けてないから更に危ない。
『うわぁ!! デート!!』
デートという言葉に反応してサラマンダーが飛び起きた。あっ。はだけていた浴衣が滑り落ち、全裸に。
『ダメぇっ! 見ないでぇー! や、やっぱり、ダーリンなら……見ても……いいよ?』
「分かった。朝食用意してもらってるから待ってるね」
テーブルにはサラマンダーと自分の分の朝食が置いてある。みんな朝早く海に行ったから静かなものだ。
『お待たせっ……どうかな?』
いつもはストレートの髪をサイドテールにしている。やっぱり可愛い。
「似合ってるよ。可愛い」
照れて顔を真っ赤にしている。それも可愛い。
『あ、ありがと。嬉しい……ダーリン。愛し……て……』
入り口から視線を感じた。少しだけ入り口が開いていて、覗かれていた。
「ヒメヒメさん? 覗きは趣味悪くないですか?」
「およ? おはようございます。朝からお盛んですね。私のことは気にせず。続けてください。さあ、どうぞ!」
どうぞ、ではないのだけれど……
「まあ、朝ご飯食べない?」
用意された朝食の前に座る。サラマンダーも向かいに座った。
『うん。食べよう』
「では、私はお布団の準備をしますね。この後も……お二人で使うのでしょう?」
「ご飯食べるときにそういうこと言うの辞めません?」
「およ? それは申し訳ございません。まあ、お布団は片付けますので、どうぞ、ごゆっくり」
『美味しかったですっ! ごちそうさまでした!』
「ありがとうございます。では、こちらも片付けますので」
せっせと片付けられる。下ネタが飛び出してくること以外全て一流だと思う。
「そこは、愛嬌ということで」
愛嬌ね……全く笑えないんだが。
『それで……ダーリン。どうする? 何も予定立ててないよね? いいんだよ。海に行っても……』
また泣きそうになっている。
「およ? お暇なのですか? では、今準備中の温泉アトラクションナイトプールのモニターになっていただけませんか? ナイトと言っても朝から利用できるようにしますがね」
温泉アトラクションナイトプール、どんなものか想像つかない。
「流れるプールやウォータースライダー、サウナに露天風呂、何でもあります。どうですか? 今ならモニターとしてお二人だけの貸切。しっぽりできますよ」
『な、何か凄いねっ!? それに二人だけ、しっぽり……ね……』
しっぽりに反応しないで欲しいんだけどなぁ。
『水は怖いけどお風呂なら、ダーリンと一緒なら、大丈夫かも。だから、一緒に』
「はい。分かりましたー。2名様ご予約ー」
スーッと部屋から出て行った。まあ、サラマンダーが喜んでくれるなら。2、3分経つとスーッとヒメヒメが部屋に入ってきた。
「お昼ご飯ごろには準備が終わりますので、その時になったらお呼びします」
スササーッと部屋を出て行った。普通に出て行っていいんですけどね。
「はい、お待たせしましたー」
サラマンダーとゆっくりしながらお菓子をつまんでいたら、お迎えが来た。
「およ? あーん、しないのですか?」
『ダーリン。あ、あーん』
サラマンダーがお菓子を差し出す。
「あ、あーん」
お菓子の甘さが口いっぱいに広がる。後、何か固いものが舌に当たるな、何だこれ?
『ん!? んん!? あんっ!? ダ、ダーリンっ!?』
サラマンダーの指か。指に舌が当たる度、サラマンダーが悶える。
「ほうほう、これは良いものを見させていただきました。ごちそうさまです」
サラマンダーの指を口から出す。ごちそうさまとは……
「そろそろ行きませんか?」
サラマンダーは名残惜しそうになめられた指を見ていた。あ、口に入れた。
『ごめんね、ダーリン』
「到着しました」
お昼ご飯は手早く済ませ、更衣室で水着に着替えて更衣室を出ると、確かに温泉アトラクションナイトプールに着いた。階層ぶち抜きいくつもウォータースライダーがあり、高い階層では外に出ることが出来、露天風呂とナイトプールに繋がっている。流れるプールの区画、普通のプールの区画、サウナの区画、温泉の区画、とにかく広く様々なプールがある。
「これは凄いな」
「では、私はこれで。割と女将の仕事が忙しくて、あと議会もですね。お二人がしっぽりしているところを見ることが出来ないのは残念です。一応何人か配置しておりますのでご用命の際はそちらに」
更衣室へと戻っていった。あと、見ようとするなよ。
「さあ、遊ぶか。サラマンダー」
『うん。ダーリン!』
まずは、ウォータースライダーにやってきた。
『えっ!? こ、これを降りるの?』
カーブが何回もあり、上からではゴールが見えない。
「いや……これは……中々……」
高いし、先は見えないし、水が苦手で無くても怖気づくレベルだ。……むぎゅっ! しがみつくように抱き着かれた。
『ダーリンにぎゅってしてもらったら大丈夫かも』
「分かった」
ぎゅっと抱きしめる。
『んっ。これならいいよ』
艶めかしい呻き声と小さくも柔らかい身体、これは、中々。
『ダ、ダーリン!? 目が怖いよ?』
「ごめん、ごめん、滑ろうか?」
『うんっ……!』
スライダーに腰を下ろし滑り始める。えっ!!? 速い!!? ちょっと待って! 車ぐらいの速さがあるんだけど!!? それにカーブが多くて先が見えない!
『キャー!? ダーリーンー!』
サラマンダーの抱きしめる力が強くなる。サラマンダーの控え目なおっぱいが当たって! 柔らかい! 最高!
『ダーリン! エッチな顔してるーっ! うわあぁぁぁ!』
バッシャーンっとプールに突っ込んだ。
「サラマンダー! 大丈夫?」
大量の水を被って目を開けられない。サラマンダーはまだ腕の中にいる感触はあるが。
『う、うん。ありがとう。いや、ちょっと待って、絶対に目を開けないで! ビキニが流されてるから!』
取りあえず腕を解く。
『もう目を開けて大丈夫だよ。その……一緒に探して欲しいの、ビキニ』
言われた通り目を開けると、サラマンダーが手ブラで上目遣いで頼んでいる。ゆっくり探そう。
「あった」
プールの横に落ちていた。水着が飛ぶほど勢いのあるウォータースライダーか、危ない。サラマンダーにビキニを渡すとビキニを胸に当て後ろを向く、隠しながらだと後ろが結べないらしい。
『ダーリン。後ろ、結んで欲しいなっ』
少しセクシーポーズをして見せるサラマンダー。油断した隙を狙ってサラマンダーの背中を上からツーっとなぞる。
『ひゃあぁぁぁっ!? ダーリン!』
はぁ、可愛い。普通の女の子の反応だ。癒しだ。本当にシルフとかウンディーネとか師匠とか見習って欲しい。
『えぇ!? ダーリンなんで泣いてるの!? よ、よしよし、大丈夫だからね、私はいつでもダーリンの味方だからねっ!?』
『あっ! あれは? ダーリン、あれは?』
水鉄砲が置かれている。貸し出ししているのか。水鉄砲まで伝来しているとは。
「それは水を打ち出せる玩具だけど。遊ぶ?」
バシャッ! 顔に水が!?
『やったっ!』
サラマンダーが水鉄砲を持ってガッツポーズしている。一番大きい水鉄砲を手にする。
『え゛っ゛!? それはちょっと待って!? ダーリン!? キャアッ!?』
水が当たったところを隠しながら丸くなる。それは隙だらけだ。
『にゃあっ!! 待ってぇ! もう! こうなったらとことんやり返すからね! 覚悟してよっ! ダーリン!』
『はぁぁぁ、暖かぁい……』
結局一日中遊んだ、最後に露天風呂に入ることになった。夕日が海に沈んでいく、綺麗だ。
『もっと寄っていい?』
そう言いながら身を寄せ密着してくる。広い露天風呂なのに二人が身を寄せている。
『私、ダーリンの優しいところが好き』
え!?
『ダーリンの頑張っているところが好き。そんなダーリンがかっこいいと思う。えへへ』
肩に頭を預けて笑いかけてくる。
『ずっと、ずーっとこうしていたいなぁー』
サラマンダーは腕を離し、強引に顔を向き合わせた。そのまま首の後ろに腕を回す。
『ねぇ、ダーリン。お願い。目を閉じて。そして、そのままで居て』
言われた通り、目を閉じる。サラマンダーの息が顔にかかる。
『ダーリン。んっ』
唇が…… カポーンッ!!? 痛い! 頭に何かぶつかった!?
「公衆の面前でナニをしているのですか!?」
師匠!? みんな揃っている。
「ここに居るとヒメヒメさんに教えていただいたのです」
『そこまで抜け駆けしていいとは言っていませんよ。サラマンダー』
シルフが激怒している。怒っても声色を変えないところがシルフらしいと言えばシルフらしいが。
「みんな来たし、デートは終わりかな」
『次こそはやってみせるんだからぁぁ!!』
サラマンダーの叫びが虚しく海に吸い込まれていった。