17話 楽園ウカノミタマ
師匠がスキップしながら前を行く。千鳥足な二人に肩を貸しているから上手く歩けない。それに人が多いな。ぶつからないように歩くのは疲れる。
「いくらなんでも酔い過ぎ。お酒は無理そうだね」
「う……うぅ……」
「ここです! ここの海鮮丼が本当に美味しいんです!」
師匠がお店の前で止まった。二人の目が回っている。この状態では食べられるどころの話ではない。
「師匠。二人がもう限界です」
師匠は踵を返してアメジストの顔を見始めた。
「そうですか。やはり気付けではダメですか。では、禁じ手を使いましょう」
師匠の魔力が溢れている。何をするつもりなんだ!?
「禁じ手! 酔い覚ましの魔法!」
頭が痛い。何でそんなものが禁じ手なんだ。
「当たり前です! この魔法を使えば、永遠に飲んで居られるんですよ! これは破格の魔法です!」
真剣な顔をしている。そんなにお酒が好きなのか、師匠……
「おっさんみたいなこと言わないでください! 師匠!」
「……誰がおっさんですか?」
自分で言いたくないけど、学ばない。師匠が笑顔で怒っている。また、やってしまった。
「……はぁ、スッキリしましたわ。ありがとうございます。師匠」
師匠の手が自分の身体を掴む前に二人が復活した。
「ありがとー。ユウさん。ここまで運んできてくれてー」
サファイアが師匠と自分の間に入りお礼を言う。
「あはは……どういたしまして」
「はぁ、お店に入りますよ」
サファイアが自分に向けてウィンクをする。ありがとう。おかげで難を逃れられました。
「はぁ、美味しいですぅ……」
あまりの美味しさに師匠が蕩ける。分かる。本当に美味しい。みんなが舌鼓を打っている中シルフは、海鮮丼を睨めつけていた。
「シルフ? 食べないの?」
『いえ、食べます。ご心配には及びません。ただ、私もご主人様に料理を作る身、勉強しておいて損はありません』
「……そっか。いつもありがとう」
『ふふっ。光栄です。ご主人様』
料理や服などの文化は多く伝えられている。食がストレスにならないのはありがたい。
「でも、みんなが食べているときは食べるべきかな」
『そうですね』
シルフがやっと料理に手を出した。そういえばいつもシルフが家事全般をやっている。少しは分担したいがシルフがやらせてくれない。そして、サラマンダーとノームの怠け癖を更生させなければ。この二人はサファイアと一緒に常にソファーでゴロゴロしている。少しはシルフを見習って欲しい。
『箸が止まってますよ。ご主人様。周りに気を使い過ぎです。どれだけ小心者なんですか』
「そんなに気を使ってるかな?」
『そうだよ! ダーリンは気を使い過ぎだよ!』
サラマンダーが話に割り込み、自分の丼の魚を一つ摘んでいった。
『うーん。美味しいー。ダーリンもあーん!』
「あっ、えっ、あーん。」
『もう! ご主人様!』
「外では節度を持ってくださいね。ユウ。食べ終わったらビーチに行きますよ!」
笑顔が怖い……
師匠はご機嫌に街を歩いている。ビーチに行くのではなかったのか?
「ユウは水着を持っているのですか? ビーチでは水着ですよ?」
また表情を読まれた。確かに水着が無いとビーチに行ってもつまらないだろうな。
「全員分、ユウ持ちで買ってしまいましょう!」
「別に良いですよ、お金くらい持ってますから」
みんな喜んでるし、いいかな、このくらい。
「どんな水着かはビーチでのお楽しみですよ」
何で? ツノの付いたイルカみたいな大型の浮き輪に何人も乗れそうなマット型のフロートにボールなど様々浮き輪をノームが持っている。
「良い買い物をしました。後はビーチで遊ぶだけです」
「人のお金だと思って好き放題使ってません? 師匠?」
「いえ、アメジストちゃんとサファイアちゃんの要望ですよ」
犯人二人がピースしている。
「えへへー、買ってしまいましたー、ありがとうございますー、ユウさん」
「お金くらいで小さいわ。ユウ」
呆れて何も言えない。
「遊ぶわよ!!」
「「『『『『いえーいっ!!』』』』」」
アメジストの号令で自分以外の全員がまとまった。
暑い。普段日に当たらないから日光が痛い。
一人だけ先に水着に着替え終わり、日に当たりながらビーチで待つ。
『お待たせーっ! ダーリンっ!』
まず元気いっぱいにサラマンダーが更衣室から出てくる。
『どうかな?』
ビキニで悩殺ポーズを披露するサラマンダー、可愛い。小動物的な可愛さ。
「可愛いよ。うん、可愛い」
『……ダーリン? その可愛い何か含みがない?』
ジト目で睨み付けてくる。そういうところも小動物感がする。可愛い。
「お待たせしました。では、遊びましょう!」
みんなが更衣室から続々と出てきた。師匠とノーム以外はビキニ。……師匠とノームはスリングショットだった。威力が高すぎる……
『ユウくん……お姉ちゃん的にはすっごく頑張ったんだけど』
ノームのグラマラスな身体とスリングショット、その組み合わせの威力は計り知れない。少し動くだけで胸部が暴れ回っている。
「すごい」
語彙力が消えた。その言葉以外何も浮かばない。そして、目が離せない。
『ふぇぇ……そんなに見つめられるとお姉ちゃん困るぅ』
身体をくねくねさせるだけでもとてもセクシー。
「サファイア。やっていいわ」
「了解ー!」
サファイアの手刀が頭に直撃した。
「痛っ! 何で!?」
「気持ち悪いからだわ。あと、他の精霊達の目も見てみるといいわ」
シルフとウンディーネの怒りや悲しみの籠った目がこちらを見ていた。
「シルフ! スレンダーな身体がとても綺麗だ!」
不躾だが、シルフの身体をなめ回すように見る。飾らないシンプルなビキニとスレンダーな身体、嘘偽りなく綺麗だ。
『遅すぎます。でも、気分が良いので許してあげます』
シルフは少し機嫌を直してくれた。
「ウンディーネ。フリルの水着が似合っているよ。目が離せないくらい可愛い」
白いフリルの水着が白い肌のウンディーネに似合っている。まさに人魚のようだ。
『もう、そんなにボクに見惚れているなら早く言えばいいのに』
ウンディーネは満足気に微笑む。
『遊ぼう。ユウ。沢山玩具も買ったからね、使わないと損だよ』
師匠はパラソルの下でジュースを飲みながらのんびりしている。あのジュース、アルコール入ってないだろうな。
「ビーチバレーを始めるわよ! ルールは買うときに説明してもらった通りだからね!」
ビーチバレーをやるのか。自分を抜くと偶数人になるし、審判にまわるかな。
何戦か終えたが全てアメジストとサファイアのペアが勝っている。アメジストの正確なパスと超高度からのサファイアのスパイクに為す術も無く負けている。砂浜で足がとられているはずなのにサファイアはかなり高く跳んでいる。息も切らさず楽しくやっているからまだ本気ではないのかもしれない。
精霊達が息を切らしバタバタと砂浜に倒れていく中、エルフ主従はキャッキャッしている。
「ユウ。やりますよ。ええ、師匠の力を見せなければ」
やる気満々で息巻いている師匠にアメジストが高笑いをする。
「無駄ですわぁ。師匠、私とサフィを倒せる訳がありませんわぁ。あっはっはっは!」
言っていることがフラグ建てまくりの小物ボスそのものだ。
「いきますよ。ユウ。勝ってアメジストちゃんの鼻を折ってあげませんと」
不敵に笑う師匠、とても頼もしいが無敵のエルフ主従にどうやって勝つつもりなのだろうか。