18話 ビーチ・バレー・ストライク
「私に作戦があります」
自信満々だなぁ。
「一応聞きますけど」
自分にしか聞こえないように耳打ちしてくる。
「速攻です!」
理にかなっている。アメジストとサファイアは連携を重視している、アメジストのトスからのサファイアの強烈なスパイクで点を取りに来る。そこを速攻で崩すという手は正しいと思う。理にかなっているんだが、これは作戦と言えるのか!?
「自分は何をすれば?」
「トスをあげてください」
「はい」
作戦とは名ばかりの脳筋でしか無かった。師匠らしいと言えば師匠らしい、うわぁ、睨まれた……
「負けたときの言い訳は思いつきましたかしら? あはは!」
アメジストの悪役笑いが止まらない。
「アメちゃん、あんまりやりすぎると負けた時恥ずかしいよ?」
「ユウを狙えば確実に勝てるわ。容赦なくやるのよ。サフィ」
「そういうことなんで、ユウさん。ごめんなさい」
うわぁ、大人げない。
一瞬視界が歪んだ。師匠が身体能力を魔力でブーストさせている。もっと、大人げなかった!
アメジストのサーブから始まる。あっ、師匠が跳んだ。
「乾坤一擲!」
バァン! というボールに似つかわしくない爆発音が聞こえ、アメジスト達のコートにボールが埋まった。
「師匠。意味分かって言ってます? その言葉、運任せって言っているようなものですよ」
「気にしてはいけません。ユウ。気合を入れてるだけですから」
凶悪な一撃を放った人物と同じ人物と思えないほどの爽やかな笑顔だ。
「……サフィ。本気を出していいわ。ボッコボコにしてあげるわ!」
「え? 嫌だよー。面倒~」
「やるのよ!」
「ひゃい!」
自分がサーブをあげる。アメジストが空高くトスをあげる。そんなことをすれば準備できる時間が増えるだけだが。サファイアも高く上がったボールを追うように空高く跳ぶ。太陽の光でよく見えない……これが狙いか!
師匠のスパイクに劣らない爆発音が上空から聞こえる。当たったら死ぬ! 取りあえずコートの端に逃げる。魔力で身体能力をブーストした師匠ならとってくれる。
「流石ユウですね。判断が速い」
師匠は迷いなくボールの下に入りレシーブする。流れのまま師匠にトスを上げる。
「げぇっ!?」
「アメジストちゃん、女の子がそんな声を出してはいけませんよ」
師匠は聞いたことのないような音を立てスパイクを撃った。
「むぎゅぅ……」
ボールがアメジストの顔に吸い込まれていった。
「大丈夫です。柔らかいボールですから」
朗らかな笑顔で師匠は言うけど、アメジストは倒れてピクピクとけいれんしている。
「アメちゃーーんっ!!?」
サファイアの悲鳴が賑やかなビーチに響いた。
「う、うぅん……」
アメジストが目を覚ました。アメジストの額に乗せた冷たい濡れタオルが落ちた。
「大丈夫? アメちゃん?」
「全然大丈夫では! ないわよっ!」
ボールが直撃した場所はまだ真っ赤だ。当たらなくてよかった。
「ユーウーっ! 他人事みたいな顔してるわねぇ?」
アメジストは起き上がり近くにいたサファイアと自分の耳を引っ張る。
「痛い! サファイアはともかく自分のは八つ当たりだろ!?」
「ユウさん。さいてー」
「うるさーいっ!!」
アメジストが耳を強く引っ張る。
「痛い痛い痛いっ!?」
アメジストの後ろから師匠が近寄る。師匠が手を上げ、アメジストの後頭部に手刀を入れた。
「痛いわっ!? 誰よ!? って師匠!?」
「片付けはほぼ終わりました。まだ一週間ありますからね。着替えて宿に行きますよ」
師匠は精霊達を引き連れてスタスタと歩いていく。
「と言う訳で、パラソルとシートを片付けるから」
アメジストが耳から手を離す。片付ける準備に入る。
「もーうーっ!!」
「アメちゃん、早く行きましょーねー」
文句をまだまだ言いたそうなアメジストはサファイアに更衣室へと連れて行かれた。
レンガ造りの街を抜けると、海外の大きな城程の大きな木造の旅館が見えてきた。木造の旅館……? 海外の映画に出てくる日本の旅館と言うのがいいかもしれない。
「あれが宿泊する場所です」
「凄いわね……この地域で一番大きな建物になるのかしら」
いくつもの建物を繋げているから丘の上から見た時は一つの建物には見えなかった。一つの建物で宿屋街なのか。
「ようこそいらっしゃいました。エレノア様、お久しぶりですね。およ? そちらの方々は?」
建物に入ると着物にフリルを着けまくった女性が出迎えてくれた。
「私の弟子なんです。お部屋は大丈夫ですか?」
女性は人数を数える。
「スイート、一部屋でよろしいですか?」
旅館なのにスイートなのか。
「ええ、構いません」
「では、お部屋にご案内します」
「私、当旅館の女将をしております。ヒメヒメと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
アメジストもサファイアも精霊達も話を聞いていない、建物に興奮してキョロキョロしている。
「ヒメヒメ?」
「そうです。ヒメヒメ。可愛い名前ですよねー」
ちょっと頭が緩いなこの人。
「そうですね……」
話を合わせておこう……
「やっぱり勇者同士だと気が合いますね~」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「言いました? 自分が勇者だって」
「言ってませんよ。勘です。勇者っぽいなーっと思っていました。嘘です。特殊な方々を連れているのでそうかなーと思っただけです。はい」
自由な人だなぁー。うん。でも、精霊達を普通の人ではないと見抜くあたり勇者なのは事実かも。いや、もう、勇者って何だ……
「ヒメヒメさんは議会の重鎮の一人ですよ。かなりの実力者なので粗相のないようにしてくださいね。ユウ」
「あははー。実力者だなんてー、事実ですけどー」
褒められて喜んでるのかな? 分かりづらい。
「あっ。お部屋につきました。どうぞ」
高層階にある大きな部屋、海が一望でき、露天風呂もついていて、寝室が何部屋もある。豪華過ぎない!?
「いつもは私一人ですから、みんながついて来てくださって嬉しいです」
毎年一人でここ使ってるんだ……
「では、ご飯にします? お風呂にします? そ・れ・と・も、休憩にします?」
またこの人は古風なギャグを……!
「少し休憩してからご飯をお願いします。それでよろしいですか?」
師匠がみんなに聞いている。頷いておこう。
「承りました。では、ごゆっくり」
ニヤニヤしながら近づいてくる、どうしたのだろうか。
「夕食は精の付くものをご用意いたしましょうか? ほら、この人数を相手ですと、ねぇ?」
「いや、普通でお願いします! やらないからね!」
「甲斐性なしですね。しょんぼり」
しょんぼりではない!!
「明日は自由行動にしようと思います。でも、みんな海にいきますよね。ボートとか今日使ってませんし、海に入りませんでしたし」
師匠が使いたいだけなのでは?
「なあ? サラマンダー?」
『え!? な、何? どうしたのダーリン? もしかして私とデートしたいの?』
普段よりも焦っているのが目に見えて分かる。原因は一つだろう。
「火の精霊だけど海は大丈夫なのか?」
……サラマンダーの目に涙が溜まる。
『だ、大丈夫なわけが無いよー! 初めて見たけどすっごく海怖い!』
ボロボロと泣き出してしまった。みんなが海で遊んでいるのに一人だけ取り残されるのは辛いからな。
『ご主人様。今回は許します。私達は海で遊びますので、二人で出かけてくださってかまいません』
お許しを得た。というか気を使ってもらってしまった。
「明日、よければ自分とデートして欲しい、なんて。サラマンダー」
凄く恥ずかしい、みんながじっとこっちを見てる。
『もちろん。ありがとう。ダーリン』